【蒼穹のファフナー EXODUS】戦い?それとも平和?

 別名、ドラマCD「THE FOLLOWER2」感想 Part4。

 ドラマCD『THE FOLLOWER2』で一騎の人としての命が終わろうとした時、ミョルニアから戦い続けるのか、それとも戦う力を捨てるのかという二つの選択肢が与えられた。しかし、ミョルニアが一騎に提示した二つの選択肢には、その言葉以外の意味が含まれていた。一騎は生と死の境でなにを選んだのだろうか。

 

・二者択一の問い

 一期19話、真矢の戦闘シュミレーション後、総士は島のコアである乙姫からこう問われた。

乙姫「一騎と真矢、両方危険になったらどちらを優先する」
一期19話

 乙姫のこの問いに対して、総士は即答することはできなかった。しばらく考えた後、総士はこう答えた。

総士「全員だ」
乙姫「えっ」
総士「さっきの質問の答えだ。
    どんな危機においても、ジークフリード・システム内の全パイロットを僕が守る」
一期19話

 しかし、最終的に総士が出した結論は全員を守るだった。総士に対する問いは誰を守るのかというもので、複数選ぶことが可能だった。

 

 『EXODUS』で一騎はアビエイターとの戦闘後、昏睡状態に陥り、気がついた時にはキール・ブロックの島の存在と無の地平線にいた。そこでミョルニアと会った。

   一騎「俺はいなくなるのか」
ミョルニア「お前が今どこに向かうかによる」
   一騎「この道の先に何があるんだ」
ミョルニア「進めばお前は目覚めるだろう。
      その場合、お前の精神と肉体は近いうちに無へ還ることになる」
   一騎「総士みたいにフェストゥムの世界に行くのか」
ミョルニア「そうだ。再び存在の調和を得るかは、未知数だ」
   一騎「この道を戻ったらどうなるんだ」
ミョルニア「眠りながら命を終えるだろう。
      お前の存在の記憶は我々とともに残る
      かつてこの島に生きた者たちのように」
ドラマCD『THE FOLLOWER2』

 この時、一騎の人としての命は尽きてしまったので、もはやどちらの道を選んでも最終的に同化され、いなくなることは避けられない状況にあった。それでも一騎には戦い続けるのか、それとも戦いをやめるのかという選択の余地があった。しかし、一騎がミョルニアと話している間に状況が変化し、自分と総士、真矢、カノンの選択により、一騎は島の調和を得た。その時、一騎の前に現れたのは最初にミョルニアと会った時と同じく、二者択一の道だった。

ミョルニア「ここを進めば我々とお前の調和の可能性が開かれるだろう」
   一騎「もし、戻ったら」
ミョルニア「また別の調和により戦う力を捨て、
      島の大気となって多くの記憶を司るだろう」
ドラマCD『THE FOLLOWER2』

 

 島の調和を得る前、一騎が戦いを続けることを選んだ時に最終的に行き着く先はかつて総士がたどったのと同じ道だった。島の調和を得た後、一騎が戦いを続けることを選んだ場合もまた総士がたどった道と同じだった。一方、それとは逆の道を選ぶ=戦いをやめることを選ぶということを意味し、つまり真矢の「あたしが戦うから一騎くんは島にいてほしい」という望みをかなえる道だった。つまり『EXODUS』でミョルニアから一騎への問いは、一期の総士と同じく「総士と真矢、どちらを選ぶ」というものだった。一騎は島のミールから生きるか死ぬかを問われたため、総士とは異なり、両方選ぶことは不可能だった。

 

・届かぬ思い

一騎「遠見は俺のこと覚えていてくれる?」
真矢「えっ、なにそれ。
   それって一騎君も翔子みたいに」
一騎「いや、俺は大丈夫だよ、でも…」
真矢「でも…」
一騎「このまま戦うことに慣れていくのが怖いんだ。
   自分はなにか別のものに変わっちまうような気がして」
  (中略)
真矢「たとえどんなに変わっても、一騎君のこと覚えてるよ」
一期10話

 一騎は真矢にこう言い残して、竜宮島から出て行った。一騎は総士の考えていることを理解しないと戦い続けることはできないと判断し、総士が見たものと同じものを見て総士の考えを理解しようとした。一騎は戦いから逃げたのではなく、総士と戦い続けることを選んだと言うことであり、一騎にとって総士は戦いの象徴ということになる。

 一期ではパイロット候補生の中で、弓子のデータ改竄によりハンデがあることになっていた真矢だけがファフナーに乗れなかった。しかし、『EXODUS』では一騎と真矢の立場が逆転し、同化現象が進みすぎて、余命宣告をされている一騎はアルヴィスからファフナーに乗ることを禁じられた。とはいっても、一期の真矢の時とは異なり、一騎はマークザインという強大な力を持つ専用機を持っているので、島が危機に見舞われれば、戦いに駆り出されてしまうだろう。そのため、真矢は一騎をファフナーから遠ざけるため、自らが積極的に戦うことを選んだ。

 総士「君が一騎の分まで戦う必要はないんだ」
『EXODUS』2話

カノン「剛瑠島で働くのもファフナーに乗ったのも、一騎の居場所を守るためか」
 真矢「どうだろう。
    気づいたらそうしてた」
『EXODUS』3話

 真矢「一騎君はお留守番。
    真壁のおじさんにも溝口さんにも言われたでしょう」
『EXODUS』5話

 真矢の本心は総士とカノンには見抜かれていたが、一騎には直接、戦う必要はないと言った。この時の真矢は一期24話の一騎と同じ状態に置かれ、同じ行動を取った。

真矢「北極に敵がいるって本当かなあ」
一騎「行って、確かめてくる」
真矢「このまま島にいることだってできるんだよ」
一騎「遠見はそうしてくれないか」
一期24話

 一期において一騎にとっては真矢が竜宮島=平和の象徴であった。しかし、『EXODUS』では一騎が真矢にとっての竜宮島=平和の象徴になることを望んでいた。

一騎「遠見は十分戦った。
   みんなと島に帰ってほしい。
   美羽ちゃんは俺たちが…」
『EXODUS』10話

 一騎にとって真矢はずっと平和の象徴であるため、立場が一度は入れ替わったにも関わらず、再びファフナーに乗った時、一騎は真矢に対して一期と同じことを言ってしまった。『EXODUS』においては一騎と真矢は互いに自分が戦う代わりに、相手には竜宮島にいること=平和の象徴=生き続けることを望んでいた。しかし、この会話はファフナーに乗ってシュリーナガルへ来た後のもので、真矢の望みは一騎がシュリーナガルへ来たことにより潰えてしまった。

 もっとも一騎自身、アルヴィスからファフナーへの搭乗が禁止された時でさえ、戦う力のある自分が守られる側になることを望まなかった。

一騎「俺はまだ完全に乗れない訳じゃない。
   俺が必要なら、使ってくれて構わない」
『EXODUS』4話

 一騎の考えはザインに乗った結果、同化現象が進み、自らの命が尽きようとした時、ミョルニアから戦いを捨てる道を示された時も変わらなかった。

一騎「そういうふうに眠れたらいいなって思ってた。
   戦いを忘れて、おだやかな気持ちでいなくなれればいいって。
   でも…まだ命に使いみちがあるなら、確かめにいくよ」
ドラマCD『THE FOLLOWER2』

 2015年5月のイベント「痛み」で冲方丁が竜宮島からシュリーナガルに行く時に一騎の見た夢の内容について話していたが(※1)、一騎は基本的に争いを好まない、穏やかな人なのだと思う。しかし、一騎が置かれている世界状況とその戦闘能力(強大な力を持つマークザインのパイロットであることも含む)から、一騎自身が望む、穏やかな人生を送ることは許されなかった。たとえ一騎自身の意志だとしても、自らの本質とは全く異なる、今置かれている状況から望まれる生き方を選ばざるを得なかった、それも永遠に。これこそ一騎の悲劇である。

 

・一騎が選んだもの

 島のミールとの調和のあるなしに関わらず、一騎に与えられた選択肢は以下のような構図になっていた。

   戦い続ける 存在し続ける フェストゥム 総士
戦いの力を捨てる いなくなる    人 真矢

 一騎が島のミールとの調和のあるなしに関係なく、一騎が戦いの力を捨てるという選択をした場合、その存在は竜宮島のいなくなった住民と同じく、島の記憶として残る。つまり人として人生を終えることを意味していた。上記の構図から人としていなくなること=戦いの力を捨てることであり、それは皮肉なことに真矢の望みそのものだった。

 真矢に一騎のファフナー搭乗を阻止する力はなく、島のコアの命令で一騎がファフナーに乗り続けた結果、島外派遣組と竜宮島が合流するときの戦闘で一騎の人としての命は終わってしまった。その後、島の存在と無の境界線でミョルニアから真矢の望みでもある「戦いの力を捨てる」という道が提示された。もし一騎がその道を選んだ場合、一騎はおそらく生きて真矢に会うことはできなかったのだと思う。

 ミョルニアから一騎に出された問いの本当の意味は「総士と真矢、どちらを選ぶ?」だったが、そこにはいくつもの問いが隠されていた。「戦い続ける」と「戦いの力を捨てる」、「存在し続ける」と「いなくなる」、そして「フェストゥムになるか」と「人としてとどまる」だった。いずれも両方選ぶというのは不可能な問いであり、一騎はどちらか片方を選ばざるを得ないという厳しい問いを突きつけられた。一騎は最終的に戦い続けることを選んだが、「総士と真矢、どちらを選ぶ?」という問いに対して、総士を選んだということもであった。それは同時にフェストゥムになることであり、その結果、一騎自身、永遠に存在し続けるということを選んだということを意味していた。

 

・”あなた”から”みんな”へ

 『EXODUS』で総士は島のコアである織姫から再び問われた。

織姫「真矢と世界、どちらを助けるの」
総士「両方だ」
『EXODUS』22話

 一期では島のコアからの問いに時間を置いて答えたが、『EXODUS』では即答した。また、一期では「一騎と真矢」だったのが『EXODUS』では「真矢と世界」になっていて、蒼穹のファフナー EXODUS 第26話-19-1「”あなた”から”みんな”へ」で書いたように、ここでもその対象が二人称から第四人称へと拡大されている。

 

※1 このイベントの様子は『EXODUS』BD/DVD 6巻の特典映像として収録されている。

 

P.S. 「真矢の望み」を書いている時に思い出したのが、ノベライズで総士が蔵前に一騎と格納庫に行くように指示した時、真矢が「……兎」とつぶやく場面だった。(電撃文庫:126ページと274ページ、ハヤカワ文庫:130ページと275ページ)やっとこの場面の真矢の気持ちが理解できたのだと思う。

P.S.2 実は最初に考えたタイトルはすでに使用済みだった。次に浮かんだのは「戦争と平和」。しかし、トルストイの小説を思い出してしまったので速攻ボツ。この後はこれというタイトルがなかなか浮かばず、タイトルを決めるのに難航しました。

 


関連記事
 ・【蒼穹のファフナー EXODUS】戦い?それとも平和?ー補足1
 ・【蒼穹のファフナー EXODUS】戦い?それとも平和?ー補足2