総士「竜宮島、戦乱で日本が消滅した後、
平和という文化を残すために作られた、人工の島。
僕のかつての居場所だ」
『EXODUS』1話
総士は竜宮島について「かつての居場所」と表現していたが、総士は竜宮島を立ち去ったということなのだろうか?
で、乙姫は、姉や母ではダメなんです。それだと支配力が弱いから、総士は逃げ出せると思うんですよ。妹だから自分が守ってやらなければならない。にも関わらず、自分ではどうしようもない苦痛を背負っている。だから、総士的には自分の限界を超えても守らなくちゃならない立場なんじゃないかな。だから、妹にしておいて正解だったかな、と思います(笑)(※1)
乙姫が総士の妹という関係にしたことについて、冲方丁は一期の時にこう語っていた。物語の開始時、総士は自己を得る代わりに左目の視力を失い、ファフナーに乗る(=島の外に出る)ことができなかった。完全に竜宮島=島のコア=乙姫を守る者として島と契約したため、そこから出ることができない存在ということになる。一期7話から9話で描かれたアーカディアン・プロジェクトで作られた別の島を調査する時は島内のジークフリード・システムからファフナー部隊を指揮していた。一期10話で一騎が島から出た時、総士は島から出られない存在のため、真矢が新国連のモルドヴァ基地に入る一騎を迎えに行った。それ故に総士が北極で行われる新国連の作戦に参加することを決めた時、乙姫に島を出る許可を得る必要があった。
総士「新国連の最終決戦計画に参加する場合、一騎達と共に戦いたい。
僕がこの島を出るためのコアの許しがほしい」
乙姫「とっくの昔にあたしから離れていたくせに。
でも、そんなに長くはみんなと一緒にいられないよ」
総士「ジークフリードシステムとファフナーの二重の負荷がかかっても、
18時間は活動できる」
乙姫「それが一番大切な人達と一緒にいられる幸福な時間?」
総士「そうだ」
乙姫「あたしのことは気にしないで行ってらっしゃい。
あたしが外にいられるうちに、見送れるといいんだけど」
総士「すまない。ありがとう、乙姫」
一期22話
しかし、その乙姫も一期26話で同化され島と一つになり、子どもを残していなくなった。『HEAVEN AND EARTH』では子どもを守る母としての意識が残っていたが、子どもを芹に託し、本当にいなくなった。乙姫がいなくなった後、肉体を取り戻した総士が竜宮島に帰ってきたが、左目の視力も取り戻していた。乙姫の死とともに総士と島の間で交わされた竜宮島=島のコアを守るという契約は失効し、総士はファフナーに乗る(=島の外に出る)ことができるようになったということである。いわば総士の左目の視力は島との契約の証であったと言える。
しかし、その乙姫も一期26話で同化され島と一つになり、子どもを残していなくなった。『HEAVEN AND EARTH』では子どもを守る母としての意識が残っていたが、子どもを芹に託し、本当にいなくなった。乙姫がいなくなった後、肉体を取り戻した総士が竜宮島に帰ってきたが、左目の視力も取り戻していた。乙姫の死とともに総士と島の間で交わされた竜宮島=島のコアを守るという契約は失効し、総士はファフナーに乗る(=島の外に出る)ことができるようになったということである。いわば総士の左目の視力は島との契約の証であったと言える。しかし、フェストゥムの体を得て存在を取り戻し、島から開放されたものの、総士の寿命はそう長くはなかった。『EXODUS』という物語のテーマの一つは限りある命で総士は何を成し遂げるのかというのかということだった冲方丁は『アニメージュ』2015年3月号のインタビューでこう話していた。
竜宮島というコミュニティでは一騎と総士という“英雄”とザインとニヒトというスーパーな機体は規格外になっていて、次世代に継承できるものではないので放逐せざるを得ない。古来、英雄とはそういうもので、彼らは外に出て行って、新たなコミュニティの誕生に貢献していくわけです。
このインタビューで英雄=一騎と総士となっているが、『EXODUS』開始時の一騎の行動原理は「お前が行くなら、俺も行く」(※2)だった。一騎はあくまで総士に従う者であり、シュリーナガルから竜宮島に戻る旅でも総士が主導権を握っていた。一騎が自分の意志で行動するようになるのは『EXODUS』24話で島の祝福を受けた後なので、このインタビューでいうところの英雄的な行為とは総士を指しているということになる。総士はシュリーナガルで派遣部隊と合流した後、ペルセウス中隊を率いるナレイン将軍、エスペラントを率いるエメリーと話し合い、助言し、力を貸した。
織姫「もうひとつの島に新しいミールが根付く時、
あなたとあなたの器が生まれ変わる。
そういう未来が見えるの」
『EXODUS』22話
織姫はシュリーナガルから竜宮島に帰ってきた総士にこう言った。
織姫「あなたの心と力が作り出す未来を、たぶん私は見られない」
『EXODUS』8話
織姫は『EXODUS』で竜宮島との結びつきをすべてはずされた総士が竜宮島ではない場所で生まれ変わり、新たなコミュニティを率いる存在になる未来を見たのだろう。
総士「竜宮島、戦乱で日本が消滅した後、
平和という文化を残すために作られた、人工の島。
僕のかつての居場所だ」
『EXODUS』1話
織姫から「もうひとつの島に新しいミールが根付く時、あなたとあなたの器が生まれ変わる」と言われ、海神島が最終決戦の地となったことから、総士自身には生まれ故郷の竜宮島を立ち去ったという認識があるのだと思う。織姫の言葉通り、アショーカの根元で総士の命が生まれ変わったということは、竜宮島ではなく海神島に属する者になったということである。『EXODUS』では一期のメンバーが大人になるということを描いていたが、総士が大人になるということは、一騎とともに故郷を去り、新しいコミュニティを率いる者になることだった。しかし、総士は与えられた役割を最後まで果たす前に命が尽きたため、自身が率いる者になることはできず、その役割を自らの子どもに託した。冲方丁が『アニメージュ』2015年3月号のインタビューで言っていた「英雄」という役割を全うしたのは一騎ではなく総士だった。そういう意味でも『EXODUS』は総士の物語だったのだと思う。
一方、乙姫の子どもである織姫は総士と伯父と姪という関係になり、血縁が一つ遠くなった。『EXODUS』で総士が島を去り、別のコミュニティの誕生に寄与する物語であった。総士は乙姫の時に与えられた島のコアを守るものという役割からも外されたため、織姫は一緒に生きていく人が必要となり、芹を選んだ。(※3)
つまり『EXODUS』は皆城家の兄と妹(の子ども)がともにパートナーを得て、独立する物語でもあった。ただし、竜宮島のコアと総士は単為生殖する存在であるため、二人が選んだパートナーはどちらも同性だった。
『HEAVEN AND EARTH』で島のコアの生命を支えるためにミョルニアは島のコアに同化され、その結果、織姫は瀬戸内海ミールと北極ミールの両方の情報を持つ存在となった。瀬戸内海ミールを移植されて作られた子ども(※4)である総士(※5)が、アショーカの根元で生まれ変わり、アショーカに属する者になったことにより、海神島は竜宮島の分家ともいうべき存在となった。織姫は総士に「人と彼らの架け橋になるために」(※6)と言ったが、総士自身が瀬戸内海ミールと北極ミールの架け橋ともいうべき存在であった。
※1 「『蒼穹のファフナー』BGM&ドラマアルバムII」及び「蒼穹のファフナー CD-BOX」収録の冲方丁インタビューより引用。
※3 『EXODUS』6話、織姫から名付けるという役割を与えられたのは芹だった。
織姫「あなたがわたしを名づけなさい」
芹「えっ?!」
織姫「わたしの名前を決めるの。問題ある」
芹「あの、ありません」
※4 一期DVD5巻リーフレットより引用。「ミールの因子を植え付けさせるため人工授精と人工子宮により総士を誕生させた」
※5 一期26話で同化された総士の肉体は北極ミールの欠片であるボレアリオス・ミールで作られたものである。