【蒼穹のファフナー】システムによる感情共有

 『NO WHERE』と『NOW HERE』の感想で触れようと思ったのですが、アニメも含めて話を追わないとわかりにくいので、これだけで一つの項目としました。

 

 冲方丁がSFマガジンのインタビューで言っていた「機械的なシステムによる感情の共有が、本当に他人を理解することになるのかどうか」(※1)というテーマはドラマCDの方で描かれることになった。『NO WHERE』の時点での一騎の認識。

一騎「別に怖いわけじゃない。
   逃げたいなんて。
   そんなのジークフリード・システムに
   入っているお前が一番わかってるだろう。
   俺の気持ちなんて」
総士「ああ、確かに戦闘中のお前の感情を追体験している。
   お前はたとえ恐怖を感じても、戦闘を放棄したりはしない。
   そう信じている」

一騎「お前は俺たちパイロット全員の痛みや感情を、
   あのシステムで共有してる。
   お前は俺たちのことを知ってるんだ」

 この時点で一騎はシステムで感情を共有しているから総士は自分の気持ちを完全に理解していると思いこんでいる。

 

 一方、一期12話の総士と真矢の会話を見ると、総士もまたシステムで感情を共有しているから一騎の気持ちを理解したと思っている。

真矢「あなたは一騎君のことわかろうとした」
総士「あいつのことは理解している。
   ジークフリード・システムを通して、
   あいつの感情や深層心理、戦闘時の思考を何度も共有してきた」
真矢「機械を使って人の心を覗いてそれで理解したことになるの。
   あなたは一騎君のなにがわかっているの」

 

 一期13話、真矢は総士にこう言ってモルドバに向かう。

真矢「皆城君も約束して
   一騎君と今度こそちゃんと話し合うって」

 

 一期15話、乙姫から「ここいたいのか、それともいなくなりたいのか」と選択を迫られた時、一騎はこう答える。

一騎「俺はただ、総士と、もう一度、話がしたいだけだ」

 

 一期16話、一騎が島に帰った来た時、マークザインはシステムとクロッシングする。一騎も総士と同じように外の世界を見てきた結果、二人は言葉を使わなくても理解してしまった部分がある。

総士「一騎、僕の見ているものが見えるか」
一騎「ああ、見える」
総士「行くぞ」

 

 一期16話で総士は一騎とシステムを通して理解できたと思い込んでしまった節があり、直接、一騎と話そうとしない。一期17話で真矢から突っ込まれる。

真矢「ねえ、一騎君とお話した」
総士「遠見には関係ない」
真矢「でもあの時約束したじゃない」
総士「パイロットでもないのに口を出さないでくれ」
真矢「わかってるよ、そんなこと。
   でもみんなには仲良くしてほしいじゃない。
   誰かがいなくなるたび、喧嘩ばっかり。
   お願い、一騎君とちゃんと話して」

 この後、総士は一騎のところへ行き、直接、一騎と話をしようとする。それがかの有名な「総士のお部屋紹介」である。こうやって流れを追っていくと、総士が不器用すぎて、笑いがこみ上げてくる。

 

 この件で一騎と総士が最終的にたどりついた答えは『NOW HERE』で語られる。

総士「また、島を出たくなったか」
一騎「まだ怒ってるのか」
総士「パイロットの心情を配慮しているだけだ」
一騎「俺がそんなこと思ってないってシステムでわかってるはずだろ」
総士「システムだけで理解できれば苦労はない」
一騎「それはそうだけど」

 

 結論、アニメだけでは描ききれなかった。ただただ残念。ドラマCDはどれも面白いので、1話から冲方に脚本を書いてほしかった。

 

※1 『SFマガジン』2004年9月号に掲載。