「蒼穹のファフナー EXODUS」Blu-ray BOXの感想

 Blu-ray BOXの特典についての感想。

 映像特典には放送前に制作された3本のPVと2クール目の予告PV、公式アプリで配信していたキャストのインタビューを収録してほしかった。PVはすべて公式サイトで見ることができますが、ネット上のものはいつ消えるかわからないという不安と常に隣り合わせ。キャストのインタビューは期間限定だったので今は見られない。特典CDには冲方丁脚本によるドラマCD『THE FOLLOWER』(DVD/BD4巻収録)、『THE FOLLOWER2』(DVD/BD11巻収録)を収録してほしかった。ドラマCDを聞かなくても物語は理解できるが、聞くと理解がより深まる。

 ブックレットに掲載されているキャラクターの設定画は『EXODUS』の第1話・第2話先行上映のパンフレットに掲載されたものに若干追加。ただし、パンフレットにあったナレインの設定画はブックレットには未掲載、来主操はパンフレットには未掲載。メカはトローンズ・モデル ラファエル(空戦型)の背面図が新規掲載。パンフレットに載っていた爆撃機がブックレットには未掲載。フェストゥムはパンフレットに載っていたスフィンクA型、アザゼル型 Aウォーカー、アザゼル型B ロードランナーの設定画がブックレットには未掲載。メカの設定画は『電撃HOBBY MAGAZINE』2015年5月号に掲載されたものが一番大きかったりします。

 ブックレットに掲載されている「作品コンセプト キャラクター概要 主要キーワード」(冲方丁執筆)は『EXODUS』を理解する手がかりとして極めて有益。『EXODUS』で新しく登場した人類軍のキャラクターにもその出自とバックグラウンドが設定されているので、台詞の少ないキャラクターの役者は役をつかみやすかったと思います。

 

・主従関係

ファフナーは、パイロットを受胎するのだ。
『蒼穹のファフナー ADOLESCENCE』第二章5(※1

 竜宮島のファフナーにはミールのかけらが内蔵され、コックピットは子宮の位置にある。パイロットはいわば敵であるフェストゥムの胎児になって戦うという形になっている。母体であるファフナーの機体そのものに意志はなく、パイロットにはファフナーと一体化することが求められることから、胎児である人間が主、フェストゥムであるファフナーが従という関係になる。ただし、人間の手で作られたものの、再構成されたマークザインとマークニヒトにはファフナー自身の意思が存在する(※2)。マークニヒトのパイロットである総士は機体と一体化することなく、マークニヒトを使役している状態だった。

 白井弓子『WOMBS』(小学館、2009年~2016年)では人間の女性の子宮に別の生物の体組織を入れて、別の生物の持つ力を使っている。その結果、ファフナーとは主従関係が逆となり、人間の母体が主、子宮内の存在が従ということになる。ファフナーと『WOMBS』では人間のいる位置が逆になっているが、どちらの作品でも主導権を握っているのは人間である。

 

・過酷な生存競争

 人類軍のペルセウス中隊と竜宮島の島外派遣部隊のファフナーのパイロットで生き残ったのは真矢とミツヒロの二人だけだった。この二人にはある共通項がある。それは自らの手で人を殺した。真矢はシュリーナガルの人々を助けるために爆撃機を攻撃し、一騎を守るために人類軍の刺客をあやめた。一方、ミツヒロはベイグラントのコアの少年に操られていたとはいえ、アイを殺してしまった。

ウォルター「戦ってる仲間がいるんだ。
      何万という民間人も」
  司令官「交戦規定アルファは絶対厳守だ」
ウォルター「命令を撤回しろ」
『EXODUS』1話

ナレイン「諸君と戦う気はない。
     直ちに撤退しろ。
     さもなくば災いが訪れる」
『EXODUS』20話

 ウォルターとナレインは人を殺すことを拒否し、アイはアルゴス小隊の放った刺客を撃てなかった。人を殺すことを禁忌としている竜宮島のパイロットと同じく、ナレイン将軍率いるペルセウス中隊もディアブロ型によって同化された人間以外を殺すことを禁忌としていたのだろう。そのため、人を殺した真矢とミツヒロ以外のファフナーのパイロットは誰一人として生き残れなかった。一期で人類軍をやめて竜宮島に帰ってきた時の道生の言葉を思い出した。

道生「俺な、フェストゥム以外と、戦ったよ。
   大勢、俺と同い年くらいのやつまで」
一期17話

 竜宮島とペルセウス中隊のパイロットが真矢とミツヒロを除いて全員死亡という事実から読み取れるのは、竜宮島の外の世界では他人の命を犠牲にしないと生き残れないということ。それを端的に示しているのが、すべての戦いが終わった後で真矢に銃を向けたビリーだろう。新国連の支配する世界は常に座る場所の少ない椅子取りゲームをしている状態であり、他人を犠牲にしなければ生き残ることができない。それ故、竜宮島とペルセウス中隊のパイロットで生き残ったのは、理由はどうあれ、人を殺した真矢とミツヒロのみだった。

 

 暉「人を撃ちたくて仕方なかった、怖くて。
   相手の命を奪えば安心できると思った」
里奈「撃ったの?」
 暉「遠見先輩に止められた」
『EXODUS』23話。

 竜宮島に帰る旅の途中で暉が人を殺していたら、暉は生き残ったかもしれない。しかし、暉には真矢ほどの精神的に強さがないため、おそらく精神的に病んでしまっただろう。

 

・瀬戸内海ミールの行方

◯蓬莱島
前作で破壊された島。島のミールは、皆城総士が乗るマークニヒトの中で眠っている。
冲方丁「作品コンセプト キャラクター概要 主要キーワード」

 この一文で『EXODUS』制作時に一期9話で破壊した島が蓬莱島と設定が変更されたことが確定。この内容はコミカライズに盛り込まれていましたが、蓬莱島のミールの行方はこの文章が初出。この文章を読んだ後、思わず目が点になりました。マークニヒトは人類軍(竜宮島を脱島したミツヒロ)が作ったファフナーですが、フェストゥムに奪われ、最終的に竜宮島が所有することになった。竜宮島はニヒトだけでなく、図らずも蓬莱島のミールも手に入れたということになる。

保「この島が何を守ってたにせよ、誰かが受け継がなきゃならんだろう」
一期7話

 『EXODUS』で竜宮島を去った島民は人類軍に滅ぼされた海神島に移住したが、かつて日本が所有していたが新国連によって奪われたものを、竜宮島が少しずつ取り返していく物語でもあるのだろう。

 

・エスペラント

【エスペラント】
 様々なかたちで人間とフェストゥムが融合したことで生まれた新人類たちのこと。
 ミールやフェストゥムと交信して意思疎通できる者たちのことを特に指す。
冲方丁「作品コンセプト キャラクター概要 主要キーワード」

 竜宮島ではミールの遺伝子汚染から守るために、子どもたちにフェストゥムの因子が移植するという形で人類とフェストゥムが融合していたが、竜宮島の外でもゆるやかな形ではあるが、人類とフェストゥムの融合が進んでいたということになる。

 2114年に北極ミールが地球に飛来して、人間とフェストゥムの間に戦闘が起こった結果、地球上にフェストゥムの因子がばらまかれてしまった。その結果、人間はフェストゥムの因子に感染し、因子の感染した人間からフェストゥムと融合した子どもが生まれた。

  ビリー「すごいや、フェストゥムの因子に汚染されていない」
ウォルター「結晶が生えたステーキだって俺は構わないね」
『EXODUS』14話

 この台詞から人間がフェストゥムの因子に感染した要因の一つは食料だと思われる。

◯キース・ウォーター
 もともとマカベ因子が必要のないほどの適性の持ち主。さらに因子を移植したおかげで、アイ以上のエスペラントの素質を持つが、自覚はない。
冲方丁「作品コンセプト キャラクター概要 主要キーワード」

 エスペラントとは美羽のようなミールやフェストゥムと意思疎通できる者を指す言葉だが、フェストゥムの因子が融合している人間という意味では竜宮島の子どもたちと同じ存在である。エスペラントにはさまざまな能力を持つ者がいるが、当然、ファフナーに乗る能力に特化している者がいるはずで、それがキースだった。

ミツヒロ「マカベ因子だ。
     昔、カズキマカベは新国連のファフナー開発に協力してくれた。
      その時、彼の遺伝子を元に特効薬が作られたんだ」
 ビリー「素質が足らない人間でもファフナーが操縦できるようになる薬だよ」
『EXODUS』3話

 人類軍は竜宮島とエスペラントを抹殺しようとする一方で、兵士にマカベ因子を移植して人工のエスペラントを作っていた。

バーンズ「選ばれた5万人を生かすため、残り20億人の人類を敵と共倒れさせる」
『EXODUS』23話

 フェストゥム因子に感染しない5万人の人間だけが生き残ればいいと考えているヘスターは、新国連の支配下にある世界で情報統制を行って人類のフェストゥムに対する戦意を高揚させ、その気持ちを利用して住民を兵士に仕立て上げた。人類軍は嘘の上に成り立っていたと軍隊であり、末端の兵士が世界の真実とヘスターの考えを知ってしまったら、その組織は内部から崩壊するのは明らかである。事実、ヘスターの考えに同調しないバーンズとナレイン、そして、エスペラントの存在をきっかけに、一枚岩だった人類軍に亀裂が入り始めた。竜宮島が新国連から独立したバーンズ率いる太平洋生存圏の兵士に情報開示してしまったので、おそらく人類軍側もフェストゥムと同じく敵を殲滅する者と共存を目指す者に別れてしまった。『THE BEYOND』のPVでバーンズの姿を見ることができますが、『EXODUS』でのナレインと同じように竜宮島側と共闘する側に回ったのかが気になります。

 

・約束

【新たなミール 通称アルタイル】
宇宙を漂流するミールたちの一つで、アザゼル型の呼びかけによって地球に到来した。

◯六つのアザゼル型
「新たなミール」を呼んで、ともに地球を同化したがっている。
冲方丁「作品コンセプト キャラクター概要 主要キーワード」

 『HEAVEN AND EARTH』でボレアリオス・ミールが痛みを消すために竜宮島のミールを同化しようとしたことから、北極ミールの基本的な考え方は「過去に起こった嫌なことを同化という形で消してなかったことにする」ということになる。アザゼル型は宇宙に漂流する新たなるミール(アルタイル)を呼び、それに同化されることで、人類と接触した経験を無に返し、元の状態に戻ることを望んでいる。それとは逆に瀬戸内海ミールは北極ミールと人類が出会った後の出来事をすべて記憶し、過去の失敗を教訓にして、アルタイルと出会おうとしている。

 

 ボレアリオス・ミールは砕かれた北極ミールのかけらから生まれたが、そのコアである来主操は北極ミールとは逆の考え方を持っていた。

操「ねえ、助けたんだから君を同化してもいいよね」

操「やったー、君の力をもらえるのは嬉しい」
『EXODUS』22話

 来主操の同化は相手をいなかったことにするのではなく、相手はいなくなるがその力は受け継ぐというものだった。これを同化される美羽側から見ると、フェストゥムに同化されることを受け入れた結果、自分はいなくなるがフェストゥムに何かを残す。つまり人間がフェストゥムを祝福する時の構図そのものになっていた。つまり『EXODUS』で一騎と総士だけでなく、美羽も祝福したということになる。『EXODUS』の物語開始時から美羽は目の前の危機を脱するためであれば、自分自身がフェストゥムに同化されることも厭わない人だった。

  弓子「美羽は自分を同化させる気よ」
エメリー「えっ」
  弓子「あなたたちのミールを別の存在へ変えるために。
     争うための存在へ」
エメリー「アザゼル型。
     私たちのミールを他のミールの化身たちと
     同じようにしてしまうと言うんですか」
  弓子「今来ている敵を退けるためよ」
ドラマCD『THE FOLLOWER』

 

 『HEAVEN AND EARTH』までは人間が祝福した後、フェストゥムが祝福するという形になっている。この時のフェストゥムの祝福はすべて同化した相手をさまざまな形で存在させることだった。しかし、『EXODUS』ではフェストゥムの人間に対する理解が進んだため、祝福する人間の望みをかなえ、且つ今ではなく未来に祝福する、つまり約束をする※3)という形に変化した。その結果、『HEAVEN AND EARTH』までとは逆に先にフェストゥムが人間を祝福した。その祝福で得たものが、一騎は生きること、美羽は「世界中のみんなが平和になって、だれも悲しくて痛くなくなったら、美羽を食べていいよ」(※4)という条件と引き換えに援軍を得ることであったため、まだ一騎と美羽はフェストゥムに同化されずに存在している。一方、総士が望んだ祝福は死であったため、未来に祝福するという条件-転生した自分宛てのメッセージをニヒトに残す-を満たした後、いなくなった。約束はいつか果たされるものなので、『THE BEYOND』では一騎、総士、美羽の祝福が描かれることになるだろう。

 一期で総士は一騎に戻ってくることを約束していなくなったので、フェストゥムに約束という概念を教えたのは総士なのだろう。

総士「僕は一度、フェストゥムの側に行く。
   そして、再び、自分の存在を作り出す。
   どれほど時間が掛かるかわからないが、必ず」

総士「僕はここにいる。
   いつか再び出会うまで」
一期26話

 フェストゥムが約束という概念を理解したことを象徴するように、『HEAVEN AND EARTH』でがスフィンクス型フェストゥムである来主操が一騎に再会を約束をしていなくなった。

総士「彼が新しく生まれる場所にいつかお前が来るかもしれない。
   その時、お前に空が見えないのは悲しい。
   彼の最後の思考だ」
『HEAVEN AND EARTH』

 『THE BEYOND』で再会を約束していなくなったのはすべてフェストゥムである。

エメリー「またたくさん、お話しようね」

  織姫「また会おうね、芹ちゃん」

  総士「そして互いの祝福の彼方で会おう、何度でも」
『EXODUS』26話

 そういえば、ファフナー5周年を記念してリリースされたangelaのシングルタイトルが「約束」だったことを思い出した。

 

 「蒼穹のファフナー THE BEYOND」PVの感想 Part5の人類=制作スタッフ?でも書きましたが、制作スタッフはついに祝福までをも言語化してしまったのである。恐ろしや。

 

P.S.
 「主従関係」は白井弓子『WOMBS』を全巻読んだ時にメモしたのですが、うまく書けなくてお蔵入り。キャラソンのタイトルを見て、なんとかまとめました(笑)『WOMBS』の1巻は発売時に読み、続きは完結したら読もうと思っていました。しかし、この作品が完結をしていることを知ったのは2017年4月、日本SF大賞受賞のニュースでした。

 「約束」を書き終わった後の感想。家族の安全が最優先の弓子と自分の命を使ってでもみんなを守ろうとする美羽。正反対の考えを持つ親子なので、生きている時に弓子が娘を理解できなかったのも当然か。戦うための力を持つ美羽の考え方は弓子よりも道生や真矢に近い存在。

 『THE BEYOND』のPVを見たことでティザービジュアルの意味を理解してしまい、うまい表現だと思っている今日この頃。

 

※1 『蒼穹のファフナー ADOLESCENCE』(2013年、ハヤカワ文庫)。

※2 『EXODUS』2話、封印されていたマークザインとマークニヒトはシステムにクロッシングを要求した。

※3 『EXODUS』22話、弓子が美羽に「そんな約束をしたの」と言っている。

※4 『EXODUS』22話、美羽の台詞。また、『EXODUS』15話、美羽は援軍を呼ぶために総士の力を借りたが、美羽が来主操に出した条件をエメリーと総士が知っていたのかが気になる。