蒼穹のファフナー EXODUS 第26話-19-2「”あなた”から”みんな”へ Part1」補足

 蒼穹のファフナー EXODUS 第26話-19-1「”あなた”から”みんな”へ Part1」の補足。当初、このテーマで広登と一騎についても書いていましたが、書いているうちに考えが変わり、翔子と真矢、甲洋に焦点を当てて書くことにした結果、広登と一騎の部分は没になりました。しかし、ドラマCD『THE FOLLOWER2』を聞いて考えが変わり、一騎については補完することにしました。

 

 群像劇は第三者という存在を自分の人生の一部とする方法を教える。SFはわたしという一人称の世界、あなたがいる二人称の世界、社会を構成する三人称の世界の先に、人類という第四人称が存在することを教えてくれる。 冲方丁『蒼穹のファフナー ADOLESCENCE』あとがき

 『EXODUS』の2クール目は一人で作品と向き合いたかったので、ネットで他の人の感想を読まないようにしていたのですが、偶然目に入って印象に残った感想が一つだけある。それは最終回放映後の感想で「一騎がミツヒロを救うという展開なら、旅の間、一騎とミツヒロをもっと絡ませておけばよかったのに」というもの。蒼穹のファフナー EXODUS 第26話-19-1「”あなた”から”みんな”へ Part1」で書いた通り、『EXODUS』でのテーマの一つは一期のメンバーが大人になったことにより、視点が二人称から三人称、さらに第四人称(人類)へと拡大されるというものだった。一番わかりやすいのは「俺は、俺が知っている平和を世界に広めたい」(※1)と言った広登だろう。真矢は「あなたの島、私が守るから」(※2)という翔子の気持ちを引き継ぎ、『EXODUS』で自分の力で守る相手を直接知っている”あなた”から最終的に直接知らない人を含めた”みんな”(ダーウィン基地の住民)へと拡大させた。それと同様のことが一騎にも起こった。

 『EXODUS』では一期で一騎が新国連の捕虜になったときに採取された自らのサンプルで作られた因子が人類軍のファフナー・パイロットに投与されるようになっていた。

ミツヒロ「マカベ因子だ。
     昔、カズキマカベは新国連のファフナー開発に協力してくれた。
     その時、彼の遺伝子を元に特効薬が作られたんだ」
 ビリー「素質が足らない人間でもファフナーが操縦できるようになる薬だよ」
  アイ「感謝しています、マカベ。
      あなたが私をファフナーに乗せてくれた」
『EXODUS』3話

 それはファフナーに乗って戦う人類軍の兵士も一騎自身と同じように、最終的に同化されていなくなるということを意味していた。

総士「彼らの年齢で染色体変化と同化現象を受けたなら、
   20代の終わりまで命が持たない。
   それが彼らの生存限界だ」
『EXODUS』3話

総士「ファフナーに乗る限り逃れられない同化現象。
   その末期症状が訪れた。
   パイロットが不足し、予備兵が招集され、皆いなくなった」
『EXODUS』21話

 一騎の乗るザインだけが持つ能力は同化の肩代わり。『HEAVEN AND EARTH』ではその能力でカノンを救った。人類軍のパイロットも同化によっていなくなるという状況を引き起こした原因の一端は自分にあると感じた一騎は、シュリーナガルに到着した直後、その力で人類軍のパイロットの同化を肩代わりした。それはこれ以上、自分のせいで同化されていなくなる人が出てほしくない、たとえ命を救えなくても人として尊厳のある死(遺体がある)を迎えてほしいという気持ちの現れであったと思う。つまり一騎はこの時、自らの力で救う対象を”あなた”から”みんな”へと広げた。『EXODUS』9話で一騎はその力で救う対象を第四人称(人類)まで広げているのに、『EXODUS』26話で一騎が救う相手が再び”あなた”(敵の手に落ちた友人)に戻るということは、一度広げられた世界観が急に最終回で狭められることを意味し、この作品のテーマにはそぐわない。

 一騎はシュリーナガルから竜宮島へ戻る旅で戦いですべてを解決するのは無理だと悟ったが、ミョルニアに対して母、紅音がフェストゥムと対話することを望んで同化されたことを念頭に置いた上で、自分もいかなる状況であっても敵と話すことをやめないと言っている。

一騎「話をすること。
   母さんはそれを望んで敵と一緒になった」
(中略)
一騎「でもせめて話すことは諦めないよ。
   たとえ敵でも、いなくなった誰かでも。
   心で話すことができるのが人間だって、教えてくれてるんだろう」
ドラマCD『THE FOLLOWER2』

 『EXODUS』26話の一騎とミツヒロの戦いを通して描きたかったことは、自分に刃をむける敵が見知らぬ者であっても、諦めずに話し続けて救いたいということだったと思う。それ故、意図的に『EXODUS』2クール目では一騎とミツヒロの接点を減らし、友人にはしなかったということだろう。ちなみに一騎とミツヒロが最後に面と向かって話をしたのは『EXODUS』10話のこのシーンである。

ミツヒロ「真壁」
  一騎「ああ、無事でよかったな」
ミツヒロ「守ると誓いながら、なんと謝罪していいか」
  一騎「謝る必要ないだろう」
ミツヒロ「皆、あなたに救われた。
     同化された者さえ。
     仲間に変わり感謝します」
  一騎「別に…」
    (中略)
  一騎「じゃあ、またな」
ミツヒロ「無理かどうか試すことはできる、命を使って。
     そうでしょう、真壁」
『EXODUS』10話

 この後、一騎とミツヒロが顔を合わせた場面は竜宮島の部隊とペルセウス中隊と合同の作戦会議のシーンを除くと、『EXODUS』15話、ミツヒロ、暉と一緒にキャンプ地で話している時と『EXODUS』18話ラスト、ミツヒロが一騎を狙った暗殺者を追いかけた場面の2回のみ。

 シュリーナガルから移動する時もザインとニヒトは切り札的な存在であったため、一騎が偵察任務を受け持つことはなかった。そのため、一騎がペルセウス中隊のパイロットと交流する場面はなく、その役割を担ったのは偵察任務を受け持った真矢と暉だった。壁を越えた後、一騎は真矢との関係を描くことに力点が置かれていたため、一騎とミツヒロの接点は根本的に少なかったのだと思う。(壁を越えた後、一騎とミツヒロが顔を合わせた場面は『EXODUS』18話のラストのみ)竜宮島の人間でミツヒロと親しくなるという役割を振られたのは一騎ではなく、ミツヒロと腹違いの姉弟という関係を与えられた真矢だった。もし一騎とミツヒロが友人という関係であったなら、『EXODUS』26話でミツヒロの心が取り戻した後、一騎とミツヒロが一緒にいるという場面があったと思うが、一騎から見れば敵でしかかなく、ミツヒロはベイグラントに生まれた存在と無の地平線のそばで一人漂う場面で終わっている。

 

※1 『EXODUS』13話の広登の台詞。

※2 一期6話の翔子の台詞。

 


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