【蒼穹のファフナー】影の薄い主人公

 竜宮島の外の世界を見て帰ってくるまで、主人公である一騎の存在感は薄かった。なぜそう感じたのだろう。

 

 偽装鏡面が解除されるという世界が変貌する瞬間を目撃したのは主人公の一騎ではなく真矢だった。

真矢「ん? 太陽が」
一期1話

 

 真矢は翔子とともに竜宮島にやってきたフェストゥムの攻撃を直接、その目で見た。

真矢「そんな、なんで」
一期1話

 

 フェストゥムの戦いが始まると、戦闘指揮官になった総士は理解できない行動や言動を取るようになった。そんな総士に対して、その意味を問いただしたのは真矢だった。

総士「これは甲洋の、自分で招いた結果だ。
   お陰でファフナーを失った。
   感傷に浸る暇はない」
真矢「なんでそんなこと言うの。
   最後に春日井君と話せたのあなただけなんだよ。
   なにも感じないの」
一期9話

 

真矢「あのね、翔子の悪口の噂を流したの、皆城君。
   ねえ、もしかして、翔子の墓にあんなひどいことさせたの」

総士「否定はしない」
ドラマCD『NO WHERE』

 一騎が主人公として扱われているが、戦闘シーン以外で主人公が取るべき行動を取っていたのは真矢だった。しかし、脚本上、真矢は主人公としては扱われておらず、視聴者は物語の主人公である一騎の視点で見てしまうが、一騎がやっているのはファフナーに乗って戦うことだけ。さらに一騎がマークエルフに搭乗している時は印象に残る戦闘シーンはなく、戦闘中はあまり話さないこともあり、存在感のない主人公になってしまった。

 

 一騎と真矢の関係はノベライズで以下のように説明されていた。

 真矢なら、自然と何でも話せた。
 そう――何でも。
 自分の胸の奥に隠したまま、誰にも話せず苦しんでいたことさえ――
冲方丁『蒼穹のファフナー ADOLESCENCE』(ハヤカワ文庫JA)

 アニメで一騎と真矢の関係が描かれていれば、一騎が総士に直接、言えないことを真矢が代弁することで一騎=真矢となり、一騎が存在感のない主人公とはならなかったのではないだろうか。