私はファフナーは一期14話から見始めたので、2004年8月までに発行された雑誌の記事は読んでいませんでした。急遽、冲方丁が脚本に参加といった出来事も起きているので、放送当時、雑誌でファフナーをどのように扱っていたのかを知りたくなり、復刻版 竜宮島回覧板 -蒼穹のファフナー-(※1)を参考にして、一期の放送前から放送終了後の雑誌の記事をすべて読みましたが、雑誌の記事と実際に出来上がった映像との間にズレを感じました。Part1では一期10話までの内容についてまとめました。
・冲方丁の肩書
冲方丁は文芸統括という肩書で企画とプロットを提供したが、一期12話から脚本に参加することになり、一期16話以降、すべての脚本を単独で執筆することになった。この事実を踏まえて、一期放送時のアニメ雑誌の記事改めて読み返すと、制作側の事情がいろいろ透けて見えてくる。
最初に『蒼穹のファフナー』の記事が掲載されたアニメ雑誌では、制作スタッフの名前と略歴が紹介されているのだが、冲方丁にはストーリーコーディネーターという肩書が付いていた。
(前略)ストーリーコーディネーターに「マルドゥック・スクランブル」シリーズ(早川書房)で本年度の日本SF大賞を受賞した冲方丁を迎えている。
『ニュータイプ』2004年4月号
(前略)ストーリーコーディネーターにSF大賞受賞作家の冲方丁と、超豪華スタッフが集結した『蒼穹のファフナー』。
『アニメージュ』2004年5月号
(前略)ストーリーコーディネーターは第1回スニーカー大賞受賞作家で、昨年は『マルドゥック・スクランブル』で日本SF大賞を受賞した『カオス・レギオン』の冲方丁氏と豪華スタッフが集結し、快調に制作されている。
『電撃アニマガ』Vol.10
以上3誌の記事から引用したが、アニメ雑誌に『ファフナー』の記事が掲載されたのは『マルドゥック・スクランブル』で日本SF大賞を受賞した直後のため、冲方丁の紹介文にはどれも日本SF大賞(※2)という文字が含まれている。アニメファンで日本SF大賞を知っている人は少ないと思うが、冲方丁はライトノベル出身でありながら、SFでも評価されている作家という印象を与えることができる。日本SF作家クラブのサイトに日本SF大賞の受賞作品のリストが公開されている。
アニメの放送が開始された時に発売された『アニメージュ』2004年8月号には羽原信義(監督)と冲方丁(シナリオ・コーディネーター)の対談が掲載されていることからもわかるように、ライトノベル出身で日本SF大賞作家、冲方丁の名前を『ファフナー』の売りとして使ったのは事実だろう。2017年12月末、冲方丁がネットラジオのインタビューで『ファフナー』初期の自分の立ち位置について明かしていた。
林原:原作者でしょ?
冲方:アニメでは原案扱い。(中略)別に脚本家の方もいて、演出家の方もいて、プロデューサーもいて、でも話ができないから作ってと言われて話を作ったら、「じゃ、我々があと、やりますから」と言われた。
音鬼と林原めぐみのH話×3
初めてアニメに参加するということで、設定と話を作った冲方丁に脚本を1話も書かせないというのは明らかに失敗だったと思う。シリーズ構成と要所要所は別の脚本家が書くにしても、『戦隊シリーズ』や『仮面ライダー』のように、サブのライターとして冲方丁を作品に参加させればよかったのではないだろうか。
・『アニメージュ』2004年5月号
『アニメージュ』の「ANIMATION WORLD」というコーナーでは、その月に放送される各話のあらすじが紹介されているのだが、放送1ヶ月前に発売された『アニメージュ』2004年5月号に掲載された1話のあらすじは実際のアニメとは大きく異なっていた。
第1話「楽園(はじまり)」
ある日、竜宮島全島に歌声のような少女の声で「あなたはそこにいますか?」という問いかけが流れた。その頃、校庭にいた一騎は謎の少女を見つけるが、その姿はすぐに消えてしまう。
一騎が校庭で見かけた謎の少女は乙姫なのだろうか。アニメでは一期3話で一騎がアルヴィス内で謎の少女を追いかけ、地下深くで眠る乙姫と対面した。この場面での台詞は一切ないが、後にこの時の出会いについて一騎と乙姫が話している。
乙姫「前に岩戸に呼んだ時のこと、覚えてる」
一騎「ああ、君に総士と一緒に戦ってくれって、言われた気がした」
乙姫「その通りにしてくれてありがとう、一騎」
一期23話
最初のプロットでは第1話で一騎と乙姫が出会い、一騎が乙姫の正体を知ろうとするという形で物語を展開させようとしていたのだろうか。第1話の脚本については以下のような証言がある。
ちなみに第1話の脚本は非常に長く(普通の脚本の1.5倍ほどあり)、ファフナー対フェストゥムの戦闘シーンの大部分は、第2話前半に持ち越し、前後編を強調するような形にアレンジしている。 『アニコレドラゴン』vol.1
尺の都合で『アニメージュ』に掲載されたシーンはカットされ、それに伴って物語の流れも変わったのかもしれない。一期1話はでの一騎の存在感のなさ主役なのに台詞が少ない)は、一騎中心で話を回していないことを差っ引いても、このエピソードを削ったことに起因するのかもしれない。
ちなみに『NEWTYPE』2004年5月号の「ANIME LAND」に掲載されたあらすじは『アニメージュ』よりも長文ですが、放送されたアニメと同じ内容でした。
・一騎のキャラクター設定
真壁一騎
15歳。一匹狼気質で、孤独を好む少年。
『アニメージュ』2004年5月号
これはアニメ放映開始前、『アニメージュ』に掲載されていた一騎のキャラクター紹介の文章である。ノベライズ、ドラマCD『STAND BY ME』と『RIGHT OF LEFT』の一騎はこの紹介文に準じたキャラクターとして描かれていますが、アニメの一騎はこの文章通りのキャラクターとは言い難い。この紹介文と一致しているのは以下の場面だろう。
総士「一騎は」
真矢「授業が終わった途端、近藤君と出てったわ」
一期1話
この台詞だけでは一騎と剣司の関係を読み解くことはできない。そのため、『RIGHT OF LEFT』で補足されている。
僚「一騎は、みんなと一緒に帰らないのか」
一騎「はあ……」
僚「剣司みたいなヤツが突っかかって来てくれるのを待つばかりじゃ駄目だぜ。
自分から、誰かと仲良くならないとな」
『RIGHT OF LEFT』(※3)
この会話を聞いたあとだと、一期1話で描かれた一騎と剣司の関係は一騎が一匹狼であることを説明するための場面だったことがわかる。
・一期5話までの人間関係
島が戦時体制に移行した後、一騎はアルヴィス内で総士もしくは大人と一緒にいることが多く、同級生と一緒にいる場面が少ない。3話、海中展望室で一騎と総士も含め、ファフナーのパイロットに選ばれた子どもたちがいた。
左から総士と剣司、咲良、一騎と衛、(弓子)
左から(弓子)、真矢と翔子、甲洋
つまり、記念写真を撮る前、以下のような組み合わせで話していたということになる。
一騎と衛、総士と剣司、甲洋、真矢と翔子、咲良
女性陣(翔子と真矢、一人でいる咲良)は設定通りで、男性陣(一騎と衛、総士と剣司、甲洋)は設定と少しズレた組み合わせ。『EXODUS』なら総士と剣司の間にはジークフリード・システムの担当者という共通点があるが、この時点では接点がなさすぎる。ドラマCD『STAND BY ME』で一期3話時点でのキャラクターの人間関係は答えが出ているが、以下の通りになる。
一騎と甲洋、剣司と衛と咲良、真矢と翔子、総士
翔子がいなくなる前、一騎と甲洋は仲がよかった。真矢と翔子も仲が良かった。剣司と衛は父を亡くしたばかりの咲良に寄り添っていただろう。そんな中、同級生の中で唯一、この島の真実を知り大人に近い総士は同級生とは距離を取るだろう。
一期6話までに描くべき一騎の人間関係はまず長年疎遠になっていた総士、次いで6話と9話で相次いでいなくなる翔子と甲洋だったと思う。物語開始時、一騎と総士の過去について具体的な描写はなかった。竜宮島にフェストゥムが攻めてきたことで、総士と一騎はファフナー部隊の指揮官とそのパイロットという関係になり、その後、一騎はただ総士の命令に従って戦うだけだった。一騎が総士の命令に背くことはあっても、二人の関係を突っ込んで描くことはなかった。島を出た後、一騎は総士の左目を傷つけた事件の真実を知るが、脚本には冲方丁が参加していたため、アニメの中で一騎と総士の関係を描くことができた。しかし、翔子と甲洋は冲方丁が脚本に参加する前にいなくなっていたため、一騎と翔子、一騎と甲洋の関係は冲方丁が脚本を書いたドラマCDで補足された。
・物語開始時の一騎と総士の関係
このカットに対して『月刊ニュータイプ』2004年10月号の付録の記事には以下の文章が掲載されていました。
唐突にファフナーに乗ることを求められる一騎。彼は総士への負い目から、ためらいながらも戦うことを承諾する。
「AD2146 アルヴィス航海日誌 YOUR EYES ONLY」(※4)
アニメでは総士の「行けるのなら、僕がいくさ。でも……」という台詞と過去をほのめかす数カットのみ。これだけではさすがに一騎が総士に対して負い目を感じていたのでファフナーに乗ったとは思わない。一期1話の段階で視聴者に対して「一騎が総士の左目を傷つけた」ということだけでも明確にすべきだった。
・『アニコレドラゴン』vol.1
DVD1巻に収録された1話から3話のレビューが掲載されていますが、その中で脚本と出来上がった映像を比較しているため、脚本の内容を知る手がかりが多く含まれています。
第1話
ちなみに第1話の脚本は非常に長く(普通の脚本の1.5倍ほどあり)、ファフナー対フェストゥムの戦闘シーンの大部分は、第2話前半に持ち越し、前後編を強調するような形にアレンジしている。
第1話の脚本が普通の脚本の1.5倍ほどあったとのことだが、脚本段階での第1話がフェストゥムとの戦闘終了までだったとしても、一期13話、18話、21話、23話はそれよりも台詞の量は多い。個人的にロボットアニメの第1話は主人公がロボットに乗って戦うところまで描くのがベストだと思っているので、ロボットに乗ったところで第1話が終わった『ファフナー』は正直物足りない。それでも物語開始時点での人間関係をきちんと描いてあれば評価できるのだが、その部分も描ききれず、翔子と甲洋が割りを食った。
第2話
かなり気丈な性格であり、竜宮島の本当の姿を知っても、その動揺を総士に悟られないような態度を取っていた。
総士「あれに乗った気分はどうだ」
一騎「別に」
総士「驚いただろう。
島の人達がこんなことをやっていたなんて」
一騎「別に」
一期2話
ある日突然、自分の住んでいる島に見たこともない敵が攻め込み、ファフナーに乗って戦ったのにもかかわらず、「別に」の一言で済ます一騎の心理が全く理解できなかったのですが、その理由を初めて知りました。一方、ノベライズで一騎は「敵」という言葉を聞いた時、全く逆の反応をしていました。
「敵って」
と一騎が声を上げた。ほとんど無意識だった。何でも良いから喋らないと、不安のあまり叫びそうになっていたのだ。いつも淡々と日々を過ごしていた自分など、とっくにどこかへ吹き飛んでいた。
『蒼穹のファフナー ADOLESCENCE』二章1(※5)
正直、アニメよりもノベライズの一騎の反応の方が納得できる。
第2話
一騎がシナジェティック・スーツを着る時の容子とのリラックスしたやりとりは、演出レベルで付加されたものだ。
『EXODUS』でも別の形で使われたシーンだけど、脚本にはなかったのに驚いた。
第3話
史彦たちが親たちに配って廻る情報パッドは、脚本では旧日本軍の召集令状である「赤紙」と表記されており、文字が赤いのはそれを汲んでのこと。
ノベライズでは史彦が一騎にこう説明していた。
「なんで赤いの?」
「昔の風習だ……。兵卒として選ばれた者のもとに、一通の赤紙が届く」
『蒼穹のファフナー ADOLESCENCE』三章2(※6)
・シリーズ構成上の問題
千野孝敏「物語は6話で翔子の死、8話で甲洋が同化されるという事件がおきて、それに対して竜宮島がどのように対応するのかっていうところに注目してください」
『電撃ホビーマガジン』2004年11月号
『Newtype』2004年9月号の「ANIME LAND PLUS」という今月の見どころを紹介するコーナーでも一期10話が取り上げられていることからも、制作側としては一期10話を物語の転換点だと考えていたと見て間違いないだろう。
物語開始時から総士の命令通り戦っていた一騎だが、翔子と甲洋がいなくなった後の総士の態度は理解できなかった。そのため、一騎は総士に直接問いただしたが、一騎が望んでいたような答えは得られなかった。ここで一騎はようやく自分の意志で動き始め、総士を理解するために島を出るという行動を取った。他人からの命令もしくは依頼で戦っていた受け身の主人公が初めて自分の意志で行動した話数は『新世紀エヴァンゲリオン』は4話(碇シンジが家出する)、『ゼーガペイン』は6話(ソゴル・キョウが世界の真実を知る)だったが、『ファフナー』はその2作よりもはるかに遅い10話だった。流石にこれはあまりにも遅すぎる。もっとも『ファフナー』も『ゼーガペイン』と同じ6話で翔子の死という物語の転換点となる出来事が起こっているが、『ゼーガペイン』とは異なり『ファフナー』の6話で行動したのは主人公ではなくヒロイン(翔子)だった。
『ファフナー』は冲方丁にとって初めてのTVアニメだったこともあり、おそらくTVアニメ向けのシリーズ構成をよく理解していなかったのだろう。ちなみに『EXODUS』ではパイロットから引退していた一騎が織姫からザインに乗れと命令されたのが6話で初戦は9話だった。自らが脚本を書いていない一期をリベンジをするのかのように同じシリーズ構成になっている。
※1 復刻版 竜宮島回覧板 -蒼穹のファフナー-を参考にして、ファフナーに関する記事が掲載されている雑誌を「蒼穹のファフナー」不完全雑誌掲載リストとしてまとめました。
※2 『蒼穹のファフナー』の前年である2003年5月~7月に刊行された『マルドゥック・スクランブル』(ハヤカワ文庫)で第24回日本SF大賞を受賞している。
※3 『蒼穹のファフナー ADOLESCENCE』(ハヤカワ文庫JA)に収録されている『蒼穹のファフナー RIGHT OF LEFT』から引用。
※4 『月刊ニュータイプ』2004年10月号の付録のB2ポスターの裏面に「AD2146 アルヴィス航海日誌 YOUR EYES ONLY」というタイトルで10話まで内容紹介記事が掲載されていた。
※5 『蒼穹のファフナー ADOLESCENCE』(ハヤカワ文庫JA)から引用。
※6 『蒼穹のファフナー ADOLESCENCE』(ハヤカワ文庫JA)から引用。
関連記事
・【蒼穹のファフナー】雑誌の記事とアニメ Part2