『蒼穹のファフナー』見直し時のメモ Part2の続きになります。Part3は18話~最終話(25話、26話)です。毎回、オープニングとエンディングを飛ばさずに見ているのですが、オープニングのクレジットに隠れてしまう部分が気になって、途中でクレジット無しを見てしまった。
『EXODUS』を最終話まで見た後の感想なので、『HEAVEN AND EARTH』及び『EXODUS』のネタバレ内容を含みます。
第18話「父親-おもいで-」
ミツヒロ「遠見千鶴は同化された母親からお前だけを取り出し、
苦痛だけの人生を与えた女だぞ。
なぜ庇う」
乙姫「それがお母さんの意志だもの」
『EXODUS』3話で皆城乙姫の誕生が描かれたが、島のミールが皆城梢の意思を読んだ結果、乙姫が生まれたというニュアンスになっていると思う。ここでなぜか弓子の「やめて、美羽だけは、お願い」(※1)という台詞を思い出してしまった。
この作品では「意思に従う」という言葉が頻出している。
史彦「我々は彼女の意思に従うしかない」
一期14話
洋治「かつてお前と同化した、真壁紅音という人間の意志に従うのだ」
一期15話
総士「それがお前の意志なら僕はそれに従うだけだ」
一期17話
乙姫「それがお母さんの意志だもの」
一期18話
史彦と総士が従うのは島のコアである皆城乙姫で、乙姫は母である皆城梢。そういえば『EXODUS』26話、織姫が岩戸に入る時に見守っていたのはミョルニア(≠真壁紅音)と皆城梢だった。
ミツヒロと真矢の関係はこの後、ドラマCD『GONE ARRIVE』で真矢が父の死を知った時の心情が描かれた。この父と子の関係はこれで終わりだと思われたが、『EXODUS』の終盤で再び父と子の関係が問いただされる。
第19話「真矢-まなざし-」
この回は真矢の初陣が大きなテーマだけど、その裏で咲良の挫折が描かれているのがポイント。咲良はこの挫折を機に、自分に思いを寄せる剣司の存在を受け入れていく。
真矢「あたしも変わるよ、一騎君」
一騎は「このまま戦うことに慣れていくのが怖いんだ。自分はなにか別のものに変わっちまうような気がして」」(※2)と言って自分が変わることを恐れていたけど、真矢は変わることを肯定的に受け止めている。それが『EXODUS』で人類軍の爆撃機を撃ち、どんどん変わっていく姿に繋がっているような気がしないでもない。
第20話「燈火-ともしび-」
ここが紆余曲折の果てにたどり着いた物語の一つの頂点だと思う。残念ながらこの後は落ちていくのみ。
溝口「よお、憎まれ役ご苦労さん」
道生「敵に取りつかれた奴を守ろうとするなんて。
俺にもあんな仲間がいてくれたらと思いますよ」
溝口「うん、俺もだ」
カノン「私はパイロットごと敵を倒すつもりだった」
容子「私たちもそうして生きてきたわ」
溝口と道生、容子とカノンという二組の会話を通して、竜宮島の親の世代と元人類軍の兵士が敵であるフェストゥムに対しては同じような価値観を持っていることが描かれている。容子とカノンの会話には続きがある。
容子「違う生き方をずっと探しながらね」
カノン「違う生き方…」
この20話でこの「違う生き方」を子供たちが島の大人たちと元人類軍の兵士に提示することになる。
カノン「て、敵に取りつかれた者は始末しろと命令されてきた」
いくら命令とはいえ、人類軍の兵士の中でも命令を遂行できない人が後を絶たないので(一例:『EXODUS』第1話Aパート、『EXODUS』21話のアイ)、アルゴス小隊のような敵に同化された人間を始末する部隊が生まれたのだろう。
乙姫「苦しい?
生きること、やめたい?
あたしも何度もそう思ったよ」
これは乙姫だけではなく、一騎を同化したいと思った時の総士の本音でもある。乙姫は人として命を持って生きることを選んだが、総士は一騎を同化して一緒にいなくなろうとした。
乙姫「今はまだ少しだけ早いの。
いつかその日が来るまでおやすみ、甲洋」
24話で甲洋は目覚め、ミョルニアとともにフェストゥムと戦うこと選んで島を去っていったが、初見時から「その日」とは24話で描かれたものではないと感じていた。乙姫の言う「その日」とは甲洋が再び人の姿を取り戻して島に帰り、みんなと一緒に暮らすことだっただろう。カノンが未来を引き寄せなければ、「その日」が来るのはもっと未来だったはずである。
第21話「咲良-みらい-」
芹「里奈の女好きめ」
里奈は剣司に恋をしたことにより、男性に恋をする女性になった。一方、芹は広登といい関係になったものの、同化という形で別れた乙姫に対しての思いも強かった。そのため、芹は広登を失った後、再び島のコア(織姫)と別れることを良しとせず、一緒にいることを望んだ。『EXODUS』で芹と里奈はこの時の言葉とは逆の行動を取ったが、人は時とともに変わっていくということを示している。
乙姫「私がミールと一緒に学ぶべき生と死。
永遠であることをやめた時からの始まり」
フェストゥムの本質は永遠に存在すること。それ故、フェストゥムの世界を見た総士は人として生き、命を終えることを望んだのだろう。
史彦「フェストゥムと人間の共生、お前は信じられるか」
史彦は「我々は彼女の意思に従うしかない」(※3)と言ったものの、親の世代はフェストゥムと人間が共存する世界を望む島のコアの考えを受け入れるのは難しい。島の全管理システムをコントロールすることのできる島のコアは甲洋の凍結処理を解除するなど、アルヴィスの考えに反する行動を取り続けた。
しかし、最終的に親の世代がフェストゥムと共存するという島のコアと子供たちの考えを受け入れたため、『EXODUS』23話では喫茶楽園に織姫、甲洋、来主操が集まり、フェストゥムだけのお茶会が開催されるに至った。
史彦は「彼女(紅音)が教えてくれたものは私にもまだ遠い。一騎にもそれを教えるべきかまだ分からない」(※4)と言っていたが、一騎に教えたら母と同じ道を歩んでしまうかもしれないと思っていたのかもしれない。しかし、史彦の考えとは裏腹に紅音の考えは日野洋治を通じて一騎に伝えられた。最終的に紅音に続いて一騎もフェストゥムの世界へ行ってしまい、史彦は一人だけ人の世界に取り残される形になった。
第22話「守護-ちから-」
弓子「そういえば道夫って、子供の頃よくおねしょしていたよね」
道生「バカ、まったく、何言ってるんだ。
そんな昔のこと覚えてねえよ」
『EXODUS』1話で校庭で体育の授業中の咲良と保健室にいる剣司が窓越しに話す場面があるけど、この場面のオマージュだったのか。
保健の先生が弓子から剣司に変わったが、ここも反転(性別)されている。剣司と咲良は道生と弓子とはさまざまな面で反転されているが、後を継ぐ者である。
乙姫「初めてだね、史彦から会いに来てくれたの」
乙姫は答えを求めている者に対して自分から言葉を掛けることはない。あくまで助言を求められた時にのみ助言を与える。そういえば、ドラマCD『NOW HERE』で乙姫は一騎に助言しているけど、この時も一騎が乙姫と話したがった。
一騎「皆城乙姫に、頼みたい。
遠見を戦わせないように。
他のみんなをファフナーから下ろしてもらうように」
ドラマCD『NOW HERE』
乙姫「もし戦いばかりの世界を悲しいと思うなら、
悲しさを消す一番の方法は何だと思う?」
史彦「フェストゥムに我々の悲しみを理解させることだ」
乙姫「そう、真壁紅音が世界で最初に考えついた、簡単でとても難しい方法」
史彦は乙姫の行動に疑問を抱いていたが、乙姫の行動がかつて紅音が試みたのと同じであることをこの時知る。
乙姫「真壁紅音が敵である彼らに命を与えたように、
あたしのお母さんはこの島のミールに命を与えた。
不可能じゃないよ、史彦。
この島のミールが命を理解しなかったら、
あたしは生まれなかったんだから」
織姫が島に命を返す時、その側にいたのは、北極ミールに命を与えた真壁紅音の記憶を持つミョルニアと島のミールに命を与えた皆城鞘だった。まさに生と死は表裏一体。
総士「新国連の最終決戦計画に参加する場合、一騎達と共に戦いたい」
総士「ジークフリードシステムとファフナーの二重の負荷がかかっても、
18時間は活動できる」
乙姫「それが一番大切な人達と一緒にいられる幸福な時間?」
総士はこの時、覚悟を決め、一期で自分のできることをすべてやったキャラクターだった。それ故、『HEAVEN AND EARTH』で肉体を取り戻して帰還した後の人生は、完全にボーナスだと思う。
カノン「私はここにいることを、この島にいることを、選びたい」
カノンは『EXODUS』でこの言葉の意味を問われた。
総士とカノンは23話での望みが『EXODUS』での行動の起点になっている。
第23話「劫掠-おとり-」
イドゥン「我々はお前たちの感情と力を私によって獲得する」
乙姫はフェストゥムに人間の持つ感情を教えようとしていた。その結果、一期22話で人間の痛み感情を理解したスカラベ型が島を攻撃したが、それと同時にイドゥンは人間が「感情」というものを持つことを学んだのだと思う。そして、人間を攻撃するには「感情」を持った方が有利だということを知り、狩谷を通してイドゥンは「憎しみ」という感情を獲得した。
竜宮島の海岸で乙姫が一人泣いている場面を見て、乙姫が本音を言える相手は総士しかいないことに気がついた。『EXODUS』で織姫が泣く姿を見た芹が最終的に島のコアとずっと一緒にいることを選んだ気持ちが少しわかったような気がする。
人類軍は逃げる場所があるから、フェストゥムに襲撃されるとすぐに基地を放棄して逃げ出す。しかし、竜宮島の住民は他に住む場所がないから、島を死守する。人類軍はフェストゥムに対して決定的な兵器が持っていないので、放棄して逃げた方が被害を最小限に食い止められるのも事実。
第24話「対話-ミール-」
小楯「衛や千沙都が味わった苦しみを、
フェストゥムの奴らにも味あわせてやるんだ」
イドゥンが狩谷由紀恵を通して憎しみという感情を得て、その感情を持って島を攻撃した結果、島の住民の中にフェストゥムへの憎しみを持つ者が現れてしまった。
真矢「このまま島にいることだってできるんだよ」
一騎「遠見はそうしてくれないか」
真矢「ううん、一騎君が行くならあたしも行くよ」
『EXODUS』で一騎がシュリーナガルに来た後、真矢と二人で話す場面を思い出した。
一騎「遠見は十分戦った。
みんなと島に帰ってほしい。
美羽ちゃんは俺たちが…」
真矢「家族を置いていけないよ」
『EXODUS』10話
一騎にとって真矢という存在は20歳になっても変わらず、故郷というべき存在なんだろう。人は故郷には変わってほしくないという気持ちを持っているが、真矢は一騎と同い年の人間。人は生きていくことによりさまざまな経験をして変わっていく。
史彦、乙姫、ミョルニアの三者による対話シーンでの立ち位置が興味深い。
乙姫は史彦とミョルニアの仲介役でありながらミョルニアの側に立つことで、この会話が人とフェストゥムの対話という構図になっていることを表現している。
最終話「蒼穹-そら-」
BD-BOXに収録されているオンエアバージョンを視聴。最終回の放送が2004年12月27日で、DVD9巻のリリースが2005年6月8日。録画したVHSを何度も見たので、25話と26話に分けたDVD収録のバージョンには馴染めなかった。
乙姫「ミールはまだ成長過程。
生と死を少しづつ学んでいるの。
それを、ここで終わらせるわけにはいかないの」
コアである乙姫がその身を持って島のミールに地球上の生物が持つ生と死を教えた。ということは『EXODUS』でミールのコアではない総士とニヒトのコアが生まれ変わったということは、今後、フェストゥムに対して大きな影響を与えることになるのだろう。
一騎「あの、母さんは」
史彦「違う、あれは紅音ではない。
お前の母さんはもういない」
一騎「うん、でも…」
史彦「ただ、心は今も生きている。
彼女が対話しようとした相手と。
そして、我々自身とともに。
ただそれだけだ」
ドラマCD『GONE ARRIVE』
この場面の後、一騎は剣司、真矢、カノンに「母さんはもういない」と断言している。しかし、北極でミョルニアのコアを救出して、接触した後に「母さん」と言っているのが気になる。ミョルニアは紅音の記憶を持っているけど、一騎の中ではミョルニア≠紅音くらいの認識なのだろうか。ドラマCD『THE FOLLOWER2』(※5)のラストにちょっとずるいシーンが存在している。
紅音「いってらっしゃい、一騎」
一騎「誰? いない。
行ってきます、母さん」
ドラマCD『THE FOLLOWER2』
このドラマCDの中で一騎はずっとミョルニアと話していたが、この台詞だけ紅音っぽい話し方をしている。
乙姫「一騎、ダメ、抵抗しないで」
一騎「俺はおまえだ、おまえは俺だ」
乙姫「そう、受け入れることも一つの力だよ」
23話の総士救出作戦ではクロッシングした乙姫がコアになって、根だけ残ったフェストゥムを自己崩壊へと導いた。この時は乙姫は不在なので、いわば一騎がコアになってフェストゥムを同化したということになる。ここで一騎がザインを使って同化するというフェストゥムの能力を獲得したというのは大きな出来事だけど、映像的には極めて地味だ。(※6)
総士「敵のミールの鼓動? 一騎か」
総士は瀬戸内海ミールに属する存在だが、北極ミールに同化されつつあったため、北極ミールに属する存在へと変化したことを意味している。『HEAVEN AND EARTH』で戻ってきた時の総士の体は北極ミールの一部であるボレアリオス・ミールに由来するものである。
総士は竜宮島に戻る途中の海上で完全に同化されていなくなり、『HEAVEN AND EARTH』で海上にいるニヒトのコックピットの中に戻ってきた。つまり総士がいなくなった場所と帰って来た場所は同じ(海上)だった。『EXODUS』でも総士は同化されていなくなった場所と生まれ変わった場所は同じ(ニヒトのコックピット)である。また、総士は一期ラストでジークフリード・システムとともに同化されたが、『HEAVEN AND EARTH』で戻ってきた場所はニヒトのコックピットだった。つまりジークフリード・システムの担当者としての役割は一期で終え、本人が望むファフナーのパイロットとして生まれ変わったと解釈することも可能だろう。マークニヒトが織姫の言うところの「あなただけの器」(※7)になったのは『EXODUS』の時だが、『HEAVEN AND EARTH』の時に総士が生まれ変わった場所だったので、この時から総士はニヒトと一蓮托生の運命だったのかもしれない。
26話のBパートは北米版の音声をディクテーション用テキストとして使っていたので、日本語の台詞を聞いていても英語の台詞が頭に浮かんできました。
※1 『HEAVEN AND EARTH』の弓子の台詞。『EXODUS』6、7話に「美羽だけは、お願い、美羽だけは」という台詞もある。
P.S. 一期の初回放送に合わせて、一期全話の感想を上げたわけではないのですが……、偶然って凄いなあ。ちなみにファフナーは0話切りしたものの、友人から冲方丁が16話から脚本を書くという話を聞いて14話から見始めました。冲方丁は2003年夏に『マルドゥック・スランブル』を読み、気になる作家の一人だった。
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