「蒼穹のファフナー EXODUS」を見直した感想 その1

 「蒼穹のファフナー EXODUS」Blu-ray BOXの感想を書き終わった後、『EXODUS』を1話から見始めた時の感想をまとめたもの。2017年末に公開された『THE BEYOND』のPVを見た後でもあるので、少し見方が変わった部分もあります。長くなったので三分割しました。

 

・君=こそうし

総士「僕の名は皆城総士。
   君がこれを聞くとき、もう僕はこの世にいないだろう」
『EXODUS』1話

 3年前、この台詞を映画館で聞いた時は絶句……しましたが、今回は「皆城総士、つまり自分がもうこの世にいないってどういうこと?」と思ってしまい、この台詞を完全にこそうしの視点で聞いていました。総士はなぜ現在の世界状況を説明するところから始めたのだろうか。織姫は総士にこう告げた。

織姫「消えた後もきっとあなたの命は続く」
総士「それは、ミールによる死と再生か」
織姫「もうひとつの島に新しいミールが根付く時、
   あなたとあなたの器が生まれ変わる、そういう未来が見えるの」
『EXODUS』22話

 総士はミールのコアではないため、織姫や来主操とは違い、転生した自分は総士としての記憶を引き継がないと考え、何も知らない自分に対して自分の知っていることをすべて伝えようとしたのだろう。

 

・フェストゥムの因子の拡散

 人類の核の攻撃からエメリーを守ったフェストゥムが崩れる場面を見た時、ブックレットのこの文章を思い出した。

【エスペラント】
 様々なかたちで人間とフェストゥムが融合したことで生まれた新人類たちのこと。
冲方丁「作品コンセプト キャラクター概要 主要キーワード」

 フェストゥムの体は珪素であるため、コアを失うと土に還る。また、同化さた人間は結晶化した後、砕け散る。コアを失って土になったフェストゥムや砕け散った同化結晶にフェストゥムの因子が含まれていれば、フェストゥムの因子は土だけでなく空気中にも存在し、呼吸することにより人間の体の中に取り込まれ、排出されない物質であれば体の中に蓄積していく。つまり、フェストゥムの因子に感染しない特異体質な人間以外の人間は全員、フェストゥムの因子に感染してしまったということになる。

 

・人間とフェストゥムとの対話

◯皆城総士
 通常は人間の肉体でいるが、同化現象に接するとフェストゥムと同じ体に変貌する。
冲方丁「作品コンセプト キャラクター概要 主要キーワード」

 それではなぜ総士は島のコアが目覚めた時に同化現象に接することになったのか。美羽はアショーカと対話するためにシュリーナガルに向かったが、シュリーナガルに近づいた時、美羽の手のひらには同化結晶が生えた。

 この時のエメリーと美羽の言葉からミールは同化という形で人とコミュニケーションを取っていることがわかる。

エメリー「美羽がミールの声を聞いてる」

  美羽「美羽ね、こんにちわって挨拶したよ。
     たくさんお話ししようねって」
『EXODUS』6話

 つまり竜宮島のミールは人に声をかける時は同化という形を取っているということになる。

 『EXODUS』5話では一騎の指輪の痕が緑色に変わった。この後、島のコアが目覚め、島のコアは「総士は一騎を呼んで」と言った。

 『EXODUS』17話ではカノンの指輪の痕が緑色に変わった。この後、カノンはキールブロックで織姫と話をしている。

 

・住民感情

真矢「敵じゃない、人から守ってるんだ」
『EXODUS』6話

 シュリーナガルで人々を観察した真矢の言葉は、ナレイン将軍のやり方を受け入れていない住民がいる可能性を示唆しているのだろう。『EXODUS』ではアショーカに対するシュリーナガルの住民感情がほとんど描かれていないので、ナレイン将軍のやり方を否定している人がどのくらいいるのかは不明である。

 

・第8話「平和を夢見て」

  芹「だから、皆、無事に帰ってきてください。
    それ以外のものはいりません」

カノン「礼なら無事に戻ってから言え。
    真矢を、みんなを無事に連れて帰って来い」
『EXODUS』8話

 芹とカノンの望みはかなわなかった。カノンは一騎が帰ってくる前にいなくなってしまったので、一騎からの礼を聞くことができなかった。

 

・第9話「英雄二人」

アイ「あたしを撃って、お願い。
   わたしがいなくなる前に。
   撃って。
   無駄よ、撃って」

アイ「それでいい。
   早く、あたしがいるうちに」
『EXODUS』9話

 真矢はアイから懇願されても撃てなかったが、カノンの「敵に取りつかれた者は始末しろと命令されてきた」(※1)という言葉を思い出した。この後、真矢は大事な人を守るために人を殺めてしまったことを考えると、真矢と暉を通して人類軍の新米兵の心情を描いているように感じる。

 

・一騎の目と右腕

 ディアブロ型に乗っ取られ同化されつつあるアイを一騎が助ける時、一騎の目が金色になっていた。これはフェストゥムの光が反射して目が金色になっていると思っていましたが、『THE BEYOND』のPVの3:23~3:27あたりで一騎の目が金色になっていました。

 同化現象により視力を失いつつあった一騎の目を治したのは、スフィンクス型フェストゥムの来主操だった。これにより一騎の目は恐らくフェストゥムになってしまった。一騎の「俺もお前もフェストゥムの力で生きているんだな」(※2)という言葉から、一騎の目と総士の体は同じような状態だと思われます。

◯皆城総士
 通常は人間の肉体でいるが、同化現象に接するとフェストゥムと同じ体に変貌する。
冲方丁「作品コンセプト キャラクター概要 主要キーワード」

 一騎の場合は最終的に来主操が治した目と『EXODUS』21話で同化され、竜宮島のミールが治した右腕が総士の体と同じ状態になったということになります。

 

・対になる言葉

総士「ただ奪われないために、僕らは力の限り多くのものを敵から奪い続けた」
『EXODUS』9話

 総士のこの言葉は一騎の台詞と対になっている気がする。

一騎「たくさん敵の命を奪ってきた。
   返せるものは返すよ」
『EXODUS』18話

 一騎のこの言葉は『EXODUS』では回収されなかったが、『THE BEYOND』で回収されるのだろうか。

 

・フェストゥムに近づいていく総士

母・梢の研究により瀬戸内海ミールの因子を移植されている総士はフェストゥムとの半同化状態にある。
Arcadian Project report 06(※3

 総士は人間として生まれたが、他の子どもたちとは違いフェストゥムとの半同化状態にあった。それ故、父から島のために生きることを強要された時、いなくなりたいと思い、一騎を同化しようとした。

人の心とフェストゥムの体の融合体 冲方丁「作品コンセプト キャラクター概要 主要キーワード」(※4

 総士はイドゥンにさらわれ、最終的に北極ミールに同化されたが、フェストゥムを祝福したため、祝福を受け、肉体を取り戻した。しかし、元の体を取り戻すことはできず、フェストゥムの体になった。総士は島のコアの命によりニヒトに乗ったが、同化現象に襲われ、いなくなった。しかし、総士はフェストゥムに永遠に痛みを教える存在であるため、その命は消えずにこの世に転生した。総士は一度同化された後、肉体を取り戻したため、人の心とフェストゥムの体を持っていたが、その思考は人間のものだった。こそうしは総士と同じく人の心とフェストゥムの体を持っているが、幼いころに連れ去られフェストゥムに育てられたため、その思考は総士とは異なりおそらくフェストゥムのものだろう。冲方丁は「一騎と総士の関係が、上手くフェストゥムと人類の関係になっています」(※5)と言っていたが、総士が生まれかわるたびにフェストゥムに近づいているとが、これは人間のフェストゥムに対する理解が進んでいるということを意味しているのだろう。

 

・祝福と対話

 シリーズを通して、フェストゥムを祝福した人は真壁紅音、皆城総士、皆城乙姫、来主操の4人。皆城乙姫と来主操はフェストゥムなので、フェストゥムを祝福した人間は真壁紅音と皆城総士の二人ということになる。

瀬戸内海ミールと共鳴した紅音は、敵フェストゥムの位置や思考を感じることができる
ファフ辞苑5【真壁紅音と麻木史彦】

母・梢の研究により瀬戸内海ミールの因子を移植されている総士はフェストゥムとの半同化状態にある。
Arcadian Project report 06(※6

 真壁紅音と皆城総士は手段は違えど、フェストゥムに自分の存在を知らせることのできる人間だった。フェストゥムと人間ではコミュニケーションの手段が違いすぎて、二者の間での意思疎通は困難を極める。そのため、フェストゥムの存在を感じることができる真壁紅音とフェストゥムとの半同化状態にある皆城総士ですら、同化という形で自らがフェストゥムの側に行かなければ、フェストゥムに自分の考えを伝えることはできなかった。一方、フェストゥムである皆城乙姫と来主操は同化という形を取らなくても、ミールに自らの意思を伝えることができるため、真壁紅音と皆城総士のようにフェストゥムには同化されるという形でいなくならなかった。皆城乙姫は同化されていなくなったが、それは寿命が尽きたためであり、来主操は人類軍の核攻撃でいなくなった。

 

【エスペラント】
 様々なかたちで人間とフェストゥムが融合したことで生まれた新人類たちのこと。
 ミールやフェストゥムと交信して意思疎通できる者たちのことを特に指す。
冲方丁「作品コンセプト キャラクター概要 主要キーワード」

 2114年に北極ミールが地球に到来してから40年近く経ち(※7)、竜宮島の外でも人間とフェストゥムの融合が進んだ結果、ミールやフェストゥムと意思疎通できる人間が現れた。しかし、ミールとの対話には同化されることも辞さないという覚悟が必要だった。

ナレイン「代償を支払う覚悟もなく、ミールと対話はできない」
『EXODUS』3話

 事実、『EXODUS』3話で竜宮島のミールと対話したエメリーも『EXODUS』6話でアショーカを通じてアルタイルと対話した美羽も同化結晶に覆われた。

 しかし、ザインに乗った一騎と同じく、エスペラントは他人の同化を肩代わりすることができるため、フェストゥムを祝福する人間とは異なり、ミールと対話できる人間が同化される可能性は低くなった。つまり、フェストゥムと人間の双方が相手に近い存在へと変化することで、相手を理解をし始めた結果、人間がフェストゥムを祝福、つまり同化されなくても、意思疎通が可能になったということである。

 

※1 一期20話

※2 『EXODUS』6話

※3 一期単巻DVD6巻のリーフレットに掲載。

※4 『蒼穹のファフナー EXODUS Blu-ray BOX』のブックレットに掲載。

※5 『蒼穹のファフナー Blu-ray BOX』のブックレットに掲載されている「冲方丁×プロデューサー座談会」での言葉。

※6 一期単巻DVD6巻のリーフレットに掲載。

※7 『EXODUS』は2151年の物語。

 


関連記事
 ・『EXODUS』を見直した感想 その2
 ・『EXODUS』を見直した感想 その3