ドラマCD「GONE/ARRIVE」の感想

 ドラマCD『GONE/ARRIVE』の感想。アニメを全部見た後、ドラマCDを発売順に聞いたんだけど正解でした。

 

 発売日は2006年1月12日。内容は一期23話終了後から一期24話終盤までの話。年末に『RIGHT OF LEFT』でどん底に落とされた後、さらに落とされる内容でした。この前に出たドラマCD『STAND BY ME』に出てきたメディテーション訓練で見た海が重要な要素になっている。(※1)ここでのテーマは親子の離別、そして子どもの独立。

 一騎と父の会話で、珍しく一騎が本音をぶちまける。これを聞くと『HEAVEN AND EARTH』での最初の戦闘で司令が父親としても一騎を止められなかった心理が透けて見える。父からマークザインへの搭乗を止められても、一騎は総士に頼まれれば乗ってしまう。

総士「希望は蹂躙された。
   彼らは苦しみと憎悪に満ちている。
   すまない、一騎。
   これは賭けだ。
   最後の手段は必ず伝える。
   もしもの時は11番の扉で行け」

総士「すまない、一騎、頼む」
一騎「総士」
総士「僕らが封じたものに、彼らが届く」
『HEAVEN AND EARTH』

 どちらとも一騎の答えは「俺がやる、お前が望むなら」である。

 『EXODUS』の開始時点でマークザインは物理的に封印され、一騎が自分の意志で乗ることは不可能という状態になっていた。『EXODUS』6話で織姫からザインに乗れと命令された時、司令は立場も含めて一騎に何も言うことができなかった。『EXODUS』8話で一騎と話す場面があるけれど、父親が言った言葉は「この家がお前の帰る場所であってほしい、俺と母さんの願いだ」である。

 

 剣司は咲良が倒れ、衛が戦死。そして母も戦闘で死亡。剣司はメディテーション訓練の海はこんな状態だった。

剣司「ここは安全で平和で快適なんだから」

剣司「安全な場所から絶対に動かねーからな」
ドラマCD『STAND BY ME』

 剣司は「平和な場所、安全で暖かい場所。結局俺にはそれが一番大事なものだったんだ」と言っている。メディテーション訓練で見た海はその人の内面そのものである。カノンが剣司の家を訪ね、マークアハトを譲ってほしいと頼む。その時、カノンは剣司の海についてこう描写している。

カノン「確かに。
    私の船よりずっと美しい場所だった。
    あの心の景色が戦いで荒れ果てるのは見たくない。
    咲良のためにも」
 剣司「俺の心。俺の。そんなもの、とっくにこんなざまだよ」
ドラマCD『GONE/ARRIVE』

 実際、剣司の家の中はこんな感じだ。

 剣司「家中、めちゃくちゃだ。
    俺の家、俺の部屋、台所、居間、食卓、風呂場。
    どこも俺の知らない場所みたいだ。
    母ちゃんの部屋、仕事道具が全部床に落ちてる」
ドラマCD『GONE/ARRIVE』

 一期24話で剣司は要先生の家に行くことになった様子が描かれ、一騎と勝負をする。

 

真矢「こうして山を登っていると、
   お父さんの背中にいるみたいだって思えたのに。
   必死に体を支えてないと、落ちちゃうような場所で、あたし。
   そっか、もうお父さんいないんだ」

真矢「ごめん、最後くらい一人で登りたかったの」
一騎「最後…」
真矢「さよなら、お父さん」
ドラマCD『GONE/ARRIVE』

 真矢は山を登ることをやめた。そして、『EXODUS』では溝口さんを父親のように慕い、翔子のように空を飛ぶことを選ぶ。

 

 18話で真矢が父ミツヒロに問いかけた「お父さんはフェストゥムとどう違うの」に対する答えが示される。まず、真矢は「お父さんはフェストゥムとどう違ったの。あたしはフェストゥムとどう違うの」と自問する。そして、カノンとのメディテーション訓練でその答えを見出す。真矢の海は霧に囲まれた、鏡のような平らな海。

カノン「霧に包まれているのは、
    あそこにあるものを守りたいからじゃないのか」
 真矢「守る、霧が」
カノン「私の国では、人が霧を迷わせるのは、
    そこにあるものを守るためだ。
    違う、のか」
 真矢「ううん。
    そう、そうだ。
    当たり前のことなのに。
    わかっていたのに。
    カノン、ありがとう。
    フェストゥムになくて、私たちにあるもの、それがこれなの。
    これを確かめたくて、ここに来たかったんだ。
    私の心の中に」
ドラマCD『GONE/ARRIVE』

 

 24話での真壁司令とミョルニアの会話で、司令が何を思い、どう消化したのかがここで描かれている。

一騎「あの、母さんは」
史彦「違う、あれは紅音ではない。お前の母さんはもういない」
一騎「うん、でも」
史彦「ただ、心は今も生きている。
   彼女が対話しようとした相手と。
   そして、我々自身とともに。ただそれだけだ。
一騎「うん」
史彦「それだけのことが今の今まで見つからなかった」
ドラマCD『GONE/ARRIVE』

 『HEAVEN AND EARTH』にミョルニアは登場するが、真壁親子との関わりは一切ない。そして、ここでの結論が『EXODUS 』4話での「俺はもう歪まない」につながっていると思うので、アニメで描いてほしかった。

 

 ある問いかけをして、数話後に答えを見出し、それが『HEAVEN AND EARTH』や『EXODUS』につながっている部分があるので、ドラマCDで答えを示してしまったものは、その過程が伝わりにくいので残念。

 

 以下、『アニメージュ』2015年3月号での冲方のインタビュー内容を踏まえての感想。

 冲方は一騎と総士が島から放逐されると言っているけど、描こうとしているのは明らかに親からの独立。剣司は咲良という恋人がいて、新しい家族を作るという未来が見えている。一方、一騎は残りの寿命が3年で、真矢とは関係が進展せず。父親のいる一騎は島から出さないと親から独立して未来を築くという姿は描けそうもない。相手は真矢じゃなくて、総士。よく考えたら最初のシリーズから総士がヒロイン・ポジションだった。

 

※1 2015年5月13日追記
 先日手に入れたアニメージュ2005年11月号掲載の冲方丁インタビューより引用

「ドラマCDは2枚リリースされるので、序盤のキャラの気持ちと、メディテーションによる海の光景で繋いでみようというのが課題でした。『STAND BY ME』では、序盤の各キャラの心理状態を描いて、次のCDでは、それがいかに変化していくか。それに甲洋や翔子はカノンのことを知らないし、カノンも二人のことを知らないじゃないですか。その断絶された二つの時間を、CDドラマにおいて繋いでみようと思いました」