【蒼穹のファフナー EXODUS】同化欲求 Part1

 一期10話、一騎は遠見家で夕食をごちそうになり、真矢と話しながら自宅に帰る途中、突然、気分が悪くなった。そこで一騎は真矢と別れたが、その直後、一騎の掌から同化結晶が生えてきた。その5年前(※1)、総士が一騎と一緒にいなくなろうとした時、一期10話の一騎と同じく総士の掌から同化結晶が生えてきた。14歳の一騎が真矢に抱いた感情と9歳の総士が一騎に抱いた感情は同じものなのだろうか?

 

・一騎と真矢

 竜宮島にフェストゥムが襲来して以来、一騎は総士の命令に従って戦い続けたが、翔子がいなくなり、甲洋は同化されて意識不明となった。一騎は司令官である総士の態度に疑問を持ち始め、直接問い質したが、総士から納得できるような答えは帰ってこなかった。そんな時、一騎は真矢に出会い、真矢の誘いを受け入れて、遠見家に行き、夕食を食べた。その帰り道、一騎は真矢にあるお願いをした。

一騎「遠見は俺のこと覚えていてくれる?」

真矢「たとえどんなに変わっても、一騎君のこと覚えてるよ」
一騎「ありがとう」
一期10話

 しかし、この会話の直後、一騎は急に気分が悪くなった。

真矢「どうしたの」
一騎「なんでもない」
真矢「顔色が悪いよ、一騎君」
一期10話

 一騎は体への異変を感じたため真矢と別れて一人になった時、掌に同化結晶が生えてきた。おそらく一騎は真矢と話した後に生まれた感情によって、真矢に対して同化欲求を抱いてしまったのだろう。それでは一騎にとって真矢とはどのような存在なのだろうか。真矢という存在についてノベライズではこう表現していた。

 親子揃って口下手な真壁家の一人息子である一騎にとって、真矢ほど気楽に話せる相手はいない。幼なじみだから、といったレベルなど遥かに通り越した理解度で接してくれるのだ。
『蒼穹のファフナー ADOLESCENCE』1章2(※2

 海岸で一騎が総士と話し合った時、総士からは欲しい言葉を得られなかったが、一騎は真矢あての留守番電話に「誰かに、俺のこと、覚えててほしい。遠見は、答えてくれたから」(※3)と言い残していることから、一騎は真矢の言葉に満足したのだと思う。その時、一騎が感じた気持ちはおそらくこの言葉だろう。

一騎「だから、いっしょにいると安心するのかな」
一期23話

 自分の存在を無条件に受け入れ、安心を与えてくれる真矢に対して一騎は安心したからこそ、真矢に対して同化欲求を抱いてしまった。一騎はファフナーに乗ったことにより肉体の同化現象が進行していたため、掌から同化結晶が生えてきた。この時、一騎は5年前、総士が一騎を同化しようとした時の総士と近い気持ちになったことを意味している。それでは、9歳の総士と一騎はどのような関係だったのだろうか。

 

・総士と一騎

 一期15話で総士が一騎を同化しようとした時の状況が描かれているが、総士と一騎の関係がどのようなものであったのかについては具体的には描かれていない。しかし、ノベライズには子供の頃の一騎と総士の様子が描かれている。

 そうして――どうやら信頼関係にあるらしい二人の父親の息子もまた、自然と仲良くなった。物心つく前から、一騎のそばには総士が、総士のそばには一騎がいて、父親同士が何やら話し込んでいるのをよそに、多くの時間を共有したものだった。
『蒼穹のファフナー ADOLESCENCE』1章3(※4

 この文章から総士にとって妹である乙姫以外で一番仲のいい存在は一騎だったことがわかる。一騎が島を出て行った後、総士は一騎の父、史彦に自分にとって一騎がどういう存在なのかを明かしている。

史彦「ただあいつの場合、君という存在が近くにいることで、
   精神を安定させていたんだろう」
総士「安定したがっていたのは僕の方です」
一期12話

 総士は父から妹である島のコアを守るために生きることを強制された時、いなくなりたいと思ったが、自分にとって必要不可欠な存在である一騎と一緒にいなくなりたいと思った。

総士「ぼくは初めからどこにもいないんだ。
   だったら、お前と一つになれる場所に帰りたい、一騎」
一期15話

 一騎にとって真矢は一緒にいると安心する存在だったが、総士にとって一騎とは精神を安定させるために必要な存在だった。一騎にとっての真矢、総士にとっての一騎、どちらも自分のことをよく知り、一緒にいることで精神的な安定を得られる存在だったのだろう。それ故、一騎も総士も相手と同化して一つになればより安定した存在になれる、というフェストゥム的な考えにとらわれた時、相手に対して同化欲求を抱いてしまったのかもしれない。

 

 しかし、一騎と真矢、総士と一騎の二組のペアの関係は対照的である。一騎は真矢とは何でも話すことができる相手だったため、真矢は一騎のことをよく知っていた。

真矢なら、自然と何でも話せた。
そう――何でも。
自分の胸の奥に隠したまま、誰にも話せず苦しんでいたことさえ――
『蒼穹のファフナー ADOLESCENCE』1章2(※5

 一方、総士は一騎に本心を一切話さなかった。総士は一騎に話さなくても自分のことをわかってくれると思っていた。

総士「あいつが、あいつなら、あいつなら僕をわかってくれると思った」
一期11話

 それは総士の思い込みにすぎず、一騎は総士のことを全く理解していなかった。それ故、真矢にたしなめられた。

真矢「皆城君も約束して。
   一騎君と今度こそちゃんと話し合うって」
一期13話

 しかし、一騎は総士と同じものを見ることで総士が考えていたことを理解してしまったので、お互いを理解するために話し合う必要はなかった。しかし事情を知らない真矢は総士に一騎と話し合うように釘を差した。真矢に押し切られた総士はアルヴィス内の自室に一騎を招待したが、結果は皆さん、ご存知の通りである(笑)

 

 14歳の一騎と真矢の関係と9歳の総士と一騎の関係を比較すると、どう見ても9歳の総士と一騎の関係の方が濃く、それは14歳になっても変わっていない。それを決定づけているのが一騎の総士と真矢に対する距離感で、真矢が総士よりも一騎との心理的な距離が近くなることはなかった。

 

※1 『蒼穹のファフナー』DVD 6巻に付属のリーフレットの「一騎との関係」に「そのため、5年前、一騎と一緒にいた際、激しい同化欲求に見舞われてしまう」という一文がある。

※2 『蒼穹のファフナー ADOLESCENCE』(2014年、ハヤカワ文庫JA)から引用。

※3 ドラマCD『NO WHERE』の一騎の台詞。

※4 『蒼穹のファフナー ADOLESCENCE』(2014年、ハヤカワ文庫JA)から引用。

※5 『蒼穹のファフナー ADOLESCENCE』(2014年、ハヤカワ文庫JA)から引用。

 


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