【蒼穹のファフナー】雑誌の記事とアニメ Part2

 Part1では冲方丁が脚本に参加する前の雑誌の記事と実際に制作されたアニメを比較したが、Part2では冲方丁が脚本の参加し始めた一期12話以降について取り上げることにする。脚本のクレジットに冲方丁の名前が最初に登場するのは一期12話だが、15話までは山野辺一記、冲方丁の連名、16話から冲方丁の単独名義になる。

 

●SFマガジン

 いつ冲方丁は脚本に参加することになったのだろうか。『SFマガジン』2004年9月号(2004年7月24日発売)の『ファフナー』の記事に冲方丁がコメントを寄せているのだが、この中で脚本に参加することを表明している。

 物語後半では、僕もシナリオに直接参加する機会があるそうなんで、アニメの脚本は初めてですが、視聴者も自分も楽しめる作品にしたいですね。
冲方丁氏特別コメント

 放送開始前のアニメ雑誌のインタビューに冲方丁は登場していたが、脚本に参加するという話は一切なかった。この記事には2004年7月4日に開催された試写会のレポートも掲載されていることを考えると第1話の放送直後、急遽決まったということなのだろうか。

 

●アニメージュ

 『アニメージュ』の「ANIMATION WORLD」で紹介されているあらすじはAパート冒頭の内容なのだが、なぜか10、11月号に掲載された第13話、第15話から第18話は実際に放送されたものと違う部分がある。アニメ制作現場の混乱が透けて見えるが、『アニメージュ』に掲載されたあらすじはもしかしたら冲方丁が脚本を書く前の内容だったのかもしれない。ちなみに『NEWTYPE』2004年10、11月号のANIME LANDには実際に放送されたものと同じあらすじが紹介されている。

 

・第13話

・第13話「侵食(フェストゥム)」
新国連支部施設に連れてこられた一騎。スタッフが一騎を検査するが特に変わったところを発見できない。ミツヒロは自分の主張と違っていたことをギャロップに責められる。

 アニメでは一騎を検査したスタッフがミツヒロに対して疑問を呈している。

ミツヒロ「やはり普通の人間と変わりないか」
スタッフ「しかし、遺伝子レベルでは確実に融合しています。
     彼、本当に人間なんですか」
一期13話

 アニメではミツヒロとヘスターの意見は対立していない。

ヘスター「あなたもその一員だったのでしょう、ドクター・バートランド」
ミツヒロ「お互いに利用しただけですよ」
一期13話

 冲方丁が修正する前の脚本では「一騎の見た目は人間だが、遺伝子レベルでは異なる」という部分が描かれていなかった可能性が高い。

 

・第15話

第15話「記憶(さけび)」
バーンズ大佐の命令で営倉に監禁されトランプをしている咲良たち。総士と史彦は溝口たちの身を案じていた。その頃、真矢は日野の死を目撃し呆然とたちつくしていた。

 一期15話の最初の方に咲良たちがトランプをしている場面はあるので、この部分は変更なし。次いで総士と史彦が話している場面があるが、溝口ではなく一騎について話しているので、おそらく会話の内容を変更したのだろう。しかし、日野洋治の死は一期14話のラストに変更されている。しかも、真矢は日野洋治からマークザインの研究データを託された後、日野洋治の「わたしはここにいる」という言葉ですべてを察してその場を立ち去ったため、日野洋治の死を直接見ていない。

 

・第16話

第16話「朋友(おかえり)」
ヴェル・シールドを突破してきたアヌビス型に攻撃をするファフナー。だが動きを予測されているらしく苦戦する。そして、マークアハトの攻撃がアヌビス型に命中するが……。

 この時、竜宮島に来たフェストゥムはプレアデス型だが、テレビ東京・あにてれ内にある『蒼穹のファフナー』の第15話のこれまでのお話と『アニメディア』2004年11月号のあらすじ紹介にアヌビス型という表記があるので、プレアデス型の初期の名称がアヌビス型だったのかもしれない(※1)。そして、あらすじで紹介された内容はアニメには一切存在していない。一期16話といえば、冲方丁の初単独脚本回であることから、山野辺一記が書いた16話がこのあらすじ通りの物語だったのではないだろうか。一期16話の脚本執筆については2011年1月11日、ロフトプラスワンで行われたファフナーNIGHTで以下のように話していた。

中西Pは16話の脚本を3日でお願いした。会議終了は22時、翌朝8時には冲方さんからメールで16話の台本が届いていた。
ファフナーNIGHT@ロフトプラスワン

 『蒼穹のファフナー Blue-ray BOX』のブックレットにされている収録の「INTERVIEW 冲方丁×プロデューサー座談会」には話数は書いていないものの、中西プロデューサーが冲方丁に初めて脚本を依頼した時のことを詳しく話している。

中西:初めて、脚本を依頼した時のことなんですけれど、アフレコ終わりに打ち合わせしたんですね。夜中の22時に(笑)。ー中略ー「このシナリオ、いつまでに上げればいいんですか」って冲方さんに尋ねられて、「明日お願いします!」(笑)。
中西:ー前略ー冲方さんは本当にすごいんですよ。その打ち合わせの翌日、会社に行くとメールが来てて……。朝6時の時点でシナリオが!(笑) INTERVIEW 冲方丁×プロデューサー座談会

 おそらく冲方丁が脚本を書くと決まった時、アニメの制作に入っていなかったのが一期16話以降なのだろう。そのため、冲方丁は一期16話から山野辺一記が書いた脚本の内容に縛られることなく、脚本を書いたのだろう。

 

・第17話

第17話「生存(しかけ)」
防衛兵器を修復している一平たちのもとに一騎がやってくる。すると突然地面が開き、地下から作業クレーンが上がってきた。クレーンに乗っている乙姫に気づいた一騎は……。

 一期16話同様、このあらすじで紹介された内容は一切アニメに存在していない。

 

・第18話

第18話「父親(おもいで)」
浜辺に集まった一騎たちは小型機が剛留島の方へ飛んでくるのを目撃する。その小型機には、五年以内に予定される人類軍の全計画を持ったミツヒロが乗っていた。

 一期18話でミツヒロが竜宮島にやってくるという部分は変わっていないが、一騎たちが海水浴をしている場面はAパートラストにある。しかし、小型機を見るという場面は存在しない。

 

 一期13話、15話~18話の『アニメージュ』に掲載されたあらすじを見てきたが、山野辺一記が書いた脚本を元に書いた可能性が高い。今後、山野辺一記が書いた16話以降の脚本が表に出ることはないと思うが、『アニメージュ』にその痕跡が残っていると見ていいだろう。

 

●PASH

 最終回直前に発売された『PASH』Vol.2(主婦と生活社)のキャラクター紹介にアニメとは違う内容が掲載されています。

近藤剣司
咲良のために戦うことを決意した剣司。その思いを胸にフェストゥムに剣を突き立て、命を散らせた。
『PASH』Vol.2

 当時、この記事は最終回のネタバレ扱いされて、北極での決戦で剣司がいなくなると言われていました。最終回の放送後、この記事はミスだったことが判明しましたが、心臓に悪い記事でした。

 

●終わりに

 今回、図書館を含め現在、古本で手に入る一期放送時の雑誌の記事をすべて見ましたが、作品で説明しきれない膨大な設定を雑誌の記事で補足するというスタイルの作りになっていると思いました。私は一期14話から見始めましたが、アニメ雑誌を買い、DVDの解説書を読んで設定を頭に入れると話がつかみやすかったことを思い出しました。今はwikipedia(ただし、ネタバレが多い)を参照しながら見る人が多いそうですが、文字で補足しないとわかりにくい作品だと思います。一期放送から14年後に資料を見て、雑誌には予想以上に突然の脚本家の交代劇による制作現場の混乱の痕跡が残っていることに驚きました。

 持っていない雑誌は古本で現物の入手を試みましたが、手に入らなかった雑誌は国立国会図書館で複写しました。国立国会図書館には一期放送時の『アニメージュ』がないのが残念。(東京都立図書館にはあるけど)

 

※1 テレビ東京・あにてれ内の『蒼穹のファフナー』の第13話のこれまでのお話と『アニメディア』2004年11月号のあらすじを書く時に参照した資料は同一だったようで、マークザインはマークレクサスという名称で呼ばれている。

 


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