【蒼穹のファフナー EXODUS】2(ペア)を目指す物語

 ファフナーは一期から『EXODUS』に至るまで、同性2、異性1で構成される3という人間関係が2となって物語が終わっている。『EXODUS』において、後輩組はやや変則的な形で最終的に2となった。

 

・一騎の世代

 一期の物語開始時、一騎たちの世代は同性の友人2+異性1=3 を基本にして人間関係が構成され、どのグループも最終的には2となった。

一騎と総士・真矢 → 一騎・真矢 → 一騎と総士・真矢 → 一騎と総士(転生)・真矢
一期ラストで総士が同化されていなくなったので、一騎と真矢の二人となった。しかし、一騎は総士の必ず帰るという言葉で生きながらえている状態だった。総士が帰ってきたことで3となり安定した。『EXODUS』では最終的に一騎は島のミールから生と死の循環を超える命を与えられ、総士は転生する存在となったため、一騎と総士(転生)+真矢という形になった。

 

一騎と甲洋・翔子 → 一騎と甲洋
翔子は島を守るためにフェンリルを使用していなくなった。甲洋は同化された後、スレイブ型のフェストゥムとなり、『EXODUS』では人の姿を取り戻した。一騎も島の祝福を受け入れたため、フェストゥムになったペアということになる。

 

真矢と翔子・甲洋 → 真矢・甲洋
翔子は島を守るためにフェンリルを使用していなくなった。真矢とフェストゥムになった甲洋は共に翔子の「守る」という意思を受け継いだ。

 

剣司と衛・咲良 → 剣司と咲良
衛はスカラベ型との戦闘でいなくなった。咲良は同化現象により一時は昏睡状態に陥るも、ミョルニアのもたらした治療法により、意識を取り戻した。その後、ファフナーのパイロットとしても復帰した。『EXODUS』で剣司と咲良は結婚した。

 

真矢とカノン・一騎 → 真矢・一騎
『EXODUS』で一騎に片思い&守りたいということで結びついた二人。しかし、カノンは島の未来を掴むために命を使っていなくなった。

 

 以下は同性の友人2+異性1ではないので番外編。

総士と乙姫・蔵前 → 総士と乙姫
皆城家の養子だった蔵前を入れると皆城家は三兄弟となる。蔵前は島がフェストゥムに襲撃された時にいなくなった。総士と乙姫はともに転生する存在となり、この世に存在し続けることになった。

 

・後輩組

一期

 9話で里奈、10話で芹と広登が登場。女性2+男性1=3で、一騎の世代と同じキャラクターバランスになっている。18話で乙姫は後輩のクラスに編入してこの3人と友だちになり、その結果、女性3+男性1=4になった。暉は一期でもたまに画面に登場しているが、この時点ではモブといってもいい存在なので、数に含めない。

 

HEAVEN AND EARTH

 一期ラストで乙姫が生まれ変わり、芹はアルヴィス地下の岩戸に通っていた。この作品で暉がメインキャラに昇格したので、芹、里奈、乙姫(転生)、広登、暉となり、女性3+男性2=5という状態から始まった。

 後輩組の4人がファフナーのパイロットになり、戦うことになったが、友人だった芹と里奈の価値観の違いが表面化した。

 芹「ねえ、あの子達、絶対に何か言おうとしてた。
   どうしよう、気になって戦えないよ」
里奈「敵が言うことなんて決まってるし。
   嫌いとか憎いとか。
   しゃべるまえにやっつけなよ」
 芹「乙姫ちゃんはそんなこと言わない」
里奈「乙姫ちゃんはもういないの」
 芹「なんでそんなこと言うの?」
『HEAVEN AND EARTH』

 芹と里奈の距離を開いた一方で、広登が芹の気持ちを理解しようとし始める。

広登「大丈夫か、芹」
 芹「なんて言ってるか、やっとわかった」
広登「芹」
 芹「痛い、助けて、痛い、助けて」
広登「なら、楽にしてやれよ」
 芹「うわーん」
広登「な、泣くなよ」
 芹「蒼い空が見たいよー」
『HEAVEN AND EARTH』

 広登は核攻撃により傷ついたフェストゥムの発する言葉がわかった時、芹の気持ちを理解した。

広登「痛い、助けて」

広登「蒼い空だぞ、芹」
『HEAVEN AND EARTH』

 一方、芹と意見が食い違った里奈は暉を失いかけた時、弟の存在の大きさを実感する。

里奈「おばあちゃん年だし、あんたいなくなったら、あたし一人だよ。
   だあれもかえんない家でさ」
 暉「ごめんな」
里奈「バカ」
『HEAVEN AND EARTH』

 芹と乙姫(転生)+広登、里奈と暉という形になったところで物語は終わった。

 

EXODUS

 芹と織姫、広登は一期から続く同性の友人2+異性1=3というグループだが、里奈と暉は2である。ファフナーは3から2になる物語なので、物語開始時に2ということは安定していると見なされ、そのままの状態が続くのだろうか? その答えはノーである。兄妹で2というのは一期の総士と乙姫と同じく、それぞれが自立した後に別れ、第三者と2になる。

 芹と織姫+広登は広登が人類軍によって殺されたことにより、芹は織姫と生きることを選び、竜宮島で眠りについた。

 里奈は剣司に恋をし、暉は真矢に恋をした。この作品において、兄弟のどちらかが精神的に相手に依存している場合、個を得る時に強制的な力が必要とされている。総士と乙姫の時は総士が左目に傷を負うという形だったが、里奈と暉の場合は暉がいなくなるという形だった。1も不安定ということで、里奈は自分に思いを寄せる彗と2になった。

 一期から『EXODUS』までの人間関係の変化をまとめると以下のようになる。『EXODUS』でパイロットになった世代を含みます。

 一期
 芹と里奈、広登+織姫(+暉)
  ↓
    HAE       EXODUS
 芹と織姫・広登   →  芹と織姫
 里奈と暉      →  里奈と彗
 彗と零央・美三香  →  零央と美三香

 『EXODUS』で新規でパイロットになった世代も3から2となっている。

 

 ファフナーは同性の友人のペアには厳しい物語である。同性の友人のペアで二人とも生き残ったのは一騎と総士、芹と織姫、一騎と甲洋というフェストゥム側へ行ってしまった者のみ。一騎の世代では真矢と翔子、剣司と衛、真矢とカノンという3組の同性の友人のペアでは後者がいなくなった。後輩組は『EXODUS』5話で芹が一人、喫茶楽園の外にいることからもわかるように、中学生の時は仲がよかった芹と里奈の間の距離が開き、芹は竜宮島とともに眠りについた。広登と暉は共に島外派遣に参加したが最終的にいなくなり、『EXODUS』25話では二人で一緒に島のミールの元に行ってしまった。

 

・親子関係

史彦「一騎がいなければ俺もミツヒロと同じ道を選んでいた」
一期21話

 大人たちに与えられた運命は子どもたちより過酷だった。親2子1、親1子2で3、もしくは親1子1で2という安定している状態から2どころか1になることも珍しくない。

 

羽佐間容子と翔子 → 容子 → 容子とカノン → 容子 → 容子と操
親世代で一番過酷な役割を与えられた一人は羽佐間容子だろう。翔子がいなくなった後は自殺を考えた(※1)くらいだ。翔子を失った後にはカノンが、カノンが未来を引き寄せるために命を使った後は操がやってきた。子どもを失って一人になっても、容子の側には必ず別の子どもがやってくる。

 

小楯保と千沙都・衛 → 保と千沙都 → 保 → 保とイアン
小楯家はこの物語の中でも数少ない両親がいた家族だったが、一期22話で衛がいなくなり、一期23話で千沙都がいなくなった結果、3から1になってしまった。『HEAVEN AND EARTH』では保が一人で酒に溺れている姿が描かれていたが、『EXODUS』1話では立ち直り、メカニック担当がイアンを漫画のアシスタントに、再び漫画を描いていた。保は同性の友人であるイアンとペアになったことで2になった。

 

要誠一郎と澄美・咲良 → 澄美・咲良 → 澄美、咲良と剣司 → (誠一郎と澄美)、咲良と剣司
要家は一期1話で誠一郎が死亡。その後、母(澄美)と娘(咲良)で2という安定した状態が続いた。『EXODUS』で澄美の病気が再発した後、咲良と剣司が結婚したことで3となった。最終的に島民は全員、海神島へ移住することになったが、自分の死期を悟った澄美は一人、島に残った。澄美の最後の言葉が「今、ゆきます、誠一郎さん」(※2)だったことからもわかるように、澄美は一期1話で亡くなった夫、誠一郎の元に行くことを望んだ。そのため、母と娘がそれぞれ配偶者を得て、2という形になった。

 

近藤彩乃・剣司 → 剣司 → 剣司と咲良
近藤家はイドゥンが島を攻撃した時、母が犠牲になり、息子が一人残された。剣司は子どもたちの中では一番過酷な人生を与えられた一人だと思う。それ故、剣司はファフナー・パイロットでは唯一、結婚して新しい家庭を築き、2となった。

 

皆城公蔵・蔵前と総士と乙姫 → 乙姫の子(転生) → 総士と織姫(転生) → 総士の子(転生)と織姫の子(転生)
蔵前果林を皆城家の養女で、総士と同じく子どもころから島の真実を知らされていた。皆城家は4で物語が始まるが、一期では最終的に乙姫と総士がともに同化でいなくなったので0になった。しかし、乙姫は転生する存在となり、子どもが生まれたので、実質的には1で終わったということになる。『HEAVEN AND EARTH』のラストで肉体を取り戻した総士が帰還したが、『EXODUS』で同化でいなくなったが、乙姫と同じく転生する存在になったため、皆城家は永遠に2になったということになる。

 

 遠見家と真壁家はやや例外的な形になっている。

遠見千鶴・弓子と真矢 → 千鶴・真矢、道生と弓子 → 千鶴・真矢、弓子と美羽 →千鶴・真矢・美羽
遠見家では弓子が島に戻ってきた道生と一緒に暮らすので家を出た。道生はイドゥンとの戦闘でいなくなった、弓子は妊娠中だったため子どもが生まれた。道生がいなくなった後、弓子は実家に戻ったため、遠見家は2である親子関係が2組となった。しかし、『EXODUS』で弓子がいなくなり、最終的に一期冒頭と同じく3になった。

 

真壁史彦・一騎 → 史彦・一騎と子総士
真壁家は一期冒頭から『EXODUS』まで、唯一家族構成が変化しなかった家族だった。『EXODUS』終了後、一騎が転生した総士を育てているので、3になったと言えるのかもしれない。

 

 ここまで書いた後、2016年5月に行われた「蒼穹のファフナー EXODUS」スペシャルイベント-同化-の冲方丁への質問コーナーで、史彦、千鶴、一騎、真矢について冲方丁が言っていたことを思い出した。(※3

「単純な話、(史彦、千鶴、一騎、真矢の4人の)誰か一人が欠ければね、(史彦と千鶴、一騎と真矢の)片方は繋がるんですね」

 また、史彦と千鶴について冲方丁は「今の状態がもう望外なので、二人はだいぶ満足してしまっているので、先に進むには何か外圧が必要」と言っていた。

 

 ファフナーという物語の根幹を支える皆城家は乙姫と総士が転生する存在となったことで永遠に2となったので、一部例外はあるものの、この作品で2という人間関係は安定している状態を意味しているのだと思う。

 

※1 竜宮島回覧板・1106号の「娘をなくした羽佐間容子」の項を参照。

※2 『EXODUS』26話

※3 「蒼穹のファフナー EXODUS」スペシャルイベント-同化-は『EXODUS』BD/DVD、12巻に映像特典として収録されている。