蒼穹のファフナー EXODUS 第23話「理由なき力」

 一騎、総士、真矢は三人揃うと関係が安定することがよくわかった『EXODUS』2クール目。相手に敬意を払って話ができるようになった『EXODUS』での総士と真矢の関係が好きです。

 

・一期との構造対比

 『EXODUS23話は一期の複数のエピソードを反転して構成しているため、大変複雑な構造になっている。

1.新国連の捕虜とザルヴァートル・モデル

 一期10話から15話にかけて描かれた一騎が島を出て新国連の捕虜になる一連のエピソードとの比較。一期と『EXODUS』では一騎、総士、真矢の関係が完全に反転させられていることを念頭に置いて見てほしい。

  一期 EXODUS
捕虜 一騎 真矢
迎えに行く 真矢 総士
島に残る 総士 一騎
捕虜になった時の状況 島を出る 島に帰る
ザルヴァートル・モデル 受け取る 引き渡す
人類軍への協力 自由意志 強制
新しいザルヴァートル・モデルでの
 島の人間の役割
正規パイロット  テストパイロット
新しいザルヴァートル・モデルの
 パイロットの所属
竜宮島 新国連
新しいザルヴァートル・モデルの
 搭乗者の存在
人(真壁一騎) フェストゥム(ミツヒロ)
人類軍基地から脱出時の助力者 人(日野洋治) フェストゥム(ミツヒロ)
人類軍基地の戦闘結果 基地壊滅 敵殲滅
島への帰還 別々 一緒

 

2.  真矢と翔子

 真矢とアルゴス小隊との戦闘シーンは一期6話と同じく武装がないという状況が再現されているが、その戦闘の状況と結果はすべて反転したものになっている。

  一期 EXODUS
パイロットの熟練度 初戦 歴戦
戦闘対象 フェストゥム
マインブレードでの攻撃 無効 有効(ダスティン死亡)
自爆対象 フェストゥム 人類軍の潜水艦
フェンリル 実行 中断

 一期6話では一騎が人類軍の潜水艦を攻撃するフェストゥムと戦い、『EXODUS』23話では総士がダーウィン基地を攻撃するフェストゥムと戦った。やはりこの場面でも一騎と総士の役割が入れ替わっている。

 

3.  真矢とカノン

 一期17話でカノンが島と自爆しようした時と反転した状況が再現されている。

  一期 EXODUS
フェンリルを起動した機体 人類軍の潜水艦  ファフナー
自爆対象 人類軍の潜水艦
フェンリルを起動した人 人類軍(カノン) 竜宮島(真矢)

 一期17話ではフェンリルを起動させた側は説得される側で、『EXODUS』23話ではフェンリルを起動させた側は説得する側とやはり立場が逆転している。

 

4. 一騎と総士

 一期と『EXODUS』では一騎、総士、真矢の関係が完全に反転させられているが、22話と23話でもその状況は引き継がれ、作中で動けなくなったキャラクターが総士から一騎へと逆転している。
一期22話ラストでジークフリード・システムがフェストゥムの根に覆われ、23話ラストでイドゥンにより総士が北極へさらわれるまでその状態を継続。一方『EXODUS』では22話の戦いの後、一騎は昏睡状態に陥り、23話でもその状態を継続。

 

操「君はあまり好きじゃない。
  前のコアと戦ったからかな」
『EXODUS』23話

 『HEAVEN AND EARTH』の操の台詞「たくさんの痛みがあって、俺たちのミールは新しく生まれることを嫌がった。だから、かわりに俺が生まれたんじゃないかな」に対する答え。『HEAVEN AND EARTH』の操は自身が言うように本来、コアとして生まれる存在だったのだろう。

 

総士「なぜここに集まる」
織姫「あなたたちもそうしてたでしょ」
『EXODUS』23話

 喫茶楽園に集うのは織姫、甲洋、来主操というミールのコアやフェストゥム。この店の主が一騎だった時は人類が集まる場だったが、この家の元の住人である甲洋が戻ったらフェストゥムが集まる場となった。一部例外があるものの、基本的に楽園に人が集まる時は私服、フェストゥムが集まる時はアルヴィスの制服と対称的。

 『EXODUS』1話同様、総士はドアを開けて店に入っているが、彼だけが人が集まる時もフェストゥムが集まる時も出入りすることができる存在。つまり人の心とフェストゥムの体を持つ総士が人とフェストゥムの架け橋であることが暗示されている。

 

甲洋「島が俺に、もう一度人の姿と力を与えてくれた」

 今の甲洋の立ち位置は一度、肉体は同化され砕け散ったものの、人しての姿を取り戻した総士と重なる。甲洋は一期~『HEAVEN AND EARTH』~『EXODUS』で描かれなかった総士の姿を視聴者に見せる存在でもある。

 

 操「ねえ総士、俺にも言ってよ」
総士「あ、ああ。島を頼む」
織姫「あなたコアよ。
   自分も戦う気?」
 操「うん」
『EXODUS』23話

 『EXODUS』22話で操は美羽と「世界中のみんなが平和になってだれも悲しくて痛くなくなったら美羽を食べていいよ。だからそれまで美羽たちを助けて」という契約をしているので、竜宮島を守るために戦う。にもかかわらず、甲洋と同じように総士に命令してほしいというのはかわいい。

 

暉「命の暖かさだ。
  これがなくて、大勢いなくなった」
『EXODUS』23話

 ここはダブルミーニングになっている。一つは言葉通り、食料が尽きて生きられなかった難民の状況。もう一つは白米を掌に乗せていることから、『EXODUS』12話のこの場面と重ねて、守れなかった命のことを言っていると思われる。

 

千鶴「真矢が撮った写真だそうです」
『EXODUS』23話

 一期からの真矢の役割、写真を撮って記録を残すという役割を思い出した。

 

総士「まだ僕らの時間は終わっていない、一騎」
『EXODUS』23話

 『EXODUS』1話ラストの総士のモノローグ「僕らの最後の時間が始まった」に呼応する言葉。

 

暉「広登に会って、お前は正しいって言いたい。
  世界には平和を失った人間がたくさんいて、
  いろんな暖かさを失って、死んでいく。
  そんなのはたくさんだって。
  あいつと一緒に世界に伝えたい」
『EXODUS』23話

 長い旅を終え、暉が広登のことを本当に理解し、彼の後継者となった。しかし、そうなった時、暉は広登がもういないという現実を突きつけられることになる。

 

バーンズ「第4プラン、赤い靴作戦。
     選ばれた5万人を生かすため、
     残り20億人の人類を敵と共倒れさせる」
『EXODUS』23話

 「赤い靴」の語源はアンデルセンの童話だと思われる。1948年に制作された映画も有名。第4プランをあまりにも非道と断罪するのは可能だが、実のところ、日本が実行したアーカディアン・プロジェクトと本質は変わらない。甲洋の父、春日井正浩が一期7話で遠見先生にこう言っていた。

正浩「この仕事じゃないと計画に参加できなかったんだ」 一期7話

 春日井夫妻はデータ捏造をして新国連のスパイとしてアーカディアン・プロジェクトに参加したとはいえ、この台詞はこのプロジェクトの本質を言い当てている。一期のバラ売りDVDのリーフレット及びDVD-BOX、BD-BOXに掲載されている関連年表には「2127 人工島への入植者選抜を開始」という記載があり、、日本にいるよりは生き残る可能性の高いこのプロジェクトに参加できたのは、アルヴィス運営に必要な能力を有した人のみだったことがわかる。

 

グレゴリ型「理解しなくていいよ。
      憎しみが弱くなるから。
      代わりに愛する人を与えてあげる」
『EXODUS』23話

 愛と憎しみは表裏一体。

 ミツヒロに与えられる愛する人は22話で行方不明だったアイシュワリア・フェイン。作中ではアイと呼ばれていたが、「愛」と同じ発音である。

 

総士「同化された者の亡霊か。
   無に還れ」
『EXODUS』23話

 総士は『EXODUS』9話でニヒトに乗って敵を同化していたが、ついに生身でも迷うことなく敵を同化した。ファフナーに乗った時と同じ方法で敵を退けたということは、『EXODUS』18話の真矢と同じく、自分が敵と認識した存在と戦うことにもはや迷いはないということ。真矢が戦う相手は人間で、総士が戦うべき相手はフェストゥム。

 『EXODUS』4話、総士がニヒトのコアを抜こうとして失敗した時、「島を滅ぼそうとした虚無の申し子が、無に還ることを拒むとはな」と言っていたけど、総士自身、自らの役割はフェストゥムを無に還すことだと認識している。

 それにしても同化能力を持つフェストゥムである総士を受け入れた島の寛大さに驚くばかり。最初から竜宮島にいたり、竜宮島を訪れた言葉を話すことのできるフェストゥムは次の通り。

  • 乙姫(織姫も同じと思われる)はコア型で同化機能を持っているかは不明。
  • 甲洋は同化機能を消したスレイブ型。
  • ミョルニアは同化機能のあるマスター型。
  • 『HEAVEN AND EARTH』の操は同化機能のあるスフィンクス型。
  • フェストゥムに同化されたものの体を取り戻した総士は同化機能がある。
  • 『EXODUS』の操は空母ボレアリオスのコアで同化機能がある。

 島が同化機能を持つフェストゥムへの視線が変わったのは『HEAVEN AND EARTH』の操と島のコアの命を維持していなくなったミョルニアの存在かな。

 

真矢「今止めないとみんないなくなる」
『EXODUS』23話

 『EXODUS』18話で真矢は「家族も仲間もいたから。あなたたちだけだったら、撃てなかったかも」と言っていたが、新国連に囚われ、そこで見聞きした結果、自分を犠牲にしてでも世界を救う道へ選ぶことになった。

 

・マークレゾンの戦闘

 冒頭の「新国連の捕虜とザルヴァートル・モデル」で書いた通り、一期10話~15話までのエピソードは『EXODUS』ですべて反転しているが、一期16話に当たる部分はBGMも含め変更なし。一期16話のマークザイン同様、マークレゾンは落ちている武器を拾い同化して攻撃する。ここで総士は一期の道生の役割を演じている。ここで総士が敵になるであろう存在の力を見極めることができたのはプラス。

 ザルヴァートル・モデルは存在(独:sein)、否定(独:nicht)ときて、その理由(仏:raison)を求めるようになったということか。しかし、ベイグラントのコアはサブタイトルの通り、「(憎む)理由は必要ない」と理由を否定している。

 

真矢「こうでもしなきゃ話し合えないのが人間でしょ。
   命令を取り消すか。
   あたしもあなたもみんな消えるか。
   選んで」
『EXODUS』23話

 真矢が対価として自分の命を差し出した結果、やっと交渉のテーブルにつくヘスター。人がフェストゥムを祝福する時と同じ構図になっているのは、皮肉としかいいようがない。

 

ビリー「兄さん、返事をしてよ、兄さん」
『EXODUS』23話

 ビリーは信念を持たぬままナレインの部隊に参加した。アルゴス小隊に捕らえられた時、兄はナレインの元に工作員として送り込まれた偽装。最終的に兄の指揮下に入ったビリー。しかし、この物語は信念なき者には厳しい。なんといっても兄を殺したのは直前まで「お願い、逃げて、真矢」と言っていた真矢である。ビリーの人生はここから始まる。さてどっちへ向かう。

 一期のカノンに始まりウォルター、ビリーと人類軍の兵士はただ上官の命令に従い、自分で考えることをしなかった人間が、自分自身で考えて行動するようになる過程が描かれている。「他人の命令にただ従うのでなく、自分で考えて行動しろ」というメッセージを伝えた作品というと、Queensrÿche「OPERATION: MINDCRIME」(1988年)というアルバムを思い出す。このアルバムのリリース時、正直日本ではピンと来ないテーマだったけど、それから27年後の日本でこのテーマを切実なものとして描く作品が出てきたことは興味深い。

 

・竜宮島と新国連ダーウィン基地を結ぶ言葉は「平和」

 暉「広登に会って、お前は正しいって言いたい。
   世界には平和を失った人間がたくさんいて、
   いろんな暖かさを失って、死んでいく。
   そんなのはたくさんだって。
   あいつと一緒に世界に伝えたい」

真矢「あなたは平和を捨てた人。
   あたしの父も。
   あたしもそう。
   生きるために。
   誰かを助けるために。
   それ以外の人たち全部犠牲にできる人」
『EXODUS』23話

 共に旅をした暉と真矢がたどり着いた先は正反対だった。特に真矢の言葉はあまりにも重く、そして悲しい。