織姫「あなたの心と力が作り出す未来を、たぶん私は見られない」
『EXODUS』第8話
見終わったあと、織姫のこの台詞が頭に浮かんだ。
織姫の持つ力はカノンとは少し違う形であると思われるが同じ未来視である。
『EXODUS』はシステム担当の総士と真矢以外の一期のパイロットが引退した状態からスタート。『EXODUS』6話で一騎と剣司が戦いの場へ戻り、残されたのはカノンと咲良。カノンの物語は『EXODUS』11話のこの台詞から始まる。
カノン「まだ、私も戦える。
気づけば私もそう考えているんだ。
私も一騎を責められない」
『EXODUS』第11話
『EXODUS』12話ラストで咲良とともにアルヴィス上層部に現役復帰を願い出て許可され、13話でファフナーに再搭乗し、SDPが発現。『EXODUS』14、15話は派遣部隊側の物語だが、ここでカノンも直面したであろう人類軍同士でも戦う状況が描かれ、島に向かう高速機とともに視聴者の視点を島に移動させた。オルガの悲しい帰還とともに元人類軍の兵士たちの姿を描き、同じ元人類軍のファフナーのパイロットであるカノンへ焦点を当てる。
里奈「広登が帰ってきたよ」
『EXODUS』17話
『EXODUS』14話のEDは島に帰ってきた広登の魂が見た映像なんだろうなあ。
西尾行美「コルディアス結晶の成長とファフナーが倒した数が一致した」
立上真幸「人の命も。
4名の帰還者の死亡後も体積が増大。
計算ではさらに一名分」
西尾行美「堂間の息子が帰ったと里奈が行った。
敵も見方も消えた命の分だけ成長する」
『EXODUS』17話
『EXODUS』のキーはミールが理解した人の魂=記憶。となると、同化された人の思念が残るニヒトとフェストゥムに同化された人間の思念体であるグレゴリ型もおそらくフェストゥム側が人の魂を理解した故に生まれた存在ということになるのか。
西尾行美「島にとっての存在と無の地平線だ」
『EXODUS』17話
『EXODUS』14話で総士は「無と存在の狭間にある事象の地平線」と言っていたので、総士の視点はフェストゥム側からのもの。
カノン「こんな未来はなかった。
未来を変えることで今が変わる。
未来から今いる私たちに何かが届く」
『EXODUS』17話
同じスタッフが関わっている『ヒロイック・エイジ』のエルマントスを思い出すといいんだろうけど、私は『ノエイン もうひとりの君へ』を思い出した。量子力学を物語の中にうまく取り入れた作品だと思う。
鏑木香奈恵「早苗の灯籠を流したこともないのね、私たち」
『EXODUS』17話
『HEAVEN AND EARTH』で里奈が暉に「灯籠流すのも嫌がってさ」と言っていたので、灯籠流す=人の死を受け入れたということ。『HEAVEN AND EARTH』で里奈と暉を通して描かれたテーマは『EXODUS』では鏑木夫妻と彗で繰り返されるが、今回描いたのは『RIGHT OF LEFT』では描かれなかった残された者の思いである。
『EXODUS』5話Cパートで一騎の指輪痕が同じ色に光り、6話で総士から島のコアが呼んでいると電話があった時に一騎は指を見ていた、この場面の後、カノンがキール・ブロックで織姫と話をしているので、織姫がファフナーのパイロットを呼ぶ時、指輪痕がこの色に光るのだろうか。
カノン「この島はいなくなった者たちのことを決して忘れないんだな。
私も島のことを忘れない。
どんなに遠く離れても、ここに私がいたすべての記憶が残り続けてくれる。
遠い未来までずっと」
織姫「私も忘れない、あなたのこと」
『EXODUS』17話
カノンは結び目がほどけた時、ゴルディアス結晶の役割をすべて理解し、真矢から引き継いだ記録する者という役割を島に委ねる。織姫の「私も忘れない、あなたのこと」という言葉は、一期18話、総士の言葉「お前たちの痛み、忘れはしない」を思い出し、一期の総士の役割を織姫が担っていることがよくわかる。しかし、この言葉は一期22話、キールブロックで乙姫が総士に言った「あたしがここにいたことも忘れないでね」の反転でもある。
カノン「また覚えにくいと言われるかな」
『EXODUS』17話
カノンは自身が見た機体の名前をEinherjar Modelと名付けた。カノンは機体名にケルト神話、日本神話と名付けてきたが、最後は島の伝統に倣って北欧神話にした。
『EXODUS』6話で織姫が一騎と総士に「今すぐ美羽を守りに行きなさい」と言う場面はワーグナーの楽劇『ワルキューレ』第2幕第4場でブリュンヒルデがジークムントに死(=ヴァルハルでヴォータンの戦士となる)を告知する場面を思い出したんだけど、あながち見当違いの感覚ではなかった。
鏑木充「もっと早くこうするべきだったな」
鏑木香奈恵「シールドは解除したのかしら」
鏑木充「たぶんな。
うまく潮流に乗ってる」
鏑木香奈恵「潮の流れ次第で戻ってきちゃうわ。
潮の流れ。
そうよ、だから探査できない。
海よ、そう、海なんだわ」
『EXODUS』17話
「なぜソロモンの目をくぐり抜けフェストゥムから海から現れるか?」鏑木一家がその答えにたどり着いた時、カノンが微笑んだ。ふとドラマCD『GONE ARRIVE』のこの台詞を思い出した。「死者の魂が火となって夜の海で迷う者を導く」
カノン「私は、その未来を選べない。
お前といられる未来があった。
それだけでいいんだ」
『EXODUS』17話
『EXODUS』6話でザインに乗ることになった一騎をカノンが引き止める場面を思い出した。一騎は「ありがとう、止めてくれて」とカノンに言って、ザインに乗ってしまう。6話、17話で互いに相手の決断を引き止めるが、一騎、カノンは共に自分の決断を優先してしまう。
真矢は「(一騎くんがザインに乗らなくていいように)私が戦う」、カノンは「一騎には戦ってほしくない」。結果、真矢とカノンは違う形で一騎とともに戦う道を選べなかった。「ファフナーに乗れば死に近づく」という設定のせいか、真矢とカノンの心情を書き出すと一騎がヒロインに見えてくる。恐ろしいことに一騎と総士の関係を見ると総士がヒロインの位置にいるのであった。
カノン「好きだよ、一騎」
『EXODUS』17話
17話のEDで使われた曲のタイトルは「愛すること」。個であることを与えた人を愛し、人間性を得るというと『装甲騎兵ボトムズ』のフィアナを思い出す。カノンも人を好きになり、歳相応の女性として生きる時間を得ることができたのだと思う。
灯籠流しの後に起きる出来事も反転され、一期ではフェストゥムが生まれ、『EXODUS』では人がいなくなった。
容子さんは翔子とカノンの二人を育てたことで、子どもを成人まで育てたということになる。19にもなれば、子どもは自ら人生を選び、親は見守って言葉をかけることしかできない。ただし、一騎はイドゥンに総士を奪われたことで精神的に完全に自立してしまい(※1)、『HEAVEN AND EARTH』以降、史彦は「命を費やすことだけが戦いではない」(『HEAVEN AND EARTH』)や「戦いに心と命が奪われない道があると、後輩たちに示してやれ」(『EXODUS』4話)としか言えなくなっている。