総士「誰かが危機に陥るたび、誰かが立ち上がる。それが僕らの戦い方だった」
『EXODUS』12話
暉が広登の「平和を世界に広めたい」という意思を継いだと思った人は多いはずだ。しかし、『EXODUS』24話で暉もいなくなってしまった。それではこの意思を継いだ者はいるのか。それともいないのか。
●人々の記憶
・竜宮島
この作品ではファフナーに乗れない者が記録者の役割を担っている。一期では3話で同級生の写真を撮った真矢がその役割を担った。
真矢「あたしだけいない。
あたしが撮った写真だから、当たり前か」
一期17話
この時撮った写真はアルヴィス内にある総士の部屋に飾られ、『HEAVEN AND EARTH』と『EXODUS』8話に登場。その後、『EXODUS』19話で結婚した剣司と咲良の家にも飾られていた。
一期で真矢が最後の写真を撮った場面は一期18話の海水浴シーンである。この後、真矢は海岸から自宅に戻る途中で島を訪れた父ミツヒロと再会する。
ミツヒロ「そうか、お前も島の外を見たか」
真矢「うん」
ミツヒロ「ファフナーで出たのか」
真矢「ううん、あたしハンデがあるから乗れないんだ」
ミツヒロ「それはおかしい。
母さんたちによく聞いて見るといい。
データが間違っている可能性がある」
一期17話
そして、シナジェティック・コードの改竄が明らかになり、真矢がファフナーに乗れることが判明。ファフナーに乗れない者=記録者ということが明白な描写だと思う。しかし、真矢はその役割を誰かに引き継ぐことなく、ファフナーに乗った後も記録者であり続けた。
一騎「遠見は、誰かの分まで思い出を大事にしてくれるんだな」 一期23話
蒼穹作戦で総士を救出することはできず同化されていなくなった。また、一騎も島に戻ったものの1年間、昏睡状態に陥った。(※1)やはり真矢はこの世界に存在し続け、記録するものだった。
『EXODUS』は一期とは真逆の状況で真矢は一期のメンバーで唯一、現役のレギュラー・パイロットだった。ファフナーに乗れない者=記録者だとすれば、その役割を引き継いだのはカノンだった。ブルクのカノンの席には写真が飾られ、カメラも置いてあった。
真矢は島外派遣に参加することになり、竜宮島からいなくなった。真矢から記録者という役割を引き継いだカノンも『EXODUS』12話でパイロットに復帰し、他のパイロット同様、SDPを発症。いついなくなってもおかしくない状況に追い込まれてしまった。追い打ちをかけるように、島のコアから「選びなさい、命の使い方を。一騎のように」(※2)と決断を迫られ、カノンは自らのSDPを島の未来を掴むために使うことを決意した。
カノン「この島はいなくなった者たちのことを決して忘れないんだな。
私も島のことを忘れない。
どんなに遠く離れても、
ここに私がいたすべての記憶が残り続けてくれる。
遠い未来までずっと」
織姫「私も忘れない、あなたのこと」
『EXODUS』17話
カノンはキール・ブロックで織姫に話していることからもわかるように、この時、自らに振られた記録者という役割を島のコア=ミールに引き渡した。そして、カノンは島に同化されるかのようにいなくなった。
・海神島
千鶴「真矢が撮った写真だそうです」
史彦「過酷な状況でも、希望を見ていたことがわかる」 『EXODUS』23話
一方、島外派遣に参加した真矢はシュリーナガルから竜宮島に戻る旅で写真を撮り、一期と同じくファフナーに乗りながら記録者という役割を担っていた。
『EXODUS』26話で竜宮島はアルタイルを眠らせるために海に沈み、島民はすべて海神島へ移住することになった。カノンは「真矢もレギュラー・パイロットから外れる。これが最後の任務になるだろう」(※3)と言っていたが、おそらく真矢は『EXODUS』終了と同時にファフナーのパイロットから引退することになるのだろう。ここでファフナーに乗れない者=記録者という構図がここで復活する。『EXODUS』で総士はいなくなり、一騎も人の理から外れた存在になることを選んだ。しかし、真矢だけはこの後も人として存在し続け、海神島で一期と同じく転生したそうしと一騎の記録者としての役割を担うことになるのだろう。
●平和
一期10話、広登は自分の望みがかなわないことをわかっていながら、進路相談で要先生に自分の本心をぶつけた。要先生のそっけない返事にへそを曲げ、放送室に閉じこもった広登の心に響く言葉をかけたのは羽佐間先生だった。
容子「いろいろと秘密にしていたことは謝るわ。
でもそれは、あなたたちに平和の大切さを知ってほしかったからなの。
この島に住むまで、先生たちは戦争しか知らなかった。
あなたになりたいものやしたいことがあるのはとっても嬉しい。
だって先生たちにはそんな余裕さえなかったから。
でもね、それは生き残ってからするしかないの。
先生たちにとっては、あなたたちが希望なのよ。
生きて、希望を、島を受け継いでほしいの」
一期10話
『EXODUS』ではこの平和が重要なキーワードとなる。
広登「俺もお前も、島が平和を与えてくれた。
だから世界を憎まずにいられたんだ。
俺は、俺が知っている平和を世界に広めたい」
『EXODUS』13話
島の大人たちが子供たちに伝えようとした平和を最も理解していたのは広登だった。しかし、皮肉にも戦争と対となる平和そのものを体現する存在であった広登は人類軍によって攻撃された。機体は鹵獲され、広登の生死は不明だった。暉は広登の生存を信じて、広登のビデオカメラを手に取り、広登の代わりに撮影を続けた。
暉「毎日、誰かがいなくなる。
輸送機は血のにおいでいっぱいだ。
他に何も感じない。
昨日、このお守りをくれた女の子が死んだ。
人類軍の攻撃で、大ケガして苦しんでた。
これに願いを入れた紙を入れる。
その子は自分のお守りに、希望の地にたどり着けるようにって書いてた。
でもケガをした後、死んだ家族に会えるようにって書き直した。
ここは地獄だ」
『EXODUS』18話
暉はこんな状況下であっても、難民となって竜宮島との合流を目指してユーラシア大陸を移動するシュリーナガルの人々の様子を撮影し続けた。
暉「広登は世界を見れてよかったって言った。
平和を広める価値を知ったって。
俺もそう思う」
『EXODUS』24話
それは広登の平和を世界に広めたいという意思を継いだということでもあった。暉が広登のカメラを持って竜宮島に帰ってきたということは、広登が世界に広めようとした平和はシュリーナガルの人々とともに旅した後、再び竜宮島に戻ったということになる。
島が広登の意思を引き継ぎ、世界へ平和を広める役割を担うとしても、島の住民には人類軍への憎しみの気持ちを持ち続けている者がいる。その気持ちを代弁しているのが里奈だ。
里奈「あんたら、あたしらになにした。
島を占領してさ、爆弾落としてさ」
『EXODUS』3話
里奈のこの気持ちを解決する存在はウォルターだった。(※4)暉の役割はウォルターの気持ちを里奈に伝えることだった。
暉「ウォルターさんに島に来てくれって言った。
その時思ったんだ。
広登の無事がわかったら、別の願いを書こうって。
世界中に竜宮島の平和を知ってほしい。
そのために俺は生き残る」
『EXODUS』25話
暉が里奈を守るためにゼロファフナー搭乗時に同化されていなくなった後、里奈は暉の残したビデオを見た。そこでやっと暉が里奈に伝えようとした気持ちが伝わり、島の住人の人類軍への憎しみが解消された。これでやっと広登が暉に託した島の平和を世界に広める準備が整った。
史彦「人類軍の兵士たちに告ぐ。
現在、我々は、新たに到来するミールを
人類に有益なものとする作戦を遂行中である。
我々の成果であるすべてのデータを、諸君に提供したい」
『EXODUS』26話
平和は島の大人が子どもに教えたものだった。そして、その子どもである広登が島の外に出ることを望んだ。残念がら、広登は志半ばで斃れたが、暉が後を引き継いだ。島外派遣組とペルセウス座中隊、シュリーナガルの住民とともに世界を旅した後、島に帰ってきた。その結果、一度は世界から拒否され、生きのびるために隠れることを選んだ島の大人たちの考えが変わり、アルヴィスの司令(島)から世界に広められることになった。
そういえば、広登は竜宮島を出る前、父と姉にこう言っていた。
広登「世界と島をつなげるんだ。
理解し合うことで人間同士の争いをなくす。
島のアイドルである俺の役目ってわけ」
『EXODUS』5話
『EXODUS』最終回の後、海神島で竜宮島の住人とシュリーナガルからの住民がともに暮らすことになった。広登の望みがかなったということである。今まさに世界と島がつながった。
ファフナーはシリーズを通していなくなった者の意思を誰かが継ぐ物語だったが、カノン(記録者)と広登(平和)の役割を引き継いだのは、人ではなく竜宮島のミールだった。平和を世界に広めたのは真壁司令だったが、島がアルタイルを引き取り、海の中で眠らせることを決めたのは島のコアである織姫でだった。その結果、竜宮島の住人とシュリーナガルの住人がともに海神島で暮らすという状況が生まれた。広登がいなくなった14話、カノンがいなくなった17話はともに特殊エンディングで、二人とも島と一体化していなくなるという描写をされていたのが何よりの証拠だ。(暉は旅の途中で亡くなった人とバスの中で再会し、キールブロックで里奈に別れを告げた後、広登ともに島に還った)竜宮島のミールは記憶を残すということと平和を理解したということだろう。
竜宮島について語る総士のモノローグには平和という言葉が頻出している。
「多くの犠牲によって勝ち取った平和」
『EXODUS』1話
「異なる希望が出会うことが平和への道とは限らないことを」
『EXODUS』2話
「平和だけを受け継げる時代は、過ぎ去った」
『EXODUS』4話
「それは確かに希望だったが、平和の道ではなかった」
『EXODUS』5話
「僕たちは平和のために戦ってきた。
たとえどれほど短くとも、自分たちの平和がすべてだった」
『EXODUS』6話
「僕らの願いは一つだった、長く続く平和。
だが、そのために僕らが手にするのは、いつでも平和とは程遠い力だった」
『EXODUS』7話
「平和への願いがすべての始まりだった」
『EXODUS』8話
※1 『HEAVEN AND EARTH』BDのブックレット参照。
※4 暉とウォルターの対話が意味することについては、蒼穹のファフナー EXODUS 第26話-9「竜宮島と新国連」の「里奈の気持ち」を参照。