蒼穹のファフナー EXODUS 第26話-9「竜宮島と新国連」

 一期と『HEAVEN AND EARTH』では一騎=人、総士=フェストゥムという構図で傷つけ合った人(竜宮島)とフェストゥムの和解を描いた。『EXODUS』は日本(竜宮島)と新国連との和解の物語だった。和解するためにはまずそれぞれの罪を自覚し、償わなければならない。

 

●竜宮島

・一騎の罪

 一期で一騎は人類軍にマークエルフを奪われ、自身は捕虜になった。一騎が捕らえられていたたモルドバ基地がフェストゥムに襲撃され、一騎はその混乱に乗じて脱走。日野洋治からマークザインを託され、モルドバ基地を襲撃したフェストゥムを殲滅した後、竜宮島に帰還した。

史彦「お前は重要な戦力を持ち出し、島の機密を露営した。
   アルヴィスの総意によっては追放もありうる。
   処分が決定するまでここでおとなしくしていろ」
一期17話

 島に戻ると父親から謹慎処分を言い渡されるが、最終的にマークエルフを人類軍に奪われたことへの罪は問われなかった。『EXODUS』で一騎が人類軍の捕虜になった時に採取された遺伝子からマカベ因子が作られ、人類軍で広く使われていること知った。ビリーが言うように人類軍の兵士にとっては「素質が足らない人間でもファフナーが操縦できるようになる薬」(※1)だった。しかし、それは諸刃の剣だった。

総士「彼らの年齢で染色体変化と同化現象を受けたなら、
   20代の終わりまで命が持たない。
   それが彼らの生存限界だ」
一騎「なのに俺は、感謝されたのか」
『EXODUS』3話

 一騎は一期で無断で島を出て、島の秘密を漏らしたことに対する罪をこの時、自覚することになる。一騎はその罪を『EXODUS』9話、シュリーナガルの人類軍のファフナー・パイロットの同化現象を肩代わりすることで償う形になった。

ウォルター「半数が生存、死亡した者も同化されていない。
      皆、返ってきた。
      どういう奇跡なんだ、これは」
『EXODUS』10話

 これまで人類軍で敵に同化された者が生きて帰ってくることはありえないし、同化された者は結晶となり粉々に砕け散るため、亡くなった者の遺体があるということもなかった。一騎が行った行為はまさに奇跡だった。

 

・ミツヒロ・バートランドの罪

ミツヒロ・バートランド
(竜宮島を)脱島した後、新国連の上席技官となったミツヒロは、竜宮島の情報を人類軍に漏洩している。それがフェストゥムに対して有効な戦力になると考えているからである。
Arcadian Project report 05(※2

 『EXODUS』22話でアルゴス小隊によってマークジーベンが捕獲され、真矢は新国連の捕虜となった。真矢は竜宮島で育ちながら一騎を守るためならと言って人類軍の兵士と同じように人を殺すことを厭わない真矢にヘスターは自身や父、ミツヒロと同類だと感じたのだろう。ヘスターは真矢に新国連での父の仕事を見せ、真矢を自らの陣営に引きこもうとする。

ヘスター「あなたには多くを知ってもらうわ、真矢。
     父親の意思を継いでもらうために」
『EXODUS』22話

 真矢はヘスターとの取引に応じ、マークレゾンのテストパイロットとなる。部屋では傍らに自分が撃ち落とした爆撃機の乗務員の資料を置き、自分の罪と向き合う。

 それでも真矢はヘスターと別の道を進むことを選んだ。

真矢「あなたが…この先もたくさんの人を犠牲にするなら…
   人が人の敵になるなら…私が、止めます」
『EXODUS』23話

 最後に真矢は自分の罪と向き合い、自分が父ミツヒロとヘスターと同類であることを認めた。

真矢「あなたは平和を捨てた人。
   あたしの父も。
   あたしもそう。
   生きるために。
   誰かを助けるために。
   それ以外の人たち全部犠牲にできる人」 『EXODUS』23話

 しかし、真矢はヘスターのみならず、父ミツヒロに永遠の別れを告げ、別の道を行くことを選んだ。

真矢「さよなら、一騎くん」
『EXODUS』23話

 この言葉は同時に父への別れの言葉でもあった。真矢は父と決裂し失うことで、父の罪を償うという形になった。『EXODUS』26話のラストで溝口が真矢を撃とうしたビリーを射殺したことで、溝口が真矢の父ともいうべき存在になった。

 

・里奈の気持ち

 竜宮島は一期15話~17話で人類軍に占領され、『HEAVEN AND EARTH』で人類軍は島ごと消そうとした。島民の中には里奈のように新国連に対して反感を持っている者がいるはずである。

里奈「あんたら、あたしらになにした。
   島を占領してさ、爆弾落としてさ」
『EXODUS』3話

 竜宮島が新国連と和解するには島民のこの気持ちを解消する必要がある。

 

暉「広登は世界を見れてよかったって言った。
  平和を広める価値を知ったって。
  俺もそう思う」
『EXODUS』24話

 志半ばで亡くなった広登の世界に平和を広めたいという気持ちを暉は引き継いだ。

ウォルター「ずっと君たちに謝りたかった。
      太平洋方面509混成航空部隊サジタリウス爆撃隊元副操縦士、それが俺だ。
      3年前、俺たちが君の島を爆撃した」
    暉「なんで話す。
      お前がスパイか」
ウォルター「好きにしていい。
      でも俺を撃てば君は後悔する。
      この命は他で使わせてくれ」
『EXODUS』19話

 暉は広登の言葉を胸に抱きながら複雑な心境で『HEAVEN AND EARTH』で竜宮島を攻撃した爆撃機に乗っていたウォルターから直接謝罪の言葉を受け取った。

    暉「俺たちを、憎んでたんですか」
ウォルター「いや、単に命令を実行した」
    暉「あなたをどう憎めばいいかわかりません。
      許すことだってできませんし」
ウォルター「そうか、そうだよね」
    暉「竜宮島に来ませんか。
      俺たちの故郷を見て下さい。
      空からじゃ、何を壊そうとしたかわからないでしょう」
ウォルター「美しい島だと聞いた。
      君がそうさせてくれるなら、この目で見たい。
      ありがとう」
『EXODUS』21話

 だが、人間はそう簡単に謝罪の言葉を受け入れることはできない。暉はウォルターを許すことはできず、竜宮島を知ってほしいと言うのが精一杯だった。

 残念ながらウォルターが暉の望みを叶えることはできなかった。ウォルターはアショーカとシュリーナガルの住民が竜宮島が合流する時、アルゴス小隊に捕らえられたマークジーベンを助け、自らはフェンリルを使って敵ともも自爆した。

 暉「島に爆弾を落とした人に会ったよ」
里奈「えっ」
 暉「いい人だった。
   俺たちを守っていなくなった。
   譲ってもらった命。
   捨てる気はない」
里奈「お腹すいた。
   作ってよ」
 暉「カレーでよければ」
『EXODUS』24話

 長い旅は終わり、竜宮島に戻った暉は里奈にウォルターのことを話すが、里奈は会話を中断した。暉の気持ちは里奈には届かなかった。

 暉がいなくなった時、暉が伝えたかったことがやっと里奈に伝わった。

暉「ウォルターさんに島に来てくれって言った。
  その時思ったんだ。
  広登の無事がわかったら、別の願いを書こうって。
  世界中に竜宮島の平和を知ってほしい。
  そのために俺は生き残る」
『EXODUS』25話

傷つけられた人が傷つけた人を許すのは困難である。ウォルターの謝罪の気持ちを竜宮島に伝えるためにはウォルター自身の命の他に、広登、暉という里奈の同級生二人の命が必要だった。そして、里奈の手元に広登と暉がいたという証であるビデオカメラとお守りが残された。

 

●新国連

 このblog内の 蒼穹のファフナー EXODUS 第22話-2『旅路の果て』 より引用。

『EXODUS』15話でシュリーナガルからの避難民はダッカへたどり着く直前にはダッカ基地部隊から攻撃され、人とフェストゥムの両方との戦いを避けるために、壁を越えて人の住まない地へ進むことを余儀なくされた。ここからが「エグゾダス」本番だったわけですが、シュリーナガルからの避難民と共に行動する島の子供たち-一騎、総士、真矢、暉はアルヴィスを建設して核を落とされて消滅した日本から脱出し、世界から隠れた親世代と同じ体験をすることになった。

シュリーナガルからダッカ、そしてハバロフスクで竜宮島と合流するまでの旅は一騎、総士、真矢、暉にとっては自らの親世代の追体験であったが、視聴者は2118年以降、日本が人類軍からどのような攻撃を受け、どんな視線で見られていたのかを目の当たりにすることになった。(後略)

ナレインがシュリーナガルのミールを根付かせる新天地として選んだのは第三アルヴィスだった。新国連が葬った島を新国連内部の人間がよみがえらせるという形になるが、おそらくそれが2118年以降新国連が日本に対して行った行為に対しての贖罪、そしてアルヴィスとの和平の証になるのだろう。

 アショーカと避難民のシュリーナガルから海神島までの旅を支えたエスペラントとペルセウス中隊は全滅。2万2千名の避難民のうち1万7千名が犠牲になった。竜宮島のファフナーのパイロットも広登、一騎(人としての寿命は尽きた)、暉、総士が犠牲になり、残ったのは真矢一人。避難民でさえ犠牲になったこの旅そのものが、かつて新国連が日本に対して行ったことに対する償いだった。ファフナーのパイロットとしてはただ一人生き残った(一騎は人間をやめている)真矢は、真実を知る紛争調停者(※3)である。

 

 竜宮島は島の宝=情報を持ちだした一騎とミツヒロの罪が問われた。一騎は自らの罪を自覚し、自らで罪を償った。ミツヒロの罪は娘の真矢に突きつけられれ、真矢が父との決裂という形で償った。ナレインが新国連が消した第三アルヴィス=海神島を多大な犠牲を払った上でよみがえらせることで、新国連側の罪を償う形になった。

  陳晶晶「剛瑠島部隊より報告。
      照合、第三アルヴィス」
ジェレミー「本当に…存在した」
   史彦「ようやく見つかったな」
 ナレイン「すべて君たちのお陰だ。ありがとう」
   史彦「ああ」
 ナレイン「この島のコアに感謝する。
   織姫「行きなさい、新たなミールが近づいている。
      もう時間がない」
 ナレイン「うん。
      1万7千名を犠牲にして運んだ希望だ。
      必ず成し遂げる」
『EXODUS』24話

 竜宮島と新国連の間に和解が成立し、島の宝=情報が世界に公開された。

史彦「人類軍の兵士たちに告ぐ。
   現在、我々は、新たに到来するミールを
   人類に有益なものとする作戦を遂行中である。
   我々の成果であるすべてのデータを、諸君に提供したい」
『EXODUS』26話

 もはや島の持つ戦力、情報は一部の人間が独占し、秘匿されるものではない。

 

※1 『蒼穹のファフナー EXODUS』第3話。

※2 『蒼穹のファフナー』一期バラ売りDVD5巻のリーフレットより引用。

※3 竜宮島回覧板 EXODUS第1号より引用。