【蒼穹のファフナー】一期からEXODUSへ

 【蒼穹のファフナー】脚本から見る第1話及び【蒼穹のファフナー】脚本から見る第2話~第7話の続きになります。今回は脚本に冲方丁が参加した後の話数について書いたため、『EXODUS』までのネタバレ内容を含みます。それに加えてabemaTVでの放送の後、個人的に見た『HEAVEN AND EARTH』の感想があります。

 12月27日にニコニコ生放送で一期と『EXODUS』の一挙放送が行われますが、4クールを一挙に放送するので24時間連続というすごいスケジュール。ニコ生では放送しない『HEAVEN AND EARTH』は1月2日21時からAbemaTVで放送予定。

 

・父の思い-史彦と一騎-

史彦「彼女が教えてくれたものは私にもまだ遠い。
   一騎にもそれを教えるべきかまだ分からない」
一期13話

 13話で印象に残るのは史彦のこの台詞。アニメでは史彦の一騎に対する気持ちが具体的に描かれていないが、ノベライズにある「土に触れても、歪まないでいられる方法を、教えてやろうか」(※1)という台詞と重ねると史彦の本心が見えてくる。ファフナーに乗った時点で一騎が普通の人生を送るのは難しくなったが、一騎に母、紅音の考えを教えた場合、一騎が母の後を追ってしまう可能性は否定できず(※2)、史彦はそうなることを恐れていたのではないだろうか。

 『EXODUS』を見る前はドラマCD『GONE/ARRIVE』での史彦と一騎の会話から総士がイドゥンに連れ去られて生死不明となった時、一騎は親離れし、父ですら一騎の行動を止めることはできなくなった。(『HEAVEN AND EARTH』での「俺がやる、お前が望むなら」という台詞からわかるように、一騎がその命に従うのは総士ただ一人であり、父、史彦がザインへの搭乗を禁じても、必要とあらば一騎はザインに乗って戦った。それ故『HEAVEN AND EARTH』の後、アルヴィスはザインを封じ、一騎のザインへの搭乗を禁じた)しかし、『EXODUS』視聴後に一期を見直すと、一騎は島の外の世界を見て、母、紅音の考えを知った後、つまりザインに乗った時に親離れしてしまったように感じた。

 一期24話でミョルニアが竜宮島を訪れ、史彦と話したが、ミョルニアという存在について史彦が出した結論はドラマCD『GONE/ARRIVE』で描かれている。

一騎「あの、母さんは」
史彦「違う、あれは紅音ではない。
   お前の母さんはもういない」
ドラマCD『GONE/ARRIVE』

 これを引き継いだ会話が一期24話ラストにある。

一騎「父さん、帰ってきたら教えてほしいことがあるんだ」
史彦「何をだ」
一騎「土の触り方とか皿の焼き方」
史彦「ああ、教えてやる。
   俺がお前の母さんから学んだことを」
一騎「ありがとう、父さん」
一期24話

 これ以降、史彦がミョルニアと紅音について話すことはない。『HEAVEN AND EARTH』でミョルニアが一騎と史彦と話す場面がなかったことからもわかるように、真壁父子とミョルニアの関係は一期で完結したということになる。実際、ミョルニアという存在を理解し、その結果、紅音がいなくなったことを受け入れた史彦は『EXODUS』で一騎に「俺はもう歪まない」(※3)と自慢している。

 結局のところ、史彦は直接一騎に母、紅音の考えを教えることはなかったが、一騎は日野洋治を通じて母、紅音の考えを知り、日野洋治の作ったザインを受け取った結果、一騎は母の意思を継ぐ者になった。史彦がそのことを知る日は来るのだろうか。

 

・同化=食べる

 一騎「食った、母さんを食った
一期13話

 この時、イドゥンがミョルニアを食べる形で同化したので、一騎はフェストゥムに同化されることを「食べる」と表現している

カノン「みんなフェストゥムに食われた
一期17話

 一期でのフェストゥムの攻撃はワームスフィアもしくは同化だが、おそらく一騎と同じくカノンもフェストゥムに同化されることを「食べる」と表現したのだと思う。DVDの解説書では子供の頃、総士が一騎を同化しようとした行為も「食べる」と表現されている。

「相手と融合して、二人で一人に違う存在になってしまいたい」という欲求をコントロール出来ず、もう少しで真壁一騎を「食べてしまう」ところだった
【皆城総士・左目の傷】ファフ辞苑9(※4

 『EXODUS』で島のファフナー・パイロットに発症したSDPとは人がフェストゥムの能力を得ることだった。それは一期で島のコアが人の感情や生と死を受け入れて人を理解したように、今度は人がフェストゥムの力を得てフェストゥムを理解しろと言われたようなものだ。SDPの発症した芹は食事を食べることなく同化してしまったが(※5)、これでフェストゥムの同化とは地球の生物の価値観では食べることであるという構図が明確になった。芹はその後、リヴァイアサン型に同化されそうになった時は「あたしを食べたかったんだ」(※6)と表現し、そのコアを同化する時は「食べさせて、あなたの命を」(※7)と言った。この構図を一番わかりやすく表現しているのは操と美羽の会話だろう。

 操「ねえ、助けたんだから君を同化してもいいよね」

美羽「世界中のみんなが平和になってだれも悲しくて痛くなくなったら美羽を食べていいよ」
『EXODUS』22話

 この時、ボレアリオス・ミールのコア、つまりフェストゥムである操が「同化する」と表現した行為を人間である美羽は「食べる」と表現している。

 

・『RIGHT OF LEFT』~冲方丁からの解決策

鈴木「そういえば、『RIGHT OF LEFT』って、元々蔵前をもうちょっときちんと描きたいっていうところから始まってるんですよね」
羽原「そうです」
『蒼穹のファフナー』スタッフ座談会(※8

 この言葉からわかるように『RIGHT OF LEFT』の始まりは1話でいなくなった蔵前を描くことだった。しかし、冲方丁はこの作品の主人公である僚に翔子と甲洋の持つ要素を持たせることで、翔子と甲洋を通して一期で描きたかったことを書く、いわばリベンジという側面も持っている。僚が持っている翔子、甲洋の要素は以下の通り。

 ・翔子と同じ病(肝臓)を患う。
 ・犬が飼えなくなり、引き取り手を探す。

 遠見医院で僚と翔子が病気について話しているが、その場面で一期では描写不足だった翔子の本心が語られている。また、僚も甲洋と同じく外的要因から飼い犬を手放さざるを得なくなり、新たな飼い主を探すことになった。甲洋は引き取り手を探して友達の家を訪ね歩くが、【蒼穹のファフナー】脚本から見る第2話~第7話の堂々巡りの項で指摘したように、パイロットの家を順に訪れるという描写は第3話で使っていたため、第7話では映像的に同じ描写が繰り返されるという形になってしまった。そのため、僚は逆に犬を連れ歩くという形を取った。僚はアルヴィス内で引き取り手を探し、最終的にアルヴィス内で引き取り手を見つけた。

 私は【蒼穹のファフナー】脚本から見る第2話~第7話で「冲方丁が脚本を書く前の疑問点は『RIGHT OF LEFT』以降の作品でほとんどの解決策が示されている」と書いたが、『RIGHT OF LEFT』において翔子がファフナーに乗る動機を補い、一期第3話と第7話で映像的に同じ描き方になっている部分に対する解決策を示した。

 

・すり替わった主人公

 一期製作時、物語の主人公は紛れもなく一騎だった。しかし、冲方丁は自身が脚本を書いていない時からあった各話ラストの総士のモノローグをうまく利用し、『RIGHT OF LEFT』以降、『蒼穹のファフナー』というシリーズ全体の主人公を総士にしてしまった。『RIGHT OF LEFT』を見た後に一期を見直すと、冲方丁が脚本に参加する前の総士の行動が理解できるようになり、総士の視点で物語を見てしまう。『HEAVEN AND EARTH』では総士不在のため、まだ一騎が主人公だと感じられるが、『EXODUS』では物語の主人公は完全に総士になっていた。


 

 以下は個人的に『HEAVEN AND EARTH』を見直した時のメモ。コメントを読みながらみんなで見るのは楽しいけど、一人で見ると作品に集中できます。

・和平交渉

乙姫「憎しみ以外にも道はあるはず。
   一緒に探してあげて、お願い、史彦」

総士「希望は蹂躙された。
   彼らは苦しみと憎悪に満ちている。
   すまない、一騎。
   これは賭けだ」
『HEAVEN AND EARTH』

 一期ラストで総士が北極ミール側へ行ったことにより、総士と乙姫が北極ミールと竜宮島にそれぞれ働きかけ、この二者の対話、いわば和平交渉を仕掛けた。

一騎「総士がお前に望んだことは、何なのか。
   お前は、お前たちのミールに伝えるってことなんじゃないのか」
 操「伝える? 何を?」
『HEAVEN AND EARTH』

 北極ミールの代表が来主操で竜宮島の代表が一騎。北極ミール側は話し合いを放棄し、力で解決しようとしたが、一騎は最後まで話すことを諦めなかった。その上、一騎は自分が同化されいなくなる危険を冒してでも、ニヒトに縛り付けられた操を開放した。そのことにより操の気持ちを動かし、操は自分の気持ちをミールの伝えた。操は一騎と同じように自分の身を犠牲にして人類の火を消したことにより、操の属する北極ミールと竜宮島の間で和平が成立した。

 

・故郷に帰る物語

ミョルニア「この島が、私の帰るべき場所だと」

   総士「ありがとう一騎。
      島を、僕の帰る場所を守ってくれて」
『HEAVEN AND EARTH』

 『HEAVEN AND EARTH』は北極ミールの側に行った竜宮島の住人が島に帰る物語だった。自らの身体を再び作り出した総士はともかく、ミョルニアは紅音がフェストゥムを祝福したことにより生まれた紅音の記憶を持つマスター型のフェストゥムであり、紅音ではない。ミョルニアは一度は北極ミールに同化されたものの、その後、北極ミールと拮抗し再び存在を得た。その北極ミールが砕け散ったことにより、ミョルニアは自らが属する場所を失ってしまった。しかし、一期24話でミョルニアが竜宮島を訪れた時、乙姫は「おかえり」と声をかけ、受け入れていた。そのため、紅音の記憶を持つミョルニアは最終的に自分が属するべき場所は竜宮島であると認識し、そこで自らの役割を果たしていなくなった。

 

 『EXODUS』はシュリーナガルの住人が故郷を出て、新天地を目指す物語だったが、竜宮島の島外派遣組にとっては故郷に帰る旅だった。

真矢「今いる人たちみんな、帰る場所を失って、取り戻そうとして旅してる。
   一騎くんも皆城くんも帰る場所があるんだよ。

総士「帰る場所、それが僕たちの求めるものだったのだろう。
   どこかにある希望と平和の場所へ、2万人が帰り道をたどった」
『EXODUS』14話

 『EXODUS』の中盤まで竜宮島の物語は『RIGHT OF LEFT』、一期、『HEAVEN AND EARTH』と同じく島の外に出た者が「故郷に帰る物語」と見せかけていた。しかし、溝口さん以外の竜宮島で生まれた子世代にとってはかつて故郷を追われた親世代の追体験、つまり新天地を目指す旅というニュアンスを含んでいた。その「故郷を出て、新天地を目指す」という隠されていたテーマが表面化するのは、新国連に囚われていた広登と真矢を含む島外派遣組が全員、竜宮島に帰った後だった。物語は『旧約聖書』の「出エジプト記」(英語のタイトルは”EXODUS”)と同じく、竜宮島の住民全員が竜宮島を出ていったところで終わった。

 

※1 冲方丁『蒼穹のファフナー』(電撃文庫)207ページ、冲方丁『蒼穹のファフナー ADOLESCENCE』(ハヤカワ文庫)207ページ、松下朋未『蒼穹のファフナー』2巻89ページ。

※2 『EXODUS』22話で史彦は一騎について「母親に似て、信じた道を最後まで進みたがる」と説明している。

※3 『EXODUS』4話

※4 一期のバラ売りDVD、DVD-BOX、BD-BOXに掲載。

※5 『EXODUS』12話。芹は食事を同化した後、「ごちそうさま」と言っている。

※6 『EXODUS』20話

※7 『EXODUS』20話

※8 『蒼穹のファフナー Blu-ray BOX』付属のブックレットに掲載。

 


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