蒼穹のファフナー EXODUS 第26話-8「真矢と総士-最後で入れ替わった役割」

 懺悔します。
 「イティハーサ」は昨年夏、電子書籍版を買った時に読み返したので問題ないのですが、「蒼穹のファフナー EXODUS 第26話-5『総士の役割』」を書いた時は「スター・レッド」を再読せず、高校時代に読んだ時の記憶を元に書きました。(アップする前にネットであらすじを読んで内容は確認しましたが)

 

 『EXODUS』制作発表後、一期の内容は『ニーベルングの指環』の第一夜「ワルキューレ」、『HEAVEN AND EARTH』は第二夜「ジークフリート」に相当すると考えていた。指環での総士の役割はブリュンヒルデ。ヒロインというにはあまりにも大きい存在で、ある意味、この物語の真の主人公。(※1)一期から総士の持っているキャラクター性は主人公の相手役で親友というよりは物語におけるもう一人の主人公ともいうべき存在だが、男ではなく女主人公という立ち位置。一騎が持っているキャラクター性は男主人公なので、『蒼穹のファフナー』というシリーズは一騎と総士が男主人公と女主人公を担う構図になっている。

 しかし、『EXODUS』で総士の立ち位置は神話における死期の近い老いた王というものだった。一方、真矢は神話における父親殺しという重い役割を担うことになった。その結果、一期と『HEAVEN AND EARTH』で総士が占めていた物語における女主人公の役割を『EXODUS』では真矢が担うことになった。特ぬ人類軍と直接、戦うことになった2クール目は真矢が完全にこの作品における女主人公だった。

 それも『EXODUS』26話Aパートのビリーとキースとの戦闘までだった。『EXODUS』26話Bパートでは再び作品の女主人公の役割をを総士が担うことになった。総士は同化現象が進みすぎた結果、その肉体は結晶化し砕け散った。その後、一騎との別れからエンディングまでの展開は水樹和佳子「イティハーサ」と萩尾望都「スター・レッド」の終盤のクライマックスを思い出させる展開だった。

 『EXODUS』26話の一騎と総士の別れは「イティハーサ」15巻の透祜と鷹野の別れのシーンを髣髴とさせた。透祜と鷹野の最後の会話を引用する。

透祜「鷹野…
   あたし きっとみつけるから…
   幾度 姿が変わっても…
   見つけて鷹野を護り続けるから…」
鷹野「透祜…」
透祜「また…会おうね」
鷹野「信じるよ…
   おまえがそう言うのなら…」(※2

 透祜=総士、鷹野=一騎で、実はニヒトにあたる存在もいるのだけど、ネタバレになるのでここで名前は挙げない。

 その後、総士とニヒトが生まれ変わる部分は「スター・レッド」を思い出した。主人公のレッド・星は肉体を失い、精神体でさまよっていた時にヨダカと再会。ヨダカ(男性)の体を見つけ、その体の中にヨダカと胎児となった星の精神体が戻った。台詞はその場面で必要な部分のみ引用する。

  星「からだは一つよ!
    二人分の意識は入れないわ!」

ヨダカ「小さくおなり…星!
    小さくなって入り込めばいい……」

ヨダカ「ぼくは少しだけからだをかえればいい
    その変化はわずかのエネルギーで足りる」
  星「かえる?」
ヨダカ「子どもを産む女のからだに……
    きみはあとで新しく生まれればいい」(※3

 そして、胎児となった星は普通の子どもと同じように10ヶ月後、生まれた。

 『EXODUS』26話のラスト同じように、最後のページでは生まれ直して記憶のない星(ジュニアと呼ばれている)がサンシャイン(生まれ変わる前の友達)と夜空を見上げて話す場面で終わる。

     星「あれが火星? サンシャイン」
サンシャイン「火星はもうないんだよ…ジュニア
       いつも この時期には見られたんだがな」(※4

 レッド・星=総士、ヨダカ=ニヒト、サンシャイン=海神島2年後の一騎になぞらえることができる。

 

 「イティハーサ」、「スター・レッド」ともに女主人公の物語であることからもわかる通り、総士の持っているキャラクター性は女主人公なんだと思う。『EXODUS』26話Aパートまで真矢がこの作品の女主人公だったが、Bパートで総士が女主人公と重なる二作品分のクライマックス・シーンを立て続けに持ってきた結果、『EXODUS』における女主人公という役割は総士にすり替わってしまった。真矢は再び一期と『HEAVEN AND EARTH』でのポジションに戻り、真矢は一騎と顔を合わすことさえなかった。ずっと担っていた女主人公という役割を最後の最後で総士に取られた真矢は不遇だ。

 「皆城くん、あたしのポジション返して」

 

※1 「ラインの黄金」、「ワルキューレ」、「ジークフリート」、「神々の黄昏」の4作品から成り立つ『ニーベルングの指環』で3作品に登場するのはヴォータン、アルベリヒ、ブリュンヒルデの三人だけである。

※2 水樹和佳子「イティハーサ」15巻(電子書籍版、クリーク・アンド・リバー社)より引用。

※3 萩尾望都「スター・レッド」(電子書籍版、小学館)より引用。

※4 萩尾望都「スター・レッド」(電子書籍版、小学館)より引用。

 

P.S. 初見時、最後は一期ラストと同じく急に一騎と総士にスポットが当たったと思ったのですが、こういう物語構造になっていました。