『蒼穹のファフナー EXODUS』BD/DVD11巻付属のドラマCD『THE FOLLOWER2』の感想ですが、あらすじは書いてありません。感想はドラマCDの時系列を無視して書いているため、ドラマCDを聞いた人向けの内容になっています。
このドラマCDが時間的に位置する場所は『EXODUS』23話の途中、総士が捕虜引き渡しの交渉のために新国連の基地へ出発する前。アニメではおそらく意図的に描写を減らしていた一騎についてこのドラマCDで補われているので、これを聞くと『EXODUS』24話で昏睡状態から目覚めた後の一騎の行動を理解することができるようになった。
このドラマCDを聞いている時、さながらテストの答え合わせをしている気分になりました。しかし、作品を理解する際に必要な要素はすべてアニメで描かれていたため、このドラマCDの内容と『EXODUS』の最終話放映からの4ヶ月間に9万字を費やしてたどり着いた自分の考えとの齟齬はほとんどありませんでした。
なお、このドラマCDには総士と真矢のメディテーション・トレーニングの海が出てきますが、これまでにメディテーション・トレーニングの海が描かれたのはドラマCD『STAND BY ME』と『GONE ARRIVE』、短編小説『Preface of 蒼穹のファフナー HEAVEN AND EARTH』。現在、いずれも入手困難です。
●『THE FOLLOWER』との共通点
・今はいない親と子の対話
『THE FOLLOWER』は美羽が道生(父)と旅をしながら話をする物語だった。
『THE FOLLOWER2』は一騎はミョルニア(≒母)、総士は公蔵(父)、真矢はミツヒロ(父)と話をする物語になっている。つまり全員、いなくなった自分の親もしくはそれに近い存在と話をしているということになる。しかし、それは同時に自分との対話でもあった。
・道
『THE FOLLOWER』で美羽には目的地に至る道が見えていた。
『THE FOLLOWER2』で一騎は気がついた時には道の途中にいたが、進むべき方向を見失っていた。一方、総士と真矢は最後に以前は存在すらしていなかった未来ヘの道を見い出す。
・真矢-父との決別
ミツヒロ「どう世界を祝福するかをだ、真矢」
正直、真矢がミツヒロ=島のミールからこの言葉を突きつけられたのにはびっくりした。『EXODUS』23話で真矢が命をかけてへスターと取引したシーンを真矢の祝福だと感じたのは間違いではなかったということである。(※1)
ミツヒロ「お前がおとなしくザルヴァートル・モデルのテスト・パイロットとなったのも、
そう考えてのことだろう」
真矢「あたしじゃちゃんと動かせないけど」
ミツヒロ「だがもう少しであれを目覚めさせられるし、ここを滅ぼすことができる。
ギャロップもプロメテウスも、ここにいる人類軍も消してしまえる。
お前の命を使って」
真矢「今のあたしが島を守るには、それしかないから」
ドラマCD『THE FOLLOWER2』
この直後、真矢はこの考えを否定しているが、精神的にここまで追い詰められていたとは思わなかった。やはり新国連で捕虜となった時の真矢の心理描写にもう少し時間を取ってほしかった。
真矢の通過儀礼としての父親殺しは『EXODUS』本編に描かれていたが、このドラマCDでもはっきりと父の考えを否定している。
真矢「お父さんと同じ道を選んだりしない。
できるかわからないけど。
あたしが選んだ道を進みたい。
さようなら、お父さん」
ドラマCD『THE FOLLOWER2』
真矢は最後に父に別れを告げた。真矢は完全と父と決別し、別の道を行くことを選んだ。
・総士-通過儀礼としての親殺し
『EXODUS』本編で総士の通過儀礼としての親殺しは描かれていなかったが、島のミール=公蔵が総士に迫った選択が親の価値観を否定することになり、結果的に総士にとっての親殺しになっていた。
公蔵「島を危機にさらしてでもか。
これまで何のために戦い、犠牲を払ってきた」
総士「父さん、僕は長い間、あなたのように考えることを課してきた。
だがもう、そうはしないでしょう。
ただ閉じこもり、自ら対話の道を拒むと言うなら
今の僕はその選択を、この島のあり方を否定する」
ドラマCD『THE FOLLOWER2』
とはいえ、総士も自身の言葉を「まさか島の理念を僕が否定するとはな」と振り返って驚いていたが、総士自身も気がついていなかった自らの本心が島のミールとの対話で顕になったということだろう。そして、最後に総士はこう言っている。
総士「本当のお別れですね、父さん」
ドラマCD『THE FOLLOWER2』
『EXODUS』26話で竜宮島はアルタイルを眠らせるために水没したが、総士にとって島=父だったのかもしれない。ということは、総士は父の元を去ったと同時に葬り去ったということを意味しているのかもしれない。
・一騎-道に迷う者
『EXODUS』22話、アビエイターとの戦闘後、昏睡状態に陥った一騎は気がつくとキール・ブロック内の道を歩いていたが、行くべき方向を見失ってしまった。
一騎「前にも後ろにも道が続いている。
終わりが見えないくらい遠くに。
俺は…どっちに向かってたんだ」
ドラマCD『THE FOLLOWER2』
一騎は道の途中で出会ったミョルニアに道の行き先について尋ねた。
一騎「この道の先に何があるんだ」
ミョルニア「進めばお前は目覚めるだろう。
その場合、お前の精神と肉体は近いうちに無へ還ることになる」
一騎「総士みたいにフェストゥムの世界に行くのか」
ミョルニア「そうだ。再び存在の調和を得るかは、未知数だ」
ドラマCD『THE FOLLOWER2』
これまでファフナーに乗り続け、最終的に同化された者は皆、島の記憶となっているのに、なぜ一騎は一期終盤でイドゥンによって北極を連れ去られ、同化された総士と同じ道なのだろうか。弓子が美羽に言った言葉を思い出した。
弓子「でも、力を使い続ければ、いずれその力そのものに同化されるわ」
『EXODUS』10話
ニヒトに乗った総士は同化された後、無へ還った。つまりザルヴァートル・モデルのパイロットは機体の力そのものに同化された結果、フェストゥムに近い存在になっていき、同化された後はフェストゥムと同じように無へ還るということなのだろうか。
一騎はミョルニアに道を戻ったらどうなるのかを尋ねた。
一騎「この道を戻ったらどうなるんだ」
ミョルニア「眠りながら命を終えるだろう。
お前の存在の記憶は我々とともに残る。
かつてこの島に生きた者たちのように」
ドラマCD『THE FOLLOWER2』
こちらは竜宮島の住民と同じようにいなくなることができる。いわば人としていなくなるということ。しかし、ミョルニアは一騎に別の道があることを告げる。
ミョルニア「我々との調和の道だ。
そのためには、新たな選択に差し掛かったお前たち全員が、
同じ意思を持たねばならない」
一騎「俺たち? 俺だけじゃないのか」
ミョルニア「人間は互いの選択によって異なる意思を持つ存在だ。
その意志が一つであれば、我々との調和がかなうだろう」
一騎「他に誰がいるんだ」
ミョルニア「お前と皆城総士、遠見真矢。
羽佐間カノンはすでに選択を終え、その記憶は我々とともにある」
ドラマCD『THE FOLLOWER2』
この後、一騎はミョルニアと対話してある選択をする。しかし、アニメ本編で描かれたカノンとこのドラマCDで描かれた総士と真矢の選択の方が重いと感じた。なぜなら一騎は自分だけでなく総士、真矢、カノンの選択によって島との調和を得た、つまり一騎は総士、真矢、カノンの3人から命を与えられ、未来を託された側だからである。
一騎はキール・ブロックでミョルニア(=島のミール)と対話しているが、総士と真矢はメディテーション・トレーニングで見る海でそれぞれの父(=島のミール)と対話している。総士と真矢の通常時のメディテーション・トレーニングの海の風景はこのドラマCDでは必要最低限の描写しかされていないが、過去にリリースされたドラマCDと短編小説ではこんなふうに描写されていた。
真矢「誰もいない。
どこにも行けない。
鏡みたいな海に映る、あたしがいるだけ。
何もかも平らで、何の感情も湧かない」
ドラマCD『STAND BY ME』
海底から海まで貫く、大きなガラス張りの塔だ。
その中を自由に移動して、空も、海の中も見ることが出来る。
でも、空にも海にも出て行けない。出口のない塔の中で、一人きりで生活している。
自分が塔から出てしまえば、きっと塔は壊れて海に沈んでしまう。
『Preface of 蒼穹のファフナー HEAVEN AND EARTH』
総士と真矢はこの海の中で父の姿をした島のミールと話し、島のミールから問いただされ、選択を迫られる。その際、総士と真矢はともに父と意見が対立し、最終的には父とは違う考えを選んだ。父と違う意見とは過去の自分を捨てて未来を選んだということを意味し、二人のメディテーション・トレーニングの海は崩壊し、そこには新たな道を生まれた。
真矢「海が…鏡じゃなくなった。
波が引いていって…海の中に白い砂でできた道が見える。
まっすぐな道。
ずっと遠くまで続いている」
総士「なんだ、壁が割れていく。
海が割れて、光が降り注いでくる。
海だった場所に道が見える。
どこまでも続く道が」
ドラマCD『THE FOLLOWER2』
一方、一騎の前に現れた島のミールはミョルニア(≒母)の姿をしていたため、その対話はおだやかなものだった。そのため、総士と真矢のように親子と意見が対立し、最終的に子は親とは別の道を選ぶ=通過儀礼としての親殺し=自分が変わるという流れにはなっていない。一騎、総士、真矢の最後の台詞に総士、真矢と一騎との違いがはっきりと現れている。
真矢「さようなら、お父さん」
総士「本当のお別れですね、父さん」
一騎「行ってきます、母さん」
ドラマCD『THE FOLLOWER2』
しかし、ミョルニアは一騎にもいつか変化が起こることを告げている。
紅音「たとえ成功したとしても、いずれお前の心は元のままではいられなくなる」
ドラマCD『THE FOLLOWER2』
つまり一騎もいずれ総士と真矢のようにメディテーション・トレーニングの海が崩壊し、未来への道を見出す時が来るのだろう。一騎はこのドラマCDでの対話の相手がミョルニア(≒母)だったため、総士と真矢のように通過儀礼としての親殺しが描かれなかった。それ故、この3人に中で一騎は「大人になっていない=この後もザインに乗ることができる」と考えることもできるだろう。
・島からの脱出
公蔵「古き世界から去ることを決めた」
公蔵「彼らが旅立つ時、我々も変化を迎える」
ドラマCD『THE FOLLOWER2』
織姫は今は対話することのできないアルタイルを眠らせるために竜宮島ととも海に封じることを決め、竜宮島の住人は島を去ることを余儀なくされた。しかし、この公蔵の言葉を見ると島のミールは「島民が島を去ること」をポジティブなこととして受け止めている。「島を出ること」を選んだのが一騎、総士、真矢、カノンであることを考えると、竜宮島からの住民の脱出は若者が未来を掴むために故郷を出て、新天地に向かったということを意味しているのだろう。ただ、普通は帰るべき場所として存在しているはずの故郷が失われた上に、新天地に向かったのが若者だけではなく全島民だったということが、結果として物語としては昔から定番の「若者は冒険を求めるが故に故郷を去る」(現代においては進学や就職で生まれ故郷を去るが相当する)という構図が非常に見えにくくなっている。
一期でフェストゥムに同化された甲洋の存在を通して「フェストゥムとの共存」を選んだのは一騎、剣司、衛、真矢、咲良、そして総士だった。『EXODUS』でたとえ竜宮島と島民を犠牲にしてでも対話の力を守る、つまり最終的に「島を出る」ということを決めたのは一騎、総士、真矢、カノンだった。では『EXODUS』において、なぜこのメンバーと同級生である剣司と咲良が意思決定に参加していないか? それは「結婚=すでに大人になった=もはや子どもはない」ということを意味しているからだろう。島を出ることを決めたのが同級生だとは知らない剣司が海神島で「必ず帰るぞ、俺たちの島へ」(※2)と言っているが、この台詞からは咲良と一緒に同級生よりも早くに大人になった結果、蚊帳の外の置かれてしまった者に対する寂しさを感じる。
とまれ、竜宮島の未来を決めるのは大人たちではなく、常に子どもたちなのである。
※1 蒼穹のファフナー EXODUS 第26話-10「EXODUSにおける祝福 Part1」の「真矢の祝福」を参照。
P.S. このドラマCDを聞いたのが蒼穹のファフナー EXODUS 第26話-20「島のミールが学んだもの」までを書いた後でよかった。
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