【蒼穹のファフナー EXODUS】孤独な決断

 angelaのアルバム『LOVE & CARNIVAL』の初回限定盤に収録されていた「愛すること」のMVを見た後、『EXODUS』17話を見たくなったので見直した。17話はリアルタイムで放送を見た後、ほぼ徹夜して泣きました。未だに見るのには気力が必要な回です。

 

・それぞれの祝福

 真矢は『EXODUS』23話で、一騎は『EXODUS』24話で、それぞれ重大な決断をしているが、その過程はアニメの中では詳しく描かれず、放送終了後にリリースされたBD/DVDの11巻の特典のドラマCD『THE FOLLOWER2』の中で描かれた。

 放送終了から9ヶ月、自分の中である程度、物語を咀嚼した後に『EXODUS』17話を見直すと、アニメで一騎と真矢が選択する過程を描かなかった理由が見えてきた。カノンが決断する過程については葛藤や悩みを含めてアニメの中で詳しく描いたが、その後に一騎と真矢についても同じようにその過程を描写すると、視聴者からは同じことの繰り返しに見えてしまう。それを避けるために一騎と真矢の決断に関わる部分は必要最低限の描写に留めたのだと思う。ただし、大切な人を守るためとはいえ竜宮島の子供で初めて人を殺め、へスターがその罪悪感に付け込んで新国連に引きこもうとした真矢については、一期で新国連の捕虜になった一騎、新国連から竜宮島に来たカノンとの対比ということを考えると、もう少しアニメで描写すべきだった気がする。

 

 一期で島の子供たちが行った選択は20話で描かれたフェストゥムになった甲洋を受け入れるということだった。この選択に関わったのは一騎、剣司、衛、咲良、真矢の5人。総士は島のコアである乙姫の意志に従う者として行動し、子供たちと大人たちの調停者だった。島に来てからまだ日が浅いカノンはこの事件において重要な役割を果たすが、この選択には直接関わっていない。

 『EXODUS』で子供たちが行った選択はドラマCD『THE FOLLOWER2』で描かれた通り、対話の力を守るためには島を出ることも辞さないだった。この選択に関わったのは一騎、総士、真矢、カノンの4人。一期で5人の子供たちは全員同じ場所で総士を仲介役にして大人と対話しながら選択したが、『EXODUS』では一騎、総士、真矢、カノンの4人は違う時間、違う場所で島のミールと対話しながら一人で自らの未来を選択した。そして、4人の選択の結果が一致したため、アルタイルは人と対話できる日まで竜宮島とともに眠らせることになり、その住民は全員、島を去ることになった。

 『EXODUS』でのテーマの一つは大人になるということだったが、大人になっていくにしたがって相談に乗ってくれる友人や助言してくれる大人はいるが、最終的に自分一人で決めるようになる。カノン、一騎、真矢の3人は孤立無援の状況に追い込まれ、島のミールから決断を迫られた。カノンはファフナーに乗り、未来の竜宮島において一人で戦いながら未来を探し続けた。一騎は命が尽きかけた時、島の存在と無の地平線であるキールブロックにたどり着き、そこで未来につながる道を選んだ。真矢は新国連に捕らわれ、捕虜となった。そして、マークレゾンのテスト・パイロットとして起動実験に参加している時、その大きな力をどう使うか考えていた。その時、彼らに接触して助言できるのは島のミールのみ。3人は自らの未来を決める重大な選択を一人で行った。

 島を出ることを決めた4人の中で、『EXODUS』で総士のみ大きな選択を行っていない。なぜなら『EXODUS』での総士はすでに自分自身の未来について決断を下した後であり、余生を送っている状態だった。総士は20歳ではなく14歳の時に自分の進むべき道を選んた。

総士「一騎、ぼくはフェストゥムに痛みと存在を教えた。
   そして僕は、彼らの祝福を、存在と無の循環を知った」
  (中略)
総士「僕は一度、フェストゥムの側に行く。
   そして、再び、自分の存在を作り出す。
   どれほど時間が掛かるかわからないが、必ず」
一期26話

 総士には島のミールからの助言はなかった。しかし、妹であり、島のコアである乙姫が同化されるまで精神的につながっていた。

 

 総士は同級生よりも先に大人になったとも言えるし、一人だけ先に大人にならざるを得なかったと言うこともできる。『EXODUS』でのラストを見ると、総士は島の子供たちで唯一、子供でいることを許されなかった存在だったのかもしれない。

 

・カノンと一騎

 カノンはファフナーに乗って未来をつかむために戦っている時、これから起こりえる複数の未来を見たが、その中には一騎と一緒に生きていくという未来も含まれていた。

 一騎「もう島には、誰もいないのに」
カノン「えっ」
 一騎「みんないなくなった。
    いるのはもう、俺とおまえだけだ。
    生きよう、二人で」
『EXODUS』17話

 しかし、未来をつかむ戦いを始める前、カノンは織姫からこう問われた。

 織姫「選びなさい、命の使い方を。
    一騎のように」
『EXODUS』16話

 一騎と一緒に生きるという未来が存在することを知ったカノンは島のコアから「一騎と世界、どちらを選ぶのか」と言われたも同然だった。しかし、一騎と緒に生きるという未来は非情にも竜宮島が滅んだ時という条件の時に存在する未来でもあった。最終的にカノンは一騎と二人きりで生きるという自分の望みを諦めて、島を、ひいては世界の未来のために命を使うことを選んだ。

 その一騎もまた「真矢と世界、どちらを選ぶのか」を問われていた。しかし、余命3年と告知された一騎の望みは真矢と一緒に生きることではなく、ただ生き続けることだった。(※1

カノン「お前が世界を祝福するなら、
    我々が生と死の循環を超える命を与えよう」
『EXODUS』24話

 一騎の場合はカノンとは逆に世界を祝福することが自分の望みをかなえることにつながっていた。つまりカノンは自分の望みを断念することで世界を祝福したが、一騎は世界を祝福することで、「生きたい」という自分の望みをかなえた。かつてカノンと一騎は自分はいなくなればいいと思っていた(※2)が、この二人と望みとその祝福の関係は反転され、対になっている。

 一騎は生きるために世界を選んだということになるが、同時に真矢と一緒に生きることを選ばなかったということを意味している。それは『EXODUS』26話のラストで描かれた海神島の2年後、海岸で一騎と一緒にいるのは真矢ではなく転生したそうしであることからも明白である。

 ちなみに一騎が世界ではなく真矢と一緒に生きることをを選んだ場合、その後の一騎の末路についてミョルニアはこう言っている。

ミョルニア「また別の調和により戦う力を捨て、
      島の大気となって多くの記憶を司るだろう」
『THE FOLLOWER2』

 おそらく一騎は昏睡状態から目覚めることなく(※3)、そのまま島に還ってしまうのだと思われる。仮に一騎不在のまま海神島の戦いで勝利を収め、真矢が生き残ったとしても、そこに一騎はいないということになる。

 

 『EXODUS』17話でカノンはファフナーに乗って未来で戦っている時、ショックのあまり意識を失い、コックピットから救出されてメディカルルームで目を覚ますという場面がある。その時、カノンの指輪痕が緑色に光った。

 実は『EXODUS』5話Cパートにカノンと同じように一騎の指輪痕が緑色に光る場面がある。

 カノンは指輪痕が光った後、防護服なしでキールブロックを訪れ、そこで織姫と話している。一方、一騎は指輪痕が光った後、織姫が目覚め、総士を通して一騎をアルヴィスに呼んだ。緑色に光る指輪痕は島のコアからの呼び出しの合図なのかもしれない。

 

※1 『EXODUS』5話Cパートで一騎は七夕の短冊に「生きたい」と書いた。

※2 一期で一騎とカノンには以下のような台詞がある。

 一騎「俺なんか、いなくなればいいって」(一期15話)
カノン「これでやっと、本当にいなくなれる」(一期17話)

※3  ドラマCD『THE FOLLOWER2』において、調和を得る前、ミョルニアには一騎に「眠りながら命を終えるだろう」と告げている。

 

P.S. この記事を書き始めたのは9月頭ですが、うまくまとまらずずっと悩んでいた。そんな時にabemaTVで『EXODUS』の配信が決定。abemaTVで17話配信後にアップすることにしました。