【蒼穹のファフナー EXODUS】ミールと人間の関係 の補足で、内容的には「瀬戸内海ミールとアショーカ」の続きになります。竜宮島の住人と同じくミールを崇めていたエスペラントはその役割を果たした後、なぜ全員いなくなったのか。
・竜宮島の住人とエスペラント
【エスペラント】
様々なかたちで人間とフェストゥムが融合したことで生まれた新人類たちのこと。
ミールやフェストゥムと交信して意思疎通できる者たちのことを特に指す。
冲方丁「作品コンセプト キャラクター概要 主要キーワード」
これは『EXODUS』のBlu-ray BOXのブックレットに掲載されていた文章だが、この中に出てくる「融合」と「新人類」という単語は一期で捕虜になった一騎の体を調べた新国連のスタッフとミツヒロの台詞で使われていた。
スタッフ「しかし、遺伝子レベルでは確実に融合しています。
彼、本当に人間なんですか」
ミツヒロ「フェストゥムに抵抗する力を備えた新人類だよ」
一期13話
このことから、広義のエスペラントは人間とフェストゥムが融合した存在、つまり人工的にフェストゥムの因子を移植された竜宮島の子どもたちと同じ存在ということになる。
竜宮島を作り、入植した人々はフェストゥムの因子を持たない普通の人間だが、2114年に地球に到来した北極ミールとは別のミールと共存することを選んだ。竜宮島に入植した人々は人類軍による核攻撃に曝されたが、その後遺症は空気に変化したミールによって抑えられていた(※1)。また、ミールの遺伝子汚染から守るため(※2)とはいえ、自分たちの子どもにはフェストゥム因子を移植することを受け入れた人々でもあった。つまり新国連の支配する世界に生きる人間から見れば、たとえフェストゥム因子の持たない人間であっても竜宮島の住人は思想的にはエスペラントと同類ということになる。
『EXODUS』ではシュリーナガルの住民とエスペラントの関係を通して、新国連の支配する世界で生きる市井の人々が竜宮島をどのように見ているのかを表現していた。エスペラントは最後までシュリーナガルの住民とは直接交流しない、閉鎖的な集団として描かれたが、竜宮島も通常、偽装鏡面に覆われ、島の外に住んでいる人間との交流を拒んでいた。『HEAVEN AND EARTH』は竜宮島が偽装鏡面に覆われて消える場面で終わり、『EXODUS』では偽装鏡面を解除して、竜宮島が現れ、ナレイン将軍率いる人類軍の部隊を受け入れたところから物語が始まる。
しかし、エスペラントが体現していたのは今(2151年)の竜宮島ではなく、2133年に皆城鞘がミールに同化されたものの、胎児だった乙姫の存在は残り、コアになる前の竜宮島だった。コアと言葉によるコミュニケーションが取れる前の竜宮島の状態と同じと考えるなら、乙姫が岩戸を出る前、つまり一期13話(※3)までの竜宮島と同じ状態ということになる。ミールのかけらを持つエメリーとナレイン将軍がハワイで出会ったのは2150年6月25日で、エメリーとナレイン将軍が助力を求めて竜宮島を訪れたのが2151年6月28日。シュリーナガルで根を張ったアショーカは生まれてから1年足らず。コアが存在していないため、エスペラントはアショーカと言葉によるコミュニケーションを取ることができなかった。それ故、エスペラントのミールに対する考え方は竜宮島のコアが目覚める前と同じだった。
史彦「我々は彼女の意思に従うしかない」
一期14話
総士「ぼくはこの島のコアを守るために生きてるんだって、父さんに言われた。
自分や他の誰かのために生きてちゃいけないんだって」
一期15話
エスペラントはアショーカを守るためにこの生き方を全うした結果、アショーカが海神島に根付いた後、エメリーも含め、エスペラントは全員いなくなった。つまり、この考え方には未来がなかったということになる。事実、この考えを否定する方向に進んでいった竜宮島は生き残った。総士はいっしょにいなくなろうとした一騎に拒否された結果、この生き方を選ばなかった。
総士「お前と島を守るために僕は生きている、そう思っていた」
乙姫「一騎に傷つけられるまでは、でしょ」
一期22話
また、竜宮島のコアは自分の考えを押し付けるのではなく、島民の意思を尊重した。
織姫「あなたたちの選択に私は反対しない。
選んだ道を進めるよう守るのが、私の役目」
『EXODUS』6話
生と死が紙一重の世界では誰しもがつい自己犠牲的な考えに捕らわれてしまい、実行してしまう者も現れる。しかし、自己犠牲の先には希望も未来も存在しないため、この物語においてはいかなる理由があろうとも、自己犠牲が肯定されることはない。事実、エスペラントたちはアショーカを守るという役割を終えた後、全員いなくなった。人間と争い続けた北極ミールのかけらから生まれたアショーカが人間と共存するためには、エスペラントがアショーカを守るために使った命が必要だった。
アショーカは生まれることを嫌がったボレアリオス・ミールと同じく、人間から与えられたたくさんの痛みを癒し、人の命を理解するためにはエスペラントの命が必要だったのかもしれない。
【蒼穹のファフナー EXODUS】ミールと人間の関係
エスペラントは何も残すことなく全員いなくなったが、彼らの命はアショーカを通して別の命に生まれ変わった(※4)。いずれアショーカのコアは外に出て、シュリーナガルの住民と直接コミュニケーションを取るようになるだろう。その時、アショーカと人間との関係は一方的にアショーカを崇めたエスペラントたちとは違うものになるだろう。
※1 『HEAVEN AND EARTH』と『EXODUS』19話で描かれたが、島のバイオスフィア機能が落ちた時、多数の島民が体調を崩した。
※2 一期22話で羽佐間容子がカノンに「元々はミールの遺伝子汚染から守るためのものよ。ファフナーに乗らなければ危険な因子ではないの」と言っている。
※4 『EXODUS』26話でエメリーは美羽に「私たちの命はこの島のミールとともにめぐり続ける」と言っている。
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