【蒼穹のファフナー EXODUS】ヒロインの役割

 一期は翔子がヒロインかと思いきや、物語序盤の6話で突然いなくなってしまった。その後、ヒロインを引き継いだのは真矢だったが、総士がイドゥンにさらわれたことで、一騎との関係は進展しなかった。おまけに『EXODUS』での真矢は一騎から距離を置き、ヒロインを担ったのはカノンだった。それではこのシリーズのヒロインとはどういう存在なのだろうか?

 

・移り変わるヒロイン

 一期でのヒロインとは戦う力を持たない守られる者だった。そういう意味で物語開始時のヒロインは体が弱くて学校に行くことのできない翔子だった。一期6話までに描かれた同級生と翔子の関係は以下の通りである。

翔子と真矢:同性の仲のいい友達
翔子と甲洋:甲洋は翔子に思いを寄せているが、翔子は無視
翔子と一騎:翔子は一騎に思いを寄せている

 アニメで一騎と翔子が直接話したのは、一期5話のアルヴィス内でトランプをする場面だけだった。

翔子「ねえ、一騎君の番だよ」
一騎「うん、どれにしようかな」
甲洋「いいから早く引けよ」
一騎「うーん」
一期5話

 ドラマCD『NO WHERE』を聞くと一騎は翔子についてほとんど知ず、単なる同級生でしかなかったことがわかる。また、一期放送終了後、冲方丁が脚本を手掛けた『RIGHT OF LEFT』で一騎が調子の悪い僚を遠見病院に連れて行った時、一騎は翔子と言葉を交わしている。

翔子「か……一騎……くん」
一騎「羽佐間……」
 僚「助かったよ、遠見先生にお茶でももらうか」
一騎「いえ……。あの、俺……これで……」
一騎「じゃ……」
翔子「う、うん……」
『RIGHT OF LEFT』(※1

 『RIGHT OF LEFT』で補足された会話は、ドラマCD『NO WHERE』の延長上にあり、結局の所、一騎が翔子をどう思っていたのかはわからない。冲方丁が手掛けたノベライズでは一騎と翔子がパートナーになるが、一騎は一緒に訓練を通して翔子を知るようになる。アニメで翔子はファフナーに乗ることで一騎と同じ位置に立った時、ヒロインではなくなった。そして、思いを寄せる一騎の帰る場所、つまり竜宮島を守っていなくなった。

 翔子がいなくなった後、ヒロインの位置についたのは真矢だった。真矢はパイロット候補生でありながらハンデがあるためファフナーに乗れなかった。つまり、真矢は物語開始時の翔子と同じポジションに立ったということになる。その後、真矢のパイロット適切データの改ざんが明らかになり、真矢はファフナーに乗れることになったが、それは真矢が一騎と同じ位置に立ったことを意味していた。そして、翔子と同じく、ファフナーに乗った時、ヒロインではなくなった。

 物語の最後に敵に捕らわれるというヒロインの役割を担ったのは総士だった。イドゥンは人類軍からマークニヒトを強奪して、竜宮島を攻撃。ジークフリード・システムとその搭乗者である総士を奪い、北極へ連れ去った。総士は翔子や真矢とは違い、妹の乙姫が竜宮島のコアであるため、最初から守る者だった。しかし、総士は左目の視力を失った結果、総士自身はファフナーに乗れない、つまり戦う力を失ってしまった。総士はジークフリード・システムの担当者として戦闘の指揮を取ることで守る者になったが、翔子や真矢とは異なり、最後まで自分自身で戦う力を獲得することはできなかった。また、総士の戦う力を奪ってしまった一騎にとって、総士とは最後まで守らなければいけない存在だった。そう考えると総士の立ち位置は最初からヒロインそのものだったと言えるのかもしれない。

 

 一期のヒロインは翔子、真矢、そして総士へと変わっていったが、最終的にヒロインはただ守られるだけの存在ではなく、竜宮島を守ろうとする者へと変化した。そして、このヒロイン像は『EXODUS』に継承された。『EXODUS』のヒロインの役割を与えられたのはカノンだったが、カノンは自らのSDPにより竜宮島の滅ぶ未来を見てしまったことで、一騎を含む島外派遣組が帰る場所として竜宮島を守るという役割を与えられた。そして、自らの命と引き換えに竜宮島が存在し続けるために必要な未来を引き寄せ、竜宮島の未来をつかみ取った。

 

・守る者、守られる者

総士「僕は一度、フェストゥムの側に行く。
   そして、再び、自分の存在を作り出す。
   どれほど時間が掛かるかわからないが、必ず」
一期26話

総士「ありがとう一騎。
   島を、僕の帰る場所を守ってくれて」
『HEAVEN AND EARTH』

 総士はフェストゥムに同化されていなくなる直前、一騎に存在を取り戻すと約束したことで、一騎はいなくなった総士の代わりに竜宮島を守る者になった。さらに『HEAVEN AND EARTH』で一騎はアルヴィスからザインの搭乗が禁じられたことで、守る人から守られる人へと変化した。それを一番象徴しているのは、総士が肉体を取り戻してニヒトのコックピットへ帰還した直後、人類軍が竜宮島に核を落とした場面だろう。

 ここでは核攻撃からニヒト(総士)がザイン(一騎)を守っている。総士がファフナーに乗る、つまり一騎が総士から奪った戦う力を取り戻した時、一騎と総士の立場は逆転し、一騎が守られる側、総士が守る側になったということを意味している。事実、『EXODUS』の物語開始時にザインは封印され、一騎はパイロットから引退していた。

総士「一騎とは話したのか」
真矢「行きたがってるからダメって言っちゃった」
総士「君に言われれば諦める」
『EXODUS』5話

 総士と真矢の会話からわかるように、一騎は竜宮島に閉じ込められ、守られる存在だった。しかし、織姫が目覚めたことで状況は一変。一騎は織姫からザインに乗るよう命じられ、シュリーナガルへ行った。しかし、一騎がザインに乗れる回数は限られており、切り札として扱われたため、この時も戦う力を持っていながら一騎は守られる者だった。一騎が守られる者から守る者へ変化したのは、島の祝福を受け、ザインに乗り続けても同化現象に襲われなくなった後だった。それを象徴するのが『EXODUS』26話のラストの総士は生まれ変わったことで子供という無力な存在になり、一騎が守る者になった場面だった。

 『EXODUS』は物語の開始時と同じく、一騎と総士が守る者と守られる者という関係に戻ったところで終わった。

 

・「真矢」という存在

 翔子がいなくなった時(一期6話)から総士がイドゥンによって北極に連れ去られる(一期23話)までの間、ヒロインの役割を担ったのは真矢だった。パイロット適正データの改ざんが明らかになるまで、真矢はファフナーには乗れなかったため、体が弱い翔子や左目のケガでファフナーに乗れない総士と同じく戦う力を持たない存在だった。しかし、翔子や総士とは違い、真矢は一騎の横に立ち、同じ視線で世界を見ていた。それ故、一騎は真矢にいなくなる人を見送り、その人のことを忘れない人になることを望んだ。

一騎「遠見は俺のこと覚えていてくれる?」
一期10話

 つまり、一騎にとって真矢は守る者ではなく、非戦闘員として竜宮島にずっといてほしい存在だった。一騎の真矢に対する気持ちは『EXODUS』に至っても変わることなく、一貫して「戦うことなく、安全な場所(=竜宮島)にいてほしい」というものだった。その気持ちは真矢がファフナーに乗って戦うことを選んだ後も変わらず、一騎はその後も機会があるごとに真矢に戦わずに竜宮島にいてほしいと言い続けた。

真矢「このまま島にいることだってできるんだよ」
一騎「遠見はそうしてくれないか」
一期24話

一騎「遠見は十分戦った。
   みんなと島に帰ってほしい」
『EXODUS』10話

 冲方丁の手掛けたノベライズでは、自宅にいる翔子を迎えに行こうとする真矢を一騎が止めようする場面で一騎の本心が吐露されていた。

「俺と甲洋が行って、翔子をつれてくれば良いんじゃないか」
 なんとなくその方がいいような気がして、一騎が意見を挟む。真矢が外に出ることに抵抗があったのだ。真矢にだけは安全な場所にいてほしかった。
冲方丁『蒼穹のファフナー ADOLESCENCE』一章6(※2

 

 一期と『EXODUS』でヒロインの役割を担った翔子、総士、カノンは竜宮島を守り、全員いなくなってしまったことから、真矢が生き残るためにはヒロインから脱する必要があった。それ故、結果的に『EXODUS』では真矢が一人、修羅の道を歩むことになったのだろう。

 

※1 冲方丁『蒼穹のファフナー ADOLESCENCE』(ハヤカワ文庫)収録の脚本より引用。ただし、ト書きは省略した。

※2 冲方丁『蒼穹のファフナー ADOLESCENCE』(ハヤカワ文庫)収録より引用。