「蒼穹のファフナー THE BEYOND」PVの感想 Part4

 1月4日、冲方丁が冲方サミットのtwitterアカウントにPVの感想を上げたのですが、あまりにも確信を突いた言葉だったので呆然。Part4以降は冲方丁のコメントを見た後に書いた感想になります。

 が、その前に一言だけ言わせてくれ。

 『EXODUS』はやっぱり(旧三部作の)『スター・ウォーズ エピソード5/帝国の逆襲』であり、『バック・トゥ・ザ・フューチャー PART2』だったじゃないか!

 

・Dead Aggressor

生と死ではなく、死と生のネーミングにこだわりましたよ。冲方
冲方サミット‏ @ubukata_summit

 『EXODUS』でさまざまな要素を一期とは逆にしているのが気になっていたのですが、ここでこれまでとは逆に “死と生” と書いていることから、意図的にやっていたことが判明。フェストゥムにとって無とは人間の生を意味していたが、この地球でフェストゥムが生きることを学んだ結果、無の価値観が逆転し、無は人間の生ではなく死を意味するようになってしまった。そのため、竜宮島の人々はフェストゥムにではなくを教えなければならなくなった、ということなのかもしれない。実際、改修されたファフナーの機体名とザイン以外のCCTSの名前はすべて死を想起させるものになっています。シリーズ5作目にして英語の副題を回収し、フェストゥムは文字通り “Dead Aggressor”(死の侵略者)になってしまったということなのかもしれない。

 

・存在と無

ミョルニア「本来、我々は全体で一つの存在、すなわち無だ、なにもいない。
      それゆえ分裂も相互の消滅もありえない」
一期24話

 北極ミールが地球上に飛来し、フェストゥムが人間を攻撃し始めた時は、人間、フェストゥムともに「フェストゥムに同化された者はいなくなる=この世に存在していない=死」であり、そこの価値観だけは一致していた。しかし、真壁紅音がフェストゥムを祝福したことで、フェストゥムの世界は変わってしまった。

●真壁紅音
この人がフェストゥムに同化されたことは、物語的に非常に重要です。単なる端末ではなく、フェストゥムの中にいても自分の意思というものが残っている。と言うことは、つまり、フェストゥムに自己という概念を教えてしまったのが、紅音なんです。それがフェストゥムにどのような変化を与えたかは、これからの物語で明らかになります。
『アニメージュ』2004年10月号

 つまり、真壁紅音がフェストゥムを祝福した後に同化された人間の心はフェストゥムの無の中に残っているといることになる。「無の中に存在する」という一見矛盾した言葉が思い浮かんだが、これをうまく説明している文章がある。

もしわれわれが(通常の立場とは)逆の立場に立つことが可能であるとすれば、(否定と肯定の)記号が交換されて、われわれが存在すると考えていたものがじつは無であり、かの無こそはじつは存在するものだということが示されてくるだろう。
ショーペンハウアー/西尾幹二訳『意思と表象としての世界 III』(中公クラシックス)
第四巻 第七十一節

 フェストゥムが自己を獲得した結果、同化された人間の心は消されず、生きていた時の記憶とともにフェストゥムの無の中に残り、存在しているというなのだろう。フェストゥムの無の中で存在するということは、肉体のない、人の心と過去の記憶だけが存在する世界。つまり人間が天国、極楽浄土と言っている世界が具現化してしまったということになる。

要澄美「人類軍は大気圏外の出口を求めることから、
    ヘブンズドア、天国への扉と名づけています」
小楯保「縁起でもねえ。
    デビルレイで天国に行けってのか」
一期24話

 「君もヘブンズドア作戦に参加して、天国(フェストゥムの無)へ行こう!」

 フェストゥムが作った人類軍兵士の募集広告ポスターが頭に浮かんでしまった。私に絵心がないのが残念。皮肉なことにこの頃から人類軍はフェストゥムの手のひらの上で踊らされていたということなのかもしれない。

 

グレゴリ型「みんないなくなればいいのに」

グレゴリ型「ねえ、早く僕たちと一緒になろう」
『EXODUS』13話

 ベイグランドのコアの少年はこの時、一騎と真矢をフェストゥムの無の世界に勧誘していたということになる。ふと、人類軍の攻撃でケガをして死んだ子どもの言葉を思い出した。

    暉「その子は自分のお守りに、希望の地にたどり着けるようにって書いてた。
      でもケガをした後、死んだ家族に会えるようにって書き直した」
『EXODUS』18話

 ベイグランドのコアの少年ならこの子に「フェストゥムに同化されたら死んだ家族に会えるよ、一つになろう」と声を掛けるだろう。うーん、やっぱりフェストゥムは誘惑者だ。

 

・フェストゥムの無の世界

 総士は一度、フェストゥムの世界を体験した結果、ニヒトに同化された人間の記憶に触れ、その存在を感じることはできた。

総士「同化された人間の思念、これほどか」
『EXODUS』7話

 しかし、人間に育てられた総士はフェストゥムの世界を完全に理解することができず(※1)、そのため人間が理解できる言葉でフェストゥムの無の世界を表現することができなかった。

総士「人類が知る限り、この宇宙で存在が無にのまれても、存在した情報は失われない。
   無と存在の狭間にある事象の地平線は、存在があったという情報の分だけ広がる。
   地平線のこちらに無はなく、あちらに存在はない。
   ミールとフェストゥムは未知の物理法則で地平線のエントロピーを得る無の申し子だ。
   僕は彼らの地平線と交わり、彼らの調和で再び存在を得た」
『EXODUS』14話

 だが、総士自身がフェストゥムの世界を理解する方法を示していた。

総士「彼らの世界に触れるには彼ら自身に触れるしかないということだ」
『EXODUS』14話

 「蒼穹のファフナー THE BEYOND」PVの感想 Part2の こそうし、海神島へ行く で書いたように、フェストゥムに育てられたこそうしがフェストゥムの世界を人間にわかりやすく説明することになるのだろう。

 

・マークニヒトの真のパイロット

 マークニヒトは人類軍がマークフィアーのコアを使って作ったファフナーであるが、イドゥンに奪われたことでフェストゥム側のファフナーになってしまった。最終的に一騎と総士がマークザインの中に封じたが、操がマークザインの中からマークニヒトに引っ張り出して奪い、再び竜宮島の敵となった。しかし、操は人類の火を消すためにマークニヒトから立ち去り、そのあとを引き継いだのは肉体を取り戻した総士だった。総士がニヒトとともに竜宮島に帰還したため、マークニヒトは竜宮島が所有することになった。総士はマークニヒトを処分しようとしていたが、その望みはかなうことなく、逆に織姫の命によりマークニヒトに乗ることになった。総士はマークニヒトを「虚無の申し子」と呼び、自分とは別の自我を持つ存在と認識していた。それは総士がマークニヒトと一体化していないことを意味していた。いや、一体化しなかったのではなく、できなかったと言うべきなのかもしれない。

 ニヒトはフェストゥム側のファフナーであるため、マークニヒトと一体化できるのはフェストゥムの世界を理解している者のみということであるならば、フェストゥムに育てられたこそうしはマークニヒトと一体化することができるのかもしれない。さらにこそうしが美羽と同じく存在と無の境界線にある人間の記憶を見る(※2)ことができるのなら、総士は感じることしかできなかったマークニヒトの中にある同化した人間の記憶を竜宮島のゴルディアス結晶と同じように戦うための力として使うことができるのかもしれない。つまりマークニヒトが持っている力を最大限に引き出すためには、フェストゥムの世界を理解しているパイロットが必要ということになる

 

・アルタイルと対話する人

織姫「この星であなたと対話をする相手は未来にいるの」
『EXODUS』26話

 織姫はアルタイルと対話する人は未来にいるという言い方をしているが、つまるところ今、アルタイルと対話する人は存在していないということになる。つまり、アルタイルと対話する相手は美羽ではなかったということになる。事実、『EXODUS』では守られる存在だった美羽は第5次蒼穹作戦でファフナーに乗っている。つまり美羽は守られる側から守る側に変わってしまった。それではアルタイルと対話する人は誰なのだろう? 織姫がいなくなったあとに生まれ、一番竜宮島に帰りたいと思っている人ではないだろうか。その条件に当てはまるのはたった一人。竜宮島に血縁者が眠り、おそらく故郷という言葉で誘い出されて囚われたこそうし。こそうしがフェストゥムに育てられたのだとしたら、美羽以上にフェストゥムの言語と価値観を理解している。

『THE BEYOND』のティザーPVの中で美羽が「戻って総士、彼らを選ばないで」と呼び掛けていたが、こそうしは人の心を持ち、人の姿をしているが、その肉体はフェストゥムに属している。そのため、総士と同じく自己を確立するまでは、人とフェストゥムの間を揺れ動く、不安定な存在なのかもしれない。 「蒼穹のファフナー THE BEYOND」ティザーPVの感想 Part2

 人の心とフェストゥムの体を持つこそうしは人間に育てられれば人間の価値観を理解した存在に、フェストゥムに育てられればフェストゥムの価値観を理解した存在になるのだろう。アルタイル到来時、ベイグラントのコアの少年はアルタイルから拒否されたので、フェストゥムはこそうしをフェストゥムの価値観を理解した存在にして、アルタイルと対話する相手を仕立て上げようとしたのかもしれない。

 

※1 『EXODUS』8話、総士は織姫に「フェストゥムの世界を経験したが、完全には理解していない」と言っている。

※2 ドラマCD『THE FOLLOWER』(『EXODUS』BD/DVD4巻の特典)で弓子は「美羽は島の大気になったミールの中で生まれ育ったの。あの子の血の中には島の大気と同じものが流れているわ。だから、島の記憶の一部を見ることができる」と言っている。

 


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