【蒼穹のファフナー EXODUS】他者に共感する力

 本当は『EXODUS』の放映が終わってから、書こうと思っていた内容。思うところがあり、1クール放映終了後、公開することにしました。偶然、「その時、蒼穹へ」のリリース記念、というタイミングになってしまいました。

 

 一期から一騎は自分の内面をあまり語らないので、考えていることがわかりにくい。第9話で一騎自身から「祝福」という言葉が出てきたけれど、それは具体的に何なのだろうということで考察してみた。

 

 『EXODUS』3話で一騎は人類軍のパイロットからからマカベ因子のお陰で多くの人がファフナーに乗って戦うことができるようになったと告げられる。

ジョナサン「マカベ因子だ。
      昔、カズキマカベは新国連のファフナー開発に協力してくれた。
      その時、彼の遺伝子を元に特効薬が作られたんだ」
  ビリー「素質が足らない人間でもファフナーが操縦できるようになる薬だよ」

 一期13話で島から出た一騎が人類軍に囚われ、体を調べられる場面がありますが、マカベ因子はおそらくその時に一騎から採取されたサンプルを元にしたものだと思われる。しかし、一騎自身が「あと3年」と言っているように、ファフナーに乗れば乗るほど死に近づく。一騎は総士に本音をぶつける。

一騎「あいつらも俺みたいになるのか」
総士「どんな因子か不明だ」
一騎「わかることはあるだろう」
総士「彼らの年齢で染色体と同化現象を受けたなら、
   20代の終わりまで命が持たない。
   それが彼らの生存限界だ」
一騎「なのに俺は、感謝されたのか」

 『EXODUS』4話ではおそらく罪悪感に苛まれているであろう一騎の元に乙姫が現れ、「あなたはどう世界を祝福するの」と問いかける。

 そして『EXODUS』5話、乙姫の言葉を一騎は自らに問いかける。

「世界をどう祝福するか」

 『EXODUS』9話、シュリーナガルで乙姫からの問いの答えを真矢に告げる

一騎「守るよ、みんなを。
   それがたぶん、まだ俺の命がここにある理由だから」
   これが、俺の祝福だ」

 

 竜宮島回覧板EXODUS第1号で一騎には「世界の戦士の象徴へ」という役割が与えられていて、第2話を見終わったあとに思い出したのがワーグナーの楽劇『パルジファル』(※1)における重要な単語「Mitleid」。日本語では共苦、同情(※2)と訳される。第9話で一騎が真矢に「これが俺の祝福だ」と告げた時、私はまず「贖罪」という言葉を思い浮かんだ。次に「Mitleid」という言葉から、『パルジファル』の「共苦によって知を得る(ドイツ語で”Druch Mitleid wissend”)」という文章を思い出した。この言葉の意味は演出家ハリー・クプファーがうまく説明しているので、新国立劇場のサイトにある彼のインタビューから引用する。

『パルジファル』の中で鍵となる言葉「共苦によって知を得る」にこそ、キリスト教と仏教の倫理的な原理が込められていると私は思います。「知を得る」とは、仏教の目指すところの「悟り」です。「共苦」とは「共に感じる」「同情する」ということで、これは仏教において自然や生き物すべてに対する思いであり、仏教の根底にある思想だと思います。また「共苦」はキリスト教にもある考え方です。

 そして、悟った結果が公式サイトに書かれている一騎の変性意識「その力を他者のために使いたいという救済意識」(※3)なんだと思います。

 思えば一期では総士と乙姫が自らに与えられた運命に殉ずるキャラでした。EXODUSで総士の立場は変わらず。そして第9話で一騎も自らの運命を受け入れたため、総士と同じ立ち位置になり、二人が並んだことになります。一騎はこの作品の中では現代人のキャラクターだったのですが、『EXODUS』で神話の登場人物の思考を持つキャラクターへと変化してしまいました。結果、第9話のタイトル通り「英雄」となってしまった。

 ちなみに『EXODUS』で他に自らの運命を受け入れたキャラは美羽、エメリー、織姫の3人。

 

P.S. 「その時、蒼穹へ」にこんな歌詞がありました。いつもながらangelaの作品読解力の高さに舌を巻く。

生きる意味 役割を 受け入れた時こそが
幾度 幾度となく 訪れるスタート

 

※1 今回、ここでオペラのあらすじについては一切触れない。

※2 昔は「同情」と訳していたけど、それではドイツ語のニュアンスが伝わらないということで、近年「共苦」と訳される。英語だとPityではなくCompassion。

※3 公式サイトの内、special/character の真壁一騎の項。