蒼穹のファフナー EXODUS 第26話-23「和解を目指して Part3-不完全な物語」

 公開が大変遅くなりましたが、蒼穹のファフナー EXODUS 第26話-21「和解を目指して Part1-新国連」蒼穹のファフナー EXODUS 第26話-22「和解を目指して Part1-ニヒト」の続きになります。

 一期~『HEAVEN AND EARTH』が竜宮島が横槍を入れる人類軍を横目にフェストゥムとの間で停戦と共存する道を探す物語であり、『EXODUS』ではこれまで竜宮島とフェストゥムの戦いに横槍を入れてきた新国連及び人類軍との間で停戦と共存する道を探す物語だった。竜宮島がフェストゥムと新国連及び人類軍の間で共存のために行った交渉の過程は大差ないのだが、この二者との間でたどり着いた最終到達地点が違うものになったため、物語が終わった時の印象は全く異なるものになった。

 

・憎しみの連鎖

バーンズ「シンクロニシティだ。
     人類が力を手にすればフェストゥムがそれを読み取り、我がものとする」
  史彦「敵の強大化は事実だが島がすべての原因ではなかろう」
バーンズ「竜宮島を通して敵が人類の力を読んでいるのだ」
一期17話

 新国連は自分たちよりもフェストゥムに対して有効性の高い兵器を持つ竜宮島の存在を危険視していた。しかし、日野洋治が人類軍内部にミョルニアを引き入れたことにより、人類を敵と見なすフェストゥム、イドゥンも紛れ込んでいた。その結果、人類軍から直接フェストゥムに渡った情報も多いはずである。アーカディアン・プロジェクトで作られた島(一期7話~9話)、モルドヴァ基地(一期13話~15話)を通してイドゥンが人類軍側の情報を奪う様子が描かれた。最終的にマークニヒト(一期23話)を奪われ、マークニヒトは人が作ったファフナーでありながらフェストゥム側の戦力になってしまった。

 実際、『HEAVEN AND EARTH』以降のフェストゥムの行動を見ると、竜宮島ではなく人類軍から学んだものからの影響が大きいように思える。フェストゥムに対して最初に憎しみという感情を教えたのはイドゥンに意思を奪われ、自らの手でミツヒロを殺してしまった狩谷由紀恵だった。北極の決戦の後、人類軍は地球上からフェストゥムを抹殺するために攻撃を続けたが、それはフェストゥム側に多大な苦しみを与え、人類への憎しみを増やしただけだった。

総士「希望は蹂躙された。
   彼らは苦しみと憎悪に満ちている」
『HEAVEN AND EARTH』

史彦「あのデータは皆城総士によるものだと。
   なぜ彼が島に来ない」
 操「大きな炎のせい。
   君たち、人類がやったんだ。
   俺の仲間もそれで苦しんでる」
史彦「人類軍の、核攻撃か」
『HEAVEN AND EARTH』

 人を攻撃するには人類軍の兵器を使った方が効果的ということをフェストゥムが学んだ結果、人の兵器を模倣した攻撃を行うことのできるエウロス型が生まれた。ボレアリオス・ミールは竜宮島のミールを同化して一つになり、竜宮島の住人とともに他のフェストゥムや人類を戦うことを望んだ。ボレアリオス・ミールが交渉役として竜宮島に送った来主操はフェストゥムでありながら「空がきれいだ」という感情を抱き、人類軍の核攻撃から皆城総士の存在を守った。来主操は一騎と話し合い、最終的に「戦いたくない」という自分の持つ感情をボレアリオス・ミールに伝えた。そして、ボレアリオス・ミールは生まれ変わることを選んだ結果、人と同じようにこの地球を故郷として生きていく存在となった。

 

第一次蒼穹作戦で砕かれた北極ミールは、
その欠片を世界中にまき散らした。
それらはやがて、独立したミールとして、個別の活動を始めた。
大半のミールは人類への憎しみを抱き、戦いを挑んできたが、
一部のフェストゥムは人類との共生を選択した。
『蒼穹のファフナー EXODUS』公式サイト~INTRODUCTION~(※1

 一期では人類軍内部にフェストゥムが入り込み、人類側の情報を奪われたが、『EXODUS』では逆に新国連が秘密裏にアザゼル型フェストゥムであるベイグラントを所有し、フェストゥムの力を使って竜宮島と地球上の全てのフェストゥムを滅ぼそうとした。ベイグラントのコアはかつて第三アルヴィスのコアだった存在である。

グレゴリ型「あいつらはたくさんの心を作っては消した。
      僕がいた島の人たちもみんな殺した。
      でもそのたびに力が育った。
      そして、君という器が生まれた。
      僕たち…みんなを…憎しみの器が」
『EXODUS』22話

 ベイグラントのコアが“憎しみ”という感情を持つようになったのは、新国連が同じ人間に対して行った行為だった。新国連は一部の人間を生かすためには、その他大勢を犠牲にしてもいいという考えの元に行動していた。

バーンズ「本当の目的はフェストゥム因子の消滅と
     因子に感染しない特異体質者の選別だ」
  溝口「そんな人間がいるのか」
バーンズ「5万人ほどな。
     第4プラン、赤い靴作戦。
     選ばれた5万人を生かすため、残り20億人の人類を敵と共倒れさせる」
『EXODUS』23話

 新国連上層部のこの考え方が互いに滅ぼしあうアザゼル型を生み出す下地となったのかもしれない。自ら動くことのできないボレアリオス・ミールは竜宮島との交渉とファフナーに乗って戦うための代理人として来主操というフェストゥムがいたが、ベイグラントのコアの少年の場合、代理人の役割を担ったのがパペットとして生み出されたミツヒロだった。ベイグラントのコアの少年はボレアリオス・ミールの失敗(来主操には「人と戦いたくない(※2)」という自分の意志があった)から学んだかのように、自らの代理人には個は不要だと考え、ミツヒロの記憶を消した。

 『HEAVEN AND EARTH』と『EXODUS』の最後はともに、ミールのコアとその代理人が竜宮島と戦うという構図になっているが、その結末は異なるものになっている。『HEAVEN AND EARTH』では来主操がいなくなったことがはっきりと描かれ、ボレアリオス・ミールの選択も作品内で提示された。

弓子「新しい敵が、生まれたんでしょうか」
史彦「それは選択肢の一つに過ぎない。
   確かなのは今この星が彼らの故郷になったということだ」
『HEAVEN AND EARTH』

 来主操がいなくなったこの場面では史彦がボレアリオス・ミールの代弁者となっている。史彦の「痛みが消えていく」という言葉は、人類軍がフェストゥムに与えた痛みが癒やされたことも意味しているのだろう。つまり、ボレアリオス・ミールは来主操を通して竜宮島の住人と対話した結果、フェストゥムに痛みや死の恐怖を教えた竜宮島(※3)を許したということなのだろう。

 一方、『EXODUS』において総士がベイグラントのコアは破壊したものの、コアの少年が最終的にどうなったのは明確に描かれなかった。ここで残る疑問はただ一つ、コアの少年が抱き続けていた人類に対する憎しみは消え去ったのだろうか? 一方、ミツヒロはベイグラントのコアが破壊されたことにより、コアの少年の支配下から逃れ、一騎の言葉で記憶を取り戻したものの、そのことが何の意味を持つのかという部分は描かれていない。やはり結論を提示しない物語は終わっていないも同然である。

 

・竜宮島、フェストゥム、そして人類-未来を求めて

道生「ただ敵がそこにいるから戦う。
   それじゃあ、フェストゥムと何も違わない」

真矢「お父さんはフェストゥムとどう違うの」
一期18話

溝口「お前らとフェストゥム、どこが違う。
   答えてみろ!」
『EXODUS』21話

 日野道生、真矢、溝口の三人が新国連及び人類軍について評した言葉を並べてみた。こうしてみると、竜宮島の住人にとって新国連及び人類軍に属する人間は個を持たないフェストゥムと同じような存在だと見なしていることがわかる。竜宮島と新国連及び人類軍の関係はフェストゥムの時と同じような経過をたどって、和解と共生を目指すことになる。

 

 竜宮島を含む人類とフェストゥムとの北極の決戦では、最終的にマークザインが北極ミールを攻撃して、砕け散った。(北極)ミールは己の死を以って、個体であることを与えたため(※4)、北極ミールの欠片から生まれたフェストゥムは多様な考え方を持つようになっていた。そして、ボレアリオス・ミールは交渉人として来主操を竜宮島に送り込んだ。

 一方、人類軍は一期から『HEAVEN AND EARTH』にかけて、二度にわたって竜宮島に攻撃を仕掛けたものの、決定的なダメージを与えることはできなかった。竜宮島を訪れたナレイン将軍は広登の取材に対して「今の世にジャーナリズムが生きているとは」(※5)という言葉からわかるように、人類軍が支配する世界は言論統制下に置かれていると思われる。新国連の支配下にある世界ではフェストゥムと同じように個が失われた状態になっていたが、ミールと話すことのできるエスペラントが生まれ、ウォルターのようにフェストゥムに攻撃されている人間をフェストゥムに同化された存在とみなして攻撃する「交戦規定アルファ」に疑問を感じる者も出てきた。そんな時、ナレイン将軍は地球へ向かっている新たなミール、アルタイルと対話するためには美羽の力が必要だと考えて竜宮島を訪れた。

 『HEAVEN AND EARTH』と『EXODUS』において、フェストゥムと人類軍はともに最初は一つの考えに統一された集団だったが、いつしか多様な考えを持つ小グループへと変化していった。やどちらの作品も最初に属していた集団とは違う考えを持つ小グループの一つが、竜宮島との接触を図るところから物語が始まっている。フェストゥムの場合は北極ミールという組織のトップが失われたことで、多様な考えを持つフェストゥムが生まれたが、人類軍は逆に組織のトップは健在にも関わらず、先の見えない戦いに疑問を持つ人類軍の内部から考えの異なる者が生まれた。

 フェストゥムの戦いでは組織のトップである北極ミールとの対決は『HEAVEN AND EARTH』の前、一期ラストに置かれたが、新国連のトップとの対決は『EXODUS』終盤に真矢対ヘスターという形で行われた。しかし、この二者の対決は一期の北極ミールの時とは異なり、竜宮島側の明確な勝利、すなわち真矢がヘスターを殺害するといった形にはならず、両者の引き分けで終わった。もっともその後、竜宮島とベイグラントとの戦いで、人類軍は衛星軌道上のベイグラントに攻撃をするという形で新国連が竜宮島に加勢したことを考えると(『EXODUS』25話)、この勝負はある意味、竜宮島が勝ったと言えるのかもしれない。もし一期の北極ミール同様、ヘスターが殺害された場合、北極ミールが砕け散った後のフェストゥムの世界以上に人類は混乱し、おそらく人類軍内で内戦が勃発すると思われる。(それこそベイグラントのコアの少年の思う壺だ)

 以上の内容を図式化してまとめると以下のようになる。

 フェストゥム
  北極ミールが砕ける → 考えが多様化 → 竜宮島を訪問 → 共存の可能性を示す

 新国連
  考えが多様化 → 竜宮島を訪問 → 真矢とヘスターが対決 → 共存の可能性を示す

 

 『HEAVEN AND EARTH』と『EXODUS』でボレアリオス・ミール(フェストゥム)とペルセウス中隊(人類軍)という属する組織から分裂した小グループが竜宮島に接触したが、最終的にどのような結末を迎えたのだろうか?

 竜宮島とボレアリオス・ミールの間では和解が成立し、人類とフェストゥムとの共存への道筋が見えたところで『HEAVEN AND EARTH』は終了。

 ペルセウス中隊のナレイン将軍が竜宮島に助力を求めたアルタイルは竜宮島が引き取り、時が来るまで島と一緒に海中で眠ることになった。竜宮島と人類軍の和解というテーマはウォルターと暉、里奈を通して描かれたが、ウォルターと暉の間では解決することができなかった。暉の残したメッセージを里奈が聞いたが、里奈の気持ちは言葉で表現されなかった。『EXODUS』は竜宮島の住人とシュリーナガルから避難民が海神島でともに暮らすというところで終わったが、これが竜宮島と人類軍の和解というテーマに対する最終的な答えだったのだろう。つまり『EXODUS』では竜宮島と人類軍との共存の道筋が見えたところまで描いたということになる。

 竜宮島と接触したことにより、フェストゥム、人類軍はともに共存への道筋が見えたところで物語は終わっているのだが、『HEAVEN AND EARTH』と『EXODUS』を見終わった時の印象は全く異なる。

一騎「選ぶんだ、何度でも。
   悲しいからって諦めないで、そこにいることを選び続けろ」
 操「やだ、消えないで、一騎!
   ミール、俺はもう、戦いたくない!」
『HEAVEN AND EARTH』

    暉「あなたをどう憎めばいいかわかりません。
      許すことだってできませんし」
ウォルター「そうか、そうだよね」
    暉「竜宮島に来ませんか。
      俺たちの故郷を見て下さい。
      空からじゃ、何を壊そうとしたかわからないでしょう」
ウォルター「美しい島だと聞いた。
      君がそうさせてくれるなら、この目で見たい。
      ありがとう」
『EXODUS』22話

 一騎の問いに対してはっきりとした答えを出した操に対して、ウォルターの謝罪の言葉に対して明確な言葉を返せなかった暉との違いが、それぞれの物語を見終わった時の印象に大きな影響を与えているのだと思う。

 一期から『HEAVEN AND EARTH』で描かれたフェストゥムとの戦いでは北極ミールは砕け散り、そこから生まれたボレアリオス・ミールは来主操の言葉を耳を傾けた結果、生まれ変わってこの地球で生きていくことを選んだ。そのため『HEAVEN AND EARTH』で一旦物語が終わったという印象を視聴者に与えた。一方、新国連との間では組織のトップであるヘスターとは引き分け、和解を求めて謝罪したウォルターに対して、暉はその謝罪を受け入れることなく、いなくなってしまった。そのため、視聴者に対して最終的な結論が出ないまま、物語は終わってしまったという印象を与えることになった。

 

 古来、物語というものは、デウス・エクス・マキナを登場させるという強引な手段を使ってでも結論を出して終わらせるものです。しかし、『EXODUS』で描いた竜宮島と新国連との関係という部分に関してはクリフハンガーにしてしまったという感が否めない。(※6)『EXODUS』から一歩先に進んだ時に提示されるであろう最終的な結論を見た時、シリーズ全体を見通した上での『EXODUS』の立ち位置やこの作品で描こうとしたものが見えてくるような気がします。そのため、『EXODUS』を単品で評価するのは難しい。

 

※1 蒼穹のファフナー EXODUS公式サイト内のINTRODUCTION(イントロダクション)から引用。

※2 『HEAVEN AND EARTH』で来主操は一騎に「君たちと戦いたくないからだよ」と言っている。

※3 『HEAVEN AND EARTH』での来主操の台詞、「俺たちに痛みや死の恐怖を与えたのはこの島だから」

※4 一期26話、総士の台詞。

※5 『EXODUS』5話、ナレイン将軍の台詞。

※6 「蒼穹のファフナー EXODUS」の個人的な感想に書いたが、『EXODUS』と見終わった時に感じた気持ちは、『スター・ウォーズ エピソード5/帝国の逆襲』と『バック・トゥ・ザ・フューチャー PART2』を見終わった時と全く同じものだった。

 

 P.S. ちょうどこの記事を書いている時に一期の後半を見ていたのですが、話にのめり込んでしまったため、一期の感想を優先して書くことすることにしました。申し訳ありません。

 XEBECzweiの通販で購入にこの時の購入手続きの流れと2017カレンダーの自動送信メールについて追記しました。システムにトラブルが発生する前に申し込んだので、注文後の自動送信メールはすぐに届きました。

 


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