abemaTVでEXODUSを配信 その5の中の一項目として書き始めたものの、なかなか書き終わらないので独立した記事にしました。書き終わってみれば、当初の予定よりもはるかに規模の大きい内容と分量になりました。
一騎「たくさんの敵を倒してきたのに、
俺もお前もフェストゥムの力で生きているんだな」
『EXODUS』6話
「一騎と総士の進む道はまだまだ険しいと思います」
能戸隆総監督(※1)
『EXODUS』放映終了後、ずっとこの二つの言葉が心に引っかかっていた。『EXODUS』において総士の後を追うように一騎もフェストゥムの側へ行ってしまったが、そこで与えられた役割とは何なのだろうか。
・フェストゥムが持つ永遠
一騎「まだ俺にも命の使い道があるなら、
それを知るために生きたい」
『EXODUS』24話
一騎は自らの死を目前にした時、いずれ島のミールとともに祝福することと引き換えに生きることを選んだが、それは同時に生きている限り戦い続けることを意味していた。しかし、一騎が生きる場所=戦う場所には総士が必要だった。
総士「恐ろしくはないのか、お前一人で」
一騎「俺が戦ってる時、システムの中にはお前がいる。
怖いと思う必要もない」
ドラマCD『NOW HERE』
そのため、総士が無と存在の地平線を越えようとする時、島のミールとの契約など忘れて、一騎は総士の後を追おうとした。
総士「ぼくは今度こそ地平線を越えるだろう。
無と存在の調和を未来へ託して」
一騎「総士、俺も」
『EXODUS』26話
総士がいない世界で生きる一騎の姿は『HEAVEN AND EARTH』で描かれたが、一騎が総士のいない世界に自分が存在する意味はないと考えている。一騎は「再び、自分の存在を作り出す」(※2)という総士の言葉を信じて、一騎は竜宮島で総士が帰ってくるのを待っていた。総士は一期ラストで同化され、その肉体が消え去った後も一騎とクロッシングしていたため、一騎の気持ちを知っていた。それ故、この言葉を残して去っていった。
総士「未来へ導け、一騎。
そして、互いの祝福の彼方で会おう、何度でも」
『EXODUS』26話
『スペシャルイベントー痛みー』(※3)で冲方丁が「平和な夢は見られたか、一騎」という総士に質問に対し一騎が「いい夢だった、たぶん」(※4)と答えた夢の内容について具体的に話していた。その内容をアニメで描いていれば、自らの望み(生きたい)をかなえることは永遠に戦い続けることも意味しており、平和を望む一騎にはあまりにも残酷な人生であることが浮き彫りになったはずだ。それでもなお、生きることを選んだ一騎の姿勢はこの言葉につながっている。
総士「たとえ苦しみに満ちた生でも、僕は存在を選ぶだろう」
一期26話
かつて一騎は「あいつが、島の外で見たものを、俺も見たかったんだ。そうすれば、あいつのことがわかるんじゃないかって」(※5)と言っていたが、総士が一期ラストで体験したことを一騎は『EXODUS』24話で体験することができた。このことにより、一騎は存在と無の地平線を越えることの意味を理解したため、『EXODUS』で一騎は総士との別れを受け入れ、生の世界に留まることを選んだのではないだろうか。
この物語の子供たちは行き着く先までたどり着いた時にいなくなってしまうが、総士はフェストゥムの世界に行ったことにより、いなくなるのではなく逆に永遠にこの世に存在し続けることになった。しかし、総士自身の望みはかない、皆城総士という存在が永遠に存在するわけではなく、その魂が転生するという形で、永遠に存在し続けることになった。一騎が『EXODUS』で最後に総士が見たものと同じものを見た時、おそらく一騎の物語が終わる(※6)のだろう。
・大人になるということ
総士と一騎、人として生まれながら最終的にフェストゥムの側へ行ったこの二人に与えられた役割とは何なのだろうか。一期の時の冲方丁のインタビューにそのヒントがある。
一騎は男であるにも関わらず、母性的な性格ですね。自分を理解してもらう前に相手をしようと努力するタイプ。一方、総士は、相手のことを考えず、まずは俺を理解してくれ、というタイプです。そうしないとファフナーをコントロールできないからなんでしょうけど、すごく父性的なんですよ。
『アニメージュ』2004年11月号
それは一騎と総士がフェストゥムの親という存在になることだった。それ故、一騎と総士はフェストゥムと同じ永遠の存在になったのだろう。フェストゥムは今のところ単為生殖の存在であるため、人の親が持つ父性と母性を男二人で分担することになり、上記のインタビュー通り、総士が父の役割を、一騎が母親の役割を担うという形になった。一騎と総士がフェストゥムの親になったのは一騎が島の祝福を受けた後で、第四次蒼穹作戦においてその役割を全うする二人の姿を見ることができる。
総士「ずいぶん巨大だが…それだけか。
無に…還れ」
一騎「帰りな、お前たちのいるべき無へ」
『EXODUS』25話
一騎と総士はともにフェストゥムを無に還しているのやっているのだが、その態度はあまりにも対称的だ。また、パペットとして作られたミツヒロに対して、一騎と総士が取る態度も正反対だ。
総士「ためらうな一騎、こいつは人ではない。
人と信じこまされた、怪物だ」
『EXODUS』25話
一騎「俺はお前を信じる。
お前の心は今どこにいる、ミツヒロ」
『EXODUS』26話
フェストゥムの世界を見た総士は敵となったフェストゥムに対しては辛辣な態度を取るが、なんとか相手を理解したいと考える一騎にミツヒロの言葉を掛け、その心に訴えかけている。
エメリーは総士に「あなたは永遠の存在だとミールは言っています。彼らに痛みを与え続けるため、この世に居続けると」(※7)と告げた。しかし、総士はベイグラントのコアの少年に祝福を与えたことにより、おそらくフェストゥムから再び祝福を受けた。皆城総士という存在がフェストゥムの中で永遠に存在することなく、本人の望み通り、人として命を終えた。しかし、総士の魂は転生するという形で永遠にこの世に存在し続けることになり、必要とあらばこの後も永遠にフェストゥムに痛みという祝福を与えることになるのだろう。
総士「そして互いの祝福の彼方で会おう、何度でも」
『EXODUS』26話
総士は一騎にこう言って別れたので、今後、一騎がフェストゥムを祝福することがあるのだと思う。島のミールは一騎に生と死の循環を超える命を与える時、島と一騎がいつか行うであろう祝福の内容についてこう説明している。
カノン「お前は世界の傷をふさぎ、存在と痛みを調和させるもの。
我々はお前によって世界を祝福する」
『EXODUS』24話
一騎が島と世界を祝福することなく『EXODUS』は終わったため、現時点で一騎の祝福の具体的な内容は明らかにされていない。
・親の役割
『HEAVEN AND EARTH』で来主操は一度は産まれることを拒否した自分のミールに「産まれよう、一緒に」と呼びかけた結果、ミールのコアが産まれた。そのコアはその後、眠っていたが、美羽の呼びかけに答え、『EXODUS』21話で産まれた。ボレアリオス・ミールのコアの見た目は少年だが、中身はなにも知らない赤子そのものである。産まれたばかりの子どもになにも知らないので、生きていく知恵を教える親が必要ということになる。
一方、『EXODUS』で同化されいなくなった総士の魂は転生し、赤子として産まれた。それはフェストゥムの親である一騎と総士自身が親子となり、フェストゥムに産まれた子どもを育てることを教えるということを意味している。(※8)一騎と総士は今後、自らが生きていく姿を通して、フェストゥムに生物としてこの地球で生きていくことを教えていくことになるのだと思う。
「産まれた子どもに教える」という言葉で思い出したのがこの場面。
芹「じゃーん、今朝の採れたて。
ノコギリクワガタ、ミヤマクワガタ、クワトラムシ。
みんな待ってるよ、乙姫ちゃん。
たくさんお話ししようね。
いろんなこと教えてあげるからね」
『HEAVEN AND EARTH』
まさに芹のこの行動こそ、産まれたばかりの赤子に教える親そのものではないか。そして、『EXODUS』で芹は島のコアの親になることを選んだ。
※4 このイベントは『蒼穹のファフナー EXODUS』DVD/BD12巻の特典ディスクに収録されている。
※6 ドラマCD『THE FOLLOWER2』でミョルニアは「たとえ成功したとしても、いずれお前の心は元のままではいられなくなる」と一騎に警告した。一騎の物語が終わった後も存在し続ける一騎の心が変容するのかもしれない。
※8 能戸総監督は仕事が煮詰まるとtwitterに「こそうし記」というタイトルで非公式のショートショートをアップしているが、この中でこそうしと操を年の近い子どもとして描いているのを見て、さすが作品を作った人だと思った。こそうしと操の精神的年齢は同じくらいだと思う。
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