「蒼穹のファフナー EXODUS」Blu-ray BOXの感想を書き終わった後、『EXODUS』を1話から見始めた時の感想をまとめたもの。2017年末に公開された『THE BEYOND』のPVを見た後でもあるので、少し見方が変わった部分もあります。
『EXODUS』を見直した感想 その1 と その2 の続きで、これが最後になります。
・美三香と一騎、総士
美三香「あたしが、みんなを守らなきゃ」
『EXODUS』20話
衛「僕が守るんだー」
一期22話
台詞を並べるまでもなく、美三香が乗っているのはフュンフの後継機ということからも、衛の後継者であることは間違いない。しかし、『EXODUS』20話での美三香の戦いは一期22話の衛ではなく一騎と重なる。一期22話で一騎は衛と一緒にスカラベ型を押しつぶそうとしている最中、一騎は右目が金色になる同化現象の末期症状に襲われて倒れてしまった。
その直後、スカラベ型は竜宮島に根を張り始め、ジークフリード・システムにまで達した。
一方、『EXODUS』20話で美三香は空から襲う小型のグレンデル型から守ろうとしたところで、一騎と同じく同化現象の末期症状(右目が金色になった)に襲われ、その直後、体が結晶化して砕け散った
しかし、改修された機体の名前(エインヘリヤル・モデル)通り、美三香は永遠に戦い続ける戦士となり、戦闘を継続し、島を守った。
戦闘終了後のツクヨミのコックピットに美三香はいなかった。しかし、フェストゥムである甲洋が美三香の存在を感じることができた。
甲洋「まだ、そこにいるよ」
『EXODUS』20話
この言葉は一騎がジークフリードシステム内に閉じ込められた総士を助けようとした時に乙姫が言った言葉と重なる。
乙姫「総士はそこにいるよ」
一期23話
『EXODUS』20話の戦闘終了後の美三香は一期22話の戦闘終了後の総士と重ねられているということになる。一期22話でスカラベ型を倒したものの、その根は残り、ジークフリード・システムを覆っていた。総士はシステムに閉じ込められていたが、生存していた。
一方、『EXODUS』20話の戦闘で島を守ることはできたものの、美三香の体は結晶化して砕け散ってしまったが、島がパイロットの命を守っているため心だけが残った。
『EXODUS』20話での美三香は一期22話の一騎、一期23話の総士を逆にしたものであり、この戦闘での主役は美三香だったということになる。これまでの内容を表にまとめると以下のようになる。
一期22、23話 | EXODUS 20話 |
一騎の右目が金色になるが、 肉体に同化現象は発現しない |
美三香の右目が金色になり、 肉体は同化結晶に覆われ 砕け散った |
一騎が攻撃を中断した結果、 フェストゥムが島を襲撃 |
美三香は敵の攻撃を食い止め、 島を守った |
総士は全身同化結晶に 覆われているが 肉体は残っている |
美三香の同化されて砕け散り、 肉体は残っていない |
・命
総士「代わりにお前の命をくれてやる気か」
一騎「命が終わる時はそれもいいな」
総士「おい」
一騎「たくさん敵の命を奪ってきた」
『EXODUS』18話
フェストゥムの森で一騎は命について話していたが、『EXODUS』21話で一騎の台詞に命という言葉が3回出てきて、妙に印象に残る。
一騎「命が全部、消えたわけじゃない」
一騎「ただ命を使うだけじゃ、どこにもたどり着けない」
一騎「ここまで命が残った」
『EXODUS』21話
一騎は竜宮島に帰る旅で、一人でずっと命について考えていたことを表現しているのかもしれない。
結末を知った上で『EXODUS』17話での散髪から『EXODUS』21話での真矢から誕生日プレゼントという一連の出来事を見ると、一騎の人間としての寿命がカウントダウンされているように感じる。真矢本人が知らないのが救いとは言え、一騎の人間としての命が尽きた日が真矢の誕生日というのはあまりにも残酷だ。
・マークレゾン
ファフナー[マークレゾン]
機体を見た真矢が「マークフュンフを使ったの」と言っていることから、マークフュンフの機体そのものも使用されていると思われる。
『EXODUS』Blu-ray BOX ブックレット
シモン「回収した機体をベースに完成目前」
『EXODUS』21話
こと『EXODUS』では、竜宮島でも人類軍でも設計者が変われば、機体デザインやネーミングが変わるということが徹底されている。竜宮島の機体はドイツ語から日本神話に変わった。人類軍が開発したザルバートル・モデルの機体名はドイツ語からフランス語に変わった。しかし、日野洋治とミツヒロ・バートランドが亡き後に人類軍が開発した機体であるにもかかわらず、マークレゾンは、マークフュンフのコアだけでなく、機体そのものも使用した結果、結果的に竜宮島のファフナーの系譜に連なる機体になった。
・知らぬが仏
◯キース・ウォーター
もともとマカベ因子が必要のないほどの適性の持ち主。さらに因子を移植したおかげで、アイ以上のエスペラントの素質を持つが、その自覚はない。
冲方丁「作品コンセプト キャラクター概要 主要キーワード」
この一文を頭に入れて、真矢に言った台詞を聞き直すと別の一面が見えてくる。
キース「Dアイランドの人間は敵の因子を移植してるんだろ。
なっ、いつ金色に光るんだい」
『EXODUS』22話
新国連によって都合良く使われた兵士の一人。なによりキース自身が先天性のエスペラントだと知った時の顔を見たかった。
・人間不信
ヘスター「あなたには多くを知ってもらうわ。
父親の意思を継いでもらうために」
『EXODUS』22話
『EXODUS』23話、プロメテウスの岩戸にいたのはヘスター、真矢、ディラン・バーゼル、ミツヒロ、シモン・ネタニヤフの5人だが、人間はヘスター、真矢の二人だけだったことを思い出した。
パペットは用済みになった時にヘスターの手で記憶を削除できるので、プロメテウスの岩戸に入った人間はヘスターが本当に信用している人間ということになる。人類を守ると言いながら、人間を信用できず、人格を持ったフェストゥム(※1)であるパペットを使役しているのは皮肉なものだ。裏を返せば、ミツヒロの娘である真矢にヘスターは相当期待していたのだろう。
・フェストゥムにとっての器
織姫「あなたが憎むマークニヒトはあなただけの器」
『EXODUS』22話
グレゴリ型「そして、君という器が生まれた。
僕たち、みんなを、憎しみの器が」
『EXODUS』22話
グレゴリ型「さあ器に乗って」
グレゴリ型「ダメだよ、君は大切な器なんだから」
『EXODUS』23話
操「うわー、この器に乗っていいんだ」
容子「ええ、改良したばかりの機体よ」
操「強い記憶を感じる。
あの子の器だ」
『EXODUS』24話
総士にとっての器がマークニヒトで、操にとっての器がマークドライツェン。ファフナーに乗らないベイグラントのコアがマークレゾンという器を使うためには、パイロットとしてミツヒロという器が必要だった。もっともボレアリオス・ミールのコアであるにも関わらず、ファフナーに乗って戦う操は、織姫が言うように変わり者なのだろう(※2)。
・敵の顔
里奈「あんたら、あたしらになにした。
島を占領してさ、爆弾落としてさ」
『EXODUS』2話
里奈が喫茶楽園でペルセウス中隊のファフナーパイロットと話した時、里奈には敵の顔が見えていなかった。顔が見えない敵というのは里奈からみれば、実在していないのも同然だった。だが、島外派遣に参加した暉は実際に竜宮島に爆弾を落とした人の顔を見た。
暉「島に爆弾を落とした人に会ったよ」
里奈「えっ」
暉「いい人だった。
俺たちを守っていなくなった」
『EXODUS』24話
暉のこの言葉で里奈の前に突然、竜宮島に爆弾を落とした人が現れたようなものだった。里奈はどう暉に言葉を返せばいいのかわからなくなり、話をそらした。
里奈「お腹すいた。作ってよ」
『EXODUS』24話
ここまで書いて思い出したのは一期17話での一騎の言葉だった。
一騎「離れていちゃ顔も見えないだろ。
お前、いるじゃないか、そこに」
一期17話
人間は顔を見た時、その人が存在するものになることを如実に示している。
・男性の物語
『EXODUS』の開始時、広登は芹と友達以上恋人未満の関係、暉は真矢に片思いという設定から、後輩組の物語は男女の恋愛関係を軸に展開してもおかしくなかった。しかし、後輩組は島外派遣に参加したのが広登と暉、竜宮島に残ったのが芹と里奈と男女が分断されてしまった。また。真矢以外の派遣部隊のパイロットが全員男性(広登、一騎、総士)だったこと、暉がペルセウス中隊で直接話したのがウォルターだけということもあり、島外派遣組は男性の物語だったという印象が強い。一期の一騎と総士、『HEAVEN AND EARTH』の一騎と操の関係を見るとわかるように、主人公が傷つけたもしくは傷つけられた相手と対話を通じてお互いを理解し和解するのが主人公の役割である。『EXODUS』で竜宮島を傷つけたウォルターと話をしたのは一騎ではなく暉であったことから、『EXODUS』で主人公の役割を担ったのは一騎ではなく暉だった。事実、暉は真矢に対する恋心よりも、広登、ウォルターとの対話の描写に重点が置かれていた。それ故、暉が広登とウォルターという同性の友人と仲間ともに、この世を去っていくシーンが妙に印象に残る。
暉とともに同性である広登とウォルターがいなくなり、暉にとって身近な異性である暉の姉の里奈と恋していた真矢(島外派遣のパイロットで唯一の生き残り)が生き残ったのが意味深である。
・二人のミツヒロ
なまじミツヒロがいい人なだけに、ダーウィン基地に連行された後、ヘスターとベイグラントのコアに翻弄される姿を見るのが辛い。ふと、『EXODUS』4話の千鶴の言葉を思い出した。
史彦「人類軍のバートランドの名を持つ少年、様子はどうですか」
千鶴「とても真剣で使命に燃えていて、
怖いくらい似ています、若い頃のあの人に」
『EXODUS』4話
真矢が別の道を選んだヘスターになったように、パペットのジョナサン・ミツヒロ・バードランドも別の道を選んだミツヒロ・バードランドになるのかもしれない。
一騎と総士はフェストゥム及びミールから祝福をされた結果、自分の人生をやり直すことで未来をつかもうとしているが、それと同じくヘスターとミツヒロ・バードランドはそれぞれ同じような考えを持つ別の人間が別の道を選び、やり直すことことで未来をつかむのだろう。
・別の未来
剣司「明日、葬儀の後でやるぞ」
真矢「やるって」
咲良「成人式よ、あたしたちの」
『EXODUS』25話
成人式という言葉は明るい未来を感じさせる。が、総士自身も理解していたことだが、総士には同級生と同じ未来はなかった。事実、総士は成人式の三日後に行われた第四次蒼穹作戦でいなくなった。しかし、織姫から告げられた通り、総士には同級生とは違う未来があり、その未来を勝ち取るために、夜、ニヒトに搭乗し、転生した自分へのメッセージを残した。
・無と存在
一騎「フェストゥムの世界」
総士「その入口。
存在と無の地平線だ」
一騎「総士」
総士「ぼくは今度こそ地平線を越えるだろう。
無と存在の調和を未来へ託して」
『EXODUS』26話
総士が「存在と無の地平線」と言った直後に「無と存在の調和」と順序を入れ替えて言っていることに注目。冲方丁がtwitter(@ubukata_summit)に書いた『THE BEYOND』のPVの感想を思い出した。
生と死ではなく、死と生のネーミングにこだわりましたよ。
2018年1月3日
「無と存在の調和」と順序を逆にしたということは転生した総士はより無、つまりフェストゥムに近いということを暗示しているのかもしれない。そして、ここが『THE BEYOND』の始点なのかもしれない。
・総士と一騎の望み
公蔵「パイロットには別の者を選抜する。
お前はジークフリード・システムに乗れ、総士」
総士「前線で戦わず……仲間を戦場に送り出せと……」
公蔵「それがお前の適正だ」
『RIGHT OF LEFT』(※3)
総士のファフナーとの戦いは挫折から始まったが、最後はここに到達した。
総士「今更だが気分が良いものだな。
仲間に指揮を預けて戦えるというのは」
『EXODUS』26話
総士は自分の有り様-フェストゥムと同じく同化能力を持つ人間-を受け入れることができなかったため、ファフナーに乗ることができなかった。しかし、フェストゥムの祝福を受けたことで自分の有り様を受け入れた結果、自分が望んでいた人生-ファフナーのパイロットとして仲間とともに戦う-を手に入れた。
『EXODUS』24話で竜宮島の祝福を受け入れた一騎は『EXODUS』の総士と同じく、『THE BEYOND』で自分の望みをかなえることになるはずだが、総士自身は受け入れていた竜宮島のしがらみから完全に開放された総士でないと一騎の望みがかなわないというのはなかなか業の深い設定だ。
・あと3年
一騎「あと3年、それだけあれば覚悟だってできる」
『EXODUS』1話
『EXODUS』の物語開始時、ファフナーに乗らなかった場合の一騎の寿命はあと3年だった。一方、総士は2148年に肉体を取り戻して帰還し、3年後の2151年11月23日(※4)にいなくなった。『EXODUS』の制作発表時に能戸総監督が「一騎、総士、19歳に成長しております。彼らに迫る生存限界を描こうと思います」(※5)と言っていたが、一騎と総士がフェストゥムの祝福を受け入れた後の残り時間は同じなのかもしれない。
・「僕ら」とは誰なのか
総士「僕らの最後の時間が始まった」
『EXODUS』1話
『EXODUS』1話を見た時、僕らとは総士と同級生全員のことだと思った。
『EXODUS』26話を見終わった時、僕らとは総士と一騎のことだと思った。
『THE BEYOND』のPVを見た後に『EXODUS』を通して見ると、僕らとは総士とこそうしのことではないかと思うようになった。
総士「君は知るだろう。
苦しみに満ちた生でも存在を選ぶ心。
それが僕らを、出会わせるのだと。
世界の祝福とともに僕らは出会い続け、
まだ見ぬ故郷へ帰り続ける。何度でも」
『EXODUS』26話
この中で総士は祝福をすることで、かつていた自分と今ここにいる自分と出会うことを言っているのではないだろうか。ただし、総士が世界を祝福することを選ばない場合、その総士はエメリーのこの言葉通りの存在になるのだろう。
エメリー「あなたは永遠の存在だとミールは言っています。
彼らに痛みを与え続けるため、この世に居続けると」
『EXODUS』14話
※1 『蒼穹のファフナー EXODUS Blu-ray BOX』のブックレットに収録されている冲方丁「作品コンセプト キャラクター概要 主要キーワード」のジョナサン・ミツヒロ・バートランドの項で「『人格を持つフェストゥム』であり、パペットと呼ばれる」と説明されている。
※2 『EXODUS』23話で織姫は操に「自分も戦う気? 変なコア」と言っている。
※3 冲方丁『蒼穹のファフナー ADOLESCENCE』(ハヤカワ文庫)に掲載された脚本から引用。
※4 2017年12月27日に開催された皆城総士生誕祭で発表された。
※5 2011年7月9日に開催されたイベントで流れた映像での発言。『蒼穹のファフナー Blu-ray BOX』の特典ディスクに収録されている。
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