「蒼穹のファフナー THE BEYOND」PVの感想 Part5

 「蒼穹のファフナー THE BEYOND」PVの感想 Part4に引き続き、1月4日以降に書いた感想になります。

 

・命の長さ

カノン「お前が世界を祝福するなら、
    我々が生と死の循環を超える命を与えよう」

 一騎「まだ俺にも命の使い道があるなら
    それを知るために生きたい」
『EXODUS』24話

 一騎は祝福することと引き換えに竜宮島のミールから生と死の循環を超える命を与えられたが、実のところ、一騎に与えられた時間はそう長くないのかもしれない。美羽を守る、ひいては世界を救うために、一騎は竜宮島のコアの命令でザインに乗ったが、それは竜宮島のコアが一騎の余命を奪ったということになる。竜宮島のミールが一騎に与えた生と死の循環を超える命の長さは、ザインに乗らなければ一騎が生きていられた時間なのかもしれない。

一騎「あと3年、それだけあれば覚悟だってできる」
『EXODUS』1話

 一騎に与えられた時間が3年間だとすれば、『EXODUS』のラストで第4次蒼穹作戦終了から2年後の様子が描かれていたので、一騎の残りの寿命はあと1年ということになる。しかし、フェストゥムと戦うこと以外で一騎がやりたいことというのはあるのだろうか。『EXODUS』で一騎の同級生はみなやりたいことを見つけて先に進んでいたが、一騎だけはやりたいことを見つけられずにいた。

一騎「何か学んで、やり始めて、
   でも、それがやり残したことになるのが嫌なんだ。
   お前はそうじゃないのか、総士」
『EXODUS』1話

 『HEAVEN AND EARTH』以降、一騎は喫茶楽園で料理しているが、実は一騎が自主的に始めた仕事ではない。

 人手不足を嘆く溝口の助けを買って出たのが真矢で、料理下手を嘆く真矢の助けを買って出たのが一騎という構図だ。なんとなくすべて溝口の狙い通りのような気がした。何しろ、一騎が店を手伝ったその日に、もう溝口の手で新メニューと食材がどっさり用意されていたのだ。
『Preface of 蒼穹のファフナー HEAVEN AND EARTH』(※1

 ナレイン将軍が竜宮島を訪れたことで、竜宮島の平和な時間は終わった。一騎は竜宮島のコアの命令でシュリーナガルの派遣部隊と合流し、ハバロフスクに向かい、そこで竜宮島に帰還した。そして第4次蒼穹作戦に参加した後、海神島に移住した。海神島で一騎がやっていたと思われることは以下の通りである。

  • 2年間、こそうしを育てていた。
  • こそうしが奪われた後はこそうしを探していた。

 この後、第5次蒼穹作戦でこそうしを取り戻した後、少年となったこそうしと対話するのは一騎の役割ということになるのだろう。 つまり竜宮島のミールから命を与えられた後の一騎の人生は、こそうしがすべてになっていたということになる。『EXODUS』の制作前の座談会で冲方丁は一騎の日常について話していた。

(一騎は)どうしても非日常向きの人なんですよね。日常では多分、料理を作っておしまい。あとはのんびり海を見ているだけっていう何もしない人(笑) INTERVIEW『蒼穹のファフナー』スタッフ座談会(※2

 そういえば、織姫からザインに乗って美羽を守れと言われた後の一騎は嬉しそうだった。

一騎「今日、命の使い道を教えてもらった」
『EXODUS』6話

 平和な日常時にやることを見い出せない一騎に対して、竜宮島のミールが生と死の循環を超える命と一緒にこそうしを育ているという役割を与えたと言えなくもない。だが、一騎の人間としての人生は『EXODUS』24話で終わってしまっている。フェストゥムを祝福した者は自分の望みをかなえることができるが、一騎の望みとは総士を傷つけなかった人生。つまり一騎は竜宮島のミールから自分が傷つけなかった総士と3年間過ごし、その間にいなくなる覚悟を決めなさいと言われたようなものである。竜宮島のミールは地獄耳だ。安易に本音や望みを言葉にしてはいけない。

カノン「お前が世界を祝福するなら、
    我々が生と死の循環を超える命を与えよう」

 一騎「まだ俺にも命の使い道があるなら、
    それを知るために生きたい」
『EXODUS』24話

 一騎が祝福することと引き換えに生きることを選んだが、それは同時に一騎と真矢の関係が終わったことを意味していた。なぜなら、一騎にとって生きることを選ぶ=総士を選ぶことと同義だった。(※3

 一騎「お前が選んだ道を、俺も選ぶよ」 『EXODUS』25話

 

・知恵の対価

 総士が自己を獲得するために痛みとともに左目を失ったが、元になったエピソードは北欧神話で知恵を得るために片目を差し出したオーディンだろう。

霜の巨人のむいている根の下にはミーミルの泉が、知恵と知識が隠されている。この泉の持ち主はミーミルという。(中略)そこへ万物の父がやってきて、泉から一口飲ましてくれ、といった。そして、自分の眼を抵当にしてやっと飲ましてもらった。
『ギュルヴィたぶらかし』15(※4

 こそうしは海神島に戻った後、ニヒトに残されたメッセージを聞いた時に痛みとともに自己を獲得すると思われる。順序の入れ替わりはあるものの(こそうしは楽園を出てから真実を知る)、元になったエピソードは旧約聖書、創世記で善悪の知識の実を食べた結果、楽園から追放されたアダムとイブだろう。

それを食べると、あなたがたの目が開け、神のように善悪を知る者となることを、神は知っておられるのです」。
創世記3:5(※5

 総士とこそうしが痛みとともに自己を獲得するために失うものが、元になったエピソードの北欧神話と旧約聖書がともに知識であるのが興味深い。

 

・竜宮島を継ぐ者、去る者

 『EXODUS』で結婚した剣司と咲良の間には子どもが生まれ、美三香はゴーバインのメットをその子どもに譲った。また、咲良はファフナーのパイロットを引退するという道生が果たせなかった夢を果たした。しかし、ファフナーのパイロットの命は短い。

総士「彼らの年齢で染色体変化と同化現象を受けたなら、
   20代の終わりまで命が持たない
   それが彼らの生存限界だ」
『EXODUS』3話

 それでもファフナーのパイロットが引退した後、親になることができたというのは新たな希望である。その結果、竜宮島を引き継ぐのは剣司と咲良ということが明確になった。

竜宮島というコミュニティでは、一騎と総士という “英雄” とザインとニヒトというスーパーな機体は規格外になっていて、次世代に継承できるものではないので放逐せざるを得ない。
冲方丁インタビュー『アニメージュ』2015年3月号

 島のコアの命でシュリーナガルに行った一騎と総士は放逐されたということになるが、島外派遣に参加したファフナーのパイロットも全員、最終的に竜宮島というコミュニティから去ることになった。

  • 広登:シュリーナガルを去りダッカ基地に行くという目的を果たした後、エスペラントと一緒に本当の目的地へ行こうとしていた(※6)が、人類軍によって殺害された。
  •  暉:竜宮島に戻ることはできた。しかし、島外派遣時にファフナーに乗りすぎたため、肉体は限界に達していた。海神島でアショーカと姉、里奈を守るために命を使うことを選び、いなくなった。
  • 真矢:人を殺めることで新国連の考え方を理解した結果、竜宮島の考えとは相容れない存在となった。

 真矢は島外派遣に参加したファフナーのパイロットでは唯一生き残り、竜宮島に戻ることができた。しかし、シュリーナガルから竜宮島に戻る旅を経た結果、真矢は「誰かを助けるためにそれ以外の人たち全部犠牲にできる人」(※7)になってしまった。溝口さんと同じく竜宮島ではアウトローな存在である。

 

 冲方丁はザインとニヒトは次世代に継承できないと言っていたが、PVを見ると第5次蒼穹作戦でザインに乗っているのは一騎ではなく美羽だと思われる。『EXODUS』開始時とは状況が変わり、ザインを引き継げる人が現れたということなのかもしれない。

 

・人類=制作スタッフ?

 作中の人類と同じく、製作スタッフも時間をかけてゆっくりとフェストゥムの世界を理解しているのではないだろうか。

●ミールとフェストゥム

 一期の放映時、私はミールとフェストゥムの違いを理解することはできなかったのだが、実は制作スタッフもその違いを視聴者に説明できるほど理解していなかったのではないだろうか。まさに制作スタッフも物語の中の人類と同じ状態である。実際、制作者がミールとフェストゥムの違いを理解して、言語化したのは『HEAVEN AND EARTH』(2010年)の時だった。

 操「俺の存在は君たちで言う指みたいなものだよ。
   君の指は君に命令しない、でしょ」

 操「ミールは俺にとって、君たちで言う神様なんだ。
   神様には逆らえないでしょ」
『HEAVEN AND EARTH』

 フェストゥムは指で、ミールは神様。誰にでもイメージしやすく、わかりやすい説明である。ちなみに神様という言葉は一期放送後の2005年2月23日に発売された「蒼穹のファフナー」BGM & ドラマアルバム II に収録されているドラマCD『NOW HERE』で使われている。

総士「お前にとって僕は神様か」
一騎「似たようなもんかな」
ドラマCD『NOW HERE』

 ミール=神様というイメージはここから喚起されたような気がします。

 

●無の中

一騎「総士はどこにいるんだ」
 操「無の中。存在を取り戻せるといいね」
『HEAVEN AND EARTH』

 『HEAVEN AND EARTH』を見た時、「無の中」という操の言葉から総士が置かれている状況は想像できなかった。『EXODUS』で総士がこの時の経験を一騎と真矢に話していた。

総士「人類が知る限り、この宇宙で存在が無にのまれても、存在した情報は失われない。
   無と存在の狭間にある事象の地平線は、存在があったという情報の分だけ広がる。
   地平線のこちらに無はなく、あちらに存在はない。
   ミールとフェストゥムは未知の物理法則で地平線のエントロピーを得る無の申し子だ。
   僕は彼らの地平線と交わり、彼らの調和で再び存在を得た」
『EXODUS』14話

 あまりにも抽象的な表現なので、本放送時はこの言葉が全く理解できなかった。『EXODUS』放送終了から2年の間に作品の理解度が上がり、さらに『THE BEYOND』のPVを見たこともあり、この言葉の半分くらいはわかったような気がします。総士の台詞から制作スタッフはフェストゥムの無について理解した上で『EXODUS』を制作していると思われるので、『THE BEYOND』で明確な答えを提示すると思われます。

 

※1 『NEWTYPE LIBRARY 冲方丁』(角川書店、2010年)から引用。

※2 『蒼穹のファフナー Bru-ray BOX』のブックレットから引用。

※3 詳細は『EXODUS』DVD/BD11巻の特典ドラマCD『THE FOLLOWER2』に描かれている。

※4 『エッダー古代北欧歌謡集』(新潮社)から引用。

※5 『口語訳聖書』(1955年、日本聖書協会)から引用。

※6 『EXODUS』14話で広登はアイにこう話していた。

広登「その基地に着いて民間人を預けたら、
   次は本当の目的地に向かうんだろう」
アイ「ええ、そう聞いてます」
広登「俺も行くよ」

※7 『EXODUS』23話の真矢の台詞。

 


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