道生と弓子は結婚はできなかったものの、美羽という子どもを残した。一期から関係を積み上げた剣司と咲良は『EXODUS』で結婚した。作中でパートナーを得た者がいる一方で、当然ながらパートナーを得られなかった者もいる。
・未来のない愛
道生と弓子の同級生、狩谷由紀恵はミツヒロ・バートランドのために新国連のスパイとなり、アルヴィスの情報を得るために司令官である皆城公蔵の愛人になった。狩谷由紀恵にミツヒロに恋した理由は「狩谷は父親のイメージとミツヒロを被せてしまい、いつの間にか恋に落ちてしまったのだ」（※1）という理由によるものだが、狩谷由紀恵の出自が「幼い日、両親を事故で亡くし、アルベリヒド機関の施設で育つ」（※2）というものなので、ミツヒロに父の面影を求めたのはやむを得ないと思う。しかし、愛人となった皆城公蔵も恋をしたミツヒロ・バートランドも妻子がいる身のため、狩谷由紀恵の恋愛には同級生の道生と弓子のような未来はなかった。
ミツヒロはマークニヒトのパイロットとして当初、真矢を使うつもりだった。ミツヒロ自ら竜宮島へ赴き、真矢のパイロット適性データ隠蔽事件を使って、真矢を島の外へ連れだそうとした。しかし、ミツヒロは査問委員会で思わず本音を漏らしてしまった。
ミツヒロ「あそこにいるのは所詮、受胎能力を失った日本人が作った
遺伝子工学の産物ではないか」
ミツヒロ「彼らは結局、ファフナーを動かす電池にすぎん」
一期18話
真矢は父、ミツヒロの言葉から本性を見抜き、この言葉を突きつけた。
真矢「お父さんはフェストゥムとどう違うの」
一期18話
ミツヒロが竜宮島を去る時、真矢は別れを告げた。これが父との最後の会話になった。
真矢「さよなら、お父さん」
一期18話
マークニヒトのパイロットとして真矢を使うことができなくなったため、ミツヒロはフェストゥムの因子を移植された第1世代であり（※3）、自分に思いを寄せる狩谷由紀恵を利用した。もっとも狩谷由紀恵自身はファフナーのパイロットになることで、愛するミツヒロの役に立ったので満足していたと思う。しかし、マークニヒトの起動実験時に狩谷由紀恵はイドゥンに乗っ取られ、自らの手で愛するミツヒロを殺してしまった。同化したイドゥンが狩谷由紀恵に生まれた感情である「憎しみ」を学び、人間を攻撃する時に利用した。「私を実験台として産んだ島に未練なんてないわ」（※4）と言っていたが、皮肉にも他人に利用されて終わった人生だった。
・永遠の別れ
一騎と真矢、剣司と咲良という男女のペアはともにそれぞれのペアの片方（一騎と咲良）が同化現象の進行により、昏睡状態に陥ったところで（※5）一期の物語は終わった。その後、一騎と咲良は意識を取り戻し、普通の生活を送っていたが、『HEAVEN AND EARTH』でファフナーに乗って戦った。戦いが終わった後、パイロットから引退した。しかし、『EXODUS』で一騎と咲良は三度ファフナーに乗って戦うことになったが、一騎と真矢、剣司と咲良というペアで見ると、対称的な結末を迎えた。
一騎と真矢の気持ちがすれ違った状態で『EXODUS』は始まり、二人は島外派遣に参加することになった。竜宮島の外での過酷な旅を通して互いの生き方を肯定した時、その関係は進展した。シュリーナガルからユーラシア大陸を横断し、ハバロフスクで竜宮島を目前にしての戦闘が始まる前、クロッシングでとは言え、一騎と真矢は二人で話をした。
真矢「この向こうに島がある」
一騎「遠見、誕生日おめでとう」
真矢「えっ」
一騎「今日だろ、11月11日」
真矢「あたし、忘れてた」
一騎「帰ったらお祝いしよう。
島の人たちと一緒に」
真矢「うん、ありがとう」
一騎「先に行ってくれ。
すぐに追いつく」
真矢「うん」
『EXODUS』21話
その流れは一期で剣司と咲良が衛も含めた友達という関係から始まり、ともにファフナーのパイロットとなって、一緒に戦っていく中で咲良の剣司に対する態度が変わっていく姿とどこか重なる。『EXODUS』21話での一騎と真矢の会話は一期21話で剣司と咲良の会話を思い出した。
剣司「俺が、なってやるよ。
お前の父さんみたいに。
一騎よりも強くなってやるよ」
咲良「バカ、あんたとあたし、そんなんじゃないだろう」
剣司「じゃあ、手離せよ」
咲良「無理しなくていいよ」
剣司「無理じゃねえよ」
咲良「無理でしょう。
臆病で情けなくて目立ちたがり屋の女好きで、父さんと正反対なんだから。
無理しないで。
それであんたがいなくなったら」
剣司「無理じゃねえって言ってんだろ」
咲良「だったらもう少し手つないでてよ」
剣司「お、おう」
一期21話
『EXODUS』21話での一騎と真矢、一期21話での剣司と咲良、この二組のペアはこの会話の後、一騎と咲良というペアの片方が同化現象に襲われ、昏睡状態に陥っている。咲良はミョルニアがもたらした情報により症状が改善し、『HEAVEN AND EARTH』では後遺症が残ったものの、ファフナーに乗れる状態にまで回復した。また、剣司との関係も進展し、二人は『EXODUS』で結婚した。一方、一騎はこの会話の直後に始まった戦闘でアビエイターを同化した後、昏睡状態に陥った。真矢は新国連の捕虜となり、ダーウィン基地へ連行された。一騎と真矢は一緒に竜宮島に帰ることはできず、「誕生日をお祝いしよう」という一騎の約束は果たされることはなかった。
一騎は竜宮島に帰ったものの、昏睡状態に陥っていたため、新国連の捕虜となった真矢を迎えに行ったのは溝口さんと総士だった。一騎は真矢が竜宮島に戻ってくる前に覚め、輸送機で島に帰還した真矢を出迎えた。
一騎「おかえり、遠見。
広登は？」
総士「遺体の一部を持ち帰った」
一騎「敵か、それとも」
総士「不明だ。
暉には僕が話す」
一騎「暉は…もう…いないんだ」
真矢「えっ」
『EXODUS』25話
真矢の姿を見た一騎は「おかえり、遠見」と声を掛けるが、この後、一騎の質問に答えるのはすべて総士であり、真矢とは直接、言葉を交わしていない。一騎と真矢が直接会話できないという形で、一騎が島との調和を受け入れた結果、真矢とは別の世界に所属する存在となったことを表現している。実際、この後、一騎と真矢が二人で話をする場面も、二人きりでいる場面もなく、物語の最後で真矢の側にいたのは一騎ではなく美羽だった。
一方、一騎の側にいるのは生まれ変わった総士だった。
一騎が真矢のパートナーになることなく、物語の最後で一騎と真矢は互いに別の人（子ども）とペアになったということは、一騎が島との調和を受け入れた時に真矢との関係が終わってしまったことを意味している。つまり一騎と真矢は結婚した剣司と咲良のペアとは対称的に死別（※6）という形で終わったと見ることもできるだろう。
真矢は「自分が戦えば、一騎はファフナーに乗ることなく、島で残りの人生を全うできる」と考えて行動していた。真矢は一騎との関係が進展することよりも、一日でも長く一騎と一緒にいることを望んでいたが、一騎は真矢の望みとは逆の道を選んでしまった。その結果、真矢の望みとは正反対に「一騎との関係は進展するが、一緒にいられる時間は短い」となってしまった。しかし、一騎が島との調和を受け入れた結果、皮肉なことに「ずっと一騎はそばにいてほしい」という真矢の望みもかなったが、その代わりに真矢はパートナーとしての一騎を永遠に失うことになった。
狩谷由紀恵はパートナーにはなれないミツヒロ・バートランドを愛してしまったが故に、パートナーを得ることなく一生を終えた。一方、真矢はパートナーになる可能性のある一騎に思いを寄せていたが、一騎はパートナーとして総士を選んでしまったので、真矢はパートナーを得られなかった。しかし、狩谷由紀恵とは異なり、真矢がパートナーなしでも生き続けられる理由はシュリーナガルで亡くなった姉、弓子の娘である美羽という存在である。
※5 『HEAVEN AND EARTH』DVD、BDの解説書の一騎のキャラクター説明の項に「蒼穹作戦の後、1年間の昏睡状態から目覚めた一騎」という一文がある。
※6 『蒼穹のファフナー』の英語の副題は “Dead Aggressor”、日本語訳すれば「死の攻撃者、死の侵略者」である。
『EXODUS』BD/DVD、11巻収録のドラマCD『THE FOLLOWER2』には、一騎が島との調和を得られず、戦い続けることを拒否した場合の末路が語られている。
一騎「この道を戻ったらどうなるんだ」
ミョルニア「眠りながら命を終えるだろう。
お前の存在の記憶は我々とともに残る。
かつてこの島に生きた者たちのように」
一騎、総士、真矢、カノンの選択により、一騎には島の調和を与えられることになったが、この時も戦い続けることを拒否した場合の末路が語られている。
一騎「もし、戻ったら」
ミョルニア「また別の調和により戦う力を捨て、
島の大気となって多くの記憶を司るだろう」
いずれにせよ、一騎の人としての命はアビエイターと戦った時に限界に達していた。そのため、一騎が存在と無の地平線に立った時、戦い続けることを拒否した時には人としての命は終わり、島に還る運命だったことがわかる。