あなたとわたしにとって、人種は争うものではない
あなたとわたしにとって、人種は定義ではない
あなたとわたしは、意見が同じである
For you and me — Race is not a competition
For you and me — Race is not a definition
For you and me — We agree
Rush / Alien Shore
・凍りついた時間
【ザルヴァート・モデル】「一体でも多く敵を倒す」ことを目的として設計されており、強力な同化能力を持つ反面、確実にパイロットの生命を奪う。 竜宮島回覧板 EXODUS 第7号(※1)
『EXODUS』21話で一騎は右腕が同化されて砕け散り、『EXODUS』22話でアザゼル型アビエイターを同化したものの昏睡。事実上、一騎はアビエイター戦で人としての命を使い切ったということで、いわば一期26話で一騎が救出をした総士と同じ状態。人として総士は14歳でいなくなり(※2)、一騎は20歳でいなくなったということになる。総士は祝福をした結果、存在の調和を得たが、一騎は逆にいずれ祝福をするという条件で、生と死の循環を超える命を与えられた。総士の命は有限、一騎の命は無限という対称的な形ではあるものの、一騎は『HEAVEN AND EARTH』のラストで帰ってきた総士と同じ状態である。総士の場合は命には限りがあり、いつか終わりがくる=時間が存在するが、一騎は祝福をするまでは無限=時間が存在しないということになる。ミョルニアのこの言葉を思い出した。
ミョルニア「多数の因子が彼女に共鳴することで
我々の中にある種の時間が生まれたのだ」
一期24話
真壁紅音を同化するまで、フェストゥムには時間という概念は存在していなかった。一騎はフェストゥムが元々持っている性質、つまり時間のない状態に留め置かれることになった。一騎は芹とは別の形でフェストゥムの特質-時間という概念のない状態-を体現する人となり、人の域に留まっている同級生の真矢、剣司、咲良とは別の時間軸で生きることになった。
一騎「まだ俺にも命の使い道があるなら、
それを知るために生きたい」
カノン「お前は世界の傷をふさぎ、存在と痛みを調和させるもの。
我々はお前によって世界を祝福する」
『EXODUS』24話
一騎の中の時間が動くのは一騎が自分の命の使い道を見つけ、島のミールとの約束である祝福を果たした時である。それは一騎の中の時間が動いた瞬間、一騎がすぐに同化されていなくなることをも意味している。
冒頭に引用した『竜宮島回覧板 EXODUS 第7号』の「確実にパイロットの生命を奪う」の「確実」は伊達ではなかった。一騎が事実上いなくなったのは2152年11月11日。総士より一騎が先に生存限界に達したことになる。実際、『EXODUS』7話でザインに搭乗した一騎はシステムから「パイロットのバイタルダメージが規定値を超えています」と言われ、起動するのも難しい状態だった。島を出てからおそらくザインとニヒトはほとんど一緒に起動していたと思われるが、やはり一騎の方が先に肉体的な限界に達していた。
・ニヒトと総士
【ザルヴァート・モデル】パイロットが同化してのち機体が暴走する可能性もあり、竜宮島では機体の封印措置が取られていた。 竜宮島回覧板 EXODUS 第7号(※3)
『EXODUS』の物語冒頭からザインとニヒトには明らかに自意識があると描かれていた。
総士「クロッシング? マークニヒト、マークザインまで。
封印された機体だ、いつまで取り付く」
『EXODUS』2話
小楯「ザインと一緒で機材を同化しちまうからな。
敵に奪われんよう、封印するしかない」
『EXODUS』3話
総士「島を滅ぼそうとした虚無の申し子が、無に還ることを拒むとはな」
『EXODUS』4話
一騎「ずっとこいつに呼ばれてる気がしてた。
ここにいる理由を教えてくれって」
『EXODUS』6話
一騎は一期15話で一緒に生まれ変わったザインの存在を受け入れているが、総士は『HEAVEN AND EARTH』で一緒に竜宮島へ帰ってきたニヒトを憎み、処分しようとしていた。しかし、総士は島のコアである織姫からニヒトに乗って戦うことを命じられ、黙ってその命令に従った。しかし、あくまでニヒトの力が必要なので使っているだけであって、総士自身のニヒトへの憎しみは消えなかった。一方、ニヒトはパイロットがいなければ、自らの存在理由を示すことができない。総士とニヒトは互いの利害が完全に一致していたので、共存関係が成立していた。
総士はシュリーナガルから竜宮島へ戻る旅の中でニヒトの力を使いながらも、最終的にニヒトを処分するという考えを捨てられなかった。だか、その考えは織姫から諌められる。
織姫「あなたが憎むマークニヒトはあなただけの器。
希望のための…。
捨ててはだめ」
総士「わかっている」
『EXODUS』22話
だが、織姫は同時に希望も与えた。
織姫「もうひとつの島に新しいミールが根付く時、
あなたとあなたの器が生まれ変わる。
そういう未来が見えるの」
総士「未来…」
『EXODUS』22話
総士は新国連の捕虜となった真矢を取り返すためにニヒトを交渉材料にはしたものの、新国連にニヒトを引き渡すことなく、真矢を取り返した。そして、織姫の言葉に従い、総士はニヒトのコックピットの中で同化されていなくなるという道を選ぶ。
総士「これがたどり着いた未来」
怖いかニヒト、僕もだ。
存在が消える恐怖。
痛みの根源か」
『EXODUS』26話
『EXODUS』3話で「必ず葬ります。僕の存在をかけて」とまで言っていた総士は最終的にニヒトと一緒にいなくなる道を選んだ。
ここで冒頭に引用した『竜宮島回覧板 EXODUS 第7号』の「パイロットが同化してのち機体が暴走する可能性もあり」にという言葉に戻る。ニヒトは総士が同化していなくなった時、一緒に生まれ変わることを選ばなければ、暴走という形で自分が本当にいなくなる可能性があった。ニヒトがこの後も存在し続けたいと思うのであれば、生まれ変わることを信じて、総士と一緒に無に還るしかなかった。総士は同化される寸前、ニヒトにこう言った。
総士「僕らも還ろう、命の源へ」
『EXODUS』26話
総士は存在と無の地平線を超えたとしても、存在し続けることを望んだ。また、ニヒトが生まれ変わった後も存在し続けるためには、パイロットである総士の魂が必要だった。
『EXODUS』26話のエンディングで一騎、甲洋、操がニヒトのコックピットで見つけた赤子はなぜかシナジェティック・スーツに包まれていた。つまりコックピットにいた赤子は生まれながらにしてニヒトのパイロットであることが運命づけられてしまったことを意味している。
総士「もし君がこの機体と出会うなら、それが君の運命となる」 『EXODUS』25話
総士はこう言っていたが、「君」は生まれた瞬間、ニヒトと出会ってしまった。
『EXODUS』26話を見た後に思い出したのは、一期15話のこのカットだった。
竜宮島のファフナー(ザインとニヒトを含む)のコックピットは子宮の位置にある。その理由について能戸総監督がインタビュー(※4)で説明している。
コックピットが女性の子宮の位置にあり、パイロットは赤ん坊のように逆さになっているという羽原監督の思考が凄いなぁと思いました。そこが一番安全だから、赤ちゃんがいると力説していた姿を見て、目から鱗でしたね。
この座り方でファフナーのコックピットが降ろされると、産道を通って出てくる赤子の姿そのままである。コックピットが子宮にあるというアイデアを昇華して、ファフナーのコックピットから象徴ではなく本物の赤子が生まれるとは思わなかった。
そういえば、一期1話で総士は初めてファフナーに乗る一騎にこう言っていたことを思い出した。
総士「今からはファフナーと一体化することを再優先で考えるんだ」
一期1話
しかし『EXODUS』で総士自身がファフナーに乗った時、ニヒトのコアは自意識を持ち、パイロットと一体化することが不可能な機体だった。そして、総士とニヒトは最後まで一体化することはなかった。ファフナーのパイロットとコアの一体化が同化現象と同じものだと見なすのであれば、ファフナーのパイロットとコアの関係はニヒトと総士の方が正しい解なのかもしれない。
カノンは『EXODUS』2話でザインについて「こいつは乗る人間の命を欲しがる」と言っていたが、その言葉は半分だけ正しかった。ザルヴァート・モデルは最終的にパイロットを同化してしまうが、自己が存在し続けるために次のパイロットをも欲しがるということ。そして、総士がニヒトといなくなることを選んだ時、同じザルヴァート・モデルのパイロットである一騎が祝福をした後、自分と同じ道をたどるであろうことを知っていた。
総士「そして互いの祝福の彼方で会おう、何度でも」
『EXODUS』26話
ザインとニヒトが存在を選ぶ限り、そのパイロットである一騎と総士の魂は転生し続け、何度でも出会う。
ニヒトが存在し続けることを選んだ結果が一期17話のこの言葉への回答だった。
千鶴「同化現象を起こしながら個体であることを保つ」
一期17話
・円環を描く三つのペア
一騎と総士
一騎はずっと総士を追いかけ、同じ位置に立とうとしていた。
ニヒト(総士)とザイン(一騎)
最終的に総士が同化していなくなったが、コアとパイロットが生まれ変わった。
ザインとニヒト
ニヒトは一期15話のザインと同じくパイロットと生まれ変わることを選んだ。
シリーズを通して、この三つのペアは常に相手と同じ存在になろうとし続けている。『EXODUS』終了時点で同じところまでたどり着いたのは、パイロットともに生まれ変わったザインとニヒトのみである。
一騎と総士、ニヒト(総士)とザイン(一騎)が同じところに到達するのに必要なのは次の通りである。
一騎と総士
一騎が世界を祝福する。
ニヒト(総士)とザイン(一騎)
一騎が同化していなくなった後、コアとパイロットが生まれ変わる。
一騎が祝福をして、ザインが一騎を同化して生まれ変わらせた時、一騎はやっと総士と完全に同じ位置にたどり着くことができる。その時、(ニヒト)⇔ザイン⇔一騎⇔総士⇔ニヒト⇔(ザイン)という三つのペアが美しい円環に描いて完成する。
一騎と総士が同じところにたどり着いたということは、同化して一つになったということを意味する。子供の頃、総士は一騎を同化していなくなろうしたが、一騎はフェストゥムとは別のやり方で総士を総士を同化しようとしていたということになる。同じ同化するにしても一騎のやり方であれば、個を持ち、互いがカウンターパーツ(※5)な存在なので、同化することなく、一騎と総士として存在することができると証明された。
そう、一騎と総士の関係が最終的にたどり着くのはやはりこの言葉である。
千鶴「同化現象を起こしながら個体であることを保つ」
一期17話
・竜宮島のミールが人から学んだこと
『EXODUS』で織姫と転生する存在となった総士はパートナーを得た。
竜宮島のコアである織姫は芹。
転生する存在となった総士は一騎。
それだけにとどまらず、ザルヴァート・モデルのコアでさえ、ずっと一緒にいるパイロットを欲しがった。
ザインは結局、一騎を手放さなかった。
ニヒトは総士と一緒にいなくなり、生まれることを選んだ。
フェストゥムやファフナーのコアが個を持った結果、一期16話で乙姫が芹にお願いした「あたしと友達になってほしい」という気持ちを理解したのかもしれない。『EXODUS』のDVD/BD 4巻に付属のドラマCD『THE FOLLOWER』では弓子がエメリーに「美羽のお友達でいてあげて」とお願いしている。個を持ってしまったフェストゥムは一人で生きることができない。
・『EXODUS』のシリーズ構成が意味するもの
一騎、総士、真矢の関係は一期から完全に反転。それ以外の要素もことごとく一期から反転させられている。これは何を意味しているのか。
『EXODUS』は一期(26話)+『HEAVEN AND EARTH』までの内容をシンメトリカルな構成にして26話に入れたので、終盤の尺は単純計算して90分足りない。
なぜそこまでしても『EXODUS』は一期とシンメトリーなシリーズ構成にこだわったのか?
反転させることで互いがカウンターパーツな存在になる。
その結果、同化することなく、あなたとわたしは存在することができる。
『EXODUS』の構成そのものが、作中でキャラクターが求めている答えだったのだ。
※1 「竜宮島回覧板 EXODUS 第7号」より引用。
※2 『HEAVEN AND EARTH』のBlu-rayの解説書掲載の能戸隆 総監督 筆記インタビューによると「(一期)26話は2146年11月って設定」。そして『EXODUS』26話はおそらく2152年11月下旬。
※3 「竜宮島回覧板 EXODUS 第7号」より引用。
※4 「グレートメカニックDX18」(双葉社MOOK)掲載の能戸総監督のインタビューより引用。
※5 英語ではcounterparts。この言葉の意味についてはRush「Counterparts」(1993年)リリース時のニール・パートのインタビューから引用する。
「(このアルバムの)大部分の曲が二重性、つまり一つのものとまた別のものとの対比のようなことを扱っていることに気付いたんだ。(中略)実際に辞書で調べたら、“相対するもの”と同じなのに違う“一双のもの”という両方の意味があったんだ。私には、これが“敵”という意味での“相対的なもの”に留まらず、“同じものでも違うもの”という、すごく特殊な言葉だと思えたんだよ。反対のものと揃いのもの、そのどちらも意味するということを考えると、脳味噌が疼くよ(笑)」(BURRN! 1994年1月号)
P.S. 「蒼穹のファフナー EXODUS 第26話-6『一騎と総士の物語は本当に終わったのか』」で一旦、終了宣言したにも関わらず、それより3倍以上の分量のあるものを書いてしまいました。分割も考えたのですが、構成上無理でした。すみません。