【蒼穹のファフナー】アルヴィス

 2018年12月3日、4日ニコニコ生放送一挙の感想の補足。一期は脚本家の変更に伴うアルヴィスという組織の描き方の変化に注目して見ていました。

 

・アルヴィス=新国連?

里奈「えっ、羽佐間先輩って命令を無視して
   マークゼクスを壊したって聞いてますよ」
真矢「誰がそんなこと言ってるの」
里奈「その、みんなが」
一期10話

島民1「春日井さんち、ご夫婦で退島したそうよ」
島民2「いくらファフナーの責任をとるからって出て行くこともないのにね」
島民3「この戦時下でどこに住むつもりなのかしら」
一期9話

 この2つの会話から冲方丁が脚本に参加する一期11話までのアルヴィスは島民に対して都合の悪い事実を公開せず、時には嘘の噂を流して島民を統制しているという姿が浮き彫りになった。だが皮肉なことにそんなアルヴィスの姿は新国連と何ら変わらない。

ヘスター「そしてついに我々は大いなる力を手に入れたのである。
     見たまえ、ファフナー、ノートゥング・モデルの勇姿を」

 カノン「あの機体、まだ一つしか手にいれてないのに」
  道生「いいんだよ。
     これから俺たちが分捕りに行くんだから」
一期13話

 ヘスターはあたかもすべてのノートゥング・モデルを竜宮島から接収したかのように振る舞うことで人類軍の士気を向上させた。つまり、一期11話までのアルヴィスは新国連と全く同じ構造を持つ組織として描かれていたということになる。

 

・アルヴィス≠新国連

 一期12話から冲方丁が脚本に参加したが、冲方丁はアルヴィスは都合の悪い事実も含め、すべての情報を島民に公開する民主主義な組織であることを明確にしていった。まず、翔子が亡くなった後、羽佐間家の墓が荒らされ、真実とは異なる噂が流されたが、この事件の真相と犯人は一期16話放送後に発売されたドラマCD『NO WHERE』(※1)で明かされた。

真矢「あのね、翔子の悪口の噂を流したの、皆城君。
   ねえ、もしかして、翔子の墓にあんなひどいことさせたの」

真矢「あなたは自分でやらせておいて、
   自分で翔子のお墓きれいにして、
   そんなことなんで」
『NO WHERE』

 

 一期18話、弓子による真矢のパイロット適正データ改ざんが明らかになった時には、隠蔽せず、査問委員会が開いた。一期23話、スカラベ型の根がジークフリード・システムを覆い、総士が中に閉じ込められた時には救出作戦の様子を公開した。この時の史彦の台詞がアルヴィスと新国連の違いを明確に示している。

溝口「情報公開は諸刃の剣だぞ。
   もし総士が無事じゃなかったら」
史彦「何かを隠せば信頼を失う。
   信頼が、我々の力だ」
一期23話

 

 一期放送終了後に制作された『RIGHT OF LEFT』(2005年)では冲方丁が脚本に参加する前の内容を補っているが、この作品でもアルヴィスが民主主義の則って運営されている組織であることが明白されている。

公蔵「……この島を運営する者たち全員の、決断が必要だ」
『RIGHT OF LEFT』(※2

 僚が機体に残した音声記録は島民が聞くシーンを通して、アルヴィスが島民に情報公開を行っていることを示した。(※3



 L計画は人類軍の捨て駒にされ、竜宮島が引き取った元人類軍兵士にも知らされていた。

イアン「かつてこの島を守るため
    L計画と呼ばれる作戦が実行されたと聞きます」
『HEAVEN AND EARTH』

 この島民に対して情報公開をするという姿勢は『HEAVEN AND EARTH』でも貫かれ、竜宮島に流れ着いた人類軍の潜水艦に眠っていたスフィンク型フェストゥム、来主操と真壁司令との対話も島民に公開された。来主操からのいくつかの要求に対して、アルヴィス上層部が判断するのではなく、史彦は島民の判断を仰いだ。

史彦「全島民の選択が必要だ」
『HEAVEN AND EARTH』

 

 翔子がいなくなったあとの島民の行動の真意は一期放送中に発売されたドラマCD『NO WHERE』を使って説明したが、一期放送後のも春日井夫妻が島を出ていったことに対しては補足されなかった。しかし、2014年から始まった一期のコミカライズで春日井夫妻が島を出ていく経緯が変更された。冒頭に引用した以下の会話がコミカライズでは削除された。

島民1「春日井さんち、ご夫婦で退島したそうよ」
島民2「いくらファフナーの責任をとるからって出て行くこともないのにね」
島民3「この戦時下でどこに住むつもりなのかしら」
一期9話

 その代わり、史彦と溝口の春日井夫妻の処遇について話し合う場面が追加されている。

史彦「力での統制や一部の人間の判断ではなく
   どうすべきかは島民の総意をもって決める」
松本朋未『蒼穹のファフナー』第三十歌(※4

 この会話からアルヴィスは島民に春日井夫妻が新国連のスパイだったという事実を伏せ、ファフナーを失ったという責任を取って島を出ていったという嘘の情報を流していた。コミカライズでは島民に情報公開をした上で結論を出すという史彦の態度を明確に表す場面に変更された。もっとも、史彦よりも新国連のスパイだった狩谷の方が動きが早く、アルヴィスに拘束されていた春日井夫妻を開放し、一騎と一緒に島の外に連れ出した。

 

史彦「また報告にあった堂間広登の件は確証があるまで伏せてくれ」
『EXODUS』16話

 冲方丁が脚本に参加した一期12話から『HEAVEN AND EARTH』まで、アルヴィスの司令は島民にすべての情報を公開し、島民の判断を仰ぐという民主的な組織の運営を行っていたからこそ、『EXODUS』での史彦のこの台詞が印象に残った。

 確証はないので情報を公開しないというスタンスは理解できるが、広登のことを知っていたのはこの会議に参加した真壁史彦、小楯保、羽佐間容子、要澄美、遠見千鶴の5名。史彦はアルヴィス上層部でも信頼しているごく限られた人間のみに知らせたということになる。戦時下という特殊な状況において、民主主義の原則に則って組織を運営することの難しさを示しているのかもしれない。

 

 一期1話~11話までの脚本を単独で担当した山野辺一記は竜宮島を21世紀初頭の日本に生きてる人々と同じ価値観を持つ人々が住むコミュニティとして描いたが、フェストゥムの襲来により戦時下となったアルヴィスは皮肉なことに新国連と同じく上層部が情報統制して島民を掌握する組織として描いてしまった。しかし、『ファフナー』の原案を作った冲方丁にとって竜宮島とは日本の文化を保存している場所ではあるものの、そこで生きている人々は21世紀初頭の日本に生きている人々とは違う考えを持ち、戦時下であってもアルヴィスは新国連とは異なり民主主義に則って運営される組織だった。それ故、冲方丁はドラマCDとコミカライズという出来うる限りの手段を用いて、自身が脚本に参加していない時期のアルヴィスという組織の描き方を修正していった。

 

※1 2004年10月27日に発売された『FAFNER in the azure -NO WHERE- 蒼穹のファフナー BGM & ドラマアルバム」に収録されている。

※2 冲方丁『蒼穹のファフナー ADOLESCENCE』(2013年、ハヤカワ文庫)より引用。

※3 このシーンの描写は脚本とアニメでは異なっていて脚本では以下のように描写されていた。

  □剛瑠島・夜
  僚の声 「……以上が、俺たちの戦いだ。これを聞いてくれるヤツがいることを、祈ってる……」
    音声機にかけられる僚の声――『PLAY』の表示。
      厳粛な顔の総士。蔵前、涙をこらえながら、オフィスを出ていく。

※4 松本朋未『蒼穹のファフナー』7巻(講談社)、108ページの台詞。

 


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