蒼穹のファフナー EXODUS 第26話-19-1「”あなた”から”みんな”へ Part1」

翔子は島(というより一騎)を守るために第6話で死んでしまったわけで、そのことを真矢がどう理解して、対処していくかも大きなテーマになっていきます。(※1

 翔子は一期6話でいなくなり、その意志を継ぐのは真矢の役割だった。しかし、真矢がファフナーに乗ったのが一期19話と遅く、物語が終盤に向けて収束していく時期でもあった。

真矢のエピソードで実現したいものもあったんですが、あきらめました。(注)それをやるとあと10話くらい必要になりそうで(笑)。
注:ふだんは明るくて、仲間を大切にする真矢。そんな真矢のいつもとは違う一面を描いてみたかったという冲方丁。何やらそれには“変性意識”がかかわってくるという。(※2

 冲方丁は一期終盤のインタビューで真矢で描けなかった内容があると発言している。一期の時に考えていたものと『EXODUS』で描いたものが同じだという保証はないが、冲方丁は機会があれば真矢についてもう少し描きたいと考えていたのだと思う。

 

 群像劇は第三者という存在を自分の人生の一部とする方法を教える。SFはわたしという一人称の世界、あなたがいる二人称の世界、社会を構成する三人称の世界の先に、人類という第四人称が存在することを教えてくれる。 冲方丁『蒼穹のファフナー ADOLESCENCE』あとがき

 『EXODUS』では13歳、14歳だった一期のメンバーが18歳、19歳になるのに伴い、自らの考えの及ぶ対象が二人称から三人称へと広がっていく様子が描かれている。

 ・一騎はマークザインで同化の肩代わりする対象は一緒に戦う島のパイロットから人類軍のファフナー・パイロットへと広がった。

 ・広登は島の大人たちが子どもに教えた島の平和を世界に広めたいと思っていたので、島外派遣に参加した。

 一騎や広登のような個人だけでなく、いなくなった人の考えを引き継いだ人もまた『EXODUS』でその考えを二人称から三人称、さらに第四人称へと広げていった。

 

・翔子と真矢

 一期の物語開始前に一騎と総士の間には一騎が総士を傷つけるという事件があったが、実は真矢と翔子の間にも同じような事件があった。しかし、アニメでは一切触れられておらず、ドラマCD『STAND BY ME』とシリウス版コミックス「蒼穹のファフナー」3巻に描かれている。

真矢「ねえあたし、ずっと昔に翔子に、すごく悪いことをしたんだ。
   あたしね、小さいころ、翔子を連れ出して山に行ったの。
   だって翔子、ずっと部屋にいて、外に出たいって言っていたから。
   最初は元気だったのに、翔子、山で急に真っ青になって。
   体がどんどん冷たくなって、動けなくなって、
   大人の人もいなくて、二人っきり。
   あたし、もう少しで翔子を…
   あたし、自分が悪かったって気持ちを翔子に押し付けているだけなのかな」
ドラマCD『STAND BY ME』

 一騎と総士とは異なり真矢の場合は未遂で済んだものの、一騎が総士に対して罪悪感を抱いていたように、真矢も翔子に対して罪悪感を抱いていた。

 一期の物語開始時の一騎と総士、真矢と翔子の関係を表にまとめると、以下のようになる。

一騎と総士 総士に傷を負わせた 疎遠
真矢と翔子 運良く助かった 親密

 2組の関係は完全に対になっている。

 

翔子「一騎くん、あなたの島、私が守るから」
一期6話

 最初に一騎の居場所を守りたいという気持ちを持っていたのは翔子だった。

真矢「あたしも戦うよ、翔子」
一期19話

 真矢が翔子の墓前でこう言っていることからも明らかなように、真矢はいなくなった翔子の意思を引き継ぐ存在だった。冲方丁も一期の時、真矢について次のようなコメントを残している。

翔子の死にはいろんな意味があって、いちばんその意味を汲み取るのが真矢ですね。(※3

 冲方丁は「いろんな意味」と言っているが、一期で真矢を通して描かれたのは「翔子の死の意味」のみだった。しかし『EXODUS』において、真矢が翔子からあるものを引き継いでいたことが明かされる。

カノン「丈瑠島で働くのもファフナーに乗ったのも、
    一騎の居場所を守るためか」
 真矢「どうだろう。気づいたらそうしてた」
『EXODUS』3話

 「一騎の居場所を守りたい」これこそ真矢が翔子から引き継いだものだった。しかし、真矢はファフナーに乗って戦っても一騎の居場所を守ることができず、一騎はマークザインに乗って戦うことを選び、真矢のいるシュリーナガルへやってきた。

総士「一騎とは話したのか」
真矢「行きたがってるからダメって言っちゃった」
総士「君に言われれば諦める」
『EXODUS』5話

 真矢は自分の言葉が一騎には届かないことがわかっていた。

真矢「なんで、一騎君を止めなかったの」
一騎「一騎を乗せたことで、言い訳はしない」
真矢「ごめん、どうしようもなかったよね」
『EXODUS』10話

 それ故、一騎と共にシュリーナガルへ来た総士に本音をぶつけてしまう。

 

 しかし、真矢は人類軍に追われながらシュリーナガルの住民と竜宮島へ向かう旅の途中で、守るべき対象が次第に変わっていった。

真矢「家族も仲間もいたから。
   あなたたちだけだったら、撃てなかったかも」
『EXODUS』18話

 人類軍の爆撃機を攻撃した時は「家族も仲間もいた」とエクスキューズしていた。真矢は人類軍の爆撃機を攻撃した時は「家族も仲間もいた」とエクスキューズしていた。シュリーナガルから移動してきた住民と竜宮島と合流する時、人類軍、フェストゥムに攻撃された。真矢はアルゴス小隊に捕らえられ、新国連の捕虜となり、そこでヘスターの考えを見せつけられた。それはバーンズが指摘しているように、新国連内部からも批判者が出る考え方だった。

バーンズ「選ばれた5万人を生かすため、
     残り20億人の人類を敵と共倒れさせる」
『EXODUS』23話

 それは到底、真矢には受け入れられるものではなかった。その結果、真矢の身近な人を守りたいという気持ちは一騎同様、人類全体へと拡大される。

真矢「あなたが…この先もたくさんの人を犠牲にするなら…
   人が人の敵になるなら…私が、止めます」
『EXODUS』23話

 

 『EXODUS』23話での真矢とアルゴス小隊との戦闘は一期6話の翔子と同じ状況(ファフナー本体に内蔵された武器以外使用不能)に置かれているが、パイロットの立ち位置と結果はすべて反転している。以下の表は蒼穹のファフナー EXODUS 第23話「理由なき力」から引用。

  一期 EXODUS
パイロットの熟練度 初戦 歴戦
戦闘対象 フェストゥム
マインブレードでの攻撃 無効 有効(ダスティン死亡)
自爆対象 フェストゥム 人類軍の潜水艦
フェンリル 実行 中断

 一期6話の翔子の戦闘と『EXODUS』23話の真矢の戦闘が反転していることからもわかるように、真矢は翔子の意思を引き継ぎ、二人称(一騎)から第四人称(人類)へと拡大させた。

 

 悲しいかな、真矢は翔子から引き継いだ「あなたの居場所を守りたい」という気持ちでは、一騎と共に生きるという道を選べないということも証明してしまった。

 

・翔子と甲洋

翔子「私はあなたの帰ってくる場所を守っています」
一期5話

甲洋「守るよ、みんなの帰る場所を」
『EXODUS』20話

 翔子の「あなた(一騎)の帰る場所を守る」という気持ちを真矢とは別の形で引き継いだキャラクターがいる。甲洋だ。

 

 甲洋と翔子の間にある感情は一騎を交えて「甲洋→翔子→一騎」という形になっていた。しかし、一騎が翔子を守ることができなかったことから、仲のよかった一騎と甲洋の間には確執が生まれてしまった。

甲洋「お前らがやれなかったことを俺がやる」 一期8話

 甲洋は一騎に対してライバル意識を持つようになり、アーカディアン・プロジェクトで建造された別の島を探索した際、島の奥深くに取り残された真矢と溝口さんの救出作戦に自ら志願する。

甲洋「確かに助けたぞ、一騎」 一期9話

 甲洋は言葉通り真矢と溝口さんの乗る救命艇を救出して一騎に手渡したが、甲洋自身はフェストゥムに中枢神経のみ同化され、スレイブ型のフェストゥムとなった。その後、コアの姿となり『HEAVEN AND EARTH』では島を救ったが、ニヒトにマークフィアを破壊された時にどこかへ消えてしまった。『EXODUS』でカノンが自らの命と引き換えに未来を導いた結果、甲洋は人の形を取り戻すことができた。その時、甲洋は自身が思いを寄せていた翔子の「あなたの場所を守る」という気持ちを引き継いだ。その際、その対象が「あなた」という二人称ではなく、島の「みんな」という三人称へと広がっていた。

 

 一期6話でいなくなった翔子の「好きな人の居場所を守りたい」という気持ちは、『EXODUS』において翔子の親友だった真矢と翔子に思いを寄せていた甲洋が引き継いだ。しかし、この気持ちが「あなた」から「みんな」へと拡大した時、ポジティブな部分とネガティブな部分が生まれてしまう。『EXODUS』では甲洋通してポジティブな面を描き、真矢を通してネガティブな面を描いた。そのネガティブな面を突き詰めた所にいるのが、皮肉なことにヘスターやミツヒロ・バートランドだった。竜宮島とは思想的に対立する新国連上層部の考えは決して理解しがたいものではなく、島の子どもである翔子が持っていた感情のネガティブな面だったということを『EXODUS』で証明した。

 

※1 『月刊ニュータイプ』2004年10月号より引用。

※2 『Charada ! (きゃらだ) 』Vol.1(2006年、宙出版)より引用。

※3 『Charada ! (きゃらだ) 』Vol.1(2006年、宙出版)より引用。

 


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