「蒼穹のファフナー」見直し時のメモ Part4

 『蒼穹のファフナー』見直し時のメモ Part3の続きになります。Part4は『HEAVEN AND EARTH』と『RIGHT OF LEFT』を見直した時のメモ、そして一期を見終わった後のまとめです。

 1話を見たのが6月5日、最後の『RIGHT OF LEFT』を見たのが7月2日なので、見ながらメモを取ってまとめるのに1ヶ月かかったということになります。

 『EXODUS』を最終話まで見た後の感想なので、『HEAVEN AND EARTH』及び『EXODUS』のネタバレ内容を含みます。

 

劇場版『HEAVEN AND EARTH』

 一期に続けて『HEAVEN AND EARTH』も見直しました。

 来主操の乗った人類軍の船が島に到着した後、島にやってきたスフィンクス型はエウロス型が偽装したものなので強い。

 

 『HEAVEN AND EARTH』の物語の起点はあえて一期と同じ構造にしていると思われる。その後も一期と同じ要素を使って物語を進めている。一期と『HEAVEN AND EARTH』比較して、一期と共通する要素を簡単に書き出してみた。

 ・スフィンクス型が島を攻撃し、一騎が出撃する →1話
 ・お盆祭り →20話
 ・島が動く →4話
 ・模擬戦闘 →7話
 ・操の目覚め →20話、甲洋の目覚め
 ・総士の部屋での一騎と操の会話 →17話、総士が一騎を自室へ招待する
 ・キールブロックでの一騎と操の対話 →22話、総士と乙姫の会話
 ・スカラベ型がザインに接触しニヒトを引っ張りだす
   →23話、スカラベ型がジークフリード・システムに接触する

 『EXODUS』は一部を除いて(お盆祭り、キールブロックでの対話)、『HEAVEN AND EARTH』では未使用の要素を使って構成されている。ちなみに『EXODUS』の1話は『HEAVEN AND EARTH』と同じ構造になっている。つまり、かつての敵(『HEAVEN AND EARTH』ではフェストゥム、『EXODUS』では人類軍)が和平を求めて島を訪れ、その直後、フェストゥムが島を攻撃する。島を攻撃するフェストゥムと島の防衛は一期1話の流れを踏襲している。

 

 『HEAVEN AND EARTH』で真矢と暉の水中戦は暉がフェストゥムに襲われ、真矢が救出しようとするが、甲洋が手を貸して、暉は無事救出された。一方『EXODUS』では真矢が人類軍に捕らわれそうになり、暉が救出しようとし、ウォルターが手を貸す。が、最終的に真矢は人類軍に捕らえられる。甲洋はニヒトの攻撃で機体は消滅したが、コアは逃げることができた。しかし、ウォルターはフェリルを使って機体とともにいなくなった。この場面は『HEAVEN AND EARTH』と『EXODUS』で反転されている。

 

美羽「赤ちゃんを抱っこしたお姉ちゃんがいるの。
   どんなふうに苦しくて嬉しかったかって」

史彦「皆城乙姫と島のミールの経験を
   彼女がミールに伝えるということだ」

 美羽がボレアリオス・ミールに乙姫の経験を伝えたからこそ、最終的にボレアリオス・ミールは来主操の意見を受け入れて生まれ変わることを選択したのだろう。

 

 竜宮島とフェストゥムをまとめて滅ぼそうとした人類軍の爆撃機の存在に最初に気がついたのは美羽だった。『EXODUS』で美羽とエメリーはフェストゥムだけではなく、人の持つ悪意に気がつく場面があり個人的には戸惑ったが、美羽が人の悪意も感じることができるのは『HEAVEN AND EARTH』ですでに描かれていたということ。

 

 一騎はファフナーに乗ることを制限されていたため、『HEAVEN AND EARTH』の時ですら「戦う」という部分においては切り札的な役目を与えられていた。この時、一騎は敵である来主操と「対話」という役割を与えられていたので、かろうじて主人公的な位置に留まっていたと思う。しかし、『EXODUS』における一騎の役割はいなくなる総士の後継者になることだった。その上、『HEAVEN AND EARTH』での一騎の役割だった敵と「対話」するという役割は真矢と暉に振られたので、一騎が割りを食ったのは否めない。

 

『RIGHT OF LEFT』

 「見終わった後の感想」のラストのパラグラフを書いた後、『RIGHT OF LEFT』が気になってしまい、結局見直すことにしました。そういえば、このブログに『RIGHT OF LEFT』についてまとまった文章を書くのはこれが初めてだと思います。『MEMORIAL BOOK』の羽原監督のインタビューによると犬作監を置いたそうです。この作品の台詞はすべて『蒼穹のファフナー ADOLESCENCE』(ハヤカワ文庫JA)収録の脚本から引用しました。

 

 物語はファフナーが開発される前、戦闘機でフェストゥムと戦っていた時の様子が描かれているが、戦闘機によるフェストゥムとの戦いで物語が始まるという構成は『HEAVEN AND EARTH』に引き継がれている。『RIGHT OF LEFT』で人類軍はフェストゥムに押され気味だが、『HEAVEN AND EARTH』では対称的に人類軍は核攻撃によりフェストゥムを圧倒している様子が描かれている。

 

 この場面を見た時、『HEAVEN AND EARTH』にも同じようなレイアウトのシーンがあることを思い出した。

 『HEAVEN AND EARTH』の鈴木監督は絵コンテも担当。『蒼穹のファフナー Blu-ray Box』の対談によると『RIGHT OF LEFT』のAパートとCパートの絵コンテを担当したのが鈴木監督ということなので、意図的に同じようなレイアウトになっているのだと思います。

 

 僚「一騎は、みんなと一緒に帰らないのか」
一騎「はあ……」
 僚「剣司みたいなヤツが突っかかって来てくれるのを待ってばかりじゃ駄目だぜ。
   自分から、誰かと仲良くならないとな」
一騎「……(無言)」
 僚「助けてもらっといて、こんなこと言うのもなんだけど」
一騎「……そうですね」
 僚「あ、やっぱり」

 ファフナーに乗る前の一騎の状況をわかりやすく説明した部分。一騎は総士を傷つけた後、おそらくまわりの人間と距離を置くようになった。そんな中、一騎に積極的に声を掛けるのは、勝負を挑む剣司のみ。一騎はファフナーに乗ることで総士を傷つけたという自分の罪と向き合うと決めた時、これまでは一歩引いていた同級生に興味を持ち、関わりを持つようになっていく、というのを描きたかったのだと思う。一期1話の同級生の台詞で一騎の立ち位置がうまく説明できていないが、映像だけでまわりから一歩引いた存在というのを描くのは難しい。

 

祐未「具合、どう?」
 僚「別に……ちょっと不便なだけさ」
祐未「そういう人の苦しみ……少しは、理解できると思う。
   私も、父さんとずっと暮らしてて……。
   面倒見るのも、慣れてるし……」
 僚「体も温まったし、泳ぐか」
祐未「大丈夫なの?」
 僚「大丈夫、大丈夫」
祐未「でも……」
 僚「俺は、誰かに面倒見て欲しいなんて、思ったことないよ」
祐未「ごめん。気に障ったなら……謝る」

 僚と祐未の関係は作中では深く描かれることになかった翔子と真矢の別バージョン。僚ははっきりと自分の意見を祐未に言ったが、翔子は荒波を立てたくないのか、真矢に対して毅然と自分の意見を言わなかった上に、真矢も聞く耳持たず。ドラマCDには僚と祐未と同じく、翔子と真矢の考えがズレていることが描かれている場面がある。

真矢「翔子、休まなくて平気?
   少し座ろうか」
翔子「ううん、大丈夫。
   今日は調子がいいの」
真矢「無理そうだったらすぐに言って。
   あたしから皆城君に言うから」
翔子「うん、でも大丈夫」
真矢「本当」
ドラマCD『STAND BY ME』

 この後、咲良が翔子の言葉に聞く耳を持たない真矢をたしなめた。

 

翔子「将陵先輩は、すごいです。
   ちゃんと学校に行けて……生徒会長までやって……」
 僚「違うよ。俺が休んでいる間に、みんなが勝手に決めたの」
翔子「勝手に……決めた?」
 僚「そ。学校に行ったら、いきなり肩書があってさ。びっくりしたよ」
翔子「そんなの……嫌じゃ、なかったんですか?
   押し付けられたみたい……」
 僚「みんなが、忘れずにいてくれて、嬉しかったですよ。
   俺に居場所を作ってくれた奴らに、お返しがしたい……。
   ずっとそう思ってた……」
翔子「良いな……私が、学校に行っても、居場所なんかないかも」

 この時の僚との会話がファフナーに乗ると決めた後の翔子の行動に大きな影響を与えたような気がする。

 

見終わった後の感想

 一期終盤を見ていた時に書いていた文章のうち、これは最後に置くべきだろうと思った文章をまとめました。『HEAVEN AND EARTH』と『RIGHT OF LEFT』はこれを書いている時に見たくなったので、見直すことにしました。

 

 妹を守らなければならない総士と昔、人と戦った時の後遺症で島のバイオスフィア機能がなければ生きられない史彦を含む大人たち(※1)を見ていると、「島を守る」という責務を負わされた者は島から出られない理由を与えられ、島に縛りつけられれているという印象を受ける。『EXODUS』で総士は島から開放された結果、パイロットの立場で「島を守る」という責務を負ったのはジークフリード・システムを引き継いだ剣司。ただし、剣司は総士や史彦とは違い、島から出られない理由というのは持っていない。剣司の代わりに最終的に島から出なかったのは、剣司と結婚した咲良の母、要澄美だった。

 

 日野洋治がミョルニアをモルドバ基地に入れた結果、フェストゥムに情報を奪われ、新国連はモルドバ基地を放棄することになった。モルドバ基地にフェストゥムを招き入れたのが日野洋治であるということをヘスターとミツヒロが知らないことがせめてもの慰めか。日野洋治がモルドバ基地という対価を払ってミョルニアが対話し続けたこと結果、人類とフェストゥムの共存への道を切り開いたのも事実である。一方、人類と対話したミョルニアにもまた北極ミールからその存在が禁じられ、イドゥンにより同化されたが、北極ミール内に与えた影響があまりにも大きかったために再び存在を得た。ミョルニアの存在があったが故に北極ミールが破壊された後、来主操のようなフェストゥムが生まれたり、人と戦わないフェストゥムが現れたのだろう。新国連のモルドバ基地を代償にして、人類とフェストゥムの共存への第一歩を踏み出すことができたと言ってもいいだろう。もっともそれはヘスターの望む未来ではなかったが。

 

 人類軍は一期でのザインとニヒト、『EXODUS』でのレゾンという三機のザルヴァートル・モデルを起動させた基地をすべて放棄している。大きな力には代償が伴うという言葉を地で行っているが、ニヒトとレゾンはフェストゥム側の手に渡り、竜宮島にも多大な被害をもたらしている。

 

史彦「彼女が教えてくれたものは私にもまだ遠い。
   一騎にもそれを教えるべきかまだ分からない」
一期13話

 結局、史彦が一騎に母の考えを直接伝えることはなかった。史彦は『EXODUS』22話で「母親に似て、信じた道を最後まで進みたがる」と言っているので、史彦は一騎に母の考えを教えたら母と同じ道を歩んでしまうと思っていたのかもしれない。結局のところ、史彦は一騎に母の考えを教える勇気を持てなかったということだろう。しかし、一騎は人類軍の基地で「真壁紅音という人間の意志に従うのだ」(※2)という日野洋治が設計し、彼の考えが反映されているマークザインを受け取るという形で母の考えを受け継いでしまった。もっとも一騎はミョルニアからザインを受け取った後、そのコアを生まれ変わらせる時に望んだのは総士と話すこと(※3)だった。一騎は総士を理解したいと思い、総士と同じものを見れば理解できるのではないかと思って島の外に出たが、それはフェストゥムの気持ちを理解することを望み(※4)、同化される時にフェストゥムを祝福した母、紅音と同じ行動を取ったということになる。一騎は無意識のうちに母、紅音の意思を継いた形になっている。

 

 一期だけ見ると、一騎は同級生でも特に仲良かった総士と甲洋がフェストゥムの側へ行ったところで物語が終了。一騎は総士と甲洋とは異なり、かろうじて人として生き残るという形になった。一騎は最後まで人としての象徴であり、それ故、『EXODUS』では人としての命の終わりと向き合った。その上で人として人生を終えるのか、それとも総士や甲洋のように人としての心を持ったままフェストゥムの側へ行き、人とフェストゥムとの架け橋になるのかを問われたのだろう。一騎はアショーカからも永遠の命を提示されたが、それは島の祝福とは異なり、人にフェストゥムの持つ永遠(おそらくエメリーが総士に告げた永遠の存在(※5)と同じもの)をそのまま与えることだったのだと思う。

 

 一期だけ見ると一騎が主人公の物語になっていると思う。その後、前日譚である『RIGHT OF LEFT』を制作したことにより、視聴者が一期を総士の視点から見ることにできるようになった結果、総士と乙姫が一期の屋台骨であるという物語の構造が白日の下にさらされてしまった。その後に制作された『HEAVEN AND EARTH』と『EXODUS』は『RIGHT OF LEFT』の視点を踏まえたものになり、気が付くと物語の真の主人公は総士になっていた。最初に企画された物語より前史を書くことにした結果、主人公であるジークフリートの影が薄くなったワーグナーの楽劇『ニーベルングの指環』と同じ構図になっているのが面白い。(※6

 総士は『RIGHT OF LEFT』では先輩の戦いを見届け、次に自分が戦う側となり、最後は『RIGHT OF LEFT』での先輩と同じく、自分の持っている知識をすべて一騎に引き継いで去っていった。『RIGHT OF LEFT』から『EXODUS』までの『蒼穹のファフナー』という物語は結局のところ、総士の物語だったと思う。『EXODUS』で総士は島とのしがらみを外されたものの、総士が竜宮島そのものであることに変わりはなく、それ故、総士がいなくなるのと同時に竜宮島もまた海に沈んでいったのである。

 竜宮島の存在を守るために自ら囮となり、犠牲となった先輩の戦いを見守った総士が『THE FOLLOWER2』で「ただ閉じこもり、自ら対話の道を拒むと言うなら、今の僕はその選択を、この島のあり方を否定する」と言い切ったのはある意味、衝撃的だった。しかし、竜宮島の外に出て、新国連の支配する世界を見て、ペルセウス中隊、エスペラント、シュリーナガルの人々と旅をした結果、総士の価値観は劇的に変化したのだと思う。まさに伝聞は一見にしかず、というわけである。

 

※1 『HEAVEN AND EARTH』で島のバイオスフィア機能が衰えた時、史彦、要澄美、羽佐間容子はかつて人と戦った時の後遺症に見舞われた。『EXODUS』19話で島のバイオスフィア機能が衰えた時にも多くの島民が体調不良になった。

※2 一期15話、一騎の台詞を参照。
    一騎「俺はただ、総士と、もう一度、話がしたいだけだ」

※3 一期13話、遠見千鶴の台詞を参照。
    千鶴「紅音さんだけでしたね。
       フェストゥムの気持ちを理解しないままでいいのかなんていう人」

※4 一期24話、ミョルニアの台詞を参照。
    ミョルニア「だが我々と接触した瞬間、我々を迎え入れ、祝福した」

※5 『EXODUS』14話、エメリーの台詞を参照。
    エメリー「あなたは永遠の存在だとミールは言っています。
         彼らに痛みを与え続けるため、この世に居続けると」

※6 ワーグナーの楽劇『ニーベルングの指環』の成立過程についてはwikipediaの神々の黄昏(楽劇)#物語の項を参照。

 

P.S. 四分割したこの記事は2日に1回更新しましたが、更新してすぐ次回更新分の原稿を見直さないといけないので、結構しんどかった。
 ネットで調べたら一期1巻のレンタル開始は最終回直前と遅かった。なので、11月末、ヨドバシで20%オフ+10%ポイント還元という1巻を見つけた時、思わず買ってしまったのだと思う。これが運命の分かれ道だったのは言うまでもない。

 


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