【蒼穹のファフナー】脚本から見る第1話

 abemaTVで一期1、2話を見た後、アニメとノベライズを混ぜて再構築したコミカライズと比較したところ、アニメの脚本上の問題点がはっきりと見えてしまった。

 一期1、2話を脚本面から分析した記事ですが、『EXODUS』までの内容を含みます。

 

・第1話序盤の情報

 一期1話で物語開始からフェストゥムが出現するまでの流れはアニメとノベライズをうまく組み合わせたコミカライズで最適解を見たことで、逆にアニメの脚本の問題点が明確になった。第1話、一騎が家を出て学校に行き、剣司と勝負をするまでの流れを比較してみた。参考にとして同級生とは別行動の総士の動きも掲載。

アニメ
   真壁家:一騎、家を出る
  羽佐間家:真矢と翔子が話す
   通学路:真矢と甲洋が話す
 (   港:総士が船から降りて島に着く。総士と小楯が話す)
 ( 校長室:総士と公蔵が話す)
    教室:総士と蔵前、真矢が話す。一騎はいない
  校舎の隅:一騎と剣司が勝負する

コミカライズ
 (   港:総士が船から降りて島に着く)
   真壁家:一騎、家を出る
   通学路:一騎と真矢が話す、一騎と甲洋が話す
 ( 校長室:総士と公蔵が話す)
    玄関:一騎と甲洋が話す
 学校の屋上:一騎と同級生数人が勝負する

 アニメでは一騎が家を出た後、学校に到着する場面までは真矢の視点で描かれ、教室では総士の視点になり、最後の剣司と勝負するシーンで再び一騎の視点に戻るという流れ。視点が目まぐるしく変わるのは物語の進め方としてはあまり褒められたものではない。一方、コミカライズでは家を出た一騎が真矢と会い、翔子の家に寄る真矢と別れ、その後、途中で会った甲洋と話をしながら学校に到着。家を出てから学校に着いて同級生と勝負するまで、すべて主人公である一騎の視点で描かれているので非常にわかりやすい。そういえば石井さんが一期1話の台本を見た時の感想が「こんなに台詞がないんだ」だったことを思い出した。また、コミカライズでは同級生とは別行動の総士は脇役だが、アニメでは島に戻った総士が教室に入る場面が会話の内容も含めて印象に残るので、総士が主人公に見えてしまう。

 アニメでは一騎→真矢→総士→一騎と視点が目まぐるしく変わっていることに気がついた時、ショックを受けた。これは物語を進める時に絶対にやってはいけないことの一つだ。真矢と翔子の関係を描くことを優先したために、主人公である一騎の存在が蔑ろにされたということなのだろうか。

 登場人物が通学途中で話す内容にも大きな違いがある。この場面を通してアニメで得られる情報は翔子が学校に行けないこと、竜宮島は東京から遠いことの2点。翔子の体のことは真矢が翔子と話した後、甲洋に伝えるという形になっているため、視聴者の視点では同じ話を繰り返していることになる。東京については第1話で真矢が総士に尋ね、第2話で一騎が総士に尋ねている。真矢と一騎に対する対称的な総士の答えを通して、子どもたちが知っていた世界は偽りだったことを明かす仕掛けになっているが、視聴者に多くの情報を与えたい物語序盤ではあまりいいやり方とは言えない。結果的に翔子のことも東京のことも同じ話を二度繰り返すという形になっているので、逆に脚本家の引き出しの少なさが浮き彫りになってしまった。一方、コミカライズで得られる情報は竜宮島に高校はないので進学する人は島を出ること、記憶力のいい甲洋とスポーツのできる一騎、そして、甲洋が覚えていない物語の起点となる7年前の出来事。主人公が家を出て学校に行くという同じ場面にもかかわらず、脚本を書く人が違うと視聴者の得られる情報が全く違うことがよくわかる。竜宮島が本土から離れた離島であるということはアニメ(総士は東京に行った)とコミカライズ(中学卒業後の進路)で違う形で表現されているが、コミカライズでは竜宮島が離島であることと同時に中学卒業とともに島を出たいという一騎の気持ちも描かれているので、コミカライズの方が情報が多く、一枚上手である。

 

 主人公の登場を遅くすることで視聴者にインパクトを与えるというやり方もあるが、その場合は『EXODUS』1話のように登場人物が主人公の名前を何度も言って期待感を持たせるのが、一般的である。

 

・「東京へ行く」から「島を出る」へ

真矢「皆城君、東京どうだった?」
一期1話

一騎「東京は? 大阪は?」
一期2話

 竜宮島が本土から離れた島であることは第1話と第2話で東京という言葉を使って表現されているが、その後も東京が島の外の世界を意味する言葉として使われている。

広登「俺、東京で働きたい。
   東京行ってスターになりたいんだ」

弓子「絶対、東京でアイドルになるー!」
一期10話

 以上のことから冲方丁が脚本に参加する前、子どもたちのイメージする島の外の世界は「東京」という言葉で表現されていたが、冲方丁がイメージする島の外の世界は「東京へ行く」ではなく「島を出る」である。ファフナーの一期は2146年、つまり今から130年後の世界が舞台であるが、島の外の世界=東京では現代の日本人の感覚となんら変わりがない。しかし、これが「島を出る」という言葉に変わると世界観は一変し、今とは価値観の違う時代の物語だと感じられるようになる。

 一期の放送終了後、6話までの内容を冲方丁独自の解釈で書いたノベライズが刊行されたが、その中での一騎の中学卒業後の望みは「俺のこと、誰も知らない場所へ行く」(※1)ことだった。また甲洋も中学卒業後、島を出ることを望んでいた。

「なあ……甲洋は来年になったら、どうする」
 何となく答えを予想しながら、訊いた。
「島を出るよ」
「そうか」
「お前も多分、そうするんだろう? 一騎?」
「ああ」

『蒼穹のファフナーADOLESCENCE』(早川書房)

 しかし、フェストゥムの襲来とともにそれまで信じていた世界は崩壊し、島から出るという夢はかなわないことを知ってしまった。総士の指示に従って戦い続けた一騎だが、次第に総士の考えていることがわからなくなってしまった。一騎はこのまま戦い続けることはできないと感じるようになり、総士と同じものを見れば総士を理解できるかもしれないと考え、島を出た。

一騎「ただ知りたいんだ。
   知らなかったことで、後悔したくない。
   だから島を出る」
ドラマCD『NO WHERE』

総士「島から出て行く者に興味はありませんよ」
一期10話

 一騎が島を出た後、島の外の世界は「東京に行く」ではなく冲方丁のイメージする「島を出る」となり、シリーズを通して重要な言葉になる。

 一期の後に制作された『RIGHT OF LEFT』において、子どもが島から出ることは中学校の卒業であると同時に大人になることを意味していた。一期で「東京に行く」と言っていた弓子と広登が『EXODUS』では島外派遣に参加することになり、冲方丁の言葉である「島を出る」という形に変化した。個人的にはザインとニヒトがシュリーナガルへ旅立つ時、総士が「島を出る」と言っているのが印象に残る。

総士「そのために日野美羽を送り出し、僕らも島を出るんだ」
『EXODUS』8話

 『RIGHT OF LEFT』までの島の子どもたちはメモリージングが開放された後、卒業となり船に乗って島から出ていった。つまり島の子どもたちが大人になるということは学校を卒業し、島を出ることだった。竜宮島が戦闘状態になった後、高校が新設されたが、一騎たちの世代以降は世界の真実を知ってしまったため、学校を卒業後、先輩たちのように島を出ていう形は取らなかった。一騎たちの以降の世代は学校を卒業したものの島を出ていないということは、大人になっていないことを意味している。しかし、一騎たちの世代は先輩たちのように形式的ではなく、本当に島から出て行くことを選んだ。(※2

公蔵「古き世界から去ることを決めた」
ドラマCD『THE FOLLOWER2』

 つまり一騎たちの世代も先輩たちと同じように学校を卒業し、島を出るという形でで大人になるということが表現されたのである。それは広登はダッカ近郊、暉と総士が海神島と、島のファフナー・パイロットはすべて島の外でいなくなっていることからも明白である。

 

 島外派遣の準備中、島の外へ行くことへの期待と不安が入り混じっている子どもたちとは対称的に溝口が帰ると言っているのが印象に残った。

溝口「必要最低限のメンバーで迅速に目的を達成し、とっとと帰る」
『EXODUS』5話

 子どもたちにとって竜宮島とは巣であり、大人になる時に出て行く場所だが、その巣を守る大人にとっては帰る場所ということになる。

 

・父の背中

 abemaTVで一期1、2話を放送した後、羽原監督が「総士が見た父の最後の姿は背中です。もしかしたらこの後ずっとこの後ろ姿を追い続けているのかもしれません。」とツイートしていたけど、ドラマCD『THE FOLLOWER2』の総士のこの言葉を思い出した。

総士「父さん、僕は長い間、あなたのように考えることを課してきた。
   だがもう、そうはしないでしょう。
   ただ閉じこもり、自ら対話の道を拒むと言うなら
   今の僕はその選択を、この島のあり方を否定する」
ドラマCD『THE FOLLOWER2』

 ずっと総士は父の後ろ姿を追っていたけど、『EXODUS』の最後で総士はその父の後を追うのをやめた。このドラマCDにおける総士の最後の言葉は「本当のお別れですね、父さん」。最終的に総士は父を乗り越え、自立した大人になった。

 

※1 『蒼穹のファフナー ADOLESCENCE』(早川書房)P54。「一騎君は、あと一年経ったら……どうする?」という真矢の質問に答えた言葉。

※2 竜宮島を出ていった経緯については『蒼穹のファフナー EXODUS』BD/DVD11巻に付属のドラマCD『THE FOLLOWER2』を参照。

 


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