蒼穹のファフナー EXODUS 第26話-10「EXODUSにおける祝福 Part1」

祝福
キリスト教で、神から恵みを授けられること。
『精選版 日本国語大辞典』(小学館)

 一期から『HEAVEN AND EARTH』までの祝福の意味はキリスト教の概念を元にしたものだったが、祝福をした総士が肉体を取り戻して帰ってきたことにより、一期と『HEAVEN AND EARTH』の時より『EXODUS』では「祝福」の意味が拡大されて、自らの罪を償うという意味を持つようになった。

 『EXODUS』で一騎は祝福したのだろうか?

 

・総士の祝福

 総士の犯した罪は以下の通りである。

フェストゥム「お前は真壁一騎に対してフェストゥムと同じことをしようとした。
       それは人類に対する裏切りだ。
       その傷は罰だ。
       お前の汚らわしい行いに対する当然の報いだ」
    総士「違う。この傷が僕を僕にした」
フェストゥム「自分が自分でいることをやめられたらどんなに楽だろう」
    総士「そんな考えは、もう持っていない」
フェストゥム「本当はフェストゥムのこと羨ましいと思ってるくせに」
一期23話

 ここでフェストゥムが言っている言葉はかつて一騎を同化した時の総士の本心であり、総士が一騎に対して犯した罪についてフェストゥムが告発をしている。総士は一騎から与えられた「痛み」でフェストゥムを祝福し、自らもフェストゥムから祝福された。総士は一度フェストゥムの側へ行くことで、かつて一騎を同化しようとした罪を償うという形になった。総士の罪の証は左目の視力であり、『HEAVEN AND EARTH』で肉体を作り直して島に帰還した時に左目の視力を取り戻し、ファフナーに乗れるようにもなった。

 

 総士の罪は一つで、一期26話の祝福で償った。だとすれば、もはや総士が祝福する必要はない。しかし、『EXODUS』26話で総士はベイグラントのコアを破壊する時、コアの少年を祝福している。

総士「コアの亡霊よ、感じるか。それが痛みだ。
   僕がお前たちに与える祝福だ」
『EXODUS』26話

 『EXODUS』14話でエメリーが皆城総士という存在とその未来についてこう言っていた。

エメリー「感じます。あなたはフェストゥムにとって抜くことのできない棘。
     痛みを教える存在だとわたしたちのミールが言ってます」
  総士「そのせいで敵を別の存在に進化させてしまった。
     責任の一端は僕にある」
エメリー「あなたは永遠の存在だとミールは言っています。
     彼らに痛みを与え続けるため、この世に居続けると」
  総士「ぞっとしないな。
     僕は人間として生き、命を終える。
     それもそう長くない」
エメリー「あなたの祝福が、そうであることを祈ります。心から」
  総士「僕の、祝福…」
『EXODUS』14話

 エメリーの言う通り、総士が体を作り直してこの世に戻ってきた時、総士はすでにフェストゥムにとって「抜くことのできない棘」で「痛みを教える存在」だったのだと思う。

 一期26話でイドゥンが「戻せ、我々を無へ戻せ!」と叫んだように、総士の祝福は痛みによりフェストゥムに個を与えること。コアの少年は憎しみの理由さえ忘れてしまったために(※1)、ミツヒロには理由のない憎しみを教えていた。(※2)コアの少年は総士の祝福によって存在を得たものの、自らが存在する理由はわからず、一騎とミツヒロを消そうとした。最終的にコアの少年がイドゥンのように消えたのか、それとも存在し続けているのかは不明。もしコアの少年が消えずに存在し続けているのだとしたら、自らが存在する理由を知るために世界を放浪すること(ベイグラント=vagrantの意味は放浪者)になるのだろう。

 それでは総士はコアの少年を祝福した時、フェストゥムもまた総士を祝福したのだろうか。

 エメリーは総士が「永遠の存在」で「この世に居続ける」と言っていた。しかし、総士はベイグラントのコアを破壊した後、その体は同化されて砕け散った。「人間として生き、命を終える」という本人の望み通り、おそらく存在と無の地平線を超えたが、竜宮島のコアであった妹、乙姫と同じく生と死が循環する命となって転生した。人と同じように赤子として生まれて育っているので、ミールのコアよりもさらに人に近い存在になったと言えるだろう。エメリーが言っていたような形で皆城総士という存在がこの世に居続けるということではなくなったので、総士はフェストゥムからの祝福を受けたのだと思う。

 しかし、転生し続ける総士の魂はフェストゥムにとっての棘となり、その命と引き換えにフェストゥムを痛みで祝福する存在になったのだろう。ニール・ゲイマンがライターを務めたアメコミ『サンドマン』のデスを思い出した。永遠の存在であるデスは人の生と死の苦しみと痛みを理解するために100年に一度、一日だけ人として生きて死ぬ。(※3

 

・一騎の祝福

一騎の犯した罪は二つある。

一騎「その傷のせいで、お前はファフナーに乗れないんだろう。
   だったら、なんで俺を責めないんだ。
   なんで俺がやったって言ってくれなかった。
   俺が逃げたからか。
   あの時、お前を置いて逃げたからか」
一期15話

 一つ目は総士を傷つけたこと。その罪の証は右腕である。

幼少時に皆城総士の左頭部を傷つけた一騎の右手。(中略)一期22話で発現した同化現象が右半分を覆ったのは、右に対しての嫌悪感、罪悪感を今でも抱いていたためで、一騎はそれは罰として受け入れた。(※4

 二つ目は島を出て、新国連にマークエルフを奪われ、自ら捕虜になったこと。

史彦「お前は重要な戦力を持ち出し、島の機密を漏洩した。
   アルヴィスの総意によっては追放もありうる。
   処分が決定するまでここでおとなしくしていろ」
一期17話

 その結果、ファフナーと一騎自身という存在という島の情報が漏洩した。この時の罪は『EXODUS』でマカベ因子という形で表現されている。マカベ因子は一人でもファフナーに乗って戦えるパイロットが欲しい人類軍の兵士にはありがたい存在だが、一騎の遺伝子から作られたものなので諸刃の剣である。一騎は自分が新国連の捕虜になったことで、多くの人間が自分と同じ問題、すなわち長く生きられない身になったことを知り、苦悩する。

総士「彼らの年齢で染色体変化と同化現象を受けたなら、
   20代の終わりまで命が持たない。
   それが彼らの生存限界だ」
一騎「なのに俺は、感謝されたのか」
『EXODUS』3話

 しかし、一人の人間ができることには限界がある。一騎は『EXODUS』9話で「これが、俺の祝福だ」と言って、フェストゥムに同化されたシュリーナガルの人類軍のパイロットの同化を肩代わりする。命が残っている者を助け、同化されすぎて命が残っていない者には人ととして尊厳のある死を与えた。

 同化された人を救済する。

 これが一騎の祝福だった。しかし、一騎の場合、乙姫、総士、操とは異なり、祝福をしてもその存在がすぐに消えることはなく命は残った。祝福と引き換えに差し出す一騎の命が尽きたのは、『EXODUS』22話でアザゼル型アビエイターのコアを同化した時だった。この戦闘の後、一騎は昏睡状態に陥り、島にある存在と無の地平線にたどり着く。一騎は『EXODUS』4話で島のミールから問われた「あなたはどう世界を祝福するの」に対する答えを出したため、一騎は総士の選んだ「存在と無の調和」に近い「生と死の循環を超える命」を与えられる。一騎が総士に対して犯した罪は許され、アザゼル型アビエイターとの戦闘時に同化されて失った右腕(総士を傷つけた腕でもある)が島のミールの力により再生された。

 一騎が犯した罪は二つ。それに対して一騎が『EXODUS』でした祝福は一つ。今回は最初に犯した総士に対して犯した罪を償った。まだ、島を出て、島の情報を漏洩した罪を償うための祝福は行われていない。一騎がすべての罪は贖うためには、あと一つ祝福しなければならない。

カノン「お前は世界の傷をふさぎ、存在と痛みを調和させるもの。
    我々はお前によって世界を祝福する」
『EXODUS』24話

 それでは竜宮島のミールが一騎が通して行う世界への祝福「世界の傷をふさぎ、存在と痛みを調和させるもの」とはどんなものなのだろうか。

  一騎「いなくなっても、そいつがいた証拠はどこかに残る。
     そうだろう、翔子、カノン」
ミツヒロ「終わりだ、マカベ」
  一騎「俺はお前を信じる。
     お前の心は今どこにいる、ミツヒロ」
ミツヒロ「俺が…アイを…殺した。
     頼む、マカベ。俺を消してくれ」
『EXODUS』26話

 一騎がミツヒロに問いかけた結果、ミツヒロはコアの少年に消されたはずの記憶を取り戻した。総士はベイグラントのコアを破壊する時の痛みでコアの少年を祝福したが、一騎はコアの少年によって消されたの記憶を取り戻すという形でミツヒロを祝福した。もっとも一騎自身、これが島のミールが言っていた「我々はお前によって世界を祝福する」ことだとは気がついていないので、祝福という言葉は使っていない。この直後、コアの少年はこう言っている。

グレゴリ型「お前は僕のものだ」
『EXODUS』26話

 コアの少年はファフナーごと一騎とミツヒロを消そうとしたが、一騎は甲洋と操が存在へと導き、ミツヒロは一騎が存在を与えたために消えなかった。宇宙に放り出されたミツヒロの傍らにはベイグラントの存在と無の地平線が存在していた。コアの少年は憎しみの理由を忘れてしまったが(※5)、ミツヒロはコアの少年に作られたパペットであり、ミツヒロもまた自らが存在する理由を求めて、世界を放浪することになるのだろう。それは皮肉なことに、竜宮島のミールから生と死の循環を超える命を与えられた一騎と同じものを探していることになる。

一騎「まだ俺にも命の使い道があるなら
   それを知るために生きたい」
『EXODUS』24話

 

 総士の「痛みによる祝福」と一騎の「共苦(※6)による祝福」は共にフェストゥムに存在を与える祝福だが、そのやり方は正反対で対になっている。一騎と総士の祝福もザインとニヒト同様、「二つで一つの力」(※7)なのだろう。

 

・真矢の祝福

真矢「お父さんはフェストゥムとどう違うの」
一期18話

 一期のこの台詞から『EXODUS』で真矢は神話における父親殺しという役割を与えられ、父ミツヒロが脱島=島の秘密の漏洩という罪を償うという役割を負わされた。『EXODUS』24話で真矢はへスターに交戦規定αを撤回という交渉のテーブルにつくために自らの命を差し出した。

真矢「こうでもしなきゃ話し合えないのが人間でしょ。
   命令を取り消すか。
   あたしもあなたもみんな消えるか。
   選んで」
『EXODUS』23話

 祝福=罪を償うという意味であれば、真矢の命を賭けたへスターとの交渉はある祝福だと言える。マークレゾンがアザゼル型クローラーを退けたため、へスターは交戦規定αを撤回。真矢はヘスターを祝福したが、ヘスターも真矢を祝福した。ヘスターの祝福とは『EXODUS』25話で描かれた新国連によるベイグラントへの攻撃である。

 


※1 『EXODUS』26話の織姫の台詞「憎しみの理由さえ忘れた絶望のコア」

※2 『EXODUS』23話、コアの少年とミツヒロとの会話。

 ミツヒロ「なぜ憎いんだ」
グレゴリ型「理由は必要ない。純粋に憎んで」
 ミツヒロ「純粋に憎む。
グレゴリ型「理由がなければ許す可能性もない。
      理由のない憎しみが最も強い力なんだ」

※3 ニール・ゲイマン『デス:ハイ・コスト・オブ・リビング』(インターブックス)

※4 一期DVD8巻リーフレット及びBD-BOXブックレット掲載の「ファフ辞苑8」より引用。

※5 『EXODUS』26話の織姫の台詞「憎しみの理由さえ忘れた絶望のコア」

※6 共苦とは「相手の苦しみを感じ、同情する」という意味。ワーグナーの楽劇『パルジファル』で鍵となる言葉の一つ「共苦による知を得る」から引用。この言葉は『パルジファル』に影響を与えたショーペンハウアー『意思と表象としての世界』の「第四巻 意思としての世界第二考察」を読むとよく理解できる。

※7 『EXODUS』6話の織姫の台詞「二つで一つの力だから」

 


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