【蒼穹のファフナー】脚本から見る第2話~第7話

 【蒼穹のファフナー】脚本から見る第1話の続きになります。個人的に6 話までは尺に対して話の密度が低いので、全体的なテンポも遅め。しかし、7話以降は尺に合った話の密度があるので、展開がまどろっこしいことを除けば、そんなに悪くないと思っています。

 

・嘘をつく大人

弓子「ただいま。
   あっ、ごめんね、職員会議で遅くなって」
真矢「まだ嘘つく気なの、お姉ちゃん」
弓子「もしかして、怒ってる、みたいね」
一期2話

 何度見てもあまりにも唐突で疑問符が頭に浮かぶ場面。この後の史彦の台詞「なぜ黙ってたかなんて、俺に聞くなよ」と合わせて考えると、世界の真実を隠していた大人に対する子どもたちの怒りを表現しているのだと思う。ただ、真矢が怒りをぶつけている相手が親ではなく、子どもに近い姉なので、本来の意図が見えにくくなっている。一期6話で翔子がいなくなるまで、真矢はヒロイン(翔子)の女友達というポジションにもかかわらず、一期1話冒頭の登校シーンも含め、なぜか脚本上では重要視されている。

 真矢と弓子の間で描かれた「嘘をついていた親に対する子どもの怒り」というテーマは羽佐間翔子と容子の間で繰り返される。

翔子「私の体が元気になる日って来るの」
容子「来るに決まってるわよ。
   元気なお母さんの娘じゃない」
翔子「うん」
一期5話

翔子「私たち、生まれた時から戦うことが決まってたんでしょ。
   自分の意志で戦いたいの。
   それくらい許されるでしょ。
   あなたの、子供じゃないんだから」
一期6話

 一期1話と2話の「東京」と同じく、このテーマでも同じ内容を二度描くと、話は一向に広がらず、同じ場所を堂々巡りしているという印象を与える。ちなみに2話の真矢と弓子の会話はコミカライズでは削除されている。

 6話で容子は娘の翔子から嘘をついていたことを咎められた故に、10話で放送室に立てこもった広登を説得する役割を担ったのかもしれない。

容子「いろいろと秘密にしていたことは謝るわ。
   でもそれは、あなたたちに平和の大切さを知ってほしかったからなの。
   この島に住むまで、先生たちは戦争しか知らなかった」
一期10話

 

・マークゼクス

史彦「ああ、マークゼクスを新国連に渡す」

史彦「マークドライとマークフィアの最終調整を急いでくれ」
一期5話

 エルフの次に完成したファフナーはゼクスだった。総士が「マークゼクスのパイロットは羽佐間翔子が一番適してる」(※1)と言っていたように、ゼクスのパイロットとして想定されていたのは翔子だった。しかし、3話で一騎に続くパイロットとしてファフナーの訓練を受けていたのは、咲良(ドライ)、甲洋(フィア)、衛(フュンフ)、剣司(アハト)の4人。翔子もパイロット候補ではあるが、身体的なハンデがあるので訓練は受けず、CDC配属となった。翔子のシナジェティック・コードが一騎、改竄前の真矢の次くらいの数値なら訓練なしでファフナーに搭乗したとしても、操縦できることに納得できたけど、残念ながら翔子の数値はあまり高くない。衛と剣司の間だった。

 咲良、甲洋、衛、剣司の訓練時の様子を見ていると、6話で翔子は初めてファフナーに乗ったにもかかわらず、一騎と同じように操縦できたというのは何か理由がないと納得できない。ゼクスは新国連に引き渡す機体ということで、竜宮島側の設定が詰めきれていないのは残念だ。

 

・6話の演出の問題点

 翔子が設定したフェンリルが起動するまでの時間は4分。映像では3分50秒ほどあるのですが、映像で4分間緊張を維持するのは難しい。同級生と容子が外に出て空を見上げ、一騎が「翔子!」と叫ぶシーンまでが見ている側の感情のピークで、ここでフェンリル起動となるのが演出の定番。しかし、実際にはここから1分近い回想シーンがあり、それが見ている側の緊張感を削いでしまう。そのため気持ちが冷めたところで、フェンリルが起動しても見ている側の感情は動かない。

 

・一騎と総士の気持ちのすれ違い

 一騎と総士の関係を理解できていない一期の初期の脚本だが、設定に基づいて二人の関係をうまく捕らえていた場面もある。

総士「僕に必要なのはこの左目の代わりになるものだけだ」
一期10話

 総士には一騎が自分の左目の代わりに戦ってもらっているという負い目があるので、作戦時のミスで一騎が責められる時、総士がいつも一騎をかばっていた。

史彦「なぜ命令を無視して新国連機を助けた」
総士「すべて、僕の責任です」
一期4話

甲洋「お前なら助けられたはずだ。
   お前はファフナーに乗っていたじゃないか。
   お前なら…」
総士「あの状況では無理だった」
一期7話

 しかし、戦うだけで精一杯の一騎には総士のわかりにくい気遣いは届いていなかった。

一騎「だから俺に戦って死ねって言いたいんだろう、総士」
一期15話

 総士がいくら不器用とは言え、一騎にここまで誤解されていたとは。

 

・堂々巡り

 第7話で親から犬を甲洋が預け先を探して友達の家を尋ねていく場面は、第3話で真壁司令と遠見先生がそれぞれの家を回って適正証(いわゆる赤紙)を渡すシーンを思い出す。

 第3話で真壁司令と遠見先生は要家→近藤家→羽佐間家→春日井家の順で回り、小楯家と遠見家では渡すシーンは描かれず、受け取った後の家族の反応が描かれた。第7話で町を歩く甲洋が会った人は真矢→衛→剣司→一騎→容子の5人。その結果、第3話と第7話というあまり離れていない話数で、キャラクターが主要キャラクターの家を尋ね歩くというシーンが繰り返されてしまった。さらに第2話で戦闘が終わった後、子どもたちが家に帰るという場面もあり、結果的に7話までの間に同じような映像を3回見ることになってしまい、映像作品の脚本としてはあまり褒められたものではない。個人的に複数のパイロットとその家族との関係を短時間でうまく描写したのは、第19話のラストだと思う。

 

 第7話までの脚本を見るとパイロットとその候補生の子どもたち7人(一騎、真矢、翔子、甲洋、咲良、剣司、衛)を均等に描写しなければ、という意思を強く感じる。群像劇を狙っていたのかもしれないが、残念ながら製作者にその人数のキャラクターを描くだけの技量がなかった。(※2)結果的に主人公である一騎の描写が少なくなり、自分の考えを言葉にせず抱え込む性格ということもあり、何を考えて行動しているのか全くわからないキャラクターになってしまった。冲方丁によるノベライズを読み、ドラマCDを全部聞いた後も、私にとって一騎は掴みどころのないキャラクターであり、一騎を理解したのはシリウス版コミカライズの2巻を読んだ後(!)である。

 

P.S. 初見時から疑問に感じていたことに対する自分なりの答えを書いているだけなのですが、気がついたら映像作品向けのシナリオ講座と化してしまった。しかし、冲方丁が脚本を書く前の疑問点は『RIGHT OF LEFT』以降の作品でほとんどの解決策が示されている。

 

※1 一期6話

※2 冲方丁がノベライズを書く時、「この半分でいいやーー。すぐさま主要人物を、ばっさり半分に。切断。ずばっ」(『【冲方丁式】ストーリー創作塾』(宝島社)から引用)と言って登場するキャラクターを減らしたことを思い出した。

 


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