蒼穹のファフナー EXODUS 第26話-12「真矢と一騎-父の遺産」

 内容的には 蒼穹のファフナーEXODUS 第26話-11「真矢と一騎-分断された関係」 の続きになります。

 

 総士「君が一騎の分まで戦う必要はないんだ」
 真矢「うん、わかってる。ありがとう」
『EXODUS』2話

カノン「丈瑠島で働くのもファフナーに乗ったのも、
    一騎の居場所を守るためか」
 真矢「どうだろう。気づいたらそうしてた」
『EXODUS』3話

 『EXODUS』の物語開始時の真矢の行動原理は総士やカノンが指摘しているように一騎の代わりに戦い、一騎の居場所=竜宮島を守りたいだった。

真矢「はい、志願しました。
   私には戦うことしかできないから。
   それ以外の方法があるなら知りたいです」
『EXODUS』5話

 真矢は姉の弓子と美羽とともにシュリーナガルへの派遣部隊に志願して参加した。この時、真矢は戦うことしかできない自分のやり方に限界も感じていたが、それ以外の道も模索していた。しかし、竜宮島の外の世界は予想以上に過酷だった。

真矢「家族も仲間もいたから。
   あなたたちだけだったら、撃てなかったかも」
『EXODUS』18話

 『EXODUS』15話で真矢がキャンプを攻撃しようとした人類軍の爆撃機を撃ち落とした時の気持ちは「家族も仲間もいたから」だった。しかし、『EXODUS』18話で一騎を守るためにアルゴス小隊の放った刺客を躊躇することなく撃った時、真矢は父ミツヒロやヘスターといった人類軍上層部と同じ考えに行き着いてしまった。

真矢「誰かを助けるために
   それ以外の人たち全部犠牲にできる人」
『EXODUS』23話

 真矢は一期18話で父ミツヒロに「お父さんはフェストゥムとどう違うの」と問いかけ、竜宮島を旅立つ前には戦う以外の道を知りたいと言っていた。しかし、人類軍に命を狙われるという過酷な状況の中で真矢がたどり着いた答えは、皮肉なことに竜宮島を去った父ミツヒロと同じだった。真矢の考えは竜宮島の価値観とは真逆であり、竜宮島はもはや彼女の居場所ではなくなってしまった。そこで竜宮島の外に真矢の居場所を提供しようと救いの手を差し伸べたのがヘスターだった。

 蒼穹のファフナー EXODUS 第26話-5『総士の役割』 の「去りゆく者、後を継ぐ者」で書いた通り、一騎にとってシュリーナガルから竜宮島へ戻る旅は総士の後継者になるために必要な修行期間だった。 蒼穹のファフナー EXODUS 第26話-11『真矢と一騎ー分断された関係』 の「追記-総士について-」で書いた通り、総士は一騎にとって精神的な父親とも言える存在だった。それは真矢にとっても同様で、父ミツヒロの後継者になるための修行期間とも言える旅だったのだ。そして、一騎と真矢は旅が終わった時に父の遺産相続人としての資格を得たということになる。

 竜宮島との合流を目前にした戦闘時に真矢はアルゴス小隊に捕らわれ、新国連の捕虜となった。そこでヘスターは真矢に父ミツヒロの新国連での仕事を見せ、自らの後継者になるために父の後を継いでほしいという望みを伝える。

真矢は『EXODUS』23話で、一騎は『EXODUS』24話でそれぞれ父の遺産を目の前にして、後継者になるのかどうかを問われる。

 

・真矢の選択

ヘスター「あなたには多くを知ってもらうわ、真矢。
     父親の意思を継いでもらうために」
『EXODUS』22話

  真矢「あなたが…この先もたくさんの人を犠牲にするなら…
     人が人の敵になるなら…私が、止めます」
『EXODUS』23話

 真矢は父やヘスターと自身が同じ考えを持つ人間であることは肯定したものの、父の遺産を受け取ることを拒否し、父の後を継がないという道を選んだ。

 

・一騎の選択

カノン「お前が世界を祝福するなら、我々が生と死の循環を超える命を与えよう」

 一騎「選ぶよ。
    まだ俺にも命の使い道があるなら、それを知るために生きたい」
『EXODUS』24話

 ずっと総士と同じ位置に立つことを望んでいた一騎は父の遺産を受け取り、まもなくいなくなる父の後継者となることを選んだ。

 

 真矢は人類軍との戦いにおいて人を守るためには人を殺すこともやむなしという道を選んだ。一方、一騎はコアの分身のパペットであるミツヒロを殺さず、その心を信じて訴えかけた。フェストゥムと人。ザルヴァートル・モデルとノートゥング・モデル。戦う相手や機体の違いによる圧倒的な力の違いがあるとはいえ、ここでも一騎と真矢は正反対の道を選んでしまった。

 一騎と真矢は『EXODUS』において相手に対する考え方が噛み合わず、対称的な存在として描かれていた。父の遺産という同じものを目の前にした時に出した結論も対称的だった。蒼穹のファフナー EXODUS 第26話-3『一騎と真矢』蒼穹のファフナー EXODUS 第26話-11『真矢と一騎-分断された関係』 で指摘した内容も含め、『EXODUS』で一騎と真矢はすべてにおいて別の道を選んでしまった。それを象徴するかのように『EXODUS』26話のエンディングで二人は顔を合わせなかった。

 

 真矢は竜宮島が教えてきたものとは別の価値観で生きることを選んでしまったため、『EXODUS』終了時に竜宮島があったとしたら、真矢がそこに戻って生きるというのは難しいのではないか。私は『EXODUS』はもう少し物語が先に行ったところで終わると思っていたので(『EXODUS』は竜宮島と新国連との共存までで終了。新国連とフェストゥムの共存は描かれなかった)、最終的に真矢が竜宮島を去ることもあり得ると考えていた。海神島の住民は竜宮島から移民とシュリーナガルからの難民とで構成されている。竜宮島が第四次蒼穹作成時に人類軍に対して情報開示を行ったことにより、海神島は閉鎖されていた竜宮島とは異なり、外部との人的交流のあるオープンな場所だと思われる。そのため竜宮島と新国連の価値観が共存する場となり、おそらく父やヘスターと同じ価値観を持つに至った真矢の居場所もあるのだと思う。

 一騎は精神的な父である総士の後を継ぐという特殊な役割を与えられたものの、剣司(学校の保険医、母は数学教師。母と息子は学校勤務が共通)、咲良(母と同じ保健体育教師)、カノン(養母と同じアルヴィスのメカニック)が選んだ進路は親の後を継ぐという形になっていた。真矢はこの物語で父ミツヒロと決別したが、『EXODUS』26話で溝口が娘を守る父の役割を演じ、真矢の精神的な父となった。そして真矢も同級生と同じように「お前に危険が及ぶようなら俺をそいつらを狩る」(一期9話)という父の役割を演じた溝口の後を継ぐことになるのだろう。真矢が溝口と同じように自らの役割を自覚した時には竜宮島での居場所があるのだと思う。