「蒼穹のファフナー EXODUS」Blu-ray BOXの感想を書き終わった後、『EXODUS』を1話から見始めた時の感想をまとめたもの。2017年末に公開された『THE BEYOND』のPVを見た後でもあるので、少し見方が変わった部分もあります。
『EXODUS』を見直した感想 その1 の続きになります。
・エスペラントの定義
【エスペラント】
様々なかたちで人間とフェストゥムが融合したことで生まれた新人類たちのこと。
冲方丁「作品コンセプト キャラクター概要 主要キーワード」
ナレイン「私の部隊は全員がエスペラントの素質を持つ。
それゆえ地獄を生き延びた。
この島も同じだと思う」
『EXODUS』3話
ブックレットでエスペラントがの説明文を読んで、やっとナレインの「この島も同じだと思う」という台詞の意味がわかった。
史彦「美羽君に匹敵する者はいないがな」
ナレイン「エメリーもそう言っている。
彼女こそ、世界最高のエスペラントだ」
『EXODUS』3話
ここでナレインが史彦にエスペラントが生まれた経緯を説明するべきだった。おそらくこの台詞でエスペラントは竜宮島の子どもたちと同じく人間とフェストゥムが融合した存在だということが伝わると思ったのだろう。
ビリー「すごいや、フェストゥムの因子に汚染されていない」
『EXODUS』14話
今ならこれがエスペラントを説明するための台詞だったことがわかるが、アニメではエスペラントについての説明が足りなかった。新国連内部から新たな竜宮島(アショーカと呼ばれるミールを持ち、フェストゥムと対話することのできる新人類がいる)が生まれたことを説明していれば、ナレインとエスペラントの殲滅しようとヘスターの行動が明確になる。
バーンズ「本当の目的はフェストゥム因子の消滅と
因子に感染しない特異体質者の選別だ」
溝口「そんな人間がいるのか」
バーンズ「5万人ほどな」
『EXODUS』23話
ここでヘスターがナレインとエスペラントの殲滅にこだわった本当の理由が明らかになり、視聴者に衝撃を与える場面になるはずだったが、その目論見は外れた。エスペラントについての説明が足りなかったため、23話という物語終盤に出てきたフェストゥムの因子に感染しない人間という新情報に気を取られてしまい、脚本家が狙ったであろう効果を視聴者に与えることはできなかった。
物語の中で情報を出す時期と量のコントロールは難しい。
・彗の望み
彗「もし姉ちゃんが戻れば、また家族一緒になるのかな。
来い」
『EXODUS』11話
鏑木家は早苗がL計画に参加して戦死したことで機能不全に陥ったが、皮肉なことに彗がファフナーのパイロットになり、早苗の遺品を手に入れたことで、機能不全家族の状態から脱した。彗はカノンの助力を得た結果、自らの望みをかなえたということになる。
・未来のイメージ
ジェレミー「アマテラスは遠くの物体を引き寄せます」
『EXODUS』11話
カノン「まるで、わたしが悪い未来を招き寄せている気分だ」
『EXODUS』16話
『EXODUS』において未来とは、人が引き寄せるというイメージとして描かれている。
・暉が引き継いだもの
広登「島に帰って最初にすることは腹いっぱい食うことだな」
『EXODUS』12話
暉が島に戻り、家に帰って最初にやったことは、家族と一緒にご飯を食べることだった。(『EXODUS』23話)つまり、暉は広登の望みも引き継ぎ、かなえたということになる。
ただし、この場面では『EXODUS』12話での暉自身の経験(フェストゥムのワームスフィアから人々を守ろうとしたが守れず、ファフナーの手のひらで命が消えた)とも重ねられている。
・一騎とカノン
カノン「でも自分一人で戦うわけじゃない。
私より優秀な仲間がいる」
『EXODUS』12話
なぜか、ドラマCD『NOW HERE』での一騎の台詞を思い出した。
一騎「総士、遠見を戦いから外せないか」
総士「なに」
一騎「遠見だけじゃなくて全員。
咲良も剣司も衛も」
総士「一人で戦うというのか」
一騎「俺、あれに乗れば全部解決するんじゃないかって。
そんなふうに思ってた」
ドラマCD『NOW HERE』
カノンの台詞はなぜか一期の一騎が出した答えのように聞こえた。一騎とカノンが同じような考えを持っていることを表現するかのように、『EXODUS』では一騎の台詞とカノンの台詞が重ねられていた。
一騎「たくさん考えたんだ、たくさん迷った。
今日、命の使い道を教えてもらった」
『EXODUS』6話
カノン「たくさん困った、たくさん考えた。
答えは一つしかなかった」
一期22話
カノン「ザインごと島を食う気か。
逝くな、一騎」
『EXODUS』17話
一騎「逝くな、カノン。
お前はここにいろ」
『HEAVEN AND EARTH』
また、織姫も一騎を引き合いに出して、カノンに決断を迫った。
織姫「選びなさい。
命の使い方を。
一騎のように」
『EXODUS』16話
島外派遣部隊での実質的な主人公は暉だったが、竜宮島で主人公の役割を担ったのがカノンだった。事実、『EXODUS』13話の戦闘を見ると、総士の役割を剣司が引き継ぎ、一騎の役割をカノンが引き継いでいた。その後、カノンは竜宮島の未来を勝ち取るために一人で戦っていたが、竜宮島を付け狙うウォーカーとの戦闘時には一騎が援護した。
カノンがいなくなった後、竜宮島で一騎の役割を引き継いだのは剣司だった。ファフナーをエインヘリヤル・モデルにコンバージョン後、剣司はシステムを内蔵させたマークアハトに乗り、戦場で指揮を取るようになった。竜宮島では最終的に剣司が一騎と総士の役割を引き継いだことになる。もっともジークフリード・システムを内蔵させたファフナーに乗り、戦場で指揮を取るというのは、一期で総士がやろうとしていたことだった。
総士「新国連の最終決戦計画に参加する場合、一騎達と共に戦いたい。
僕がこの島を出るためのコアの許しがほしい」
乙姫「とっくの昔にあたしから離れていたくせに。
でも、そんなに長くはみんなと一緒にいられないよ」
総士「ジークフリードシステムとファフナーの二重の負荷がかかっても、
18時間は活動できる」
一期22話
しかし、総士はイドゥンによって北極に連れ去られてしまったため、この望みをかなえることはできなかった。
・総士が伝えたかったもの
こそうしの立場を頭に入れて総士が残したメッセージを聞くと、総士が転生した自分に伝えようとしたものが見えてくる。総士が伝えようとしたものはこの言葉に集約されていると思う。
総士「僕は人間として生き、命を終える。
それもそう長くない」
『EXODUS』14話
総士はミールの因子を移植されていたため(※1)、竜宮島の他の子どもたちよりもフェストゥムに近く、一度同化された後はフェストゥムの体を持つ存在でありながら、それでも人間と人間の世界で生きることについて伝えようとしていた。
総士「最後の時を刻み始めた」
『EXODUS』15話
その上で、人間の命は有限であり、皆城総士という人間はもういないということが強調されている。
総士が転生した自分に伝えたかったこと=こそうしが知らないことということになり、その結果、こそうしはおそらく人間について何も知らないということになる。
・島への帰還
里奈「広登が帰ってきたよ」
『EXODUS』17話
『EXODUS』14話のエンディングは人類軍に殺された広登の魂が竜宮島に帰ったように描かれているが、人とフェストゥムの記憶を保管しているゴルディアス結晶を性質を説明する起点の役割をも果たしている。
・同化=過去を消す
カノン「ゴルディアス結晶を奪われることで始まる島の滅び」
『EXODUS』17話
かつてボレアリオス・ミールは竜宮島のミールを同化することで、この島がフェストゥムに教えた痛みと死の恐怖を消そうとした。ウォーカーは竜宮島の存在と無の地平線であるゴルディアス結晶を奪って竜宮島の過去を消すことで、過去をなかったことにしようとしている。
・零央と美三香
◯御門零央
子供の頃から美三香のことが好きだが、まだあまり深い恋愛感情ではなく、容姿が好きといった程度である。
冲方丁「作品コンセプト キャラクター概要 主要キーワード」
この一文を読んだ時、「零央が好きなのは顔かよ。身も蓋もねー」と突っ込んでしまったのですが、零央が左目に結晶体が生えた美三香を見る場面では切なくなってしまった。
零央「顔見せろよ」
美三香「気持ち、悪いよね」
零央「全然」
『EXODUS』17話
零央は美三香に動揺を見せることなく、逆に自分の体をネタに笑いを取っていた。零央はメンタルが強い。
・第18話「罪を重ねて」
総士「君は知るだろう。
奪われた命と分け与えられた命の違いを」
『EXODUS』18話
『EXODUS』18話ではフェストゥムの考えが多様化している様子が描かれた。竜宮島ではウォーカーが生み出したリバイアサン型とグレンデル型の攻撃を受けている時、島外派遣組は人間に敵を持たないミールのかけらが生み出したフェストゥムの森に行った。そこで遭遇したフェストゥムは竜宮島を攻撃しているグレンデル型だった。
人間に対する態度が同じグレンデル型であっても正反対であることを描くことで、フェストゥムの価値観が多様化していることを表現していた。
・第19話「生者の誓い」
史彦「機体の改良に要する期間は?」
イアン「コンバージョンには1ヶ月以上かかります」
史彦「シールドの状況は」
ジェレミー「徐々に低下。1ヶ月持ちません」
『EXODUS』19話
機体の改良が終わったシーンで、予定より早く終わらすことができたので、島をフェストゥムに食われずに済んだことがわかる台詞を入れるべきだったが、たった一言で済ましてしまった。
小楯保「完成だ、みなよくやってくれた」
『EXODUS』19話
『EXODUS』19話の竜宮島側の物語は時間の経過が示されなかったこともあり、これではシールドが消滅する前に機体の改良を終わらせたということが視聴者には伝わらない。そのため、気がついたら作中で1ヶ月経っていたという有様で、置いてきぼりを食らった。『EXODUS』19話の放送後、冲方丁はtwitterでこうコメントしていた。
【蒼穹のファフナー四方山話】19話は「正しい形」を探り続けた話数でした。書くたび、もっと正しい形が見えて書き直す。製作陣のご指摘でまた形が見えて直す。コンテを拝見してまた答えが分かりセリフを直す。
2015年11月7日
このコメントから『EXODUS』19話は要素が多く、まとめるのが難しかったことがわかるが、何度も修正した結果、大事な台詞が抜け落ちてしまったのではないだろうか。
・総士から剣司へ
剣司「パイロットが減った。
俺がやらねえと」
咲良「一人で背負わないで」
剣司「今は二人だ」
『EXODUS』19話
剣司の台詞を聞いて、ドラマCD『NOW HERE』での総士の言葉を思い出した。
総士「僕一人では、戦えない。
パイロットがいて初めて戦えるんだ」
ドラマCD『NOW HERE』
総士の後継者は人一人の力の限界を知る剣司だと思う。総士は『EXODUS』でマークニヒトという巨大な力(海神島を飲み込もうとしたリバイアサン型を一撃で倒した)を手に入れた結果、竜宮島から放逐されてしまった。
・第20話「戦士の帰還」
織姫「未来のために必要な力が、すべて揃った」
『EXODUS』20話
ここで言う未来とは織姫自身は見ることのできない「あなた(総士)の心と力が作り出す未来」(※2)であり、それはアルタイルとともに眠りについた竜宮島を取り戻すために必要な力ということになる。このあたりの伏線の張り方から『EXODUS』は最初から『THE BEYOND』ありきの企画だったと思います。
※1 一期の単巻DVD6巻のリーフレットに以下の文章が掲載されている。
母・梢の研究により瀬戸内海ミールの因子を移植されている総士はフェストゥムとの半同化状態にある。
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