2018年1月4日、冲方サミットのtwitterアカウントに冲方丁がPVの感想を上げていましが、これで『EXODUS』で理解できなかった台詞の意味がわかり、『THE BEYOND』で描こうとしているものが見えてきました。それに伴い、この感想も書き直したくなったのですが、その気持ちを抑えました。2018年1月31日発売の『EXODUS』BD-BOX付属のブックレットで新情報が公開される可能性が高いので、書いた日を記載することにしました。これは2017年12月29日から2018年1月1日に書いた感想になります。
・マークニヒト-存在と無の地平線
総士はミールのコアではないため、転生した存在が自分の記憶を引き継がないことをおそらく総士自身は知っていた。そのため、総士は自分の記憶を引き継ぐために、マークニヒトをいわば自分専用の存在と無の地平線にした。織姫が「あなたが憎むマークニヒト」(※1)と言っていたように、総士は最後までニヒトを憎んでいた。それでも総士は最後、マークニヒトに「僕らも還ろう、命の源へ」(※2)と声を掛けたことからわかるように、マークニヒトを戦友として見ていた。だからこそ、マークニヒトに自分の未来を託したのだろう。
・偽りの平和
PVは海神島から連れ去られた総士が偽りの平和な世界に閉じ込められているという状況から始まるが、これは一期1話で総士と蔵前以外の子どもたちが置かれていた状況と全く同じである。『RIGHT OF LEFT』でのメモリージングの開放、『EXODUS』ではパイロットの親に赤紙を渡すシーンなど、冲方丁が脚本に関わらなかった一期1話から11話までのエピソードの一部を冲方自身の手で書き直していたが、『THE BEYOND』では子どもがこれまで信じていた世界が偽りのものだったことに気がついた瞬間と受容といった内容を自分の手で書き直そうとしているのでないだろうか。ただし、こそうしの場合、メモリージングという便利なツールはない上に、これまで一緒に生活していた人すらも偽りだったわけで、自分自身が納得する答えにたどり着くまでに紆余曲折が予想される。
-真実を知りたいか-
『THE BEYOND』ティザーPV
ティザーPVにはこの文字があるが、こそうしが納得できる答えを与えることができるのはおそらくニヒトに残された総士の言葉、つまり実の親ということになるのだろう。こそうしを消そうとした者はこそうしに痛みのない皆城総士の人生を与えたが、皮肉なことにこそうしがニヒトに残されたメッセージを聞いて本当の皆城総士の人生を知った時、こそうしは痛みを知ることになる。総士が転生した自分に伝えたかったこととは痛みであり、『EXODUS』での総士の祝福とはこそうしを痛みで祝福することだった。(※3)
・親子であり兄弟
『THE BEYOND』で奪われたこそうしと一騎が再会する時、一騎は20歳+一緒にいた期間+探していた期間、こそうしはおそらく一期開始時と同じ14歳。カノンがファフナーに乗って未来で戦った時と同じく、こそうしがいた島は外の世界よりも時の流れが早く、こそうしは美羽のように急激に成長したのではなく、囚われた島で12年間という時を生きていたに違いない。一騎と総士の年齢差が10歳前後となると、親子というよりは年の離れた兄弟に近い。一期から『EXODUS』まで、一騎と総士は同い年だったが、そこから一つ遠ざけた関係は兄弟ということになる。また総士には乙姫という妹がいて兄という立場だったが(※4)、今度は一騎の方が年齢が上であるためこそうしは弟という立場になる。育ての親と子でありながら兄弟という関係で思い出すのは、水樹和佳子『イティハーサ』の鷹野と透祜だ。両親のいない鷹野は7歳の時に捨てられていた透祜を拾った。鷹野は透祜の親代わりとなって育てたが、村人は兄妹として扱っていた。親子の関係は親が守る者、子を守られる者と見ることもできるが、守る者と守られる者が異性の場合、一緒に暮らし始め、やがて家族になった後、やがて二人の間には恋愛感情が生まれてしまう。この構図で思い出すのが『イティハーサ』の鷹野と透祜、『BRIGADOON まりんとメラン』のメランとまりんだが、2組とも最終的に恋愛関係になってしまった。(※5)守る者と守られる者でありながら、最終的に恋愛関係にならない、深い人間関係を描きたいのであれば、守る者と守られる者は同性にすべきである。
『イティハーサ』と『BRIGADOON まりんとメラン』は守られる側の女性が主人公だが、後に戦う力を身につけ、守る側の男性と一緒に戦うようになる。『THE BEYOND』のこそうしは物語冒頭、守られる側だが、いずれニヒトに乗って戦うことを運命づけられているため、その立ち位置は『イティハーサ』と『BRIGADOON まりんとメラン』と同じく女主人公の物語の主人公ということになる。
・兄弟
ファフナーに出てきた兄弟で思い出すのは『EXODUS』に登場したダスティンとビリーだ。この兄弟は竜宮島側の人間と対称的な存在であり、新国連側の価値観を一身に背負ったキャラクターだった。(※6)その上、ダスティンとビリーは別部隊に所属していたため、二人は話し合う機会は少なく、互いの価値観を理解することなくいなくなった。
また、真矢とある日、突然ジョナサン・ミツヒロ・バートランドという見知らぬ弟と出会った。ミツヒロは真矢の異母弟だった。カノンの「もし真矢がそいつを嫌っていないなら、受け入れてやってほしい」(※7)という言葉を受け、真矢は家族としてミツヒロを受け入れた。
一騎とこそうしの関係はこの2組の兄弟とは違うものになると思われる。
・一騎とこそうし
●一期
一騎と総士は子供の頃、仲が良かったが、一騎が総士の左目を傷つけたことをきっかけに疎遠になった。フェストゥムの到来とともに一騎と総士は再び話をするようになるが、二人の間には5年という空白期間が生じ、わかっているようでわからないという関係だった。
●THE BEYOND
一騎が知っているこそうしは生後数年間。こそうしは見知らぬ人に育てられ、一騎が再会した時は少年になっていた。当然、一騎はこそうしがどういう人間なのか全く知らない。
こそうしは生まれてから数年間だけ海神島で暮らした一騎の記憶は残っていない。こそうしが暮らしていた島での一騎は同級生なのか親なのかはわからないが(PVの冒頭とラストにいるアルヴィスのコートを着た一騎はこそうしと過ごした偽者の一騎のような気がする)、こそうしが知っている一騎と本物の一騎は別人であり、こそうしは本物の一騎に対して違和感を感じるはずである。また、こそうしがさらわれた時は幼児だったが、取り戻した時には少年であり、一騎はもういない総士の面影と重ねてしまうこともあるだろう。そう、芹が岩戸を出た織姫に感じた違和感を一騎もこそうしに対して抱くはずである。一騎と5年間疎遠だった総士と同じく、一騎もこそうしも相手はこういう人間だというある種の思い込みを持っているはずである。
総士「あいつが、あいつなら、あいつなら僕をわかってくれると思った」
一期11話
『THE BEYOND』で一騎、こそうし共に一期の総士と同じ状況に追い込まれる可能性が高い。
冲方丁が単独で脚本を手掛けたのは一期16話以降なので、自分の手で一騎と総士のすれ違いを描いていない。ここでも一期で冲方丁自身が書いていない内容を自分の手で描くのかもしれない。
・楽園喪失
こそうしがいる島の建物は現実に存在し、そこにいる竜宮島の人々は幻だった。そのため、こそうしが島を立ち去る後、瓦礫の山が残るのだろうか。それとも、竜宮島の人々だけでなく島の建物も幻であり、こそうしが島を立ち去る時、雪に覆われた荒野と化すのだろうか。
・フェストゥムによる子育て
竜宮島のミールのコアは人間の胎児であり、ミールは大気となって島に生きる人々の情報を集積していたため、乙姫は生まれた時に人格を持ち、生きるすべを知っていた。ミールのコアは記憶を引き継ぐため、転生した次のコアである織姫は一人で生きていける状態で生まれた。また、ボレアリオスとアショーカのコアもこの世界で一度生きた者がコアとして転生しているため、この世界で生きた記憶を持っており、ミールがコアを必要とする時まで眠っていて、一人で生きていける状態で生まれる。
しかし、転生した総士は人の赤子と同じ状態で生まれた。思えばこそうしを取り上げたのは一人のコアと二人のフェストゥムであった。
こそうしは人と同じ状態で生まれた最初のフェストゥムということになる。こそうしを消そうと思った者は幼いこそうしを奪ったが、生きている以上、育てなければならない。つまり、フェストゥムはこそうしを通して、図らずしも子どもを育てるということを学ぶことになった。
生まれてから数年しかこそうしを育てることのできなかった一騎はこそうしの親とは言えないのかもしれない。
・こそうし、海神島へ行く
第5次蒼穹作戦を開始する
奪われた皆城総士を奪還する
『THE BEYOND』ティザーPV
これはあくまでこそうしを奪われた竜宮島側の視点での話。こそうし側から見ると全く別の物語が見えてくる。
平和な島に突然、敵(人間)が現れ、島が攻撃されたということになる。島の世界は嘘であり、島の世界が真実であることから、こそうしは一期1話の総士と蔵前果林以外の竜宮島の子どもと同じ状況に置かれていたということになる。しかし、竜宮島と違い、こそうしの暮らしていた島は戦闘に破れてしまう。こそうしのいた島は最初のフェストゥム襲来で負けてしまった竜宮島ということになる。その後、こそうしは人間によって海神島に連れ去られことになるが、これは一期23話で総士がイドゥンによって北極に連れ去られたのと同じ状況である。つまり、第5次蒼穹作戦はこそうし側から見ると、一期1話、2話と一期23話を逆にした状況ということになる。一期23話でイドゥンに連れ去られた総士は最終的に北極ミールに同化され、フェストゥムの世界を見た後、この世界に帰ってきた。『THE BEYOND』のこそうしは総士とは逆の経験をすることになる。フェストゥムによって育てられたこそうしは、人間によって強引に海神島へ連れて行かれ、人間の世界を見ることになる。その上でこそうしは人間とフェストゥムの世界、どちらの世界で生きるのかを選ぶのだろう。
美羽「戻って総士、彼らを選ばないで」
『THE BEYOND』ティザーPV
※2 『EXODUS』26話。https://lughs-chain.net/exodus26-13
※3 『EXODUS』での総士の祝福の詳細については蒼穹のファフナー EXODUS 第26話-31「EXODUSにおける祝福 Part3」を参照。
※4 蔵前果林(2131年4月2日生)は総士(2131年12月27日生)の姉である。しかし、同級生且つ皆城家の養女という立場であり、ノベライズでは総士の方が立ち位置は上に見える。
※5 鷹野と透祜は兄妹というのが枷になり、結ばれることなく、その可能性を未来に託して終わった。また、メランとまりんの最終的な行く末は視聴者に委ねられたので作中では描かれていない。
※6 【蒼穹のファフナー EXODUS】ダスティンとビリー Part1、【蒼穹のファフナー EXODUS】ダスティンとビリー Part2を参照。
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