蒼穹のファフナー EXODUS 第26話-21「和解を目指して Part1-新国連」

総士「君は知るだろう。
   一度始まってしまった争いは、世代を越えて続くということを」 『EXODUS』4話

 『EXODUS』では一期と『HEAVEN AND EARTH』で敵対した人類軍と再び対話する機会が持たれたが、どんな結論に達したのだろうか。

 

・史彦、溝口(竜宮島)とバーンズ(人類軍)

バーンズ「相手はあの真壁か、楽しみだ」
一期13話

  史彦「こんな形で再会するとはな、バーンズ少佐。
     いや、今は…」
バーンズ「大佐だ。お前が司令官をやるくらいには出世をしたよ、真壁」
一期14話

 人類軍の指揮官バーンズと史彦、互いの言葉からこの二人は旧知の間柄であることが明らかにされた。人類軍は竜宮島を占領することには成功したものの、岩戸にいるはずの島のコアは行方不明。フェストゥムが竜宮島に襲来した際には人類軍の兵士を使って島のファフナーを動かそうとしたものの失敗。岩戸を出た島のコアである乙姫は島のシステムをコントロールして、島の戦力を人類軍からアルヴィスの手に取り戻した。結局、人類軍は新国連からの命令(ファフナーの接収)を果たすことなく、島を去ることになった。

  史彦「そちらはどうする気だ」
バーンズ「明朝この艦は出航し、もう一隻は島に残す」
  史彦「一隻を盾にする気なのか。
     我々は攻撃などしない」
バーンズ「信用するわけにいかん」
  溝口「ふん」
  史彦「話は終わりだな。
     どちらも無傷で返すと約束しよう」
バーンズ「貴様らの存在そのものが危ういのだ」
一期17話

 この時の史彦とバーンズの交渉は決裂。この場面で史彦とともに溝口がいるのがポイント。史彦は島から出ることのできないため(※1)、この後、バーンズと直接対話するのは溝口の役目になる。バーンズは島に残した潜水艦一隻を使って島を沈めようするが、道生が人類軍から離脱して竜宮島に戻って上空からのミサイル攻撃を防ぎ、一騎が潜水艦の自爆スイッチを持つカノンの説得に成功して自爆を防いだ。

 この後、バーンズは人類軍の北極での戦闘に参加し、そこで竜宮島のファフナー部隊を率いる溝口と話している。

バーンズ「敵の読心能力に対抗するため各部隊には独自の判断で動いてもらう」
  溝口「同士討ち覚悟で戦えってのか」
バーンズ「そうだ。誰がどう動くか、誰もわからない。
     全部隊規模での遊撃戦だ。
     貴様らは127番目の部隊として承認された。
     健闘と生存を祈る」
一期25話

 北極での戦闘では人類軍と竜宮島の部隊は共通の敵である北極ミール殲滅のために共闘した。その結果、一期は人類軍と竜宮島の間では一時休戦という形で終わった。しかし、一期から2年後の『HEAVEN AND EARTH』では人類軍と竜宮島と間で対話は行われず、人類軍はフェストゥムもろとも竜宮島を滅ぼすために一方的に攻撃した。

 

 『EXODUS』で溝口とバーンズは再び相まみえることになる。一期はバーンズが竜宮島に赴くという形だったが、『EXODUS』では逆に溝口が新国連の基地の向かうという形を取った。

  溝口「よお、生きていたか、バーンズ。
     海で受け入れとは用心深いなあ」
バーンズ「過去に何人も失敗しているが、お前たちなら手が届く」
  溝口「おいおい、なんの話だ」
バーンズ「新国連事務総長、ヘスター・ギャロップを殺せ」
『EXODUS』23話

 バーンズは用心して新国連のダーウィン基地近くの海上で溝口と会い、竜宮島の人間を使って新国連事務総長、ヘスター・ギャロップ暗殺を目論む。が、溝口はバーンズの要求を拒否したため、二者の話し合いは決裂した。ディランはバーンズの副官でありながら、ヘスターの統括部にも所属していたため(※2)、バーンズに新国連の情報を流していた。しかし、ディラン自身がヘスターによって作られたパペットであり、ヘスター暗殺というバーンズの計画はヘスター自身に筒抜けだった。そのためバーンズは新国連から追い詰められたが、その時、新国連が所有していたベイグラントのコアの少年が自らの意思で行動するようになり、ダーウィン基地を攻撃。その結果、ヘスターはダーウィン基地を放棄したため、バーンズは難を逃れて生き残った。

 一期、『EXODUS』ともに竜宮島(史彦、溝口)とバーンズの交渉は決裂。その交渉とも関係しているバーンズの作戦(一期は竜宮島の消滅、『EXODUS』はヘスターの暗殺)は2回とも失敗した。一期ではこの後の人類軍の北極の戦闘に参加したバーンズは竜宮島の部隊と共闘した。しかし『EXODUS』では一期と逆にコアの少年の「君を世界の王様にしてあげる」(※3)という口車に乗せられて、バーンズは竜宮島と戦う道を選んだ。

 竜宮島とバーンズの関係を一期と『EXODUS』で比較すると、両者の直接交渉は決裂という部分のみ同じだが、それ以外の要素はすべて反転している。以上の内容を表にまとめると以下のようになる。

      一期     EXODUS
交渉した場所 人類軍が占領した竜宮島 溝口が新国連の基地へ行く
最終決戦での
バーンズの味方
竜宮島 フェストゥム
最終決戦での
竜宮島との関係
共闘 敵対

 史彦、溝口とバーンズは何度か話しているが、お互いの利害が一致した北極の戦闘時のみ味方になったが、一期17話では最初から人類軍側に譲歩する余地はなく、『EXODUS』23話ではバーンズが竜宮島を利用しようとしたために決裂している。『EXODUS』でのバーンズはヘスターと同じく竜宮島を敵ではあるが利用価値のある存在だと見ていた。竜宮島が敵であるという考え方を捨てられなかったが故に、ヘスターがダーウィン基地を去った後、バーンズが太平洋生存圏を手中に収め、次に新国連を制圧しようとした時、ディランの「Dアイランドを制圧し、アルタイルを獲得すれば、我々の勝利です」という言葉に従って(※4)、島を滅ぼす道を選んだ。

 一期、『EXODUS』ともに史彦、溝口とバーンズは話し合いのテーブルにはつくものの、互いの意見は一致することなく、交渉は常に決裂しているが、それは人類軍と直接戦った竜宮島の大人たちの世代と人類軍との和解は困難であるということを暗に示しているのかもしれない。

 

・暉(竜宮島)とウォルター(新国連)

要澄美「人類軍爆撃機、エノラ512、進路維持。
    全チャンネル応じません」
『HEAVEN AND EARTH』

 史彦、溝口(竜宮島)とバーンズ(人類軍)で書いたように、『HEAVEN AND EARTH』では竜宮島と人類軍の対話は行われず、竜宮島は人類軍から一方的に攻撃された。攻撃を防いで島を守ったのは皮肉にも竜宮島と話し合い、ボレアリオス・ミールに「俺はもう、戦いたくない!」(※5)と言ったスフィンクス型のフェストゥムである操だった。そして、一方的に人類軍から攻撃されたという事実は竜宮島の住民の心に深い傷を残した。

 史彦、溝口とバーンズは一期と『EXODUS』で二度、話し合っているが妥協点を見いだせず決裂。つまり、かつて直接戦った竜宮島と人類軍の世代が和解することは難しいということが示され、竜宮島と人類軍の和解という役割は若い世代に委ねられることになった。それが『EXODUS』での暉とウォルターだった。ウォルターは『HEAVEN AND EARTH』で竜宮島を攻撃した爆撃機の乗員だった。

ウォルター「ずっと君たちに謝りたかった。
      太平洋方面509混成航空部隊サジタリウス爆撃隊元副操縦士、それが俺だ。
      3年前、俺たちが君の島を爆撃した」
『EXODUS』19話

    暉「俺たちを、憎んでたんですか」
ウォルター「いや、単に命令を実行した」
『EXODUS』21話

 ウォルターは『EXODUS』1話で命令に従って人類軍と民間人を殺すことに疑問を抱き、命令に背いた結果、降格。その後、ペルセウス中隊に参加することになった。そして、竜宮島との共闘を目指すナレインの指揮下に入った時、かつて自分が攻撃した竜宮島に対して謝罪したいという気持ちを持つようになったのだろう。ウォルターは自分の罪を自覚していて、自分が攻撃した竜宮島の住人である暉に撃たれる覚悟があった。

ウォルター「好きにしていい。
      でも俺を撃てば君は後悔する。
      この命は他で使わせてくれ」
『EXODUS』19話

 暉は人類軍による竜宮島への攻撃を二度も見ているため、謝罪の言葉を口にしたウォルターに対する気持ちは混乱し、簡単に赦すことはできなかった。ウォルターに対してこう言うのが精一杯だった。

ウォルター「君に撃たれる前に飲んでもらいたくてな。
      理由は自分でもよくわからない」
    暉「俺たちを、憎んでたんですか」
ウォルター「いや、単に命令を実行した」
    暉「あなたをどう憎めばいいかわかりません。
      許すことだってできませんし」
ウォルター「そうか、そうだよね。
    暉「竜宮島に来ませんか。
      俺たちの故郷を見て下さい。
      空からじゃ、何を壊そうとしたかわからないでしょう」
『EXODUS』21話

 残念ながらウォルターは竜宮島にたどり着く前に亡くなり、暉もウォルターを赦すという心境に達する前、海神島の戦闘でいなくなってしまった。しかし、ウォルターの「竜宮島の住人に謝りたい」という気持ちは暉を通じて、人類軍のファフナー・パイロットに「島を占領してさ、爆弾落としてさ」(※6)と言い放った里奈に届けられた。ウォルターと暉を通して竜宮島と人類軍の和解しようとする姿が描かれたが、残念ながらその第一歩を踏み出したところで二人ともいなくなってしまった。暉のウォルターの謝罪の言葉を受け入れて許したいという気持ちは海神島に竜宮島の住民とシュリーナガルの住民が共に暮らすという形で引き継がれた。

 人類軍と竜宮島が和解する過程は一期から描かれていた史彦、溝口とバーンズというかつて直接戦った世代に加え、『EXODUS』で暉とウォルターという一つ下の世代を登場させ、二世代を並行に描くという形を取った。史彦、溝口とバーンズの間では話し合いには応じるものの、話はまとまらず、交渉は決裂。交渉決裂の原因の一端は人類軍側が今でも竜宮島という存在を消したがっているにも関わらず、フェストゥムと戦うという意味では常に一歩を先を行く竜宮島から利を得ようとしているという一面もあるだろう。これでは両者の和解は望めず、互いに歩み寄ることすらできない。

 一方、一世代下となる暉とウォルターの間ではウォルターが自ら犯した罪を自覚し、竜宮島に謝りたいという気持ちを持っていたため、両者は最後まで話し合い続けた。しかし、暉は人類軍による島の占領と空爆を目の当たりにしているため、ウォルターの謝罪をすぐに受け入れて、赦すということはできなかった。残念ながらウォルターと暉に与えられた時間はあまりにも短く、最終的に人類軍とフェストゥムとの戦いの中で二人ともいなくなった。それは人類軍が竜宮島に与えた傷はとても深く、子世代でも和解することができなかったということを意味している。暉がウォルターの謝罪の言葉を受け入れて赦す=竜宮島と新国連の和解は竜宮島とシュリーナガルの住民が引き継ぎ、最終的な解決はさらに次の世代に託されるという形で物語は終わった。

 ”あなた”という形で二世代に渡って描かれた「和解」というテーマもまた『EXODUS』において二人称から三人称へと拡大されて終わったということになる。

 

・真矢(竜宮島)とヘスター(新国連)、真矢(竜宮島)とビリー(新国連)

 真矢は一人で新国連の親世代(ヘスター)と子世代(ビリー)と向き合った。しかし、互いに相手を利用しようと考える親世代(史彦、溝口とバーンズ)や人類軍側が謝罪して和解を目指したものの時間が足りなかった子世代(暉とウォルター)の二組とは対称的な結末となった。

 真矢が対峙した新国連側の人間は竜宮島の存在は敵であり、消したいと考える新国連の考えを支持する者だった。それはある意味、言葉によるコミュニケーションの取れないフェストゥムと交渉するより難しい。ヘスターは真矢が相打ち覚悟で交渉、逆にビリーから真矢は銃を突きつけられた。いずれも”命”を賭けないと相手と向き合うことすらできなかった。ヘスターは利用価値があるならたとえ敵でも利用するという極めて合理的な考えた方の持ち主だったため、相打ち覚悟の真矢との間で交渉が成立した。しかし、自分自身の考えを持つことができず、最終的に本当の敵が誰なのかわからなくなり、殺された兄の復讐を果たしたいという気持ちを持っていたビリーと真矢の間には交渉の余地はほとんどなかった。真矢がビリーの望まないの言葉をかけたら、ビリーは迷わず真矢を撃っただろう。ビリーの兄、ダスティン殺害という罪を犯した真矢はウォルターと同じくビリーに撃たれる覚悟があったが(※7)、結局、真矢を守るために溝口がビリーを殺害した。

 真矢が向き合った新国連の親世代(ヘスター)と子世代(ビリー)との結末は史彦、溝口とバーンズ(親世代)、暉とウォルター(子世代)とは正反対の結果になった。以上の内容をまとめると以下のようになる。

親世代    
 史彦、溝口とバーンズ × 交渉は決裂、竜宮島を攻撃
 真矢とヘスター 交渉は成立、竜宮島を援護
 
子世代    
 暉とウォルター ウォルターが暉に謝罪
 真矢とビリー × 真矢がダスティンを殺害、
溝口がビリーを殺害

 親世代、子世代ともに×があることからわかるように、新国連と竜宮島が完全に和解するには互いのわだかまりをなくさなければならず、それはさらに次の世代に委ねられたということだろう。そして、真矢は今後『同胞殺しと紛争調停者』へ(※8)という言葉通りの存在となると思われる。

 

※1 一期18話、溝口は史彦に「俺なら島の外でも生きていける」と言う場面があり、史彦が島の外では行きていけないことが示唆されていた。『HEAVEN AND EARTH』で島のミールの力が弱まった時、史彦は血を吐き、島の外では生きて行くのが難しいことが明かされた。『EXODUS』でも島のミールの力が弱くなった時、後遺症を発症する人が多数出て、倒れる人が続出した。

※2 竜宮島回覧板 EXODUS第8号より引用。

※3 『EXODUS』25話、コアの少年の台詞。

※4 『EXODUS』25話、ディランの台詞。この後、コアの少年の姿が視界に入り、部下が人ではないことに気がつくが、コアの少年の「君を世界の王様にしてあげる」という言葉に誘惑された。

※5 『HEAVEN AND EARTH』の来主操の台詞。

※6 『EXODUS』3話、里奈の台詞。

※7 『EXODUS』26話、真矢はビリーの遺体を抱きながら「撃ってよかったんだよ、ごめんね」と言っている。

※8 竜宮島回覧板 EXODUS第1号より引用。

 


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