【蒼穹のファフナー EXODUS】無から生まれた命

 一期放送時、皆城鞘の同化と乙姫の誕生は以下のように設定されていた。

乙姫/皆城公蔵と鞘の子供である。
ファフナー開発中における瀬戸内海ミールの再暴走により、研究施設内にて鞘が受胎16週目で襲われ、助けられるが半同化状態に陥る。同化の進行速度が速く、鞘の最後の希望により、胎児である乙姫が取り出され、人工子宮に移される。(※1

 しかし、『EXODUS』3話で皆城鞘の同化と乙姫の誕生が映像化されたが、設定とは少し違う描写がされていた。

 同化されつつある皆城鞘。

皆城鞘

 

 皆城鞘が同化されたが、胎内にいた子どもは同化されずに生き残った。

岩戸

 映像化された際、なぜ、設定とは異なる描写したのだろうか。

 

・乙姫と総士

 『EXODUS』での設定変更により、乙姫と総士は一期の設定時よりも近い存在に変化した。

母・梢の研究により瀬戸内海ミールの因子を移植されている総士はフェストゥムとの半同化状態にある。
Arcadian Project report 06 ■皆城総士一騎との関係

胎児だったころ、母親ごとフェストゥムに同化されかける半同化状態になった乙姫は千鶴に取り出され、ワルキューレの岩戸に入れられる。
皆城乙姫/EVENT

 総士と乙姫がともにフェストゥムとの半同化状態でありながら、総士には人間、乙姫はフェストゥムであったため、正反対の存在でした。しかし、乙姫はフェストゥムでありながら心を持つことを選び、その結果、人間と同じように有限の命を持つフェストゥムに変化した。一方、総士は同化されてフェストゥムの世界へ行き、2年後、体を取り戻して帰ってきたものの、体はフェストゥム、心は人間という状態になっていた。つまりフェストゥムである乙姫は心を持ち、人間である総士はフェストゥムの体になったことで、最終的に二人は似て非なるもの(※2)にまで近づいた。これは人間とフェストゥムがお互いの存在を受け入れたことを意味し、総士が乙姫と同じように竜宮島ミールのコアと同じ方法で子孫を残したことが、人間がフェストゥムを理解したことの証なのではないだろうか。

 

・無から生まれる命

ミョルニア「命は皆城乙姫の祝福だ」
『HEAVEN AND EARTH』

 コア型のフェストゥムである乙姫は人間のように心を持って生きることを選んだが、命には限りがあり、乙姫の場合はわずか3ヶ月だった。だが、竜宮島ミールはコアの生と死を通して命の循環を理解し、コアが同化されていなくなった後、子どもが生まれた。人間の場合、生きている者が子どもを生んで親となり育てるが、コアは親が同化されていなくなった後、子どもが生まれた。竜宮島ミールはどこで子どもが生まれる方法を学んだのだろうか。そこで『EXODUS』3話で乙姫の誕生を映像化することによって(※3)、瀬戸内海ミールは皆城鞘を同化したが、胎内にいた子どもは同化されず、生まれたという経験を通して子どもが生まれる方法を学んだということにしたのではないだろうか。

 

 『EXODUS』では竜宮島のコアである織姫に加えて、総士もコアと同じ方法でこの世に存在し続けることになった。織姫は岩戸に戻り同化されるシーンまでしか描かれていないが、織姫は自分が同化されていなくなった後、新たなコアが生まれることを史彦に告げていた。

織姫「島に命を還すわ。
   次に生まれてくるコアを迎えてあげて」
『EXODUS』26話

 一方、総士はマークニヒトのコックピットで同化されていなくなった。戦闘終了後、一騎、甲洋、操の三人がマークニヒトのコックピットを開けて見ると、そこにはシナジェティック・スーツに包まれた赤子がいた。

 総士は自身の望みである死を獲得したが、フェストゥムに痛みを教えるためにこの世に永遠に居続ける存在であることに変わりはなく、コアであった妹と同じく死と生を循環し続ける存在となった。総士はフェストゥムに属しているため、竜宮島のコアと同じく、無に還った後、新しい命が生まれた。

 総士は織姫から生まれ変わることを告げられたため、総士はマークニヒトの中に自分宛てのメッセージを残した。しかし、人間として生きてきた総士にはフェストゥムの「無から命が生まれ、やがて無に還る」という価値観は理解したがたいものだったのではないだろうか。

総士「ぼくは今度こそ地平線を越えるだろう。
   無と存在の調和を未来へ託して」
『EXODUS』26話

 それでも総士にできることは自分には理解できなかったフェストゥムの世界の理を信じて、未来を託すことだった。

 

・母と息子

一騎「俺を母さんみたいにするのか」
『EXODUS』24話

 実はこの言葉こそ、皆城鞘の同化と乙姫の誕生の設定が変更された答えそのものだった。

 2133年に真壁紅音と皆城鞘がいなくなった経緯と『EXODUS』(2151年)に一騎がフェストゥムになり、総士が同化された後、転生した経緯を表にまとめてみた。

    息子
  順番 皆城鞘真壁紅音の順で
フェストゥムに同化された(※4)。
真壁一騎皆城総士の順で
調和、同化された。
  皆城家  
鞘は竜宮島ミールに同化されていなくなった。
胎内にいた子どもが生まれた(※5)。
総士の体は北極ミール側のフェストゥムのものだった。
総士は同化されていなくなったが
転生し、子どもが生まれた。
  真壁家 紅音は北極ミールに属するフェストゥムに
同化されることを受け入れた。
ミョルニアが紅音の姿と記憶を引き継いだ(※6)。
一騎は同化される直前、
自らの意思で竜宮島ミールとの調和を選んだ。
姿と記憶はそのまま保持している。

 対になっている要素が入れ替わっているものの、『EXODUS』で一騎と総士は母と全く同じ道を選んでいたことがわかる。『EXODUS』で一騎が選んだ道が母、紅音、そしてミョルニアが同じだったように、総士が選んだ道が母、鞘と同じにするために、鞘の死と乙姫の誕生の設定を変更したのだろう。『EXODUS』は一騎はミョルニア、総士が乙姫の立ち位置に着いたところで終わった。

 

・参考資料

 一期時点での皆城乙姫の誕生の設定は以下の場所に掲載されています。

  • 竜宮島回覧板・1129号
  • 『蒼穹のファフナー』DVD5巻付属のリーフレット
  • 『蒼穹のファフナー』DVD-BOX付属のブックレット
  • 『蒼穹のファフナー』Blu-ray BOX付属のブックレット

 『究極BOX』のブックレットの皆城乙姫の項には『EXODUS』での設定変更を盛り込んだ文章が記載されています。

 

P.S. この記事を書いたことで、総士も乙姫と同じように死と生を繰り返す命を持つようになることを予言している台詞だと感じるようになってしまった。

総士「乙姫の時は、僕も託すことしかできなかった。
   今度はともに未来を見よう」
『EXODUS』8話

 

※1 以前、XEBECの公式サイトで公開されていた『竜宮島回覧板・1129号』の「実子と里子と出産と」の「乙姫」の項より引用。

※2 『EXODUS』公式サイト内、SPECIAL/CHARACTER/皆城総士 の第1話時点 情報で「コアに近い存在」と表現されている。

※3 『機動戦士ガンダム』で「映像化されたものが正史」と言われていることを思い出した。

※4 以前、XEBECの公式サイトで公開されていた『竜宮島回覧板・1129号』の「実子と里子と出産と」の項を参照

※5 『EXODUS』3話、要澄美を台詞を参照。

澄美「昔、研究者がミールに同化されたのよ。
   名前は皆城鞘。
   お腹の中には子供がいたわ」

※6 一期24話、ミョルニアの台詞を参照。

ミョルニア「それは、真壁紅音が自ら同化を望んだということだ」

ミョルニア「私は真壁紅音の意思を継ぐ者として、今ここにいる」