2019年5月17日から劇場先行上映された『蒼穹のファフナー THE BEYOND』1~3話のうち、第3話の感想です。劇場で販売されたパンフレットの内容も含みます。
文中引用した台詞は劇場で聞き取ったものであるため、間違っている部分が多々あると思われます。ご了承ください。
・竜宮島の人々
蒼穹のファフナー THE BEYOND 第2話「楽園の子」で書いたように、一騎はファフナーのコックピットを出入りする際、フェストゥムと同じ空間跳躍を使って移動した。第3話でボレアリオスは突然、姿を表し、その後、新たにやってきたファフナー3機もスサノオのSDPを使って移動したため、いつの間にかボレアリオスの甲板に存在していた。人間として育てられたこそうしが理解できる方法でやってきたファフナーは空から舞い降りた美羽の乗るマークザインとお供のトルーパーだけである。つまり、こそうしの目の前に現れた竜宮島の人々は美羽を除いてフェストゥムに見えるように描かれていた。こそうしにとって目の前に現れた見知らぬ人の中で自分と同じ人間だと認識できるのは美羽だけであり、それ故、こそうしは美羽の言葉には耳を傾けるのである。
・止まった時間
真矢「たとえ憎まれても二度とあの子を敵の側へは行かせない」
『THE BEYOND』3話
真矢はこう言いつつも、こそうしに対する態度は厳しい。『THE BEYOND』での真矢の態度が理解しにくいが、理解するヒントは会議室でこそうしと竜宮島の人々が一緒に食事をしている場面にあった。こそうしが食事中、堂間舞、ベラ・デルニョーニ、貴志シャオの三人がこそうしが海神島にいた頃のことを話すのだが、その様子からこそうしは赤ん坊の頃からアルヴィスの女性オペーレーターたちから相当ちやほやされていたことが想像できる。つまり、真矢は生まれてから大人たちに甘やかされているこそうしに腹を立てていたのだろう。そう、一騎を除く竜宮島の人々のこそうしに対する態度はマリスによって連れ去られた3年前の状態で止まった状態なのである。皮肉なことに、こそうしの食事シーンは視聴者が見ることのできなかったこそうしの海神島での日常を垣間見ていることになる。
一方、偽りの竜宮島でこそうしの日常生活を見た一騎はこそうしを14歳の少年(※1)として扱っていた。一騎はこそうしを取り戻しに来たものの、強引に海神島へ連れて帰るのではなく、一応、こそうし自身の意思を確認した。
一騎「真実を知りたいか。
知れば平和を失うかもしれない」
『THE BEYOND』2話
丁寧に警告までしているあたりに、一騎の親心が垣間見える。しかし、こそうしは一騎が真実を教えてくれないのなら、自分で真実を知る方法を探すと言ったため、一騎はこそうしに真実を教えることを約束した。だが、こそうしに真実を教えた後の一騎の態度は一変。こそうしの目の前でフロロ(乙姫)を同化してしまうような冷酷な親へと豹変する。それでも、だだをこねるこそうしを見る一騎の視線は温かい。
・追体験
史彦は一騎がこそうしを連れ戻す際、乙姫(フロロ)を奪ったことについて、謝罪する。
史彦「私も家族を守れなかった」
剣司「ここにいる全員が同じ経験をしているんだ」
『THE BEYOND』3話
史彦と剣司の言葉から北極ミールが地球にやってきた後に全人類は経験したことを、フェストゥム側の人間として育てられたこそうしが経験したということになる。
・ルヴィ・カーマとこそうし
ルヴィ「私はあなたと同じ日、同じこの地で命を得ました」
『THE BEYOND』3話
こそうし自身は14歳だが、目の前にいる5歳の子どもが自分と同い年だとはにわかに信じがたい。ファフナーに関する部分はフェストゥムに寄っている竜宮島側が人間の理から外れているのだが、この場面で人の理を外れているのはこそうしである。
・死を体験したミール
総士「僕は人間として生き、命を終える。
それもそう長くない」
『EXODUS』14話
フェストゥムの世界を体験した総士は人として命を終えることを望んでいた。
総士「怖いかニヒト、僕もだ」
総士「僕らも還ろう、命の源へ」
『EXODUS』26話
総士は最後まで憎んでいたマークニヒト(※2)とともに存在と無の地平線を超えたが、総士はすぐに転生し、生まれ変わった。しかし、マークニヒトは総士と一緒に生まれ変わることなく、死んだままだった(※3)。こそうしが生まれてから5年後、こそうしは自分自身が何者であるかを知るためにマークニヒトに搭乗した。こそうしがマークニヒト内に残されたメッセージを聞いた瞬間、過去と共鳴した。その時、マークニヒトはこそうしを総士だと認識し、新しく生まれた。その結果、マークニヒトは皆城総士と同じく死と再生を経験したコアになった。
『THE BEYOND』1話では自分の意思で死を選ぶという行為が理解できないフェストゥムとその行為を憎む人間の姿が描かれた。
セレノア「自らの存在を消そうとした」
マリス「誰かが生きるために誰かが犠牲になる。
そんな世界を捨てて生きよう、総士」
『THE BEYOND』1話
エメリーは総士にあなたはフェストゥムに痛みを教える存在(※4)だと言ったが、総士がいなくなる直前の言葉を思い出した。
総士「怖いかニヒト、僕もだ。
存在が消える恐怖。
痛みの根源か」
『EXODUS』26話
総士は存在が消える恐怖も痛みであると言っていることから、生と死の循環を体験したこそうしとマークニヒトが『THE BEYOND』でフェストゥムに教える痛みは “死” であるのかもしれない(※5)。
・マークニヒトの死
剣司「死んだ機体とはいえ」
『THE BEYOND』3話
剣司のこの言葉からマークニヒトは総士とともに死んだ。
総士「必ず葬ります。
僕の存在をかけて」
『EXODUS』3話
総士はなんとかマークニヒトを解体処分しようとしていたが、この言葉通り、自分自身の存在とともにマークニヒトを葬り去った。
・自己認識
イドゥンはマークニヒトのテストパイロットである刈谷由紀恵を同化した後、コックピットでこう叫んだ。
イドゥン「これが憎しみ、これが」
一期23話
その結果、マークニヒトは人間が作った有人兵器 “ファフナー” ではなく “憎しみ” と自己認識してしまった。ボレアリオス・ミールのコアの命令によりマークニヒトに載せられた来主操もマークニヒトを “憎しみ” と呼んだ。
来主操「これが憎しみ、これが」
『HEAVEN AND EARTH』
この後、マークニヒトに乗ったのは総士だった。マークニヒトはファフナーではないため、パイロットと一体化することができなかった。マークニヒトに乗った総士はマークニヒトが自身を “憎しみ” と自己認識していることを知ったため、「虚無の申し子」と呼んだ。総士はマークニヒトとともに死んだが、総士とは異なりマークニヒトはすぐには生まれ変わらなかった。海神島に戻ったこそうしがマークニヒト内に残されたメッセージを聞いた瞬間、過去と共鳴したその時、マークニヒトは新しく生まれ変わった。
こそうし「これがファフナー、これが」
『THE BEYOND』3話
そして、生まれ変わったマークニヒトにこそうし(人間)の言葉によって、ようやく「対フェストゥム専用、思考制御、体感操縦式、有人兵器ファフナー」(※6)になったのである。そういえば、こそうしの夢の中に現れた竜宮島のコアはマークニヒトのことを「虚無の申し子」ではなく「ミールの申し子」(※7)と呼んでいた。
・こそうしの価値観
『THE BEYOND』2話でこそうしは偽りの竜宮島が教えている価値観を「経験してみなければわからない」と言葉では否定していたが、『THE BEYOND』3話の台詞からこそうしは偽りの竜宮島の価値観、すなわちフェストゥムの価値観を持っている子どもであることがわかる。
こそうし「ベノンの兵士になってお前たちと戦ってやる」
『THE BEYOND』3話
こそうしは自らをベノン側の人間、つまり無意識ではあるがフェストゥム側の人間だと言い放った。『THE BEYOND』2話で、乙姫(フロロ)を殺した一騎に対してこそうしはこう言った。
こそうし「お前を殺してやる」
『THE BEYOND』2話
『THE BEYOND』3話、こそうしは一騎に眠らされた後、夢の中でキールブロックにいた。その夢から目が覚めた時、目の前にいた美羽を一騎と勘違いして「お前を殺してやる」と言った。しかし、こそうしはベノン側の兵士になると言った後、相手を殺すという意味を持つ言葉の表現が変わった。
こそうし「消してやる」
『THE BEYOND』3話
『THE BEYOND』1話、フェンリルを起動した里奈に対して、セレノアが「自らの存在を消そうとした」という言葉を使っていたので、”消す” という言葉はフェストゥム側の言い方だと思われる。
・竜宮島の二人のコア
キールブロックでこそうしが出会った竜宮島のコアはなぜ二人いたのだろうか?
この物語の中に皆城総士と名付けられた人間は二人いる。一人目は皆城公蔵と鞘の子として生まれ、人間に育てられ、2151年、海神島で亡くなった皆城総士。もう一人は海神島で亡くなった皆城総士が転生として生まれたが、マリスにさらわれ、フェストゥムに育てられた皆城総士(こそうし)。この二人は同じ名前を持っているが別人であるため、それぞれの皆城総士に対する竜宮島のコアが生まれてしまったのではないだろうか。
こそうしは総士がマークニヒトの中に残した音声メッセージを最後まで聞いた時、自分の命と引き換えに生みの親が死んだことを知ることになるのだろう。すでにいない親の存在を通して、こそうしは人間の命には終わりがあること、すなわち “死” を知る。総士は一度フェストゥム側に行ったことのある人間であるが故に、人間として命を終えることにこだわっていた。
総士「僕は人間として生き、命を終える」
『EXODUS』14話
総士はフェストゥム側に生き、その世界を体験したが、それを言語化することはできなかった(※8)。しかし、総士はフェストゥムを理解する方法を示していた。
総士「彼らの世界に触れるには彼ら自身に触れるしかないということだ」
『EXODUS』14話
皮肉なことにこそうしはマリスにさらわれたことで、総士にはできなかったフェストゥム自身に触れることができた。フェストゥムに育てられこそうしは人間として生きた親にである総士を理解した時、人間とフェストゥムの両方の価値観の理解した人間になるのだろう。そうなった時、二人いる竜宮島のコアが統合され、一人になるのかもしれない。
・同じものが二つ
『THE BEYOND』では複数の要素が二つ存在している状態で物語が始まった。
- 二人の皆城総士(親と子)
- 竜宮島のコア(皆城輝夜と皆城朔夜)
- 海神島のコア(マレスペロとルヴィ・カーマ)
- 二つの月(白と赤)
- マークアイン改〈スペクター〉の能力
おそらく物語終了時、二者が和解、一つになる、片方が消滅などの形ですべて一つになるのではないだろうか。一期~『EXODUS』までは1もしくは3で始まり、2になったところで物語は終わった(※9)。
補足:
パンフレットを熟読する前の感想です。パンフレットのネタバレ内容を含む感想は後日、別記事で書く予定。ちなみに第1話と第2話の感想は8回見た後に書き、第3話の感想は9回見た後に書きました。
※1 冲方サミット「冲方丁最新情報をお届けする、ちょっぴり早めのクリスマス&大忘年会!」で冲方丁が「14歳の声を出せるのか(爆笑)とかね」と発言している。
※2 『EXODUS』22話、織姫は「あなたが憎むマークニヒトはあなただけの器」と総士の本心を代弁している。
※4 『THE BEYOND』3話で剣司はマークニヒトを「死んだ機体」と言っていた。
※5 これを書いた後、頭に浮かんだのが、TVアニメ「蒼穹のファフナー EXODUS」 続編告知PV!の中にある「祝福を果たそう。マークニヒト」という総士の台詞だった。
※8 『EXODUS』14話で総士は「僕も何度も報告書を書こうとしたがダメだった」と言っている。
※9 【蒼穹のファフナー EXODUS】2(ペア)を目指す物語を参照。