abemaTVでEXODUSを配信 その5

 2016年9月29日から10月18日までabemaTVで『EXODUS』が配信されましたが、全話見終わった後の感想の続き+アルファです。

 

・一騎の戦い方

 一騎は『EXODUS』10話と15話の戦闘時にルガーランスとザインの右腕を失い、何事もなかったかのように再生させていた。15話ではアビエイターに攻撃した時、一騎自身の右手が同化結晶に覆われたが、「まだだ、まだやれる」という言葉とともに同化結晶を消していた。『EXODUS』はノベライズ版から多数逆輸入されているが、一騎の戦闘シーンを見て思い出したのはこのシーンだった。

──俺が総士の目を潰したのだ! 俺が総士の目を潰したのだ! 俺が総士の目を潰したのだ! こういう風に! こういう風に! こういう風に! お前もこうしてやる! お前もこうしてやる! お前も! 気分が良い! 気分が良い! ああ! 気分が良い!

 一騎の中に敵の攻撃で武器やザインの手足を失っても再生すればいいやという気持ちがあるせいか、『EXODUS』での一騎の戦い方を見ていると「敵を倒すためなら右手なんかくれてやる!」という強い意志を感じる。

幼少時に皆城総士の左頭部を傷つけた一騎の右腕。以来、右手で誰かを攻撃することを怖がっていた一騎。(中略)22話で発現した一騎の同化現象が右半分を襲ったのは、右に対しての嫌悪感、罪悪感を今でも抱いていた為で、一騎はそれを罰として受け入れた。
ファフ時苑8【一騎の右】

 一騎は自身にとっては神様である総士を傷つけた右手への罪悪感を消すことができず、『EXODUS』の時にも持ち続けていたのではないだろうか。一騎の変性意識と右手への罪悪感が合わさった結果、あの戦い方になったような気がしてならない。

 

・一騎と二人のヒロイン

 一期、『EXODUS』ともに物語開始時、一騎に思いを寄せる女性は二人いた。一期では翔子と真矢、『EXODUS』では真矢とカノン。一期では一騎への思いを言葉にする翔子に対して真矢が一歩引き、『EXODUS』では一期終盤での一騎と真矢の関係を見ていたカノンが真矢に対して一歩引いていた。一期では真矢の一歩先を行く翔子がいなくなり、『EXODUS』では逆に真矢に対して一歩引いていたカノンがいなくなった。

織姫「選びなさい。
   命の使い方を。
   一騎のように」
『EXODUS』16話

 真矢とカノンの一騎との心理的な距離はおそらく大差なかったが、カノンが織姫から一騎と同じ問題を突きつけられた時、一気にカノンが一騎に近づいた。しかし、カノンと一騎との距離が近づいた時、一期の一騎と翔子の時と同じく一騎が不在という状況で、島に危機が訪れていた。翔子と同じくカノンも、島を守るため、ひいては島の未来をつかむためにその命を使った。

 一期で真矢は一騎に対して翔子に気を使って一歩引いていたが、一騎が本音を言える相手は真矢だった。ノベライズで一騎は真矢にだけ総士の左目に傷をつけたことを告白している。(※1)一方、翔子は一騎に思いを寄せていたが、学校を休みがちな翔子と一騎が直接話す機会は少なく、一騎は翔子のことをあまり知らなかった。一騎が島の外を見て帰ってきた後は一騎と総士の関係が安定。その結果、真矢と一騎の距離は縮まった。しかし、イドゥンが総士を北極に連れ去った後、一騎と真矢の距離は開いてしまった。

 『EXODUS』では物語開始時、一騎と真矢の考えがずれてしまっていたが、旅の間に一騎と真矢それぞれの考えの違いが埋まると同時に心理的な距離も縮まっていった。しかし、一期の時とは決定的な相違点がある。『HEAVEN AND EARTH』以降、おそらく一騎が本音を言う相手は真矢から総士に変わったということ。一期と『EXODUS』はともに物語の後半で一騎と真矢の距離が縮まったが、皮肉なことに『EXODUS』よりも一騎が真矢に本音を言っていた一期の方が互いを理解しあっていたように見える。

 しかし、一期では総士が連れ去られた後、『EXODUS』では一騎自身の人としての命を向き合うことになった時、一騎の視線から真矢ははずれた。一期、『EXODUS』ともに戦いが終わった時、一騎の視線の先にいるのは真矢ではなく総士だった。

 

・カノンとビリー

 一期17話以前のカノンとビリーは上官からの命令には疑問を持たずに任務を遂行する兵士だった。フェストゥムと戦うだけならおそらく何の問題もなかった。ところが竜宮島という異文化の人間と出会ったことにより、自分一人で考えて答えを出す状況に遭遇することになった。

 カノンの場合、いなくなりたいという自分と同じ考えを持っていた一騎と対話した結果、自分の意志でここにいることを選んだ。その後、竜宮島に住み、自分で考えて行動することを学んだ。

 一方、ビリーは兄のダスティンという命令を下す人を失った後、自分で考えて答えを出す必要に迫られたが、答えは見つからなかった。兄を殺した真矢と対峙するが、一騎とカノンの時のように互いに理解し合うための価値観を持っているわけではないので、対話は成立しなかった。

  一騎「3分やる、スイッチを入れたきゃ入れろよ」
一期17話

 一騎とカノンが対峙した時、一騎がカノンに死を突きつけた。猶予は3分だった。

  真矢「聞こえるでしょ。
     命令を取り消して」
機械音声「フェンリル認証コードを確認。
     実行まで60秒」
『EXODUS』23話

 真矢とヘスターが対峙した時、真矢がヘスターに死を突きつけた。猶予は1分だった。

 しかし、真矢とビリーが対峙した時、ビリーが真矢に死を突きつけた。ビリーは真矢に銃を向け、猶予を与えなかった。

ビリー「真矢、兄さんは正しい人だった。
    アイもミツヒロも。
    なのに、なにが正しいかわからない」
『EXODUS』26話

 ビリーは最後まで自分なりの信念を持つことができず、命令されるがままに戦う兵士から脱却することはできなかった。


 

・台詞の選択

 アニメ『競女!!!!!!!!』の第3話で主人公が教官から見慣れぬ服を渡された時に発した言葉が「コスプレ?!」だった。そういえば、一騎が一期2話でシナジェティック・スーツを初めて着た時に発した言葉も「コスプレ」だった。ということは、現代日本を舞台にした作品で、普段着ないような服を見た時に、わかりやすく説明できる単語が「コスプレ」ということになる。つまり11話までの脚本を書いた人は、竜宮島の日常生活のパートを現代日本を舞台にした作品と同じ感覚で脚本を書いたということになる。初期はスタッフ間で世界観を共有できておらず、竜宮島の文化レベルというところまで気が回らなかったのだと思うが、単語一つで世界観が見えてくるのだから怖ろしいと思いました。

 

・『ゼーガペインADP』(2016年)

 『蒼穹のファフナー』一期と『ゼーガペイン』のTVシリーズは共に「痛み」ということをテーマにした作品だが、『ゼーガペインADP』では生きていることの証として別の概念が持ち込まれていた。

キョウ「けど、取りあえずは飯だ。
    (シズノに)飯にしようぜ!」
シズノ「食事……?
    概念は知っているけど必要ないわ
    だって……、幻体なのよ」
キョウ「幻体だって腹ァ減るさ。
    生きてんだから」
シズノ「……」

キョウ「ふう。終わったか」
シズノ「戻りましょ。食事がしたいわ」
キョウ「ああ」(※2

 それは『EXODUS』、そして『仮面ライダーアマゾンズ』(2016年)と同じ食事だった。

 

※1 冲方丁『蒼穹のファフナー』(ハヤカワ文庫)2章8に以下の文章がある。

 ずっと、傷つけたことを誤りたかったのに。自分が与えた傷の深さに恐れおののくばかりで、謝ることも告白することも、誰にもできなかった。
 ただ一人――真矢を除いて。五年間で、ただ一人、自分の罪を告白した相手。

※2 テキストは『ゼーガペインADP』PREMIUM EDITION付属の絵コンテ集から引用。

 


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