蒼穹のファフナー EXODUS 第26話-3「一騎と真矢」

この先には何があるの? 二人は平行線
振り向かない君は強い もう交わらない
angela / Separation

 

真矢「この向こうに島がある」
一騎「遠見、誕生日おめでとう」
真矢「えっ」
一騎「今日だろ、11月11日」
真矢「あたし、忘れてた」
一騎「帰ったらお祝いしよう。島の人たちと一緒に」
真矢「うん、ありがとう。
一騎「先に行ってくれ。すぐに追いつく」
真矢「うん」
『EXODUS』21話

 これがある意味、一騎と真矢の最後の会話である。直接ではなくクロッシング時というのが悲しい。この後、真矢は新国連の捕虜となり、一騎と一緒に島に帰ることができなかったため、この約束が果たされることはなかった。そして『EXODUS』23話での命掛けでヘスターとの交渉した時に発した「さよなら、一騎くん」という言葉が、文字通り一騎との別れの言葉になった。なぜなら一騎は『EXODUS』24話で島のミールとの間の調和を選び、生と死の循環を超える命を得て、人の世界から去っていってしまった。互いに同じ場所で生きていながら、別の世界に属する存在になった。

 

 『EXODUS』では竜宮島のミールとアショーカに属する人々はすべて女性である。
  皆城織姫、立上芹、日野弓子、日野美羽、エメリー・アーモンド。
  そして、織姫が岩戸に入る時にいた皆城鞘、真壁紅音。

 一方、フェストゥムの側に属する人々はすべて男性である。
  皆城総士、春日井甲洋、来主操、真壁一騎。

 『EXODUS』26話で人の望みで存在していた弓子とエメリーが消滅。しかし、アショーカにはコアが生まれた。竜宮島は織姫がいなくなり、芹が眠りについた。母親を失った美羽は遠見家で育てられることになるのだろう。遠見家は千鶴、真矢、美羽とすべて女性である。

 総士がいなくなり、転生したそうしが生まれた。能戸総監督のツイートによると真壁家で育てられているとのこと。真壁家は史彦、一騎、そうしとすべて男性である。

 ミールのコアも転生したそうしも生物としては単為生殖の状態。アショーカのコアはエメリーと美羽が消滅した後に生まれたので、コアはおそらく女性だと推測される。つまりミールのコアもフェストゥムもまだ性という概念を持っていないことを表現するために、美羽とそうしの育ての大人はどちらも同性のみという構図が徹底されている。これはいずれミールやフェストゥムが有性生殖を知るということを示唆していると思う。そして、ここでも一騎と真矢は別の世界に属する存在となっている。

 『EXODUS』終了時の一騎と真矢の関係は一周回って、一騎が総士を傷つけ二人が疎遠になった『RIGHT OF LEFT』の頃の状態。この時は一騎が人で、総士がフェストゥムを象徴していたが、『EXODUS』終了時では立場が入れ替わって真矢が人で、一騎がフェストゥムを象徴している。次の物語ではフェストゥムに性という概念が生まれ、それが出会うという形になると予想される。一騎と真矢はこの条件を満たすのだが、すでに成人してしまった上に互いに子どもを抱えている状態なので、この二人を通してそのテーマが語られることはない。つまり一騎と真矢の関係もこれ以上、進展することはないと思われる。

 実は『EXODUS』でフェストゥムと人で且つ男と女が出会っている場面がある。

   操「ねえ、助けたんだから君を同化してもいいよね」
エメリー「美羽」
  弓子「そんな約束をしたの」
  美羽「うん」
   操「やったー、君の力をもらえるのは嬉しい」
  美羽「でもまだだよ」
   操「ん?」
  美羽「世界中のみんなが平和になって
     だれも悲しくて痛くなくなったら美羽を食べていいよ。
     だからそれまで美羽たちを助けて」
   操「わかった」
『EXODUS』22話

 それは誰であろう、美羽と操である。性別の違うフェストゥムと人が出会う物語は、次世代に委ねられることがすでに確定しているのである。

 

 一騎と真矢の関係をフェストゥムと人、且つ男と女というところまで持って行きながら、時間切れというのはあまりも残酷すぎる結末。フェストゥム(総士)と竜宮島の住人(一騎)は互いに傷つけ合いながらも和解したが、ヘスターと同じ考え方をする人間になってしまった真矢=人類軍だとすると、フェストゥムと人類軍との和解は遠いことを象徴しているのはないだろうか。

 

・対話する力

 『EXODUS』26話の一騎のED、真矢がビリーから銃を突きつけられる場面は、一期17話の島ごと自爆しようとしたカノンと話し合いを試みる一騎のシーンを反転したものである。ちなみに『EXODUS』で23話で真矢は命を掛けてへスターと話し合う場面があり、ここも一期17話と対になっているが、この時の真矢は一騎ではなくカノンの立ち位置にいた。

ビリー「真矢、兄さんは正しい人だった。アイもミツヒロも。
    なのに、なにが正しいかわからない」
『EXODUS』26話

 ビリーが言った言葉に対して、真矢は何も言わないが、一期17話で一騎はカノンに話しかけた。

 一騎「カノン、お前と話がしたい」
カノン「なんの話だ」
 一騎「え、あ、なんか話そう」
一期17話

 二人は話し続け、一騎がカノンの気持ちに寄り添った結果、カノンにスイッチを切らせることに成功した。一方、真矢は自分の罪を自覚していたために撃たれる覚悟はできていたが、溝口が娘を守る父の役割を果たし、ビリーを撃った、ここで真矢がビリーに言葉を掛けることができれば、ビリーは自分の気持ちを銃ではなく言葉にすることができたので、こういう結末にはならなかったと思う。

真矢「皆城くんも約束して。
   一騎くんと今度こそちゃんと話し合うって」
一期13話

真矢「お願い、一騎くんとちゃんと話して」
一期17話

 真矢は誰よりも話し合うことの重要性を知っていた。しかし、記憶を消され、人ですらないミツヒロに「俺はお前を信じる。お前の心は今どこにいる、ミツヒロ」と声を掛ける一騎と対称的に、真矢は人に掛ける言葉さえも失ってしまった。