2024年7月、YouTubeで配信していた『蒼穹のファフナー』を見直した時の感想です。
たとえ同じ時間と空間に身を置いても、誰の視点で描くかによって、まったく別のものになる。
黒田龍之介『ロシア語だけの青春』(ちくま文庫)
『EXODUS』は三人称(2151年の出来事)はと一人称(総士が語る物語)という二つの人称で描かれた物語でした。総士は自らの物語を人間の言語(言葉)で語ったので、視聴者は総士が『EXODUS』の中に残した総士の声を聞くことで、その内容を知ることができました。
『THE BEYOND』も『EXODUS』と同じように三人称(2153年と2156年の出来事)と一人称(一騎が語る物語)という二つの人称で描かれた物語でした。一騎は自らの物語をフェストゥムの言語(行動)で語ったので、フェストゥムの言語(行動)を読めない視聴者はその内容を知ることはできません。しかし、視聴者がフェストゥムの言語(行動)を読めるようになった時、一騎が『THE BEYOND』の中に書き残した一人称の物語の内容を知ることができます。そして、その物語を最後まで読み終えた時、『蒼穹のファフナー』という物語が終わります。
私にとって『蒼穹のファフナー』はまったく物語の終わりが見えない物語でした。しかし、物語の構造を見た瞬間、物語の終わりを知ることができました。
『蒼穹のファフナー』の主人公である一騎が竜宮島ミールの祝福を受けた『EXODUS』24話以降、物語はフェストゥムの言語を使って描かれています。
フェストゥムの言語とは何でしょう。
総士「これが、フェストゥム」
公蔵「いいや、こんなものではない」
一期1話
竜宮島に初めてフェストゥムが来た時、人間はフェストゥムの姿を見ることができませんでした。しかし、実体化というというフェストゥムの行動によって、人間はフェストゥムの姿を見ることができるようになりました。つまり、フェストゥムの言語は「行動」ということになります。
弓子「フェストゥム、実体化します」
一期1話
竜宮島に初めて来たフェストゥムが行ったことは、目に見えないものを実体化することによって、目に見えるようにすることでした。一方、フェストゥムの言語(行動)で描かれた物語である『THE BEYOND』で行ったことは、目に見えないものを実体化することによって、目に見えるようにすることでした。それでは『THE BEYOND』で実体化した目に見えないものとは何だったのでしょう。
一騎「これが真実だ」
『THE BEYOND』3話
それは「真実」でした。しかし、私はフェストゥムの言語(行動)を知らないため、実体化した「真実」を読み取ることはできません。
総士「僕も何度も報告書を書こうとしたがダメだった」
『EXODUS』14話
私はフェストゥムの言語である「行動」を抽象、人間の言語である「言葉」を具象だと考え、論理的思考の抽象と具象を行き来するという手法を使って、フェストゥムの言語(行動)を人間の言語(言葉)に置き換えていきました。これを続けていくと、フェストゥムの言語(行動)を使って書かれた物語を私が理解できる人間の言語(言葉)を使って表現する、つまりフェストゥムの言語(行動)を人間の言語(言葉)に翻訳できるようになりました。
外国語を日本語に翻訳する場合、意味を理解した言葉のみ、日本語に翻訳することができます。外国語と同じようにフェストゥムの言語(行動)も、自分が理解したフェストゥムの言語(行動)のみ、人間の言語(言葉)に翻訳することができます。つまり、私はフェストゥムの言語(行動)を人間の言語(言葉)に翻訳するという行為を通して、フェストゥムの考えを理解していったのです。そして、フェストゥムの言語(行動)を使って描かれた物語をずべて人間の言語(言葉)に翻訳し、実体化した真実を見た瞬間、『蒼穹のファフナー』という物語が終わりました。
『EXODUS』10話、弓子は真矢に自分の状態について冷静に話していました。
弓子「美羽の父親の物だからお守りに持ってきたけど、
今の私には使えないのね」
真矢「お姉ちゃん、ずっと寝てないでしょ。
なんか食べた?
食べる物持ってこようか」
弓子「いいの、今は必要ないから」
『EXODUS』10話
弓子はフェストゥムに殺された後、アルタイルの力で再生された時から、自らの身に起きたことを知っていたのだとすれば、『EXODUS』7話で弓子が抱いていた美羽は、弓子が自らの遺体を抱いていたという意味も含まれていたのではないだろうか。
フェストゥムに殺された弓子は美羽の望みで再生されました。しかし、弓子には心残りがありました。
弓子「今は美羽が理解できるもの。
わかってあげられないことの方がずっとつらかったわ」
『EXODUS』19話
弓子はいなくなるまえに心残りを解消し、美羽を新天地(海神島)に導いた後、いなくなりました。
弓子「やっとわかってあげられた。
あなたの力の素晴らしさを。
自分を信じなさい。
どんな時も」
弓子「そばにいるわ、私もパパも。
愛してる」
『EXODUS』26話
アルタイルが弓子に与えたものは、真実を見る力と美羽と別れるために必要な時間でした。死が弓子から感情を奪うことで、弓子は自らが置かれている状況を冷静に受け入れ、美羽の真実の姿を見ることができるようになりました。そのため、心残りを解消した後、美羽との別れの時が来ましたが、静かにこの世を去っていったのです。
『ファフナー』では定番の展開を入れ替えたり、定番の展開を一部分を抜く(!)ということを行っているのですが、岩明均『ヒストリエ』(講談社)では定番の展開を丁寧に描いていました。『ファフナー』と『ヒストリエ』を対比させることによって、『ファフナー』で描こうとしたものを明らかにして見ようと思います。
この記事には岩明均『ヒストリエ』12巻のネタバレ内容が含まれています。