【蒼穹のファフナー EXODUS】英雄の死

 『EXODUS』9話のサブタイトルは「英雄二人」だったが、最終的に一騎と総士の運命は異なるものだった。

 

 物語開始時から総士は島に縛り付けられていたが、『EXODUS』ではその縛りがはずされた。島のコアは妹から姪になり、血縁が一つ遠くなった。フェストゥムの世界へ行き、体を作り直したことにより、一騎に傷つけられた左目の視力を取り戻し、ファフナーに乗ることができるようになった。その結果、総士を島に縛り付けていた象徴たるジークフリード・システムを剣司に譲った。つまり『EXODUS』における総士は島との縛りをすべて外され、島の外に出て行くことができるようになった。

織姫「総士、一騎、今すぐ美羽を守りに行きなさい」
  (中略)
総士「ぼくはコアの言葉に従う。
   ずっとそうしてきたように」
『EXODUS』6話

 ここで注目すべき点は総士はアルヴィス上層部の命令ではなく、島のコアの命令によりシュリーナガルへ向かったということ。

総士「織姫、島を出る許しを与えてくれ」
『EXODUS』22話

 シュリーナガルから長い旅を経て島に戻り、その後、新国連の捕虜となった真矢を迎えに行くために再び島を出ることになった。この時、総士は島のコアに許しを求めている。『EXODUS』開始時点で島との縛りは外されたが、この時点でも総士はまだ島に縛り付けられていて、完全に自由の身ではなかったということである。

織姫「ここが未来の分かれ道になるわ」
総士「信じるさ、お前の告げた未来を」
『EXODUS』25話

 総士は第四次蒼穹作戦に参加するために海神島に向けて旅立つが、ここでの総士と織姫との対話は『EXODUS』6話、22話の時とは異なり、織姫が命令をするのでもなく、逆に総士が島を出る許しを求めるというわけでもない。つまり総士と島との縛りが完全に外れたのは、ドラマCD『THE FOLLOWER2』で島のコアと直接対話して選んだ時、ということになる。

総士「ただ閉じこもり、自ら対話の道を拒むと言うなら
   今の僕はその選択を、この島のあり方を否定する」
公蔵「お前は今未来を選んだのだ、総士」
『THE FOLLOWER2』

 総士が自分と島の縛りを完全に外すためには、自らの意志で竜宮島から出ていくことを選ぶ必要があったということになる。総士は乙姫を見た日(※1)からずっと縛り付けられた竜宮島を自らの意志で出て行ったということは、総士が去った後の竜宮島は総士の抜け殻ということになる。また『THE FOLLOWER2』で島のミールは竜宮島を「古き世界」(※2)と呼んでいた。その結果、総士の抜け殻であると同時に古き世界と化した竜宮島は島のコアである織姫によって海中に葬り去られた。

 

 総士が一騎に対して行った同化未遂事件はあまりにも衝撃的な出来事だが、その真実を知るのはおそらく総士、島のコア、一騎のみ。しかし、島のミールはこの事件から人とフェストゥムの共存への可能性を見出したのだろう。甲洋は同化された後、フェストゥムになったが、この時は総士の時とは異なり、甲洋の存在を隠すことなく表面化させた上で島民に問いかけた。その時、子供たちがフェストゥムになった甲洋を受け入れ、それがひいては島のミールが望むフェストゥムとの共存への第一歩となった。

 『EXODUS』で島を犠牲にしてでも対話の力を守ることを選び、その結果、島を去ることを決めたのは総士、一騎、真矢、カノンの4人だが、島のミールは総士にだけ島を去ることをほのめかす発言をした。そして、表向きはアルヴィス上層部を含む島民は織姫の命により、アルタイルは対話できる日まで島とともに眠るという理由で竜宮島を去った。総士は亡き今、今後島民がが竜宮島を去ると決めたのは島のコアではなく総士、一騎、真矢、カノンの4人だったということを知る機会はないだろう。

織姫「運命を受け入れなさい。
   たとえどんなものでも、人と彼らの架け橋になるために」
『EXODUS』8話

 島のミールとコアは知っているが、総士の行動と決断が島とフェストゥムとの共存、次いで島と新国連、人類軍と共存するという未来をたぐり寄せた。つまり総士は織姫の言うところの架け橋的な役割を担ったということになる。『EXODUS』で総士は自らに与えられた役割をすべて果たし、次の世代に託して去った。一度は全世界からその存在を否定された人々は竜宮島を作り、その中に引きこもった。しかし、引きこもっていた人々が再び対話を求め、結果として拠り所としていた場所を去ったということは、竜宮島にとって一つの時代の終焉でもあった。神話における英雄とは誰にもできないことを成し遂げると同時に一つの時代の終わりをもたらす。竜宮島にとっての英雄とは総士であった。竜宮島にとって一つの時代が終わると同時にその役割を終えた総士は去って行ったのである。

 

 一騎は竜宮島回覧板EXODUS第1号に「『世界の戦士の象徴』へ」と書かれていたが、ヘブンズ・ドア作戦終了後、その存在は人類軍のプロパガンダに使われた。その結果、『EXODUS』開始時点の段階で一騎は人類軍の英雄だった。

ナレイン「我々の英雄なのだよ、
     Dアイランドのカズキ・マカベは」

ミツヒロ「伝説の英雄に会えて、感激しています」
『EXODUS』2話

 総士は竜宮島の英雄であり、島にとって一つの時代が終わった時、その役割を終えて去って行ったが、一騎が人類軍の英雄であるとすれば、世界が一つの時代を終える時、その役割を終えて去って行くのではないだろうか。一騎と総士、それぞれに課せられた役割が異なる上に、祝福を与えたのが北極ミールと竜宮島のミールと異なるため、似て非なる存在になったということなのかもしれない。

 

※1 一期22話、総士の台詞「10年前、父さんに連れられて、初めておまえを見た」

※2 公蔵が総士に「古き世界から去ることを決めた」と言っている。


 

P.S. 「役割を果たした後も生き延びてしまった英雄」で思い出すのは『機動戦士ガンダム』のアムロ・レイ。10代の時に『Zガンダム』に登場するアムロの姿を見たら、相当ショックを受けたと思います。宇宙世紀ガンダムは『ファースト』→『逆襲のシャア』→『Zガンダム』(映画3作+足りない部分をTVシリーズで補完)という順序で見ているのですが(ZZは未見)、『逆襲のシャア』以降は必要に応じて見たため、『ファースト』と『逆襲のシャア』、『逆襲のシャア』と『Zガンダム』の間にはそれぞれ10年近いブランクがあります。

 神話において英雄は役割を終えると大概無残な死を遂げるのですが、『Zガンダム』のアムロを見ると正直、生き延びてしまった英雄のその後は見たくないと思いました。J・R・R・トールキン『指輪物語』のフロドはすべてが終わった後、西の浄土へ旅立ちますが、役割が終えた後のフロドの扱いに著者の温情を感じます。