【蒼穹のファフナー EXODUS】去勢した英雄-補足

 一騎に性に疑問を感じたのは2011年7月9日に開催された「蒼穹のファフナー HEAVEN AND EARTH-大ヒット感謝祭-『蒼穹作戦』」で見た『EXODUS』のキャラクターデザインでした。その後、『EXODUS』の公式サイトのSPECIAL/CHARACTER/真壁一騎の項にある相関図で一騎→真矢が「心の支え」となっていて、恋愛感情はありませんでした。その後、一騎の真矢に対する言動に対して最初に疑問を抱いたのはこの場面だったことを思い出しました。

一騎「遠見は、誰かの分まで思い出を大事にしてくれるんだな。
   だから、いっしょにいると安心するのかな
真矢「そう……そうなのかな」
一期23話

 

 とはいえ、タイトルの「去勢した英雄」の去勢という言葉はあまりにも強烈。扇情的なタイトルなので(個人のブログで煽る必要はない)、他の言葉に置き換えようとしましたが、代わりになる言葉は見つかりませんでした。あと、本文で使う単語にも気を配りました。

 自ら去勢したキャラクターというと、ワーグナーの舞台祭典劇『パルジファル』のクリングゾルを思い出します。台本に具体的なことは書かれていませんが、自ら去勢したというのが通説になっています。聖杯騎士団に入ることができなかったクリングゾルは魔法の花園を作り、聖杯騎士団の騎士たちを誘惑し、堕落させていた。ついにはその王であるアンフォルタスをも堕落した。クリングゾルはアンフォルタスから奪った聖槍を持ち、聖槍を取り戻そうとする聖杯騎士を誘惑し、堕落していた。去勢したクリングゾルは男根を象徴する武器である聖槍を持つことで、自分自身を男性に成さしめていた。

 

 『EXODUS』での一騎のキャラクターデザインが発表されたのは2011年7月9日に行われた「蒼穹のファフナー HEAVEN AND EARTH-大ヒット感謝祭-『蒼穹作戦』」で、その時、会場で上映された映像は『蒼穹のファフナー Blu-ray BOX』の特典ディスクに収録されているので、現在も見ることができます。一期~『HEAVEN AND EARTH』と比較すると、一騎と総士の雰囲気が入れ替わり、髪を伸ばした一騎の外見は母親そっくりになっていました。しかし、これは唐突なものではなく、一期の時に冲方丁が思い描いていた一騎と総士のイメージをそのまま具現化したものでした。

 一騎は男であるにも関わらず、母性的な性格ですね。自分を理解してもらう前に相手をしようと努力するタイプ。一方、総士は、相手のことを考えず、まずは俺を理解してくれ、というタイプです。そうしないとファフナーをコントロールできないからなんでしょうけど、すごく父性的なんですよ。
『アニメージュ』2004年11月号

 一期と『EXODUS』ですべてを反転させるというコンセプトとも合致している一方、一騎が女性との恋愛~結婚ぜずに経ないで親になるという『EXODUS』のラストから逆算した結果と見ることもできます。

 

 一期の一騎と翔子、真矢との関係を見ていくと、翔子は守りたいと思う存在だったのに対して、真矢は異性であることを意識しないで話せる仲の良い友達だった。翔子は一騎がその人となりを知る前になくなったが、真矢は子供の頃から一騎が本心を明かす唯一の相手だった(※1)。しかし、その真矢に対してでさえ、一騎の恋愛感情はあまり感じられない。逆に総士の真矢に対する恋愛感情は嫉妬という形で一期5話、一期19話で表現されている。その上、一騎は真矢との距離が近づいた後、一騎が真矢に「いっしょにいると安心するのかな」と言ってしまったことで、一騎の恋愛感情について疑問符がついてしまった。

 一期から5年経った『EXODUS』においても一騎に対する印象は変わらない。カノンに対して無自覚で殺し文句を言っているが、カノンに対する恋愛感情は全く感じられない。一方、真矢との関係はシュリーナガルから島に戻る途中から進展したが、一騎の恋愛感情が明確になる前に一騎の人としての人生が終わってしまった。一方、総士は『EXODUS』で一期と同じく真矢に対する恋愛感情を持ち続けていることが描かれている。

 一騎のキャラクターデザインは一期&『HEAVEN AND EARTH』では少年だったが、『EXODUS』では母親似の女性顔へと変化した。一騎にはどちらのデザインにも男性の色気を感じないが、総士は一期でさえも男性としての色気を感じる。(それを端的に示しているのが一期のED)一期及び『HEAVEN AND EARTH』の総士のキャラクターデザインは女性的だが、一期のエンディングを初めて見た時、総士の色気には驚いた。『EXODUS』では男性的な顔つきになったが、『EXODUS』4話のアバンと『THE BEYOND』のティザービジュアルには色気を感じた。

 一期で弓子との間に子どもをもうけた道生、『EXODUS』で咲良と結婚し『BEYOND』では子供がいることが判明した剣司以外にも、『EXODUS』2話で胸が見える真矢を見た時の総士、『EXODUS』4話で気になる女の子のシナジェティック・スーツを見た時の彗と零央の反応等、作品の中で一騎以外の男性パイロットの女性に対する性的な欲望ははっきりと描かれている。そういう部分が表立って描かれなかった広登には芹という友達以上恋人未満の女性が存在していたし、暉は真矢に思いを寄せ、告白もした。もっとも一騎の女性に対する性的な欲望が描かれたと思われる場面が作品の中に一ヶ所だけある。一期10話、遠見家で夕食を食べた後、家に帰る途中で一騎の手のひらに同化結晶が出た時である。もしかすると一騎の真矢に対する気持ちは一期10話がピークだったのかもしれない。その後、竜宮島を出た一騎がモルドバで真矢と再開した時、一騎は真矢の名前を一度も呼ばず(※2)、バーンツヴェックで真矢と二人だけになった時の一騎の感想は「いっしょにいると安心するのかな」(※3)という有様だった。

 ファフナーの男性パイロットで子孫を残すという生物的な勝者になったのは、女性から「女好き」(※4)と言われた道生と剣司の二人というのが興味深い。一騎、総士、甲洋はそれぞれの思いが成就することなくフェストゥムの側へ行き、広登と暉はいなくなった。また、『EXODUS』に出てきた新国連のパイロットはペルセウス中隊もアルゴス小隊もパペットであるミツヒロ(※4)を除いては全員いなくなった。ファフナーの男性パイロットが子孫を残すのは至難の技であることを実感した。

 

※1 ノベライズには一騎は真矢にだけ罪を告白したとの記述がある。

ただ一人――真矢を除いて。五年間で、ただ一人、自分の罪を告白した相手。
冲方丁『蒼穹のファフナー ADOLESCENCE』二章8(ハヤカワ文庫JA)

※2 一期15話、一騎が真矢と再会した時の会話は以下の通り。

真矢「一騎君、よかった無事で」
一騎「ほんとに、ここに、いるのか」
真矢「いるよ、ここに、いるよ」
一騎「ありがとう、総士は」

   何度見ても一騎の視界に入っていない真矢が哀れだと思う。

※3 一期23話の一騎の台詞。

※4 一期21話で弓子が道夫を、咲良が剣司を以下のように評している。

弓子「昔は臆病で情けなくって、目立ちがり屋で女好きのろくでなしだったわ」
咲良「臆病で情けなくて目立ちたがり屋の女好きで、父さんと正反対なんだから」

※5 アイはおそらく人工的に作り出したフェストゥムであるパペットに恋をした最初の人間だった。

 


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