蒼穹のファフナー EXODUS 第26話-32「”あなた”から”みんな”へ Part2」

 竜宮島は長年、外の世界から隔離され、鎖国状態にあった。しかし、一旦、フェストゥムとの戦いが始まると、竜宮島にはフェストゥムだけでなく、人間も訪れるようになった。さらに竜宮島を新たな故郷にする者さえ現れるようになった。

 

●人の往来

 竜宮島は外の世界から隔離され、鎖国状態だった頃、自分の意志で島の外に出て行く人もいた。

剣司「そういや、春日井のところの親でも出て行ったんだっけ。
   その前だと日野さん」
 衛「道生さんか。
   もうあんまり覚えてないなあ」

剣司「遠見の父さんも、島出てったんだっけ」
一期13話

 この会話の中で島を出て行った人が列記されているが、日野父子とミツヒロは自らの意志で島を出て行った後、人類軍のファフナーの開発に加わった。春日井夫妻は新国連のスパイとして竜宮島に潜り込んでいたが、フェストゥムに同化されたが生きている養子を殺害しようとしたため、竜宮島から追放された。竜宮島から出て行った人間は全員何らかの形で新国連と関わっており、竜宮島の外の世界=新国連になっていることがわかる。

 

 竜宮島でフェストゥムとの戦闘が始まると竜宮島の位置を新国連が知るところになり、ついに竜宮島は人類軍によって占領されてしまった。その後、人類軍は竜宮島の残した自軍の潜水艦と核ミサイルを使って竜宮島を滅ぼそうとしたが失敗。人類軍にとって兵士とは用が終われば使い捨てるものであるため、この作戦に参加していた兵士は全員、竜宮島に置き去りにされてしまった。

溝口「お前も人が良すぎるぜ。
   使い捨てにされた兵士を全員受け入れてやるなんてよ」
史彦「彼らがそれを望んでいた。
   拒む理由もない」
一期18話

 真壁司令の判断により、置き去りにされた人類軍の兵士は全員、竜宮島で暮らすことになった。この時、おそらく竜宮島は初めて島の外の人間を受け入れたが、基本的には以前と変わらず鎖国状態のままだった。しかし、それでも少しだけ変化し、外からの訪問者を拒まなくなっていた。この後、竜宮島の住人と話し合うためにミョルニア、『HEAVEN AND EARTH』で来主操、『EXODUS』でナレイン将軍率いるペルセウス中隊が竜宮島を訪れた。

 

●”あなた” から ”みんな” へ

・ミョルニア

ミョルニア「我々と一つになるはずだったもう一つのミールの存在によって
      私は私になりつつある。
      それはお前がお前になりつつあるのと同じだ。
      私はそれを我々に伝えねばならない」
 イドゥン「我々はお前を認めない」
一期15話

 ミョルニアはイドゥンと一緒に新国連が鹵獲したマークエルフのコアとの接触した結果、個を獲得しつつあった。しかし、この時のミョルニアはそれでもただのフェストゥムにすぎなかった。そのため、ミョルニアは人間と同じように言葉で情報を伝え終わった後、イドゥンに同化されることを拒否せず、イドゥンは迷うことなくミョルニアを食べた(※1)。だが、北極ミールはミョルニアを同化して無に還すことはできず、ミョルニアは北極ミールから弾き出された。その後、ミョルニアは自身が個を獲得するきっかけとなった瀬戸内海ミールを所有する竜宮島へ行き、北極ミールに捕らわれている自身のコアの救出を依頼した。竜宮島の部隊は新国連のヘブンズドア作戦に参加し、北極ミールに捕らわれているいたミョルニアのコアと接触することに成功。その結果、ミョルニアのコアは北極ミールから開放されたが、それは同時にミョルニアは属するべき場所を失い、孤立無援の状態になったことを意味していた。事実、その後、ミョルニアは人間との戦いを望むボレアリオス・ミールに捕らわれた。

 ボレアリオス・ミールは竜宮島に人間の形をしたスフィンクス型フェストゥム(来主操)を派遣し、竜宮島のミールを同化したいと申し出た。しかし、その提案は竜宮島側から拒否されたため、竜宮島を武力で制圧し、そのミールを同化することにした。ボレアリオス・ミールが竜宮島を攻撃する前、囚われの身であるミョルニアは操にこう言った。

ミョルニア「私は役目を終えた。
      ここに捕らえてもいかなる可能性も生じない」
『HEAVEN AND EARTH』

 だが、竜宮島の別働隊がボレアリオス・ミール本体に攻め込み、ミョルニアは開放された。そして、ミョルニアが瞬時に竜宮島の置かれている状況を把握したその瞬間、人類とフェストゥムの共存という未来が失われかけていることを知った。そして、可能性がないと思っていた自分という存在を使えばその未来を失わずに済むことに気がついた。

ミョルニア「これが私の、最後の可能性だ」
『HEAVEN AND EARTH』

 死に瀕している竜宮島のコアの命を守るということは、人間とフェストゥムが地球で共存するという未来を勝ち取るため必要な場所である竜宮島を守ることをも意味していた。そして、最後にミョルニアはずっと探していたものを見つけた。

ミョルニア「いや、以前のコアに教えられたからだ。
      この島が、私の帰るべき場所だと」
『HEAVEN AND EARTH』

 ミョルニアは自分の帰る場所を見出し、果たすべき役目を終えたのち、コアに同化されていなくなった。だが、ミョルニアがこの世に存在したという記憶は竜宮島に残った。

 

・カノン

 人類軍のファフナー・パイロットであるカノンは竜宮島を占領する部隊に参加した後、竜宮島を消すために潜水艦の自爆を命じられた。しかし、一騎がカノンの説得を試み、その説得が功を奏し、カノンは命令を実行しなかった。この作戦で人類軍に見捨てられた兵士は竜宮島で暮らすことになり、カノンは羽佐間容子に引き取られ、後に養女になった。カノンは竜宮島で5年間、暮らした結果、島の子どもたちが学んだ平和を理解し、戦いたがる一騎を止める側になった。

カノン「お前は十分戦った。
    もう十分だ」
『EXODUS』2話

カノン「お前も真矢ももっと平和な時間を過ごすべきだ」
『EXODUS』5話

 だが、美羽の要望に従いナレイン将軍率いる人類軍の部隊と竜宮島に受け入れたことで、竜宮島の平和な時間は終わりを告げた。アザゼル型フェストゥムのロードランナーに追われるようになり、カノンは引退していた咲良とともに戦いに復帰することを選んだ。ファフナーのパイロットに復帰した結果、カノンにもSDPが発現したが、カノンのSDPは未来を見る力だった。しかし、竜宮島が滅んだ未来を見てしまい、カノンは精神的に追い詰められてしまった。そのため、カノンは竜宮島のコアである織姫に助力を求めたが、織姫からは予想外の言葉が帰ってきた。

織姫「見ているだけではダメ。
   未来と戦いなさい」
『EXODUS』16話

 現状のままであれば、竜宮島はロードランナーの攻撃に屈して滅ぶ運命にあった。竜宮島が滅ぶ運命から逃れられるためには、カノンがドライツェンに乗って最適解の未来を探さなければならない。カノンは自身のSDPを使って最適解の未来を探すことになるため、当然、同化現象に襲われるという運命から逃れることはできない。だが、カノンは織姫に助言を求めた時、厳しい言葉を与えられていた。

織姫「選びなさい。
   命の使い方を。
   一騎のように」
『EXODUS』16話

 結局、カノンは竜宮島とそこに住む人々の命を守るために、竜宮島が滅ばない未来を探し、同化されていなくなる前に探していた未来を見つけた。そして、自分が見た未来がすべて成就したことを見届けた後、同化されていなくなった。

 

 ミョルニアとカノンは竜宮島の外の生まれでありながら、見出した自分の居るべき場所である竜宮島を守るために命を使っていなくなった。

 群像劇は第三者という存在を自分の人生の一部とする方法を教える。SFはわたしという一人称の世界、あなたがいる二人称の世界、社会を構成する三人称の世界の先に、人類という第四人称が存在することを教えてくれる。
冲方丁『蒼穹のファフナー ADOLESCENCE』あとがき(※2

 『HEAVEN AND EARTH』でミョルニアが守った命は島のコアひとり、つまり “あなた” という二人称だった。カノンは無意識のうちにミョルニアの意志を引き継ぐことになったが、カノンが守った命は竜宮島の全住人、つまり “みんな” という三人称へと広がっていた。竜宮島のコアとその住人の命を守るということは、人類とフェストゥムの共存を模索している竜宮島という場所と人類とフェストゥムが共存する未来を守ることでもあった。人類とフェストゥムの共存が実現し、戦いが終結した時に守られる命は “人類” となり、冲方丁の言う第四人称へと広がることになる。

 

●補足:帰るべき場所

 カノンは人類軍の兵士として一期14話で竜宮島にやってきてから、蒼穹作戦以外で竜宮島の外に出ることはなかった。そのため、竜宮島の外の者であるミョルニアの「この島が、私の帰るべき場所」(※3)という気持ちは、カノンと同じく人類軍のファフナー・パイロットだったオルガが担った。島外派遣に参加したオルガはダッカを目の前にして人類軍の攻撃により負傷し、一足先に高速機で竜宮島に帰ることになった。だが、高速機は竜宮島のシールド圏に入る前、フェストゥムに攻撃されてしまった。

オルガ「きれい、世界で一番。
    島にいられたこと。
    ありがとう、ございます」
『EXODUS』16話

 フェストゥムがオルガの乗った高速機を攻撃する直前、彗がオルガを引き寄せ、アマテラスのコックピットにオルガの肉体が転送された。残念ながらオルガはすでに息絶えていたが、オルガの肉体は竜宮島に帰ることができた。

 

 『EXODUS』17話で描かれた夏祭りでオルガの灯籠が流された。

 しかし、この言葉がこんなにも早く現実のものになるとは思わなかった。

ジェレミー「いつか私たちの名もああして記されることがあるのでしょうか」
『HEAVEN AND EARTH』

 

1 その一部始終を見ていた一騎は「食った、母さんを食った」と叫んだ。

2 2014年、ハヤカワ文庫JA。

3 『HEAVEN AND EARTH』のミョルニアの台詞。

 


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