【蒼穹のファフナー EXODUS】ダスティンとビリー Part1

 ダスティンとビリーの関係は竜宮島側の数組の人間関係を内包したものになっているが、新国連と竜宮島の違いを表すかのように、いずれの人間関係とも異なる結末を迎えた。

 

・真矢

 物語開始時の真矢は姉の弓子によって守られる存在だった。真矢を守るために弓子がパイロット適正データを改竄したため、真矢には身体的なハンデがあってファフナーに乗ることができないということになっていた。パイロット候補生となった同級生が次々とファフナーに乗って戦いに赴く中、真矢はただ一人、ファフナーに乗って戦うことができず、孤独だった。

真矢「あたしだけいない。
   あたしが撮った写真だから、当たり前か。
   あたしは、どこにいればいいんだろう」
一期17話

 千鶴は道生と暮らすために家を出ていった弓子が忘れていった写真立ての裏から真矢の正しいパイロット適正データを発見した。真矢はトップクラスの適正値を持っていた。査問委員会が開催された後、真矢は正式にファフナーのパイロットになった。

真矢「お姉ちゃん、今まで守ってくれてありがとう」
一期18話

 弓子によるパイロット適正データの改竄は母の千鶴が見つけ、査問委員会に掛けられた。この事件の後、真矢は正式にファフナーのパイロットとなり、自分の意志でファフナーに乗ることを選んだ結果、弓子の保護下から完全に独立することができた。これ以降、真矢は守られる側から守る側になった。

 

 真矢は翔子を傷つけそうになるという事件(※1)があり、その経験から真矢には翔子を守りたいという気持ちが生まれた。つまり真矢は弓子によって守られる側でありながら、翔子を守る側でもあったということになる。真矢の翔子を守りたいという気持ちは咲良に見抜かれていた。

咲良「翔子だって自分の意志で来ているんでしょ。
   なんであんたが保護者ずらしてんのよ」
ドラマCD『STAND BY ME』

 しかし、真矢が守りたいと思い、気を使っていた翔子は一騎の島を守りたい一心でファフナーに乗り、自分の命と引き換えに一騎の島を守った。咲良に指摘されていたが、翔子を守りたいという気持ちでいっぱいの真矢には翔子の気持ちは見えていなかった。そのため、真矢が気がつかないうちに、翔子は自分の考えで行動し、あっという間にいなくなってしまった。

 真矢が思いを寄せる一騎もまた一期26話と『HEAVEN AND EARTH』の二回、真矢の目の前で消えた。一騎は二回とも帰ってきたが、真矢は二度とザインに乗った一騎が目の前で消えるのを見たくないという気持ちが強かったのか、一騎がファフナーに乗ることなく、残り僅かな余命を全うするために、一騎の代わりにファフナーに乗って戦い続けた。しかし、真矢の気持ちは一騎には届かず、翔子と同じく一騎も自分の意志でザインに乗って戦うことを選んだ。結局のところ、真矢の守りたいと思った翔子と一騎は自分の意志で戦うことを選び、真矢の保護下から出て行ってしまったということになる。

 

 『EXODUS』では一期の弓子と真矢の関係と重なるダスティンとビリーという兄弟が登場した。守る兄ダスティンと守られる弟ビリーは、一期で弓子に守られる側でありながら、翔子を守る側でもあった真矢を思い出させるキャラクターだった。

 守る側としての真矢は翔子と一騎を戦いから遠ざけようとしたが、二人とも真矢に守られることを望んではおらず、真矢の不在時に自分の考えで戦うことを選んだ。真矢と翔子は一騎と総士に近い関係を持つ同性の友達として描かれたが(※2)、翔子は最初の戦闘でいなくなってしまったので、一騎と総士のようにお互いを理解し合うという関係ではなかった。真矢はパイロット候補生でありながらハンデがあってファフナーに乗ることができなかった。つまり真矢はかつての翔子と同じ立場になることで翔子を理解していき、最終的に翔子の意思を継ぐという形で翔子を理解した。

真矢「あたしも戦うよ、翔子」
一期19話

 一方、一騎がマークザインに乗って戦うことを選んだことを知った時、真矢は本心を一騎に言うことができなかった。

真矢「全部のリミッター外したまま乗ったんだ。
   一騎君、ごめんね、あたしじゃ守れなくて、ごめんね」
『EXODUS』9話

 一騎が戦っている様子を見ながらコックピットで呟いた後、本音を総士にぶちまけた。

真矢「なんで、一騎君を止めなかったの」
『EXODUS』10話

 真矢がシュリーナガルでマークザインを見た時の感情はこの二つの台詞で表現されている。一騎との対話を通して、真矢が相手を理解し受け入れていったが、その様子は一騎の言葉を通して描かれていった。

一騎「遠見は十分戦った。
   みんなと島に帰ってほしい」
『EXODUS』10話

一騎「先に、島に帰る気はないか」
『EXODUS』15話

 一騎がマークザインに乗る=戦うことを真矢が完全に受け入れたのは、真矢が一番欲しかった言葉を一騎が言った時だった。

一騎「島に帰ろう、一緒に。
   生きて戻ろう」
『EXODUS』19話

 

 真矢は最終的に自分の考えで行動する一騎を受け入れたが、真矢と同じく守る側のダスティンは最後までビリーが自分の考えを持つことを許さなかった。ダスティンは自らが汚れ役をやることが義務だと考えているため、命令とあらば司令官の殺害も厭わないが、同じ人類軍に所属する弟のビリーだけはなんとしても守りたい存在だった。ハワイ防衛戦後、モーガン隊は解体され、ビリーは安全な部隊に転属させていた。そのため、カマル司令からビリーがペルセウス中隊にいると知らされた時には驚いていた。

ダスティン「あいつは俺が後方勤務にまわしたはず」
『EXODUS』14話

 ダッカ近郊でビリーと戦場で邂逅した時、ダスティンは自分の元に連れて帰ろうとした。

ダスティン「来るんだ、ビリー」
  ビリー「兄さん、なんで」
『EXODUS』15話

 その後、シュリーナガルからの避難民と竜宮島が合流する時の戦闘でダスティンはビリーを自分の元に連れて帰ることに成功し、アルゴス小隊隊長という自分の立場を使ってペルセウス中隊にいたビリーを守った。

ダスティン「お前は俺が送り込んだ工作員だ。
      いいな、否定すれば処分される」
『EXODUS』22話

 新国連ダーウィン基地でベイグラントのコアがヘスターの元を去り、アザゼル型クローラーがやってきた時、ダーウィン基地を含む都市全域に交戦規定アルファが発令された。この時もダスティンはビリーを安全な場所に退避させた。

ダスティン「ビリー、お前は機体を運べ」
『EXODUS』23話

 ダスティンは弟のビリーを守ることに腐心してきたが、ビリーの言葉には聞く耳を持つどころか、その言葉を封じた。

  ビリー「誰も殺さないで兄さん、お願い」
ダスティン「黙れ、ビリー。
      余計な真似をすれば仲間に撃たれるぞ」
『EXODUS』23話

 ビリーがこの台詞を言った場所は戦場で、ビリーも人類軍の兵士であることを考えれば、確かにダスティンがこの言葉に耳を傾ける必要はない。しかし、ダスティンの「黙れ、ビリー」という言葉の裏には「ビリーは自分の意見を持つ必要はない、俺の言うことだけを聞いていればいい」というダスティンの考えが透けて見える。

 溝口とともにダーウィン基地を脱出した真矢はアルゴス小隊と相見え、最後にダスティンと一騎打ちとなった。その時で真矢は迷わずコックピットにマインブレードを刺して決着をつけた。ビリーの自立を阻み、自分の眼の届くところに置こうとしたダスティンは『EXODUS』10話で総士に「なんで、一騎君を止めなかったの」と言った時の真矢だった。ダスティンに対する真矢の攻撃に迷いがなかったが、それは守る者の自立を阻止していた過去の自分と決別でもあったようにも見える。

 ファフナーを降りたビリーは海神島で真矢が直接対峙する。二人ともかつて年上の兄姉に守られた者だった。しかし、年上の兄姉との関係は対称的だった。守ってくれた姉、弓子に感謝しつつも、自分の意志で戦うことを選んだが真矢。兄、ダスティンにより自分の意見を持つことを阻止されていたため、その兄の死後、自分の考えを持つ時間が与えられなかったビリー。新国連の支配する世界は情報統制されていることからもわかるように(※3)、人類軍が欲しているのは上官の命令に疑問を持たず従う兵士である。かつて人類軍の兵士だったカノンは「竜宮島と一緒に自爆する」という命令にさえ従った。上官の命令に従う兵士だったビリーはアルゴス小隊に転属した後、上官であった兄、ダスティンを失った。その後、バーンズ将軍が率いる部隊に引き抜かれ、竜宮島の攻撃に参加することになった。だが、そこにはビリーに命令する上官はおらず、ペルセウス中隊に所属していた時の仲間であるアイがビリーに声を掛けた。

アイ「真矢の銃よ。
   仇を討ちなさい、ビリー」
『EXODUS』25話

 アイはビリーの上官ではないため、兄の復讐を促すのみだった。ビリーはこの後の行動を自分で決めなければならない。しかし、数日中に竜宮島への攻撃が開始され、ビリーに自分の気持ちを整理するための時間はなかった。戦闘終了中は自分の言い聞かせるかのように「兄さんの仇」とつぶやいていた。戦闘終了後、ビリーは海神島で真矢を目の前に立ち、銃を向けた。

ビリー「真矢、兄さんは正しい人だった。
    アイもミツヒロも。
    なのに、なにが正しいかわからない」
『EXODUS』26話

 ビリーが迷っている間に弓子に変わって真矢を守る者となった溝口がビリーを撃ち、ビリーは事切れた。真矢とビリーの違いは守ってくれた長子から精神的に自立し、自分の意志で行動しているか否かであった。ファフナーの世界では自分で考えて行動することができない者は隙を見せたら最後、あっという間に命を落としてしまうということをビリーが証明してしまった。

 

※1 ドラマCD『STAND BY ME』を参照。

※2 ドラマCD『STAND BY ME』を参照。

※3 『EXODUS』5話のナレイン将軍の「今の世にジャーナリズムが生きているとは。本当に素晴らしい島だ」と言う台詞と『EXODUS』26話冒頭で竜宮島を攻撃しようとする人類軍の兵士の反応から、新国連は自分たちに都合のいい情報だけ一般市民に提供していると思われる。

※4 弓子は真矢のパイロット適性データを改ざんした。ダスティンはシュリーナガルの避難民に交戦規定アルファが発令されたにも関わらずビリーを救出しようとし、ビリーを救出した暁にはダスティンが送り込んだ工作員ということにした後、自分の部隊に配属した。

 

P.S. 10月中に公開する予定でしたが、うまく書けない部分が多く、気がついたら真矢の誕生日も過ぎていました。

 


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